【ストーカートラブル】加害者が既婚者の場合、相手の配偶者に知らせてもいい?
この記事は、2026年11月時点の民事保全法、民事執行法、ストーカー規制法、配偶者暴力防止法にもとづいて記載しています。間接強制の申立てに必要な書類や手続の運用は、裁判所ごとに異なる場合があります。
「裁判所から接近禁止の仮処分が出たのに、相手がまた家の近くに来た」。仮処分の決定を得た後のご相談では、このようなお話を伺うことがあります。決定が出れば相手の行動は止まるはずだと考えていた方ほど、違反に直面したときの不安は大きいものです。
接近禁止の仮処分は、裁判所が相手方に一定の行為をしないよう命じるものですが、違反した相手方を警察がその場で取り締まるための仕組みではありません。違反への対応は、主に「間接強制」という民事の手続と、違反の内容に応じた刑事上の対応を組み合わせて進めることになります。
この記事では、仮処分に相手方が違反したときに何が起きるのか、どこからが違反に当たるのか、違反を確認したときに何をすべきかを順に整理します。仮処分の申立てにかかる費用や期間は、【ストーカートラブル】接近禁止の仮処分にかかる費用と期間の目安|担保・審尋・決定後の手続までで解説しています。
仮処分に違反しても、それだけで犯罪になるわけではない
禁止命令・保護命令との違い
相手の接近を禁じる公的な手続には、主に3つがあります。名前は似ていますが、違反したときの扱いが大きく異なります。
| 手続 | 命令を出す機関 | 違反した場合の扱い |
|---|---|---|
| ストーカー規制法の禁止命令 | 公安委員会(警察) | 刑罰の対象。6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金 |
| 配偶者暴力防止法の保護命令 | 地方裁判所 | 刑罰の対象。2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金 |
| 民事保全法の接近禁止の仮処分 | 地方裁判所 | 違反そのものに刑罰はない。間接強制や損害賠償などの民事の手続で対応する |
仮処分の違反は、それだけでは逮捕や処罰の理由にならないという前提で、違反への備えを考えておく必要があります。
違反が刑事事件になる場面
仮処分の違反そのものは犯罪でなくても、違反として行われた行為が別の犯罪に当たることはあります。たとえば、次のような場合です。
- 自宅の敷地や建物に無断で立ち入った場合の住居侵入罪(刑法130条)。
- 「殺す」などと告げて脅した場合の脅迫罪(刑法222条)。
- つかみかかる、物を投げつけるなどした場合の暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)。
- 恋愛感情などにもとづいてつきまといを繰り返した場合のストーカー行為罪(ストーカー規制法18条)。
このような場合には、警察が刑事事件として対応することがあります。仮処分の決定が出ている事実は、相手方の行動の経過を警察に伝えるうえで判断材料の一つになります。
どこからが「違反」になるのか|決定の主文を確かめる
禁止される行為は、主文に書かれた範囲に限られる
仮処分で禁止されるのは、決定の「主文」に書かれた行為です。たとえば「債権者の住居の周辺を徘徊してはならない」「債権者に対し、面会を強要し、または電話をかけ、電子メールやSNSのメッセージを送信してはならない」といった形で、場所や手段を特定して定められるのが一般的です。
主文に書かれていない行為は、迷惑に感じるものであっても、違反として扱うことは難しくなります。まず決定書を手元に置き、相手方の行為がどの文言に当たるのかを照らし合わせることが出発点です。
判断に迷いやすい場面
実際には、次のような場面で違反に当たるかどうかが問題になりやすいといえます。
| 場面 | 考え方の目安 |
|---|---|
| 駅や店で偶然すれ違った | 意図して近づいたのでなければ、違反とは言いにくい場合が多い。その後に後をつけるなどの行動があれば問題になる |
| 相手の友人や家族を通じて伝言が届いた | 主文が第三者を介した連絡も禁じているかどうかで分かれる |
| 相手がSNSに自分のことを書き込んだ | 主文がメッセージの送信だけを禁じている場合は、投稿は対象外となることがある。内容によっては名誉毀損などの別の問題になる |
| 相手の代理人弁護士から書面が届いた | 代理人を通じた連絡は、禁止の対象から外されていることが多い |
主文の範囲をすり抜けるような行為が続く場合には、禁止の範囲を補う新たな申立てを検討することもあります。
違反を確認したときに、まずすること
- 身の危険を感じる場合は、その場で110番通報し、ご自身の安全を確保します。
- 相手方に直接抗議したり、決定書を示して追い払おうとしたりせず、接触そのものを避けます。
- 違反の日時、場所、行為の内容を、できるだけその日のうちに記録します。
- 仮処分を申し立てた弁護士に、違反があったことを早めに伝えます。
- 最寄りの警察署に、仮処分の決定が出ていることと違反の経過を相談しておきます。
違反の記録を残すときのポイント
後で間接強制を申し立てたり、損害賠償を求めたりするときは、違反が決定の後に行われたことを示す資料が必要になります。東京地方裁判所が公表している間接強制の案内でも、不作為義務の違反があった場合の添付書類として、違反が債務名義の成立後にされたことを示す写真撮影報告書などが例として挙げられています。
具体的には、防犯カメラやインターホンの録画、着信履歴やメッセージの画面の保存、目撃した家族や管理会社の方のメモなどが考えられます。録画の残し方は【ストーカートラブル】防犯カメラの映像を証拠にする|設置と保存の注意点を、日々の記録の付け方はストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方をご覧ください。
間接強制|違反1回ごとに金銭の支払いを命じてもらう
間接強制の仕組み
間接強制は、裁判所が「違反した場合は、違反1回につき一定額を支払え」といった形で、あらかじめ金銭の支払いを命じる手続です(民事執行法172条1項)。接近禁止の仮処分は、相手方に一定の行為をしないことを命じるもので、このような仮処分の執行については仮処分命令が債務名義とみなされ、間接強制の方法で実現を図ります(民事保全法52条)。
金銭の負担によって違反を思いとどまらせる仕組みで、金額は申立人が受ける不利益や相手方の態度などを踏まえて裁判所が定めます。制裁金は国に納めるものではなく、申立人が受け取るお金です。
申立てから制裁金の取立てまでの流れ
- 仮処分を出した裁判所に、間接強制を申し立てます。
- 裁判所は、決定を出す前に相手方の言い分を聴きます(民事執行法172条3項)。
- 裁判所が、違反1回あたりの金額などを定めた間接強制の決定を出します。
- 決定の後に相手方が違反した場合は、違反の事実を示して、制裁金を取り立てる手続に進みます。
- 相手方が支払わない場合は、預貯金や給与などの差押えを申し立てます。
制裁金を取り立てる段階でも違反の事実を資料で示す必要があるため、記録は取立てまでを見越して整えておくことが大切です。
申し立てる時期には期限の問題がある
仮処分にもとづく執行は、決定が申立人に送達された日から2週間を過ぎるとできなくなるという期間の制限があります(民事保全法43条2項)。接近しないことを命じる仮処分では、相手方が違反するまで執行の場面が生じないため、この期間をどこから数えるかについては、違反があった時から数えるとする考え方を含めて見解が分かれています。
また最高裁判所は、何かをしないことを命じる義務についての間接強制は、相手方が違反するおそれがあることを示せば足り、現に違反していることまでは必要ないと判断しています(最高裁判所平成17年12月9日決定)。これらを踏まえ、違反の兆しがうかがわれる事案では、決定の送達後すぐに間接強制を申し立てるかどうかを検討することもあります。違反を確認したら、日を置かずに弁護士に伝えることが、選べる手段を残すことにつながります。
間接強制だけでは止めきれない場面もある
間接強制は金銭による心理的な圧力であるため、相手方に支払う資力がない場合や、金銭の負担を気にせず行動する相手方の場合には、効果が限られることがあります。違反のおそれが強い場面では、間接強制だけに頼らず、警察の手続や生活面の安全策と組み合わせて考える必要があります。
なお、制裁金の支払いを受けた後でも、違反によって生じた損害がその額を上回る場合には、上回る部分について損害賠償を請求することは妨げられません(民事執行法172条4項)。
損害賠償や本案訴訟で責任を問う
仮処分は、正式な裁判(本案訴訟)の結論が出るまでの暫定的な手続です。違反が続く場合には、接近や接触の差止めを求める本案訴訟を起こし、あわせて違反行為による精神的苦痛について慰謝料を請求することも考えられます。決定の後も違反が繰り返された経過は、相手方が裁判所の判断を守らなかった事情として、本案訴訟の中で主張する材料になります。
慰謝料として請求できる項目の考え方は、【ストーカートラブル】ストーカー被害の慰謝料|請求できる項目と組み立てで整理しています。また、審尋の場で接近しないことを約束する和解が成立した場合、その内容は調書に記載され、条項によっては間接強制の対象になることがあります。当事者間の約束が破られたときの考え方は、【ストーカートラブル】示談した後に相手が約束を破った|違約金と刑事手続の両面も参考になります。
違反が続くときに組み合わせる手段
ストーカー規制法の手続を併せて使う
つきまといが恋愛感情などにもとづくものであれば、警察に申し出て、ストーカー規制法の警告や禁止命令を求める道があります。禁止命令は違反そのものに刑罰があるため、仮処分だけでは抑止が足りない場合に検討する意味があります。申出の方法は【ストーカートラブル】禁止命令を出してもらうには|申出の方法と出るまでの期間を、禁止命令に違反した場合の扱いは禁止命令が出た|違反した場合の刑罰と期間・更新をご覧ください。警察と裁判所の手続の使い分けは、接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで解説しています。
被害届の提出や告訴を検討する
違反として行われた行為が住居侵入や脅迫などに当たる場合は、被害届の提出や告訴を検討します。仮処分の決定書、違反の記録、それまでの経過をまとめて持参すると、警察に事情を伝えやすくなります。
よくあるご質問
相手が仮処分に違反したら、警察はすぐに逮捕してくれますか。
仮処分の違反だけを理由に逮捕されることはありません。ただし、違反の際の行為が住居侵入や脅迫などの犯罪に当たる場合には、警察が対応することがあります。身の危険を感じたときは、ためらわずに110番通報してください。
弁護士に依頼せず、自分で間接強制を申し立てることはできますか。
法律上は、ご本人で申し立てることも可能です。ただし、金額の根拠や違反を示す資料の整え方、申し立てる時期の判断には専門的な検討が必要になります。代理人を立てる意味は、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で取り上げています。
まとめ
- 接近禁止の仮処分に違反しても、それだけで犯罪になるわけではなく、禁止命令や保護命令とは扱いが異なります。
- 違反として行われた行為が住居侵入や脅迫などに当たる場合は、刑事事件として扱われることがあります。
- 違反に当たるかどうかは、決定の主文に書かれた禁止の範囲によって決まります。
- 違反を確認したら、安全を確保したうえで記録を残し、早めに弁護士と警察に伝えることが大切です。
- 違反への民事上の対応の中心は、違反1回ごとに金銭の支払いを命じる間接強制です(民事執行法172条、民事保全法52条)。
- 執行には期間の制限があるため(民事保全法43条2項)、申し立てる時期は早めに検討する必要があります。
- 違反が続く場合は、本案訴訟での慰謝料の請求や、ストーカー規制法の手続との組み合わせを考えます。
仮処分の決定が出た後も相手方の行動が止まらないときは、間接強制、警察への相談、本案訴訟のどれをどの順で使うかを、違反の内容に合わせて組み立てることになります。当事務所では、決定書の主文の確認から、違反の記録の整え方、警察との連携まで、状況に応じた進め方を一緒に検討します。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


