【親子問題】子と縁を切りたい|法律上できることとできないこと

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の民法・戸籍法・家事事件手続法・民事保全法などに基づいて作成しています。2026年(令和8年)4月1日に施行された改正民法による親の責務の明確化も反映しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応はご相談のうえで判断してください。


「もう親子の縁を切りたい」。成人した子からの暴力やお金の無心が何年も続いたご家庭で、親御さんからこうした言葉をお聞きすることがあります。一方で、「縁を切ると伝えたら、子の生活がどうなるのか心配だ」と、口に出せないまま悩み続けている方もいらっしゃいます。

 インターネットで調べると、「法律上、親子の縁を切る方法はない」という説明が多く見つかります。この説明は誤りではありません。ただ、縁を切れないことと、親の側で何もできないことは同じではありません。法律が親子に結びつけている関係を一つずつ分けて見ていくと、調整できる部分は少なくありません。

 この記事では、親の立場から「子と縁を切りたい」と考えたときに、法律上できることとできないことを、扶養・相続・同居と接触の3つに分けて整理します。子からの暴力そのものへの対応や、家から出てもらう手続の詳細はそれぞれの記事で解説していますので、あわせてご覧ください。

法律に「縁を切る」という手続はない

実の親子関係は、届出や念書では解消できない

 現在の法律には、「勘当」や「絶縁」にあたる制度はありません。血縁による親子(実親子)の関係は出生によって法律上当然に生じるもので、親子の合意や役所への届出によって終わらせる仕組みが用意されていないためです。

 親子で「今後一切の関係を断つ」という念書や誓約書を交わしたとしても、それによって法律上の親子関係が消えるわけではありません。書面で決められるのは当事者間の約束の範囲にとどまり、扶養や相続といった法律上の関係そのものは残ります。なお、実の親との関係が終了する特別養子縁組という制度もありますが、原則として15歳未満の子を対象とするもので、成人した子との関係で使えるものではありません。

子が分籍しても、親子関係は変わらない

 「戸籍から外す」ことを縁切りの方法と考える方もいらっしゃいます。成年に達した子は、自分の意思で親の戸籍から抜けて単独の戸籍をつくる「分籍」をすることができます(戸籍法21条)。ただし、分籍は子本人が行う届出で、親の側から子を戸籍から外す手続はありません。また、分籍後の戸籍にも父母の氏名は記載され、法律上の親子関係はそのまま続きます。

養子の場合は「離縁」で関係を解消できる

 子が普通養子縁組による養子であれば、事情が異なります。養親と養子は、話し合いによる協議離縁で縁組を解消できます(民法811条1項)。話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停を経たうえで、悪意の遺棄や「縁組を継続し難い重大な事由」があるときに、裁判で離縁を求めることもできます(同法814条1項)。

 一方、実の子が他の家と養子縁組をしても、実の親との親子関係は残ります。養子縁組は、実の親子の縁を切る手段にはならない点に注意が必要です。

縁を切れなくても、関係ごとに調整はできる

「縁を切りたい」の中身を分けてみる

 「縁を切りたい」という気持ちの中身を伺うと、多くの場合、次のいずれかに分けることができます。

  • これ以上お金を出したくない(扶養)。
  • 自分の財産を子に渡したくない(相続)。
  • 同じ家に住みたくない、直接会いたくない(同居と接触)。


 法律上の親子関係は消えなくても、この3つはそれぞれ別の制度で扱われており、調整できる幅も異なります。「縁を切る」という一つの目標ではなく、関係ごとに何を変えたいのかを分けて考えることが、現実的な出発点になります。

3つの関係を一覧で見る

 それぞれの関係について、法律上できることとできないことをまとめると、次のとおりです。

関係法律上できること法律上できないこと
扶養余力がない範囲の援助を断る。援助の額・期間・方法を取り決める扶養を受ける権利を子に放棄させる
相続遺言で財産の行き先を決める。要件を満たせば相続人からの廃除を求める遺留分を親の側から一方的に消す。相続そのものを生前に放棄させる
同居と接触家から出てもらう。接触を控えるよう求める。連絡の窓口を弁護士に代える鍵の交換などの実力で締め出す


扶養|成人した子を支え続ける義務はどこまでか

成人した子への扶養は「余力の範囲」が基本

 親と子は直系血族として、互いに扶養する義務を負います(民法877条1項)。ただし、経済的に自立できる年齢に達した子に対する扶養は、親が自分の生活を維持したうえで、余力がある範囲で援助すれば足りる「生活扶助義務」と考えられています。

 これに対し、未成年の子や、まだ自立して生活できる段階にない子については、親と同程度の生活を保障する「生活保持義務」が求められます。2026年4月1日に施行された改正民法では、父母がその子を自己と同程度の生活を維持できるよう扶養しなければならないことが、条文上も明確にされました(同法817条の12第1項)。

 成人していても、病気や障害によって働けない事情があれば、扶養の必要性が考慮されることがあります。その場合でも、援助の程度や方法は親の収入や生活の状況を踏まえて話し合い、まとまらなければ家庭裁判所が定めます(同法879条)。子が成人して働ける状態にあるかどうかで、親が負う扶養の重さは大きく変わります。詳しくは【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで解説しています。

扶養を受ける権利そのものは放棄させられない

 「今後は一切援助を求めない」という約束を子と交わしても、扶養を受ける権利は処分できないとされているため(同法881条)、将来にわたって扶養の請求を封じることはできません。もっとも、取り決めの内容は、援助の程度を判断する際の事情として考慮される余地があります。実際には、援助の上限や期間、渡し方を書面で決めておく方が、関係を整えるうえで役立つことが多いといえます。

 また、子が生活保護を申請すると、親に扶養照会が届くことがあります。照会に対して、援助できない事情を伝えることも可能です。繰り返される金銭の要求への向き合い方は【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけを、子の借金については【親子問題】子の借金を親が返す義務はあるのかをご覧ください。

相続|財産を渡さないための手段と限界

遺言で財産の行き先は決められるが、遺留分が残る

 遺言を作成すれば、特定の子に財産を相続させない内容にすることができます。ただし、子には遺留分という最低限の取り分が保障されています。親の相続で子が相続人となる場合、遺留分は遺産全体の2分の1を法定相続分に応じて分けた割合です(民法1042条)。遺留分に満たない財産しか受け取れなかった子は、財産を多く受け取った人に対して金銭の支払いを求めることができます(同法1046条1項)。

 この請求は、相続の開始と遺留分の侵害を知った時から1年、または相続開始から10年が経過すると行使できなくなります(同法1048条)。また、子が自ら家庭裁判所の許可を得て、生前に遺留分を放棄する方法もありますが(同法1049条1項)、これは子本人の意思による手続で、親が求めて強制できるものではありません。

推定相続人の廃除という制度

 子から虐待や重大な侮辱を受けた場合、または子にその他の著しい非行がある場合には、親は家庭裁判所に請求して、その子を相続人から外すよう求めることができます(民法892条)。生前に申し立てるほか、遺言で廃除の意思を示し、亡くなった後に遺言執行者が申し立てる方法もあります(同法893条)。

 ただし、相続権を失わせるという重い効果をもつため、家庭裁判所は、親子間の一時的な衝突の範囲を超えているかを慎重に判断します。暴力の経過を記したメモ、医療機関の診断書、警察への相談記録など、継続的な事実を示す資料をそろえておくことが大切です。資料の残し方は【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続や【親子問題】診断書はいつ取るべきか|傷害の立証で解説しています。なお、廃除は後から取り消すこともできます(同法894条)。

廃除されても、子の子どもが相続することがある

 廃除が認められても、その子に子ども(親から見て孫)がいれば、孫が代わって相続人となります(代襲相続、同法887条2項)。廃除は「その子本人」を相続から外す制度で、その子の家族まで財産から切り離すものではありません。孫との関係も含めて、遺言の内容を組み立てる必要があります。

同居と接触|生活の距離を法的に整える

家から出てもらうことは、手順を踏めば可能

 親名義の家に成人した子が住んでいる場合、多くは親の好意によって無償で住まわせている関係にあたります。この関係は解消を求めることができ、話し合いで退去がまとまらなければ、裁判所の手続で明渡しを求める道もあります。

 一方で、鍵を替えて締め出す、荷物を外に出すといった実力による方法は、自力救済として違法と評価されるおそれがあります。手続の流れは【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しと【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界で解説しています。

接触を控えてもらうための手段

 配偶者や交際相手からの暴力であれば、DV防止法の保護命令という制度がありますが、親子間の暴力は対象となっていません。ストーカー規制法も恋愛感情などを前提とする法律のため、親子間のトラブルにはそのまま当てはまらないことが多いのが実情です。そのため、親子間では次のような手段を組み合わせて検討します。

  • 地方裁判所に、接近や面会の強要を禁じる仮処分を申し立てる(民事保全法23条2項)。
  • 家庭裁判所に親族関係調整調停を申し立て、調停委員を交えて今後の関わり方を話し合う。
  • 転居する場合に、市区町村へ住民票の写しなどの交付を制限する支援措置を申し出る(対象となるかは市区町村の判断によります)。
  • 暴行や脅迫などがあれば警察に相談し、必要に応じて被害届を出す。


 親子間の暴行や傷害がどのように扱われるかは、【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲をご覧ください。

連絡の窓口を代えるだけでも状況は変わる

 裁判所の手続に進まなくても、子との連絡の窓口を弁護士に一本化することで、直接の金銭要求や長時間の電話から距離を置けることがあります。法的な関係を断たなくても、やり取りの経路を変えるだけで、日々の負担が軽くなる場合は少なくありません。詳しくは【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で解説しています。

「縁を切る」と決める前に考えておきたいこと

子の生活が立ち行かなくなると、親への要求は強まりやすい

 関係を断つことだけを目的にすると、子の生活の土台が整わないまま、かえって親への要求や連絡が増えることがあります。経済的に自立できていない子の場合は、住まい、収入、日々の金銭管理をどう用意するかを、距離を取ることと並行して考える必要があります。親子が離れて暮らすことと、子の生活の支えを用意することは、切り離さずに進める方が結果的に親の負担を減らします。具体的な進め方は【親子問題】子を家から独立させる具体的な手順や【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点で取り上げています。

親が亡くなった後まで見据えておく

 子との関係をどう整理するかは、親が亡くなった後の相続や手続にも影響します。遺言の内容、遺言執行者を誰にするか、子の生活をどう支えるかを、早い段階からまとめて検討しておくことが望ましいといえます。この点は【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかで詳しく解説しています。

弁護士とカウンセラーが役割を分ける形

 当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子と向き合い、提携する自立支援カウンセラーが子の家探しや仕事探し、日々の金銭管理などを支える形で、親と子それぞれの自立を目指す取り組みを行っています。縁を切るかどうかを決める前に、距離と役割を整理することで、親子の双方に変化が生まれることがあります。役割を分ける考え方は【親子問題】弁護士とカウンセラーが組むという形|役割を分ける理由で紹介しています。

よくあるご質問

「親子の縁を切る」と書いた書面に子が署名すれば、効力はありますか

 書面によって法律上の親子関係が消えることはなく、扶養や相続の関係もそのまま残ります。ただし、今後の連絡方法や金銭のやり取りについての取り決めは、当事者間の約束として意味を持ちます。目的に合った内容になっているか、作成前に確認しておくことをおすすめします。

関係を断った子に、自分の死後の手続を任せたくない場合はどうすればよいですか

 遺言で遺言執行者を指定しておけば(民法1006条1項)、遺産に関する手続は遺言執行者が進めることになります。お墓や仏壇などを引き継ぐ人も、遺言などで指定することができます(同法897条1項)。ただし、子が相続人である以上、遺留分の請求など相続の場面で関わる可能性は残ります。

未成年の子とも縁を切ることはできますか

 未成年の子について、親が監護や扶養の責任を外れることはできません。2026年4月1日施行の改正民法でも、父母が子を養育し扶養する責務が明確にされています。養育が難しい状況にある場合は、児童相談所などの公的な窓口に早めに相談することが大切です。

まとめ


  1. 実の親子関係は、届出や念書で解消することはできない。
  2. 成年に達した子は分籍できるが(戸籍法21条)、親子関係は変わらない。
  3. 養子であれば、協議や裁判で離縁できる(民法811条・814条)。
  4. 成人して働ける子への扶養は余力の範囲が基本で、扶養を受ける権利は放棄させられない(同法877条・881条)。
  5. 遺言で財産の行き先は決められるが遺留分が残り、廃除は要件を満たす場合に限られる(同法1042条・892条)。
  6. 廃除されても、その子の子どもが代襲して相続することがある(同法887条2項)。
  7. 同居や接触は、明渡しの手続や仮処分、窓口の変更によって調整できる。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。北海道から沖縄まで、全国のご家庭の親子の問題に取り組んできましたので、遠方の方もご相談いただけます。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。

「縁を切りたい」と考えるほど追い詰められている親御さんも、まだそこまでは決めかねている親御さんも、まずは今の状況をお聞かせください。法律上できることとできないことを整理したうえで、ご家庭に合った進め方を一緒に考えます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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