【親子問題】子が親のネットバンキングに入れるかもしれない、どう守る?
親族が亡くなり、通夜や葬儀、その後の四十九日や一周忌の法要が近づくと、ひきこもりの子を持つ親御さんは「本人を連れて行くべきか」「欠席させたら親戚に何と言われるか」と悩まれることがあります。本人に声をかけても部屋から出てこない、当日になって行かないと言い出す、といった場面も珍しくありません。
この記事では、成人したひきこもりの子が親族の葬儀や法事に出ないときに、法律上どのように考えるのか、親として当日までに何を準備できるのか、そして親御さん自身の葬儀や法事を見据えて何をしておくとよいのかを整理します。
この記事は、成人した子(18歳以上)と同居または近くで暮らす親御さんを想定し、2026年10月時点の法令に基づいて書いています。葬儀や法事の進め方は地域や宗派、家ごとの慣習によって異なるため、個別の事情は寺院や葬儀社、専門家にご確認ください。
葬儀や法事に出ることは、法律上の義務ではない
まず前提として、親族の葬儀や法事に出席することを法律で義務づける規定はありません。葬儀や法事は、故人を弔い、遺族や親族が集まる場として慣習の上で営まれているものであり、欠席したことで罰則を受けたり、損害賠償を求められたりする性質のものではありません。
とはいえ、親族の間では「顔を出すのが当然」という受け止め方が根強いこともあります。法律上の義務がないことと、親族関係の中でどう受け止められるかは、分けて考えておくほうが落ち着いて対応しやすくなります。
欠席しても相続の権利がなくなるわけではない
親族から「葬式にも来ない子に財産は渡せない」と言われることがありますが、葬儀や法事を欠席したことだけで、その子の相続権がなくなることはありません。
相続人の資格を失う場面として、民法は「相続欠格」(民法891条)と「推定相続人の廃除」(民法892条)を定めています。相続欠格は、被相続人を故意に死亡させようとして刑に処せられた場合や、遺言書を偽造・破棄した場合などに限られています。廃除は、被相続人に対する虐待や重大な侮辱、著しい非行があったときに、被相続人が家庭裁判所に請求して認められるもので、葬儀や法事への欠席はこれらの要件とは性質が異なります。
もっとも、遺言によって誰にどの財産を遺すかを決めることは、遺言をする人の自由です。親族が遺言で配分を決めた結果として受け取る財産が少なくなることはありえますが、それは欠席とは別の問題として整理されます。
法事の費用負担は、出欠とは切り離して考える
法事の費用をきょうだいで分担する家庭では、「出席しなかった者も負担すべきか」が話題になることがあります。弁護士ドットコムにも、海外在住で法事を欠席した方が、親族の宿泊費や二次会の飲食代まで含めた費用の分担を求められて戸惑っているという相談が寄せられています。
葬儀や法事の費用を誰がどれだけ負担するかについて、法律で一律に決めた規定はありません。家族の話し合いで決めるのが基本で、裁判例でも事案ごとの判断になっています。ひきこもりの子は収入がないことも多く、実際には親が負担を引き受けることになりがちです。親族から子の分の負担を求められたときは、何の費用が含まれているのかを確かめたうえで、家族として引き受ける範囲を話し合うとよいでしょう。
本人が出ない理由をどう受け止めるか
ひきこもりの子が葬儀や法事を避ける理由は、故人との関係が薄いからとは限りません。本人の中には、次のような負担が重なっていることがあります。
- 久しぶりに会う親戚から、仕事や近況を聞かれることがつらい。
- 喪服や靴が合わない、身なりを整える準備ができていない。
- 大勢の人が集まる場所や、長時間座っていることに強い緊張がある。
- 会場までの移動や、宿泊を伴う遠方への外出が負担になっている。
- 体調や睡眠のリズムが崩れていて、決まった時刻に動くことが難しい。
このうち、身支度や移動のように親が手助けできる部分もあれば、本人の気持ちの問題として時間が必要な部分もあります。理由を問い詰めるよりも、どこにつまずいているのかを本人のペースで聞き取るほうが、次の機会につながりやすくなります。
なお、人の集まる場への強い不安や、気分の落ち込みが長く続いている様子がある場合は、医療的な支援が役に立つこともあります。見極め方については【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で解説しています。
無理に連れて行くことは避ける
「最後のお別れだから」と、本人が拒んでいるのに腕を引いて車に乗せる、親族に頼んで連れ出してもらう、といった対応は控えたほうがよいでしょう。成人した子の意思に反して身体を動かすことは、親であっても法的な問題になりうるうえ、親子の関係にも長く影を落とすおそれがあります。本人の同意のない連れ出しが問題とされる理由については、【親子問題】本人の同意なく連れ出すことが違法とされる理由|親の依頼では代わりにならないもあわせてご覧ください。
当日までに親ができること
葬儀は亡くなってから数日のうちに行われることが多く、準備の時間は限られています。一方、法事は日程があらかじめ決まっているため、少し時間をかけて段取りを考えることができます。
「出る・出ない」以外の選択肢を示す
参列するかどうかを二択で迫ると、本人は「出ない」と答えるしかなくなることがあります。関わり方にはいくつかの段階があることを伝えておくと、本人が選びやすくなります。
| 関わり方 | 本人の負担 | 親が手伝えること |
|---|---|---|
| 通夜や葬儀に最初から最後まで出る | 大きい | 服装の準備、会場までの送迎 |
| 焼香だけをして早めに帰る | 中程度 | 帰りの手段を別に確保しておく |
| 親族が少ない時間に弔問する | 中程度 | 遺族に事前に伝えておく |
| 後日、一人で墓参りや線香をあげに行く | 小さい | 場所と時間を一緒に調べる |
| 手紙や供花で気持ちを伝える | 小さい | 文面や手配を手伝う |
どの形を選んでも、故人を悼む気持ちに上下があるわけではありません。親が「この形でもいい」と伝えること自体が、本人の緊張を和らげることにつながります。
親族への伝え方を決めておく
欠席の理由を親族にどこまで説明するかは、家族の判断に委ねられています。詳しい事情を伝える必要はなく、「体調が整わず、今回は家にいます」「後日、改めて手を合わせに伺います」といった短い説明で足りることが多いでしょう。
親族から子の状態について意見を言われたときに、親がその場で一人で受け止め続けるのは負担が大きいものです。家族の方針をどう伝えるかについては、【親子問題】親戚から子の問題に口出しされる|家族の方針を守る伝え方で整理しています。夫婦の間で対応が分かれているときは、【親子問題】夫婦で方針が割れる|一方の親が子をかばうときも参考になります。
親が家を空ける間の備え
遠方の葬儀や泊まりがけの法事では、子が自宅に一人で残ることになります。食事や戸締まり、連絡の手段を決めておくほか、家の中で物を壊したり、親の不在中に金銭を持ち出したりした経緯がある家庭では、通帳や印鑑、貴重品を預けておくなどの備えも考えておくと安心です。
親自身の葬儀や法事を見据えて考えておくこと
親族の葬儀をきっかけに、「自分が亡くなったとき、この子はどうなるのか」と考える親御さんは少なくありません。親の葬儀や法事は、ひきこもりの子にとって最も逃れにくい場面であり、同時に親がいない状態で手続を進めなければならない場面でもあります。
同居している子は、死亡届の届出義務者になる
人が亡くなったとき、死亡届は死亡の事実を知った日から7日以内に提出しなければなりません(戸籍法86条1項)。届出の義務を負う者の第一順位は「同居の親族」とされています(戸籍法87条1項)。親と二人で暮らしているひきこもりの子は、親が亡くなった場合に、この届出を担う立場になります。
実際には葬儀社が届出の手続を代行することが多いものの、医師の死亡診断書の受け取り、葬儀社への連絡、親族への知らせなど、最初の数日に本人がしなければならないことは少なくありません。誰に連絡すればよいかを書き出したメモを、本人と共有しておくだけでも、そのときの混乱を和らげることができます。
喪主と祭祀を引き継ぐ人は、あらかじめ決めておける
喪主は法律で資格が決まっているものではなく、家族や親族の話し合いで決めることができます。ひきこもりの子に喪主を務めることが難しいと考えられる場合は、きょうだいや親族に頼んでおく方法があります。
また、お墓や仏壇などを引き継ぎ、法事を営む人(祭祀主宰者)について、民法は、被相続人の指定があればその人が承継し、指定がなければ慣習に従い、慣習が明らかでないときは家庭裁判所が定めるとしています(民法897条)。お墓や仏壇などの祭祀財産は、預貯金や不動産などの相続財産とは別に扱われます。誰に引き継いでほしいかを遺言などで指定しておけば、残された家族の間での話し合いの負担を減らすことにつながります。
| 項目 | 相続財産 | 祭祀財産 |
|---|---|---|
| 主な対象 | 預貯金、不動産、株式など | 系譜、仏壇・位牌などの祭具、墓地・墓石 |
| 引き継ぐ人 | 法定相続人、または遺言で指定された人 | 被相続人が指定した人、慣習、家庭裁判所の定める人 |
| 相続放棄との関係 | 放棄すれば引き継がない | 相続放棄をしても、祭祀の承継には影響しない |
葬儀や死後の手続を第三者に頼む方法
子に葬儀の手配や死後の事務を担わせるのが難しい場合、親が元気なうちに、葬儀の手配や役所への届出、遺品の整理などを第三者に頼んでおく「死後事務委任契約」を結んでおく方法があります。遺言とあわせて準備しておくと、子の生活と親の死後の手続を切り分けやすくなります。
親が亡くなった後に子が孤立しないための備えについては、【親子問題】親が亡くなった後に子が孤立する|備えとして何ができるかと【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかで詳しく解説しています。
弁護士に相談できること
葬儀や法事への欠席そのものは、法的な紛争になることはあまりありません。しかし、その背景にある親子の距離や、親が亡くなった後の生活の問題は、時間をかけて準備しておく必要があります。弁護士には、たとえば次のようなご相談をお寄せいただけます。
- 葬儀や法事の費用、相続をめぐって親族から求められていることの整理。
- 遺言や死後事務委任契約によって、親の死後の手続と子の生活を切り分ける準備。
- 祭祀を引き継ぐ人の指定について、家族の状況に合った方法の検討。
- 子が家族の話し合いに応じない場合に、親の代理人として間に入ること。
当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として関わり、自立支援カウンセラーと役割を分担しながら、子の生活と親の生活をそれぞれ立て直すお手伝いをしています。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。本人が相談に応じない段階でも、家族だけで始められることについては【親子問題】本人が相談を拒む場合|家族だけで動ける範囲をご覧ください。
親族の葬儀や法事に子が出ないことは、親御さんにとって周囲の目も含めてつらい出来事です。ただ、その場に出られるかどうかよりも、本人がどこでつまずいているのかを知り、親がいなくなった後の暮らしまで見通して準備を始めることのほうが、子の将来にとっては大きな意味を持つことがあります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


