【ストーカートラブル】ストーカー被害の慰謝料|請求できる項目と組み立て

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

本記事は、2026年10月時点の民法、民事訴訟法、ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」)、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(以下「犯罪被害者保護法」)の規定に基づいて記載しています。遅延損害金の計算に用いる法定利率は、2026年4月1日から2029年3月31日までの期について年3%と告示されています。


ストーカー被害のご相談では、「慰謝料を請求したいが、何をどこまで書けばよいのか分からない」という声と、「相手の弁護士から示談の申入れがあり、提示された額が妥当なのか判断できない」という声の両方をよくお聞きします。請求する前の方も、提示を受けた後の方も、手元にある情報を「項目」に分けられていないという点で、悩みの根は共通しています。

 ストーカー被害の慰謝料については、裁判例を踏まえると数十万円から200万円程度が一つの目安と説明されることが多く、それ自体は誤りではありません。ただ、この数字は精神的苦痛に対する慰謝料の部分を指しており、治療費や引っ越し費用、休業による収入の減少といった項目は別に積み上げることになります。目安の数字だけを見ていると、請求できるはずの項目を落としたり、逆に根拠の説明が足りない項目を含めてしまったりすることがあります。

 この記事では、慰謝料の相場そのものではなく、ストーカー被害で請求できる項目の種類と、それを請求の形に組み立てる順序を整理します。接近を止める手続や警察への届出の選び方、相手が誰か分からない場合の特定方法は別の記事に委ね、ここでは「何を、どの資料で、誰に請求するか」に絞ってご説明します。

慰謝料と損害賠償を分けて考える

慰謝料は損害賠償の項目の一つ

 ストーカー行為によって被害を受けた方は、加害者に対して不法行為に基づく損害賠償を請求できます(民法709条)。この損害賠償の中には、お金に換算しにくい精神的な苦痛に対する慰謝料(同法710条)と、治療費や引っ越し費用のように実際に出ていったお金、仕事を休んで得られなかった収入とがあります。日常的には全体をまとめて「慰謝料」と呼ぶことが多いのですが、請求の場面では両者を分けて考えるほうが整理しやすくなります。

 慰謝料は裁判所の評価で金額が決まる部分、実費は領収書などで金額が裏付けられる部分と分けておくと、どこに主張の力を入れるべきかが見えてきます。慰謝料は行為の期間や内容をどう伝えるかで評価が変わり、実費は資料がそろっているかと、その支出が行為によって必要になったといえるかで結論が変わります。

規制法の「ストーカー行為」に当たらなくても請求の余地はある

 ストーカー規制法の「ストーカー行為」は、恋愛感情などを充足する目的で、つきまとい等を反復して行うことと定められています(ストーカー規制法2条1項・3項)。一方、民事の損害賠償は、生活の平穏やプライバシー、名誉といった利益を違法に侵害されたかどうかで判断されます。

 そのため、警察が規制法の適用を見送った事案や、好意の感情とは別の動機によるつきまといであっても、行為の内容によっては損害賠償を請求できる場合があります。反対に、規制法に当たる行為があったとしても、それだけで請求額が決まるわけではありません。規制法上の扱いと民事の請求は、関係はしていても別の物差しで判断されると考えておくのが実務に近い理解です。

刑事の処分と民事の請求は別に進む

 警察から警告が出た、相手が逮捕されたといった刑事手続の進み方と、損害賠償の請求は別の手続です。相手が刑事処分を受けても、賠償金が自動的に支払われる仕組みはありません。被害届と告訴のどちらを選ぶかについては被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶで整理しています。

請求できる項目と、それぞれの裏付け

 ストーカー被害で請求の対象になりやすい項目と、主な根拠資料、争点になりやすい点を表にまとめます。

項目主な根拠資料争われやすい点
慰謝料行為の記録、警察への相談記録、診断書行為の期間・回数・内容の評価
治療費・通院交通費診療明細、領収書、交通費の記録症状と行為とのつながり
休業損害給与明細、勤務先の証明、有給休暇の取得記録休んだ期間が必要な範囲か
引っ越し費用見積書、賃貸借契約書、領収書転居の必要性と費目の範囲
防犯費用購入・工事の領収書必要な範囲を超えていないか
調査費用調査の契約書、報告書、領収書相手の特定に必要だったか
弁護士費用委任契約書訴訟では認容額の1割程度が目安
遅延損害金各行為の日付起算日の取り方


精神的苦痛に対する慰謝料

 慰謝料の額は、行為の期間と回数、内容(待ち伏せや自宅への押しかけ、性的な内容の送信など)、加害者と被害者の関係、警告や約束の後も行為が続いたかどうか、被害者の心身や生活への影響といった事情を総合して評価されます。教員と学生、上司と部下のように、被害者が関係を断ちにくい立場を利用した事案では、悪質さが重く評価される傾向があります。

 慰謝料の主張では、「怖かった」という気持ちを伝えるだけでなく、外出を控えた、通勤経路を変えた、眠れなくなったといった生活の具体的な変化を、時期とともに書き出すことが評価の材料になります。

治療費・通院交通費・休業損害

 つきまといによって不眠や不安の症状が出て通院した場合、治療費と通院のための交通費は請求の対象になります。診断書は症状と通院の必要性を示す資料になるため、受診の際には、いつから、どのような被害を受けているかを医師に伝えておくと、行為とのつながりを説明しやすくなります。

 体調の悪化や警察への対応のために仕事を休んだ場合は、その間の収入の減少を休業損害として請求できる場合があります。給与明細や勤務先の証明で、休んだ日数と減った額を示します。有給休暇を使った場合も、その日数分を損害として扱う考え方が実務で参考にされることがあります。一方、退職せざるを得なかったとして将来の収入まで請求する場合は、退職と行為とのつながりを示すハードルが高くなります。

引っ越し費用・防犯費用

 自宅を知られていて身の安全のために転居した場合、引っ越し業者の費用や新居の契約にかかった初期費用は、損害として認められる余地があります。ここで問われるのは、転居が必要だったといえるかと、請求する費目がその必要の範囲に収まっているかの2点です。警察への相談記録や自宅周辺での行為の記録が、転居の必要性を説明する資料になります。転居先を知られないための注意点は引っ越したのに住所を突き止められた|居場所を知られない対策もあわせてご覧ください。

 鍵の交換や防犯カメラの設置といった防犯費用も、行為の内容に照らして必要な範囲であれば請求の対象になり得ます。もっとも、元の住まいより家賃が高い物件に移った場合の家賃の差額や、必要性を超える設備の費用は、全額が認められにくい項目です。

調査費用・弁護士費用・遅延損害金

 相手が誰か分からず、調査会社への依頼や発信者情報開示の手続によって特定した場合、その費用の一部が損害として認められることがあります。全額が認められるとは限らず、特定のために必要だった範囲かどうかが問われます。相手のたどり方は【ストーカートラブル】相手が誰か分からない|匿名のつきまといで相手をたどる方法と、たどれないときの守り方で解説しています。

 訴訟で請求する場合、弁護士費用のうち相当な額を損害に加えることができ(最高裁昭和44年2月27日判決)、実務では認められた損害額の1割程度が目安とされています。実際に支払う弁護士費用の全額ではない点には注意が必要です。

 また、不法行為に基づく損害賠償には、行為の時から遅延損害金が付くと解されており(最高裁昭和37年9月4日判決)、利率は法定利率によります(民法404条)。行為が長期にわたる場合は、行為ごとの日付を押さえておくと計算の起点を示しやすくなります。

項目を請求の形に組み立てる順序

第1段階:行為の時系列表をつくる

 最初に行うのは、金額の計算ではなく、いつ、どこで、どのような行為があったかを一覧にすることです。日時、場所、行為の内容、その裏付けとなる資料(メッセージの画面、録音、写真、警察への相談記録など)を1行ずつ並べ、資料に番号を振っておきます。

 この表は、慰謝料の評価の材料になると同時に、後の各項目が「どの行為によって必要になったか」を結びつける土台になります。証拠の残し方はストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方も参考にしてください。

第2段階:費目ごとに支出の理由を書き添える

 次に、実費の項目ごとに金額、支払日、領収書の番号を並べ、その支出がどの行為を受けて必要になったのかを一言ずつ書き添えます。例えば「自宅前での待ち伏せが続いたため転居」「深夜の着信が続き不眠となって通院」のように、時系列表の行と結びつけます。

 相手方や裁判所が注目するのは、支出の金額そのものよりも、その支出と行為とのつながりです。つながりを説明できない支出は、請求に含めても減額の材料になりやすいため、この段階で入れるかどうかを見極めます。

第3段階:請求の相手を確定させる

 請求の相手は、原則として行為をした本人です。相手が未成年で、自分の行為の責任を判断する能力がない年齢の場合は、親などの監督義務者が責任を負うことがあります(民法714条)。責任を判断する能力がある未成年でも、親の監督に問題があり、それが被害につながったといえる場合には、親自身の責任が問われることがあります(最高裁昭和49年3月22日判決)。また、業務の機会に行われたつきまといでは、勤務先の使用者責任(民法715条)が検討の対象になる場合もあります。

 相手と金額の内訳が固まったら、書面で請求するのか、訴訟を起こすのかを選びます。手続の選び方は後の章で整理します。

請求額が削られやすい場面

支出と行為のつながりが説明しきれない場合

 削られやすいのは、行為が始まる前から予定していた転居、行為の内容に比べて大がかりな防犯設備、行為以外の事情も重なっている通院などです。こうした項目を含める場合は、行為がなければ支出しなかったといえる事情を、時系列表と照らして具体的に示す必要があります。

 相手方から、被害者の言動にも原因があったとして減額を主張されることもあります(民法722条2項)。ただ、交際を断ったことや連絡を絶ったこと自体を、減額の理由となる落ち度と評価するのは難しいと考えられます。

示談の清算条項で将来の費用が切れる場合

 示談書には通常、示談書に定めるもののほかに債権債務がないことを確認する清算条項が入ります。通院が続いている最中に示談をすると、示談後に生じた治療費をあらためて請求することが難しくなる場合があります。治療の見通しが立たないうちは、示談の時期を調整するか、将来の治療費の扱いを条項で明示しておくことが考えられます。

時効の起算点を見落とす場合

 不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年で時効にかかります(民法724条)。生命や身体を害する不法行為では、前者の期間が5年とされています(同法724条の2)。つきまといによる精神的な不調がこの「身体を害する」場合に当たるかどうかは、症状の内容などに応じて検討が必要です。

 行為が長く続いている場合、時効は個々の行為ごとに進むと考えられているため、古い行為から順に期間が過ぎていくことになります。請求の種類ごとの期間は男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかにまとめています。

どの手続で請求するか

示談交渉では項目ごとの内訳を示す

 ストーカー被害の金銭的な解決は、裁判所の手続を使わない示談交渉で図られることが少なくありません。相手が刑事処分を受ける可能性がある場合には、相手の弁護人から示談の申入れが来ることもあります。示談では、慰謝料と実費を合計した一つの金額を示談金として取り決めるのが通常ですが、交渉の段階では項目ごとの内訳を示すほうが、金額の根拠を説明しやすくなります。

 示談書には金額のほか、接触の禁止や、違反した場合の取り決めを盛り込むことができます。示談金を受け取ることと、刑事処分について相手を許す意思を示すことは別に考えられるため、宥恕の文言を入れるかどうかは慎重に判断します。弁護士を窓口にした交渉の進め方は【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で、実際の解決例は【解決事例】元同僚からのストーカー被害|弁護士の介入により付きまといを停止させ解決金100万円を受領した事例でご紹介しています。

訴訟では住所や氏名を秘匿できる場合がある

 示談がまとまらない場合は、訴訟で請求します。請求額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所が窓口になります(裁判所法33条1項1号)。

 ストーカー被害の訴訟でためらわれやすいのが、訴状に記載する住所や氏名を相手に知られることへの不安です。2023年2月から、住所や氏名が相手に知られることで社会生活を営むのに著しい支障が生じるおそれがあることを疎明した場合に、裁判所がそれらを秘匿する決定をする制度が設けられています(民事訴訟法133条)。転居後の住所を知られたくない事情があっても、訴訟による請求を選べる余地は広がっています。

刑事手続に付随する制度が使える範囲

 相手が起訴された場合、刑事裁判の手続の中で、被告人との間の民事上の合意を公判調書に記載してもらう刑事和解の制度があります(犯罪被害者保護法19条)。調書に記載された合意は、支払われない場合に強制執行の根拠になります。

 また、刑事裁判の成果を利用して損害賠償を求める損害賠償命令の制度もありますが(同法23条)、対象は故意の犯罪行為により人を死傷させた罪、不同意わいせつなどの性犯罪、逮捕・監禁の罪などに限られています。ストーカー規制法違反だけで起訴された事件は対象に含まれないため、つきまといに傷害などが伴っているかどうかで、使える制度が変わります。

よくあるご質問

警察の警告で終わり、刑事事件になっていません。それでも請求できますか?

 刑事事件になっていなくても、損害賠償の請求はできます。刑事手続と民事の請求は別の手続であり、警告にとどまった事案でも、行為の記録や警察への相談記録をもとに請求を組み立てることは可能です。ただし、捜査で集められた資料を使えない分、行為の立証は被害者側の資料に頼ることになるため、記録の整理がより重要になります。

連絡が数回だけでも、慰謝料を請求できますか?

 回数が少ないことは慰謝料の評価を低くする事情になりますが、内容が脅迫的であったり、自宅に押しかけられたりした場合には、少ない回数でも請求できることがあります。規制法上の「つきまとい等」と「ストーカー行為」の違いは連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違いで説明しています。

請求したことで、つきまといが激しくなることはありませんか?

 その可能性がないとはいえないため、請求の前に身の安全を確保する手当てを並行して進めることが大切です。警察への相談や禁止命令の申出、裁判所の仮処分などで接近を止める手段を先に、または同時に講じたうえで請求する流れが考えられます。手続の使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けをご覧ください。

まとめ


  1. ストーカー被害の損害賠償は、精神的苦痛に対する慰謝料と、治療費や引っ越し費用などの実費に分けて組み立てる(民法709条・710条)。
  2. ストーカー規制法の「ストーカー行為」に当たらない場合でも、生活の平穏などを侵害されたとして請求できる余地がある(ストーカー規制法2条)。
  3. 実費は金額よりも、行為とのつながりを説明できるかどうかが問われる。
  4. 訴訟では弁護士費用の一部と遅延損害金を加えて請求でき、法定利率は現在年3%である(民法404条)。
  5. 請求の相手は原則として本人だが、未成年の場合は監督義務者の責任が問題になることがある(民法714条)。
  6. 時効は損害と加害者を知った時から3年、生命・身体を害する場合は5年とされる(民法724条・724条の2)。
  7. 訴訟では住所や氏名を秘匿する制度があり、刑事手続に付随する制度は事件の罪名によって使える範囲が異なる(民事訴訟法133条、犯罪被害者保護法19条・23条)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。行為の記録や領収書がまだ手元でそろっていない段階でも、どの項目をどの資料で請求できるかを整理するところからお手伝いします。

慰謝料の請求をお考えの方はもちろん、相手方から示談の申入れを受けて提示額が妥当か判断に迷っている方も、お一人で抱え込まずにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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