【ストーカートラブル】引っ越した先を知られないための手続の順序
この記事は、2026年10月時点のストーカー行為等の規制等に関する法律(令和7年12月施行の改正を反映)、弁護士法、弁護士職務基本規程、刑法などに基づいて作成しています。個別の事情によって取るべき対応は変わりますので、具体的な判断は弁護士にご相談ください。
「相手が『一度会って話せば分かる』と言ってくる。会えば終わるのかもしれないが、怖い」「自分で話すのは避けたいけれど、家族や友人に頼んでよいのか分からない」。つきまといやしつこい連絡に悩む方からは、加害者との話し合いをめぐって、このようなご相談が寄せられます。一方で、連絡を続けている側から「きちんと話し合えば誤解は解けるはずだ」というご相談を受けることもあります。
ストーカー被害の解説では、加害者と直接話すのは避け、弁護士に窓口を任せるべきだと説明されるのが一般的で、それ自体は誤りではありません。ただ、直接話すことの何が問題になるのか、弁護士以外に頼れる人はいないのか、弁護士に任せた後に何が起きるのかまでは、あまり語られていません。
この記事では、加害者と直接話し合うことに伴うリスクを整理したうえで、代わりに話す人の候補とそれぞれの限界、弁護士が代理人として入るときの流れを解説します。警察と弁護士のどちらに先に相談するかや、示談の条件の詳しい中身は、別の記事に委ねます。
加害者と直接話し合うことに伴うリスク
話し合いの場が「面会」の機会になってしまう
ストーカー規制法は、相手が望まない面会や交際を求めることを「つきまとい等」の一つとして挙げています(ストーカー規制法2条1項3号)。加害者が「話し合いたい」と求めてくる場合、その中身が復縁や関係の継続であることは少なくありません。
こちらが話し合いに応じると、加害者にとっては、求めていた面会が実現したことになります。「話せば分かってくれるはず」という期待とは逆に、会えたことで次の連絡のきっかけを与えてしまう場合があるという点は、意識しておく必要があります。
感情が高ぶったときに、身の安全を保ちにくい
別れ話や関係の清算をめぐる話し合いは、どうしても感情がぶつかりやすい場面です。相手が思いどおりにならないと感じたとき、声を荒げる、帰ろうとするのを引き止める、物に当たるといった行動につながることもあります。
相手がどのような反応をするかは、事前に正確には読めません。以前に暴力や脅しの言葉があった場合や、自宅や勤務先を知られている場合は、直接会うことの負担はより大きくなります。
警察や弁護士が動く際の判断材料が複雑になる
被害を受けている側が自分から連絡を取ったり、会ったりしていると、外から見たときに「双方でやり取りが続いている関係」と受け取られることがあります。被害を受けている方に落ち度があるわけではありませんが、警察が警告などの措置を検討する際や、後に示談や接近禁止を求める際に、経緯の説明に手間がかかる場合があります。
話し合いの中で金銭の約束をしたり、「もう警察には言わない」と口にしたりすると、その言葉を後から持ち出されることもあります。直接話す場合でも、その場で約束や結論を出さないことが大切です。
代わりに話す人の候補と、それぞれの限界
家族や友人に間に入ってもらう場合
家族や友人が代わりに「もう連絡しないでほしい」と伝えること自体は、法律で禁止されているわけではありません。身近な人が意思をはっきり伝えることで、連絡が止まる場合もあります。
ただ、ストーカー規制法は、被害を受けている本人だけでなく、その家族や、社会生活の上で密接な関係のある人に対するつきまといも規制の対象にしています(ストーカー規制法2条1項)。間に入った家族や友人が、新たに連絡や待ち伏せの対象になるおそれがあることは、頼む前に考えておきたい点です。また、人数で相手を囲む形になったり、強い言葉で迫ったりすると、かえってこちらの言動が問題にされることもあります(刑法222条、223条)。
なお、報酬を得る目的で他人の法律上の紛争について交渉を行うことは、原則として弁護士にしか認められていません(弁護士法72条)。知人や業者が「代わりに話をつける」と申し出てきた場合、その人がどのような立場で関わるのかは確かめておく必要があります。家族が相談の窓口になる場面については、【ストーカートラブル】家族がストーカー被害に遭っている|家族が代わりに相談するときで解説しています。
相手の家族に止めてもらう場合
加害者の親やきょうだいに事情を伝え、本人を止めてもらうという方法を考える方もいます。相手の家族が状況を理解して協力してくれれば、行為が落ち着くこともあります。
一方で、相手の家族が本人の言い分だけを信じていたり、「大げさだ」と受け止めたりすると、こちらの連絡先が伝わるだけで終わることもあります。頼む前に確かめておきたい事情については、【ストーカートラブル】相手の家族に止めてもらうよう頼めるか|頼む前に確かめることと、警察・弁護士を通す道で解説しています。
警察に伝えてもらう場合
警察は、ストーカー規制法に基づいて、加害者に警告を出したり、公安委員会が禁止命令を出したりする手続を担います(ストーカー規制法4条、5条)。令和7年12月施行の改正で、警告は被害を受けた方からの申出がなくても、警察の判断で出せるようになりました。こうした措置を通じて、こちらの「やめてほしい」という意思が、公的な形で加害者に伝わります。
ただ、警察は、慰謝料や示談金、私物の返還といった民事上の話し合いについて、被害を受けた方の代わりに交渉する立場にはありません。行為をやめさせる手続は警察、民事上の話し合いの窓口は弁護士と、役割が分かれていると考えると整理しやすくなります。禁止命令の申出の方法は、【ストーカートラブル】禁止命令を出してもらうには|申出の方法と出るまでの期間で解説しています。
弁護士が代理人として話すときの流れ
受任通知で、連絡の窓口を弁護士に一本化する
弁護士に依頼すると、まず加害者に対して、弁護士が代理人に就いたことと、今後の連絡は弁護士宛てにするよう求めることを書面で伝えます。いわゆる受任通知です。
受任通知そのものに、相手の行動を強制的に止める法的な効力があるわけではありません。ただ、弁護士から書面が届いたことで、加害者が行為を見直すきっかけになる場合は少なくありません。通知の後も本人への連絡が続く場合には、その事実を記録し、警察への申出や接近禁止の手続につなげていくことになります。弁護士に依頼した場合に変わる点は、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味でも解説しています。
相手にも弁護士がついた場合
加害者側が刑事手続を意識して、弁護士を通じて謝罪や示談を申し入れてくることもあります。こちらが弁護士に依頼していれば、相手方の弁護士は、正当な理由なく被害を受けた方本人と直接交渉することができません(弁護士職務基本規程52条)。
相手方の弁護士は、あくまで加害者の利益のために動く立場です。提示された条件がこちらにとって妥当かどうかは、ご自身の代理人と一緒に確認するのが安心です。詳しくは【ストーカートラブル】相手に弁護士がついた|相手方の代理人との話し方で解説しています。面会を求められた場合の考え方は、【ストーカートラブル】相手が弁護士を通じて「会って謝りたい」と言ってきた|面会を断っても謝罪や示談の道は残るで解説しています。
話し合いで決める内容は「これから先の約束」が中心になる
ストーカー事案での話し合いは、過去の行為の償いだけでなく、これから先に何をしないかを約束してもらうことが中心になります。弁護士が窓口になると、次のような内容を書面にまとめることを目指します。
- 本人やその家族、勤務先に連絡や接触をしないこと。
- 自宅や勤務先など、決められた範囲に近づかないこと。
- 保有している画像や連絡先のデータを削除すること。
- 約束に反した場合の違約金の定め。
- 解決金や慰謝料の有無と、その支払方法。
どの条件を盛り込めるかは、事案の内容や相手の受け止め方によって変わります。条件の考え方は、【ストーカートラブル】示談に入れる条件|接触禁止・転居・違約金で解説しています。話し合いでは解決が難しい場合には、裁判所に接近禁止の仮処分を求める方法もあります。
どうしても直接やり取りが必要になる場面での備え
会わずに、文字で残る方法を選ぶ
共通の荷物の返還など、事務的な用件でどうしても連絡を取らなければならない場面もあります。その場合でも、対面や電話ではなく、メッセージや書面など記録が残る方法を選ぶと、後から経緯を説明しやすくなります。
用件だけを短く伝え、相手の感情に応じた長いやり取りには入らないことも大切です。相手から先に連絡が来た場合の考え方は、【ストーカートラブル】相手から先に連絡が来た|返信したら違反になるのかで解説しています。
会う場合は、場所・時間・同席者を事前に決めておく
やむを得ず会う場合は、人目のある場所を選び、終わりの時間をあらかじめ決めておくことが考えられます。信頼できる人に場所と時間を伝えておき、近くで待機してもらうことも一つの方法です。
自宅や相手の家、車の中など、周囲から見えにくい場所は避けたほうが無難です。また、その場で書面に署名したり、金銭を渡したりすることは控え、持ち帰って検討する姿勢を保つことが大切です。
危険を感じたら、話し合いより先に警察へ
話し合いの申入れに脅しの言葉が含まれている、待ち伏せや押しかけがすでに起きているといった場合は、話し合いの方法を考えるよりも、身の安全の確保が先になります。その場で危険を感じたときは110番通報をためらわないでください。警察と弁護士への相談の順序については、【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序で解説しています。
よくあるご質問
相手から「最後に一度だけ会って話したい」と言われました。応じたほうが早く終わりますか?
一度会うことで相手が納得する場合もありますが、会えたことがかえって次の連絡のきっかけになる場合もあり、どちらになるかは事前には分かりません。「最後に一度だけ」という申入れが繰り返される場合は、応じずに、弁護士を通じて意思を伝える方法を検討してください。会わないことを理由に、被害を受けている側に法的な不利益が生じる仕組みはありません。
弁護士に依頼したことが相手に伝わると、逆上されないか心配です
受任通知を送る前に、相手のこれまでの言動や、自宅や勤務先を知られているかといった事情を弁護士と確認し、通知の時期や伝え方を検討します。危険が高いと考えられる事案では、警察への相談を並行して進め、通知を送るタイミングに合わせて身の安全の備えを整えることもあります。
相手に今の住所を知られていません。弁護士から通知を送ると、住所が伝わりませんか?
受任通知は、加害者の住所や連絡先に宛てて送るもので、こちらの連絡先としては弁護士の事務所を記載します。そのため、通知を送ること自体によって、被害を受けている方の住所が相手に伝わることは通常ありません。その後に裁判所の手続を使う場合の住所の扱いについては、手続を選ぶ段階で弁護士にご確認ください。
まとめ
- 加害者が求める「話し合い」は、望まない面会の要求にあたることがあり、応じることで次の連絡のきっかけを与える場合がある(ストーカー規制法2条1項3号)。
- 直接話す場面では感情が高ぶりやすく、その場での約束が後から持ち出されることもあるため、結論は持ち帰ることが大切である。
- 家族や友人も規制法の保護の対象に含まれるが、間に入ったことで新たな接触の対象になるおそれがある(同法2条1項)。
- 報酬を得て他人の紛争の交渉を行えるのは、原則として弁護士に限られる(弁護士法72条)。
- 警察は警告や禁止命令で行為をやめさせる手続を担い、令和7年12月施行の改正で警告は職権でも出せるようになったが、民事上の交渉の代理はしない(ストーカー規制法4条、5条)。
- 弁護士に依頼すれば窓口が一本化され、相手方の弁護士も正当な理由なく本人と直接交渉できない(弁護士職務基本規程52条)。
- 話し合いで決める内容は、接触禁止・接近禁止・データ削除・違約金など、これから先の約束が中心になる。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。加害者から話し合いを求められて応じるべきか迷っている方、家族や友人に間に入ってもらうことを考えている方、ご自身の窓口を弁護士に任せたい方は、返事をする前の段階でもご相談ください。
相手との連絡がまだ続いている方にも、すでに警察に相談している方にも、それぞれの段階に応じた進め方をご一緒に検討します。


