【親子問題】子の精神障害者保健福祉手帳は、取ったほうがいい?
統合失調症と診断されている子、あるいは「そうかもしれない」と感じる子の症状に、家族がどう向き合えばよいか分からないまま時間が過ぎていく。親子問題のご相談では、こうした状況に置かれたご家族のお話を伺うことがあります。「誰かに監視されている」と繰り返し訴える、夜中に大声を出す、受診を勧めると激しく怒る、家族に暴言を向けたり物に当たったりする。症状の現れ方は人によって大きく異なりますが、共通しているのは、家族だけで抱え込むほど身動きが取りにくくなるという点です。
この記事は、令和6年4月1日に施行された精神保健福祉法の改正内容を踏まえて執筆しています。病状の評価や治療方針は医師の判断に委ねられる事柄であり、本記事は医学的な助言ではありません。
この記事では、困りごとの種類ごとに相談先を整理したうえで、医療につなぐ入口、本人が受診を拒む場合の制度、夜間や危険が迫っているときの動き方、暴力やお金の問題を医療と切り分けて扱う考え方、そして家族自身を支える場について順に説明します。
困りごとを三つに分けると、相談先が見えてくる
「どこに相談すればよいのか」が分からなくなる理由の一つは、病気の症状、家族の安全、お金や住まいの問題が一つの塊になって押し寄せてくることにあります。窓口ごとに「ここでは扱えない」と言われ、どこに行っても解決しないと感じてしまう方もいます。
実際には、窓口ごとに得意とする領域が異なります。困りごとを次のように分けてみると、それぞれをどこに持ち込めばよいかが整理しやすくなります。
| 困りごとの種類 | 主な相談先 | 相談の中身の例 |
|---|---|---|
| 症状・治療・受診 | 主治医、保健所・保健センター、精神保健福祉センター | 受診の勧め方、治療中断への対応、入院制度の利用 |
| 夜間・休日の急な悪化 | 精神科救急の相談窓口、緊急時は110番・119番 | 受診先の案内、危険が迫っている場面での対応 |
| 暴力・脅し・物の破壊 | 警察(生活安全課などの相談窓口) | 相談記録の作成、その場での保護、被害届の検討 |
| 生活費・住まい・制度 | 区市町村の福祉・障害担当窓口、相談支援事業所 | 障害年金、自立支援医療、生活保護、住まいの確保 |
| お金の要求・連絡の窓口・家を出る段取り | 弁護士 | 親の代理人としての対応、要求への回答、合意書の作成 |
| 家族自身の悩み | 家族会、家族教室、精神保健福祉センターの家族相談 | 同じ立場の家族との情報交換、対応の学び直し |
一つの窓口ですべてが片付くことは多くありません。複数の窓口を並行して使い、それぞれの記録を手元に残しておくことが、後の手続でも意味を持ちます。親子問題全体の相談先の考え方については、【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担もあわせてご覧ください。
医療につなぐ入口は、主治医の有無で変わる
主治医がいる場合
すでに通院している場合は、まず主治医や病院の相談室(精神保健福祉士などが配置されていることが多い窓口)に、家庭での様子を伝えることが出発点になります。本人の同意がない場面では、医療機関から家族に治療内容を詳しく説明することには制約がありますが、家族が見聞きした事実を医療機関に伝えること自体は妨げられていません。いつ、どのような言動があったのかをメモにまとめて持参すると伝わりやすくなります。
受診していない、または治療が途切れている場合
未受診の場合や、通院や服薬が途切れている場合は、住まいの地域を担当する保健所・保健センターや、都道府県・政令指定都市に置かれている精神保健福祉センターに、家族だけで相談することができます。精神保健福祉相談員や保健師が家族の話を聞き、受診の勧め方を一緒に考えたり、状況によっては自宅を訪問したりすることもあります。
また、令和6年4月の法改正により、市町村が行う相談支援の対象は、精神障害のある方に限らず、精神保健に課題を抱える方へと広げられました。区市町村の窓口にも相談しやすくなっていますので、最寄りの窓口から始めて構いません。病気かどうかの見極めがついていない段階での考え方は、【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で解説しています。
本人が受診を拒むときに知っておきたい制度
統合失調症では、本人が自分の状態を病気として捉えにくいことがあり、受診を勧めるたびに関係がこじれるという悩みは珍しくありません。精神保健福祉法には、本人の同意による入院のほか、一定の要件のもとで本人の同意によらない入院の仕組みも定められています。
| 入院の形態 | 主な要件 | 家族の関わり |
|---|---|---|
| 任意入院 | 本人の同意 | 本人が入院に同意するよう支える |
| 医療保護入院 | 精神保健指定医1名の診察で、医療と保護のための入院が必要と判断され、本人が同意できる状態にない | 家族等のうちいずれかの者の同意が必要 |
| 措置入院 | 精神保健指定医2名以上の診察で、自分を傷つけたり他人に害を及ぼしたりするおそれがあると一致して判断される | 都道府県知事(政令指定都市の市長)の権限で行われ、家族の同意は要件ではない |
医療保護入院については、令和6年4月から入院期間に上限が設けられ、期間を更新する際にも家族等の同意の確認が行われるようになりました。また、家族等の範囲からは、本人に対して配偶者暴力や虐待を行った者が除かれています。家族等がいない場合や、家族等が同意・不同意の意思を示さない場合には、市町村長の同意によって手続が進められることもあります。同意を求められたときの考え方は【親子問題】医療保護入院の同意を求められた|家族が同意することの意味で詳しく説明しています。
さらに、精神保健福祉法では、精神障害があると思われる方について、家族を含む誰でも、保健所を通じて都道府県知事に指定医の診察を求める申請ができるとされています。ただし、申請すれば必ず診察や入院につながるわけではなく、要件の判断は行政と医師が行います。いずれの制度も、使うかどうかは本人と家族の長期的な関係にも影響しますので、保健所などの専門職と相談しながら判断することが大切です。措置入院の後の生活については、【親子問題】子が措置入院になった|退院後の受け入れをどうするかをご覧ください。
夜間や休日、危険が迫っているとき
症状の悪化は、平日の日中に限って起きるわけではありません。東京都をはじめ多くの地域では、夜間・休日に精神科の受診先について相談できる窓口が設けられています。地域ごとに名称や受付時間が異なるため、落ち着いているうちに、住まいの地域の窓口を調べて控えておくと安心です。
一方で、刃物を持ち出している、家族がけがをしている、本人が自分を傷つけようとしているといった、その場で身の安全が脅かされている場面では、ためらわずに110番や119番に連絡してください。警察官は、職務の中で精神障害のために自分や他人を傷つけるおそれがあると認められる方を見つけたとき、保健所長を経て都道府県知事に通報することとされており、その後の医療につながる入口になることもあります。
- 家族の身の安全を確保してから連絡する。
- 家族が別の部屋や屋外に移れる経路を、あらかじめ決めておく。
- 通報の際は、住所、本人の様子、凶器の有無、けが人の有無を短く伝える。
- 通院歴や服薬の状況を、家族の誰でも説明できるようにメモしておく。
時間帯ごとの窓口は【親子問題】夜間に子が暴れたときの相談先|時間帯別の窓口、通報の判断は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで解説しています。
暴力やお金の問題は、医療とは分けて扱う
「病気のせいだから仕方がない」と考えて、暴力や金銭の要求を受け入れ続けてしまうご家族もいます。けれども、病気があることと、家族が暴力や脅しに耐えなければならないことは、別の問題です。病気の影響がどの程度あったのかは、刑事手続の中で必要に応じて判断される事柄であり、家族が警察に相談することをためらう理由にはなりません。
記録を残しておく
暴言や暴力、物の破壊があった日時、内容、けがの有無、警察や医療機関に相談した経過を記録しておくと、医療機関への説明にも、警察への相談にも、後の法的な手続にも役立ちます。警察に相談した事実そのものも記録として意味を持ちます。詳しくは【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続と【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録をご覧ください。
お金と住まいの問題
お金の要求に応じ続けるかどうかは、親が自分の生活を守る観点から決めてよい事柄です。成人した子に対する親の扶養義務には限度があり、要求をすべて受け入れなければならないわけではありません。他方で、本人の生活の土台をどう作るかという点では、障害年金、自立支援医療(通院医療費の自己負担を軽くする制度)、精神障害者保健福祉手帳、生活保護など、公的な制度を検討する余地があります。これらは区市町村の窓口や相談支援事業所に相談できます。断ることの位置づけは【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで解説しています。
家族自身を支える場を持つ
統合失調症の子を支える生活は、多くの場合、長い期間に及びます。親が疲れ切ってしまうと、本人を支える力も残りません。精神保健福祉センターや保健所が開く家族教室、地域の家族会、全国組織である全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)などでは、同じ立場の家族と情報を交換したり、病気についての知識や接し方を学んだりすることができます。
また、親が高齢になったとき、本人の生活をどう支えていくのかという課題も、早めに考え始めておくと選べる手段が増えます。家族会の役割については【親子問題】家族会・当事者会の役割|弁護士に頼む前にできること、将来の備えについては【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかをご覧ください。
弁護士に相談できること、できないこと
弁護士は、病気の診断や治療方針を判断する立場にはありません。医療の判断は医師に、福祉の制度は行政や支援機関に委ねることになります。そのうえで弁護士が担えるのは、主に次のような部分です。
- お金の要求や脅しに対して、親の代理人として窓口に立ち、親が直接やり取りしなくてよい状態をつくること。
- 親名義の家に住み続ける子との関係や、別居・転居の段取りを法的な観点から整理すること。
- 警察、保健所、医療機関などへの相談の経過を整理し、どの手続を検討できるかを一緒に考えること。
- 家族間で取り決めたことを合意書などの書面に残すこと。
当事務所では、親の代理人として介入する弁護士と、日常の生活面を支える民間の自立支援カウンセラーがチームを組み、医療や行政の支援とも連携しながら対応を進めています。治療が必要な場面では医療につなぐことを前提に、親と子それぞれの生活を立て直す方法を、ご家庭の事情に合わせて検討します。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
よくあるご質問
診断がついていない段階でも、保健所に相談できますか
相談できます。保健所や精神保健福祉センターの相談は、診断がついていることを前提としていません。本人が受診していない段階で、家族だけが相談に行くという利用の仕方は一般的なものです。
相談したことは、本人に伝わりますか
公的な相談窓口の職員や弁護士には守秘義務があり、家族が相談したことが相談先から本人に伝えられることは原則としてありません。ただし、訪問や受診の勧めなど、本人に働きかける段階に進むときは、伝え方やタイミングを相談先と事前に打ち合わせておくと安心です。弁護士への相談については【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方で説明しています。
統合失調症の子の症状に家族が困っているとき、医療、行政、警察、家族会、弁護士は、それぞれ別の役割を持っています。どこか一つに全部を任せようとするより、困りごとを分けて、それぞれに合った窓口を並行して使うことで、家族だけで抱え込む状態から少しずつ抜け出しやすくなります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


