【ストーカートラブル】相手の家族から被害届を取り下げるよう迫られている|応じる前に考えることと、働きかけを止める順序

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

本記事は、2026年10月時点の刑法(証人等威迫罪・脅迫罪・強要罪)、ストーカー行為等の規制等に関する法律、刑事訴訟法、民法に基づいて解説しています。2025年6月1日施行の改正刑法により、懲役と禁錮は「拘禁刑」に一本化されており、本記事の法定刑はこれを反映しています。


「加害者の母親から毎日のように電話があり、『息子の将来のために被害届を取り下げてほしい』と頼まれている」「家族が自宅の前で待っていて、取り下げの書面に署名するよう求められた」。ストーカー被害を警察に届け出た方から、こうしたご相談をお受けすることがあります。反対に、加害者の家族の側から「本人に代わって謝りたいだけだが、どこまで連絡してよいのか分からない」というご相談が寄せられることもあります。

 被害届の取り下げについて調べると、取り下げてもらう側、つまり加害者側に向けた解説が多く見つかります。示談がまとまった結果として取り下げに至るという説明は、それ自体は誤りではありません。ただ、取り下げを求められている被害者の側から見たとき、断ってよいのか、断ると何が起きるのか、家族の働きかけがどこから法的な問題になるのかは、あまり整理されていないのが実情です。

 この記事では、加害者の家族から被害届の取り下げを求められている方に向けて、応じるかどうかを考える材料、家族の働きかけが違法になりうる場面、接触を止めるための順序を解説します。示談書の条項の作り方は示談書に必ず入れる条項と、入れると危険な条項、取下げ書の書き方は被害届の取下げ・告訴の取消をどう書くかで扱っていますので、あわせてご覧ください。

被害届を取り下げるかどうかは被害者が決めること

取り下げに応じる義務はない

 被害届は、被害に遭ったことを捜査機関に申告するものです。出した後に取り下げるかどうかは、被害者自身が判断することであり、加害者の家族から求められたからといって応じる義務はありません。

 家族からは「本人も反省している」「仕事を失ったら家族の生活が立ち行かない」といった事情を伝えられることがあります。その事情が本当であったとしても、それを引き受けるのは被害者の役割ではありません。気の毒に思う気持ちと、自分の安全や事件の扱いをどうするかは、切り分けて考えてよいことです。被害届と告訴の違いを確認しておきたい方は被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶもご参照ください。

取り下げても事件が必ず終わるわけではない

 ストーカー行為罪は、2017年1月施行の法改正により、告訴がなくても起訴できる罪(非親告罪)になっています。そのため、被害届を取り下げても、捜査や起訴の判断が続くことがあります。取り下げは「被害者が処罰を望んでいない」という事情として考慮されますが、事件の行方を最終的に決めるのは警察・検察と裁判所です。

 家族から「取り下げてくれればすべて終わる」と言われることがありますが、これは正確な説明ではありません。一方で、一度取り下げた後に改めて被害届を出し直すことは、現実には難しいと考えられています。告訴については、公訴が提起されるまで取り消すことができますが、取り消した人は同じ事件について再び告訴することができません(刑事訴訟法237条1項・2項)。取り下げは、後から戻すことが難しい判断だという点を押さえておく必要があります。

示談と取り下げは別々に考えられる

 家族からの申入れには、被害弁償や謝罪と、取り下げの求めがひとまとめになっていることが少なくありません。しかし、示談に応じて弁償を受けることと、取り下げや「処罰を求めない」という意思(宥恕)を約束することは、別々に判断できます。

 弁償は受けるが処罰を求める意思は維持する、接触しないという約束だけを書面にする、といった形もありえます。宥恕の文言が持つ意味は宥恕文言の意味|「許す」と書かれると刑事処分はどう変わるか、示談の申入れを受けたときの確認事項は加害者側から示談を持ちかけられた|応じる前に確認することで詳しく解説しています。

家族の働きかけはどこから問題になるのか

謝罪や示談の申入れそのものは違法ではない

 加害者の家族が「謝りたい」「弁償したい」と申し入れること自体は、直ちに違法となるものではありません。被害者が話を聞くかどうかを選べる形で、節度をもって申し入れる限り、正当な行為と評価されるのが通常です。

 加害者の家族の立場でこの記事を読まれている方は、被害者への直接の連絡を控え、弁護人を通じて申し入れることをおすすめします。直接の働きかけは被害者の負担になるだけでなく、本人の身柄の判断などで不利な事情とみられるおそれもあります。家族ができることは【刑事事件】身内がストーカー規制法違反で捕まった|身柄が長引く理由と、家族が用意できるもので整理しています。

証人等威迫罪にあたりうる場面

 刑法には、刑事事件の捜査や裁判に必要な知識を持つと認められる人やその親族に対し、その事件に関して、正当な理由なく面会を強く求めたり、強い態度で迫ったり(強談威迫)する行為を処罰する規定があります(刑法105条の2)。法定刑は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。被害届を出した被害者は、この「必要な知識を持つと認められる人」にあたります。

 この罪は「自己若しくは他人の刑事事件」について定めているため、加害者本人だけでなく家族が行った場合も対象になります。また、犯人をかくまう罪や証拠隠滅の罪には親族について刑を免除できる特例がありますが、証人等威迫罪にはこの特例は及びません(刑法105条)。威迫は対面に限らず、不安や困惑を生じさせる内容の文書を送って読ませる方法でも成立するとされています(最高裁平成19年11月13日決定)。

脅迫罪・強要罪にあたりうる場面

 取り下げを求める言葉の中に、被害者本人や家族の生命・身体・自由・名誉・財産に害を加えることを告げる内容が含まれていれば、脅迫罪(刑法222条)が問題になります。さらに、脅迫や暴行によって取り下げ書に署名させるなど、義務のないことを行わせた場合には強要罪(刑法223条1項)が問題となり、署名に至らなかった場合でも未遂として処罰の対象になります(同条3項)。

 なお、家族の働きかけは、恋愛感情などを満たす目的で行われるものではないのが通常のため、ストーカー規制法の「つきまとい等」にはあたらないことが多いと考えられます。ただし、加害者本人が家族を介して接触を図っている事情があれば、評価が変わる可能性があります。第三者を巻き込んだ接触への対応は別れた相手が家族や友人に接触してくる|第三者を巻き込む嫌がらせへの対応もご覧ください。

働きかけの内容問題になりうる規定
断っているのに自宅や職場に何度も来て面会を求める証人等威迫罪(刑法105条の2)
大声で詰め寄る、複数人で取り囲んで取り下げを迫る証人等威迫罪(刑法105条の2)
「取り下げないとどうなるか分からない」などと告げる脅迫罪(刑法222条)、証人等威迫罪
脅しによって取り下げ書に署名させる強要罪(刑法223条1項)
節度ある謝罪・弁償の申入れ(断れば引き下がる)原則として違法にはあたらない


働きかけを受けたときの対応の順序

その場で署名せず、返事も保留する

 家族から書面を差し出されても、その場で署名する必要はありません。「警察(または弁護士)に相談してからお答えします」と伝えるにとどめ、取り下げるかどうかの返事や、改めて会う約束はしないことが大切です。相手の事情を聞いているうちに返事を迫られることもあるため、話を長く続けないことも一つの対応です。

働きかけの記録を残す

 働きかけを受けたときは、次のような点を記録しておくと、警察や弁護士に状況を伝えやすくなります。

  • 日時と場所、来た人や連絡してきた人の続柄。
  • 電話・訪問・手紙・SNSなど、連絡の方法。
  • 言われた内容と、こちらの返答(できるだけそのままの言葉で)。
  • 着信履歴、手紙、メッセージの画面、録音などの資料。


 記録のまとめ方はA4一枚の時系列メモの作り方|相談の質を決める1枚、刺激を避けながら記録を残す工夫はストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方で紹介しています。

事件を担当する警察官・検察官に伝える

 家族から取り下げを求められていることは、事件を担当している警察官や検察官に伝えてください。家族からの働きかけを捜査機関に伝えることは告げ口ではなく、事件の一部として必要な情報を共有することです。被害者に対する働きかけは、加害者の勾留や保釈を判断する際の事情として考慮されることがあります(刑事訴訟法60条1項2号、89条4号・5号)。

 また、取り下げの意思が示された場合、捜査機関は被害者本人に意思を確認するのが通常です。もし家族に迫られて取り下げに応じてしまったとしても、その確認の機会に、本意ではなかったことを伝えることができます。警察の対応に不安がある場合は警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができることもご参照ください。

家族との窓口を弁護士に移すという選択

窓口を一本にする意味

 被害者が弁護士に依頼すると、加害者の家族や弁護人に対して「今後の連絡は代理人宛てにしてほしい」と通知することができます。窓口が弁護士に一本化されることで、家族からの直接の電話や訪問が止まりやすくなります。

 被害者が一人で家族と向き合うと、相手の事情に引きずられて判断を急いでしまうことがあります。間に弁護士が入ることで、取り下げるかどうかを落ち着いて考える時間と距離を確保できる点にも意味があります。依頼によって何が変わるかは【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味、通知の効果は受任通知とは何か|送られると相手方との関係はどう変わるかで解説しています。

示談を検討する場合に確認したい条件

 示談に応じる方向で考える場合でも、取り下げや宥恕を入れるかどうかは被害者が決められます。ストーカー被害の示談では、次のような条件を検討することが多くあります。

  • 加害者本人だけでなく、家族を通じた接触も禁止する条項。
  • 電話・SNS・手紙・第三者を介した連絡など、接触の方法を具体的に挙げた禁止条項。
  • 接触禁止に違反した場合の違約金の定め。
  • 取り下げや宥恕を入れるかどうか、入れる場合の時期と条件。


 示談とは別に、警察による警告・禁止命令や裁判所の手続で接近を禁じる方法もあります。全体像は接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けをご覧ください。

すでに書面に署名してしまった場合

 脅されて取り下げの書面や示談書に署名してしまった場合でも、強迫による意思表示は取り消すことができます(民法96条1項)。取り下げ書をすでに提出してしまった場合も、担当の警察官や検察官に、働きかけを受けて署名した経緯を伝えることが考えられます。

 ただし、告訴を取り消した場合は再告訴ができないなど、元に戻すことが難しい部分もあります。署名してしまった書面の効力は脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違い、示談後の宥恕の扱いは示談が成立した後に被害者が処罰を求めた|宥恕の撤回はできるのかで扱っています。

よくあるご質問

家族の申入れを断ると、かえって恨まれないか心配です

 その不安を抱くのは自然なことです。ただ、断り方や伝え方を被害者が一人で工夫しようとすると、やり取りが長引いて感情のぶつかり合いになりやすくなります。返事は保留して記録を残し、警察や弁護士を窓口にするほうが、相手との直接の接点が減り、結果として安全につながることが多いと考えられます。

取り下げれば、加害者はすぐに釈放されるのですか

 必ずしもそうではありません。ストーカー行為罪は非親告罪であり、取り下げは考慮される事情の一つにとどまります。身柄の扱いや起訴するかどうかは、事案の内容や再び接触するおそれなどを踏まえて、捜査機関や裁判所が判断します。

「取り下げてくれたらお金を払う」と言われています。受け取ってよいのでしょうか

 被害弁償を受けること自体が問題になるわけではありません。ただし、金銭の受け取りと取り下げが条件として結び付けられている場合は、受け取った後に取り下げを強く求められることもあります。その場で現金を受け取らず、何と引き換えなのかを書面で確認したうえで、弁護士に内容を見てもらってから判断することをおすすめします。

まとめ


  1. 被害届を取り下げるかどうかは被害者が判断することであり、加害者の家族から求められても応じる義務はない。
  2. ストーカー行為罪は非親告罪のため、取り下げても捜査や起訴の判断が続くことがある。一方、告訴を取り消すと再告訴はできない(刑事訴訟法237条2項)。
  3. 示談や被害弁償に応じることと、取り下げ・宥恕を約束することは別々に判断できる。
  4. 正当な理由なく面会を強く求めたり、強い態度で迫ったりする働きかけは、家族によるものでも証人等威迫罪にあたりうる(刑法105条の2)。
  5. 害悪の告知や、脅しによる署名の強制は、脅迫罪・強要罪の問題となる(刑法222条、223条)。
  6. 働きかけを受けたら、その場で署名せず記録を残し、事件を担当する警察官・検察官に伝える。
  7. 脅されて署名した書面は取り消すことができ(民法96条1項)、弁護士を窓口にすることで直接の働きかけを止めやすくなる。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。加害者の家族から被害届の取り下げや面会を求められている場合も、窓口を弁護士に移すことで、直接のやり取りを止められることがあります。

取り下げに応じるかどうか迷っている方、すでに書面に署名してしまった方も、まずは状況を整理するところからご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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