【親子問題】うつ病で退職した子は、傷病手当金や失業給付を受けられる?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は2026年10月時点の健康保険・雇用保険の取扱いをもとにしています。加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合・共済組合など)によって細かな取扱いが異なることがあるため、実際の手続の際は各窓口でご確認ください。


うつ病などで仕事を続けられなくなり、退職した、あるいは退職を考えている成人の子について、「収入が途絶えたらどう暮らしていくのか」と心配される親御さんは少なくありません。退職後の生活を支える公的な給付としては、健康保険の傷病手当金と、雇用保険の失業給付(基本手当)がよく知られています。

 ただ、この2つは前提がまったく異なる制度です。傷病手当金は「病気で働けない」ことを、失業給付は「働ける状態で仕事を探している」ことを前提としています。退職のタイミングや手続の順序によっては、本来受けられたはずの給付を受けられなくなることもあります。この記事では、2つの給付の条件と注意点を整理したうえで、親の立場で手伝えること、気をつけたいことをご説明します。

傷病手当金と失業給付の違い


項目傷病手当金失業給付(基本手当)
根拠となる制度健康保険雇用保険
前提となる状態病気やけがの療養のため働けない働く意思と能力があり、仕事を探している
支給される期間支給開始日から通算1年6か月まで離職理由や被保険者期間などで決まる所定給付日数の範囲
おおよその金額1日あたり標準報酬日額のおおむね3分の2離職前の賃金をもとに算定
主な窓口在職中に加入していた健康保険住所地のハローワーク


 表のとおり、2つの給付は「働けない」と「働ける」という反対の状態を前提にしているため、同じ期間に両方を受けることはできません。うつ病で退職した直後は、まず傷病手当金を受けながら療養し、回復して働けるようになってから失業給付の手続をする、という順序で考えるのが一般的です。

傷病手当金は退職後も受けられることがある

傷病手当金は在職中の制度という印象がありますが、一定の条件を満たせば、退職後も引き続き受けることができます。これを「資格喪失後の継続給付」といいます。

退職後も続けて受けるための条件


  • 退職日までに、継続して1年以上、健康保険の被保険者であったこと(任意継続や国民健康保険の期間を除く)。
  • 退職日の時点で傷病手当金を受けているか、受けられる状態にあったこと。
  • 退職後も同じ病気の療養のため、医師から働けない状態と判断されていること。


 「受けられる状態」とは、連続3日間の待期期間を終え、4日目以降も働けずに休んでいる状態を指します。待期期間は有給休暇や公休でもよいとされていますが、退職日までに連続3日間休んでいなければ、そもそも条件を満たしません。

退職日に出勤すると継続給付を受けられなくなるおそれ

注意が必要なのが退職日の過ごし方です。最終日だからと挨拶や引継ぎのために出勤すると、その日は働ける状態だったとみなされ、退職後の継続給付を受けられなくなるおそれがあります。本人が「最後くらいは顔を出さないと」と考えていることもあるため、家族が気づいたときは、出勤する前に健康保険の窓口に取扱いを確認するよう勧めてみてください。

 また、退職後に一度でも働ける状態に回復したと扱われると、その後に症状がぶり返しても、原則として傷病手当金は再開されません。

退職後の健康保険の選び方にも関わる

退職すると、健康保険は任意継続、国民健康保険、家族の健康保険の被扶養者のいずれかに切り替わります。任意継続や国民健康保険の加入者には、原則として新たに傷病手当金が支給される仕組みはなく、退職後に受けられるのは、あくまで在職中の健康保険からの継続給付です。

 親の健康保険の被扶養者に入れるかどうかもよく問題になります。被扶養者の認定では傷病手当金も収入として見込まれるため、日額によっては基準を超え、受給中は扶養に入れないことがあります。扶養の可否は親が加入している健康保険で判断されるため、事前に問い合わせておくと安心です。

申請は2年以内に

傷病手当金の請求権は、働けなかった日ごとに、その翌日から2年で時効により消滅します。退職直後は手続に気が回らないことも多いのですが、申請書には医師が記入する欄や、在職期間の分については会社が証明する欄があります。本人の体調を見ながら、早めに準備を進めることが望ましいでしょう。

失業給付は「働ける状態」になってから

失業給付(基本手当)は、働く意思と能力があり、求職活動をしていることが前提です。うつ病の療養中で働けない状態のまま申し込んでも、受給は難しいと考えられます。

療養中は受給期間の延長を申し出ておく

基本手当を受けられる期間(受給期間)は、原則として離職日の翌日から1年です。療養が長引くと、働けるようになったときには受給期間がほとんど残っていない、という事態も起こりえます。

 病気やけがで引き続き30日以上働けない場合、ハローワークに申し出ることで、働けなかった日数分(最大3年)を受給期間に加えることができます。延長しても受給期間は離職日の翌日から最長4年までです。申請は延長後の受給期間の最後の日まで可能とされていますが、申請が遅いと所定給付日数をすべて受け取れないおそれがあるため、退職後しばらく働けない見込みであれば早めに手続をしておくのが無難です。代理人(委任状が必要)や郵送での提出も認められているため、本人が外出しにくい場合は家族が手伝うこともできます。

病気を理由とする退職と給付制限

自己都合で退職した場合、基本手当には一定期間の給付制限がかかります。2025年4月以降の離職では、この期間は原則1か月に短縮されています。

 一方、病気や心身の障害によって仕事を続けられなくなった退職は、「正当な理由のある自己都合退職」として特定理由離職者に当たることがあります。その場合は給付制限がかからず、受給に必要な被保険者期間の要件も緩和されます。判断はハローワークが行うため、医師の診断書や退職に至った経緯が分かる資料を用意しておくとよいでしょう。離職票に記載された離職理由に納得できないときは、ハローワークで異議を述べることもできます。

障害者手帳がある場合

精神障害者保健福祉手帳を持っている場合など、一定の障害があって「就職困難者」に当たる方は、所定給付日数が一般の離職者より長く設定されています。手帳を取得するかどうかは本人の意思によりますが、取得している場合は、手続の際にハローワークへ伝えるようにしてください。

雇用保険の「傷病手当」とは別の制度

名前が似ていますが、雇用保険にも「傷病手当」という給付があります。これは、ハローワークで求職の申込みをした後に病気やけがで15日以上働けなくなった場合に、基本手当に代えて支給されるものです。健康保険の傷病手当金とは別の制度であり、窓口も異なるため、相談の際は取り違えないよう注意が必要です。

仕事が原因なら労災保険も検討する

うつ病の原因が長時間労働やハラスメントなど業務にある場合は、労災保険の対象となる可能性があります。精神障害の労災認定では、発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷があったかどうかなどが判断されます。

 傷病手当金は業務外の病気を対象とする制度のため、労災と認められた場合は労災保険の休業補償給付が優先され、すでに受けた傷病手当金の調整(返還)が必要になることがあります。労災の判断には時間がかかることが多いため、まず傷病手当金で生活を支えながら、労災の申請を並行して検討するという進め方も考えられます。会社の責任を問うかどうかは本人の判断が中心になりますが、勤務の記録ややり取りの整理は家族が手伝える部分です。

親が手伝えること・気をつけたいこと


手続の主体は子本人

傷病手当金も失業給付も、受給するのは子本人であり、申請も本人名義で行います。成人した子の場合、本人の委任がない限り、親が代わりに会社や健康保険とやり取りを進めることはできません。親が先回りして動くと、本人が「勝手に進められた」と感じて関係がこじれることもあります。体調が許す範囲で本人の意向を確かめ、書類の取り寄せや期限の管理など、裏方の部分から手伝うのが無理のない関わり方です。

退職を急がせない

退職の時期は、継続給付の条件を満たすかどうかに直結します。被保険者期間が1年に届く前に退職すると、退職後の傷病手当金は受けられません。休職制度がある会社であれば、在籍したまま療養するという選択肢もあります。本人が「早く辞めたい」と焦っているときこそ、制度を確認してから決めても遅くないことを、落ち着いて伝えてみてください。

給付が終わった後の生活も見通しておく

傷病手当金は通算1年6か月で終わり、失業給付にも日数の上限があります。症状が長引く場合は、障害年金、自立支援医療(精神通院医療)による医療費の軽減、生活保護など、ほかの制度も視野に入ります。生活保護については【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方で、回復後の就労に向けた支援については【親子問題】就労支援の選択肢|サポステ・就労準備支援事業の実際で解説しています。

 給付が途切れた間の生活費や治療費を親がどこまで負担すべきか迷うときは、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかや【親子問題】成人した子の入院費・治療費を誰が払うのか|扶養義務と保証人欄の意味もあわせてご覧ください。

よくあるご質問


在職中に申請していなくても、退職後に傷病手当金を申請できますか

退職日までに支給の条件を満たしていれば、在職中に申請していなくても、退職後にまとめて申請することは可能とされています。ただし、退職後に初めて働けなくなった場合は、継続給付の対象になりません。

傷病手当金を受けながらアルバイトをしてもよいですか

働いた日は働ける状態とみなされ、それ以降の継続給付を受けられなくなるおそれがあります。退職後に少しでも働くことを考えている場合は、事前に健康保険の窓口に確認してください。

傷病手当金が終わった後に失業給付を受けられますか

療養中に受給期間の延長を申し出ていれば、働けるようになった時点で失業給付の手続をすることができます。延長の申出が遅れると、受け取れる日数が減ったり、受給期間が終わってしまったりするおそれがあるため、退職後の早い段階で手続をしておくことが大切です。

子の退職後の生活に不安があるときは

うつ病で退職した子の生活は、給付の手続だけで解決するものではなく、療養、収入、住まい、家族との距離をどう組み立てるかという問題でもあります。当事務所では、成人した子の問題に悩む親御さんからのご相談をお受けしており、自立支援カウンセラーと連携しながら、子の生活の立て直しと親の負担の整理を進めています。給付の手続そのものは各窓口や社会保険労務士の領域ですが、子の生活に親がどこまで関わるかという点も含めて、一緒に考えることができます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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