【親子問題】子の精神障害者保健福祉手帳は、取ったほうがいい?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

成人した子が精神科や心療内科に通院していると、主治医や支援機関から「精神障害者保健福祉手帳を取ってみてはどうか」と勧められることがあります。一方で、親としては「障害者というラベルを付けることにならないか」「本人が嫌がるのではないか」「取ったら後戻りできないのではないか」と迷う方も少なくありません。この記事では、手帳でできること・できないこと、心配されやすい点、親が申請を進めるときに押さえたいことを、親子問題の視点から整理します。

この記事は2026年10月時点の制度をもとにしています。手帳で受けられるサービスの内容は自治体によって異なるため、具体的な内容はお住まいの区市町村の窓口でご確認ください。


精神障害者保健福祉手帳とはどんな手帳か

 精神障害者保健福祉手帳は、精神保健福祉法45条に基づく手帳で、精神疾患のために長期にわたり日常生活や社会生活に制約がある方が対象です。うつ病などの気分障害、統合失調症、てんかん、発達障害、高次脳機能障害なども対象に含まれます。なお、知的障害については療育手帳(東京都では「愛の手帳」)という別の制度があります。

 申請は、お住まいの区市町村の障害福祉の担当窓口で行います。必要書類は、申請書、手帳用の診断書(または精神障害を理由とする障害年金の証書の写し)、本人の写真などです。手帳用の診断書は、その精神疾患で初めて受診した日から6か月以上たってから作成されたものが求められます。

 等級は次の3段階で、病状と生活能力の両面から判定されます。

等級障害の程度の目安
1級日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度
2級日常生活が著しい制限を受けるか、日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度
3級日常生活または社会生活が制限を受けるか、制限を加えることを必要とする程度


 有効期間は2年で、続けて使う場合は期限前に更新の申請が必要です。更新のたびに原則として診断書を出し直します。

手帳を取ると何が変わるのか

 手帳そのものが現金を支給するわけではありません。手帳は「一定の精神障害の状態にあること」を公的に示すもので、各種の支援策を利用しやすくするための入口という位置づけです。代表的なものを見ていきます。

税金の負担が軽くなる場面

 本人が働いて所得がある場合、本人の所得税・住民税で障害者控除を受けられます。また、親が子を扶養親族としている場合は、親の側でも障害者控除の対象になります。所得税の控除額は、障害者が27万円、1級の方(特別障害者)が40万円で、特別障害者と同居している場合は75万円です。相続税の障害者控除など、ほかの税目にも関係します。

交通機関の割引や医療費の助成

 東京都では、都内に住所があり手帳を持っている方を対象に、都電・都バス・都営地下鉄・日暮里・舎人ライナーを無料で利用できる「精神障害者都営交通乗車証」が発行されています。都内の民営バスでも、写真付きの手帳の提示で運賃が割り引かれる制度があります。医療費については、自立支援医療(精神通院医療)を手帳と同時に申請できるほか、東京都の心身障害者医療費助成は手帳1級の方も対象です(所得制限などの要件があります)。このほか、携帯電話料金や公共施設の利用料などで割引を設けている事業者・施設もあります。

障害者雇用の枠で仕事を探せる

 企業の障害者雇用率の算定では、精神障害のある方は手帳の所持で確認されるのが原則です。そのため、手帳があると障害者雇用の求人に応募できるようになり、ハローワークの専門援助部門などで、障害の特性を踏まえた職業相談を受けやすくなります。職歴に空白がある子にとって、一般の求人だけで探すより選択肢が広がる場合があります。

生活の支援につながる入口になる

 生活保護を利用する場合、手帳の等級は障害者加算の判断に関係することがあります。また、区市町村の障害福祉の窓口に「手帳を持っている人」として相談がつながることで、相談支援専門員による計画づくりなど、本人の生活を支える仕組みに乗りやすくなります。

手帳を取ることで心配されやすい点

 手帳についての迷いは、法律相談の場でもよく見られます。弁護士ドットコムにも「取得のメリットとデメリットを知りたい」「勤務先に知られるのか」といった質問が寄せられています。代表的な心配を整理します。

周囲に知られるのではないか

 手帳を取っても、戸籍や住民票に記載されるわけではなく、勤務先や学校に自動的に通知される仕組みもありません。ただし、本人が勤務先の年末調整で障害者控除を申告すると、勤務先が手帳の存在を知ることになります。控除を年末調整で申告せず、確定申告で行うといった選び方もあります。

就職のときに申告しなければならないのか

 一般の求人に応募する場合、手帳を持っていることを伝えるかどうかは、基本的に本人の判断に委ねられています。障害者雇用の枠で応募する場合は、手帳を提示することが前提になります。どちらで働くかを本人が選べる、という点がむしろ手帳の利点ともいえます。

一度取ったら外せないのではないか

 手帳は本人の申請によって交付されるもので、更新しなければ有効期限で効力を失います。また、病状が改善して手帳の対象となる状態でなくなったときは、返還する仕組みもあります。「一生ついて回る」というものではありません。

本人が抵抗を感じる

 弁護士ドットコムには、勤務先から障害者雇用率の達成のために手帳の取得を求められ、強い苦痛を感じたという相談もあります。手帳の取得は本人の申請によるもので、周囲が強制できるものではありません。本人の受け止め方は、手帳の利点と同じくらい大切に考えたい点です。

 なお、手帳を持つと裁判などで証言が信用されにくくなるのではないか、という質問も見られます。証言の信用性は、内容の具体性や他の証拠との整合などから判断されるのが一般的で、手帳を持っていること自体で決まるものではないと考えられます。

親が申請を進めるときに押さえたいこと

 手帳の申請者は本人です。窓口への書類の提出は家族が代わりに行うこともできますが、本人の意思を確かめないまま親が進めるのは避けたほうがよいでしょう。後から本人が知ったときに、親子の関係がさらにこじれるおそれがあります。

  1. まず主治医に、手帳の対象になりうる状態か、診断書を書いてもらえるかを相談します。
  2. 通院が途切れている場合は、医療につなぎ直すところから考えます。初診日から6か月以上たっていることが必要です。
  3. 本人には「障害者になれ」という伝え方ではなく、「働き方や生活の支援を選べるようにする手段の一つ」として話します。
  4. 手帳と障害年金は別の制度です。手帳がなくても障害年金は申請でき、手帳を持っていても年金が受けられるとは限りません。
  5. 親の税金の控除だけを目的にするのではなく、本人の生活の組み立てにどう役立つかを中心に考えます。


 ひきこもりや家庭内での衝突が続いている家庭では、手帳の話を親から切り出すこと自体が、本人には責められているように受け取られることもあります。主治医や支援者など第三者から話してもらうほうが、本人が落ち着いて検討できる場合があります。

手帳を「自立の設計」の中に位置づける

 親子問題のご相談では、子が家を出て自分の収入で暮らせるようにすることが大きな目標になる場面が少なくありません。その際、手帳は単独で何かを解決するものではなく、障害者雇用での就職、就労支援の利用、生活保護の申請、第三者による金銭管理といった仕組みを組み合わせるときの土台の一つになります。

 また、親が高齢になったときの備えとして考えると、子がどの支援制度を使える状態にあるかを整理しておくことには意味があります。手帳の有無は、そのときに本人が利用できる支援の幅に関わります。

よくあるご質問


親が代わりに申請できますか

 書類を窓口へ提出する手続は家族が代行できますが、申請するのはあくまで本人です。本人が手帳を望んでいない場合に、親の判断だけで取得させることは想定されていません。

3級でも取る意味はありますか

 3級では受けられないサービスもありますが、税の障害者控除、障害者雇用の枠での応募、都営交通乗車証などは3級でも対象です。何を目的にするかによって、意味の大きさは変わります。

手帳の申請と同時に何か手続をしたほうがよいですか

 通院を続けている場合は、自立支援医療(精神通院医療)を同時に申請できる自治体が多くあります。障害年金については受給の要件が別にあるため、主治医や年金事務所、社会保険労務士などに確認するとよいでしょう。

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弁護士法人若井綜合法律事務所へのご相談

 精神障害者保健福祉手帳は、取るかどうかを本人が選べる制度です。手帳の話をきっかけに親子の対立が深まっている、本人の自立に向けて何から手をつければよいか分からない、といった場合には、当事務所が親の代理人として、自立支援カウンセラーと役割を分担しながら関わる方法もあります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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