【親子問題】子が警察に保護された|引き取りを求められたとき
子が自分の部屋から出てこない。顔を合わせることはほとんどないのに、決まった時間になると「飯」とだけメッセージが届き、ドアの前に置いた食事は空になって戻ってくる。こうした生活が何年も続き、「このまま食事を運び続けてよいのか」「止めたら何が起きるのか」と迷う親御さんは少なくありません。食事を運ぶこと自体が誤りというわけではなく、反対に、急に止めることにも別の心配があります。大切なのは、食事という今も続いている接点をどう扱うかを、家族だけで抱え込まずに考えることです。この記事では、成人した子に対する扶養義務の考え方、食事を止める前に知っておきたいこと、要求の中身の分け方、家族でできることと外部の窓口を順に整理します。
この記事は、成人した子が自室にこもり、食事の用意を親に求めている場面を想定しています。未成年の子の場合や、暴力・金銭要求が伴う場合には、考え方が変わる部分があります。
食事だけを求められる生活で、親が迷いやすいこと
ご相談の場でよく伺うのは、次のような迷いです。
- 食事を部屋の前に置き続けているが、これでよいのか分からない。
- 食事の時間や内容に細かい指定があり、応じないと不機嫌になる。
- 食事を止めれば部屋から出てくるのではと思うが、踏み切れない。
- 顔を合わせないまま何年も経ち、子の体調が分からない。
- 自分が年を重ね、いつまで食事を用意できるか不安がある。
周囲から「甘やかしているからだ」と言われ、自分を責めてしまう方もいます。ただ、法律の面から見ても、支援の面から見ても、どの家庭にも当てはまる一つの正解があるわけではありません。まずは、親にどこまでの義務があるのかを確認しておきましょう。
成人した子に食事を用意する義務はあるのか
民法877条1項は、直系血族は互いに扶養をする義務があると定めています。親子は直系血族にあたるため、子が成人した後も、親と子の間には扶養の関係が残ります。
もっとも、成人した子に対する親の扶養義務は、一般に「生活扶助義務」と説明されます。親が自分の生活を維持したうえで、余力のある範囲で援助すれば足りるという考え方です。これに対し、未成年の子や、まだ自立して生活できる段階にない子(未成熟子)に対しては、自分と同じ程度の生活をさせる「生活保持義務」という、より重い義務が問題になります。
そのため、成人した子が「食事を出すのは親の義務だ」と主張したとしても、親が求められた形のまま応じ続けなければならないわけではありません。働ける状態にあるのに働かず、家計にも家事にも関わらない成人の子については、扶養義務が否定されることもあり得るとの見方もあります。
他方で、子に病気や障害があり、自分で生活を整えることが難しい場合には、扶養の必要性が別の形で問われることがあります。精神的な不調のために働けない成人の子について、離れて暮らす親に扶養料の支払いを命じた審判例も紹介されています。ひきこもりの背景に体調や心の不調があるかどうかは、外から見ただけでは分かりにくく、法律の枠組みだけで判断できるものでもありません。
食事を急に止める前に知っておきたいこと
「食事を出さなければ、空腹に耐えかねて出てくるのではないか」と考える方もいます。ただ、事前の準備なく食事を止めることには、次のような心配があります。
子の体調や安全に関わる
長く部屋にこもっている子は、食事の大部分を親の用意に頼っていることがあります。外へ買いに行くことも難しい状態で食事が途絶えると、体調を崩すおそれがあります。刑法218条は、病気などで保護を必要とする人を保護する責任のある者が、その生存に必要な保護をしなかった場合を処罰の対象としています。健康な成人の子について直ちにこの規定が問題になる場面は限られると考えられますが、子に病気や衰弱がうかがわれる場合には、自己判断で食事を断つことは避けたほうがよいでしょう。
衝突のきっかけになることがある
食事は、子にとって生活の土台であると同時に、家族との数少ないつながりでもあります。説明のないまま止めると、要求が強まったり、物に当たったりするきっかけになることもあります。これまでに暴言や暴力があった家庭では、方針を変える前に、家族の安全をどう確保するかを先に考えておく必要があります。
止めても状況が動くとは限らない
食事が出なくなっても、夜中に台所の食べ物を探す、親の財布から現金を持ち出して自分で買うなど、別の形に移るだけのこともあります。親子が顔を合わせない生活そのものは変わらず、家族の緊張だけが高まるという結果になりかねません。
「要求」の中身を分けて考える
一口に食事の要求といっても、その中身はさまざまです。応じ方を考えるときは、次のように分けると整理しやすくなります。
| 要求の内容 | 考え方の一例 |
|---|---|
| 毎日の食事を部屋の前に置いてほしい | 生活の土台に関わるため、急に止めるより、時間や置き方の決まりを作る方向で考える |
| 特定の店の料理や高価な食材を指定される | 日常の食事の範囲を超える部分は、家族の負担を理由に断ることも選択肢になる |
| 食費の名目で現金を求められる | 使い道を確かめられない現金の受け渡しは、金銭要求と同じ問題として扱う |
| 応じないと怒鳴る、物を壊す | 食事の問題ではなく、暴言や暴力の問題として安全の確保を優先する |
表の下の段に進むほど、食事の問題というより、家庭内の金銭要求や暴力の問題としての色合いが強くなります。とくに現金を求められる場面では、応じた金額や回数を記録しておくと、後で状況を説明するときの材料になります。
食事を「今も続いている接点」として使う
部屋の前に置く食事は、言葉を交わさない状態でも途切れずに続いている、数少ないやり取りの一つです。止めるか続けるかの二択で考えるのではなく、この接点の扱い方を少しずつ変えていくという方法もあります。たとえば、次のような工夫です。
- 食事を置く時間を決め、それ以外の時間の追加の要求には応じないようにします。
- 食事に短いメモを添え、返事を求めずに、家族の予定や季節の話題などを一言書きます。
- 食べ終えた食器は部屋の前に出してもらうなど、小さな決まりを一つずつ作ります。
- 食べた量や食器の様子を簡単に記録し、体調の変化に気づく手がかりにします。
- 家族の予算や負担を超える指定には応じられないことを、穏やかに伝えます。
こうした決まりは、家族のなかで方針をそろえてから始めることが大切です。夫婦の一方だけが別の対応をすると、子は応じてくれる側に要求を集中させやすくなります。
家族だけで相談を始められる窓口
本人が相談を拒んでいても、家族だけで相談を始めることはできます。ひきこもりに関する公的な窓口には、主に次のようなものがあります。
- ひきこもり地域支援センターでは、家族からの相談を受け付けています。
- 保健所や精神保健福祉センターでは、体調や心の不調がうかがわれる場合の相談ができます。
- 市区町村の福祉の窓口では、生活全体の困りごとについて相談できます。
- 家族会では、同じ立場の親同士で経験や情報を交換できます。
ただ、公的な窓口は助言や情報提供が中心で、子本人に直接働きかけることまでは難しい場面もあります。弁護士ドットコムに寄せられた相談にも、役所に相談したものの「家族でよく話し合って」と言われるばかりで先に進めなかった、という親の声が見られます。窓口ごとにできること・できないことを知ったうえで、組み合わせて使うことが現実的です。
部屋から出ない状態が長く続くときに確かめておきたいこと
食事を置いても手がつけられない日が続く、物音がしない、呼びかけに反応がないといった変化があるときは、体調の急変も考えられます。成人した子の部屋であっても、命に関わるおそれがある場面では、ためらわずに救急や警察に連絡することを考えてください。
また、親自身が年齢を重ね、体力的にも精神的にも限界に近づいていることがあります。食事を用意し続けること自体が親の生活を圧迫しているなら、それは家族の外に助けを求めてよい合図です。
弁護士とカウンセラーが入る場合にできること
当事務所では、ひきこもりや家庭内暴力、お金の無心などに悩む親御さんからご依頼を受け、弁護士が親の代理人として子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーが子の日常生活の支援を担うという形で対応しています。
ご事情によっては、弁護士とカウンセラーがご自宅を訪問し、時間をかけて子本人と話をします。本人の意思を無視して連れ出すことはせず、本人が納得したうえで、住まい探しや仕事探し、生活保護の申請のサポート、日々の金銭管理などを、家を出た後もしばらくの期間にわたって支えていきます。親の側には、子からの要求や連絡の窓口を弁護士が引き受けることで、親が一人で要求に向き合わずに済む状態をつくります。
食事を運び続ける生活は、親子が近すぎる距離のまま動けなくなっている状態ともいえます。離れて暮らすことが、親子それぞれの生活を立て直すきっかけになる場合もあります。どのような支援が合うかは家庭ごとに異なるため、ご事情を十分に伺ったうえで方針を決めていきます。
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よくあるご質問
食事代を子に請求することはできますか
子に収入や預貯金がある場合には、生活費の分担を話し合う余地があります。ただ、収入のない子に請求しても、実際に支払いを受けることは難しいのが通常です。請求するかどうかよりも、今後の生活費の負担をどう区切るかを考えるほうが、現実的な場合が多いでしょう。
食事を部屋の前に置くのをやめ、台所に用意しておく形に変えてもよいですか
食事を用意すること自体を続けるのであれば、置き場所や受け取り方を家族の負担の少ない形に変えることは、一つの方法です。変える前に、メモなどで新しい決まりを短く伝えておくと、子が戸惑って要求を強めることを防ぎやすくなります。
子が「食事を出さないなら死ぬ」と言っています
命に関わる言葉が出ている場合には、食事の問題とは切り分けて考える必要があります。差し迫った様子があるときは警察や救急に、そうでないときも保健所や精神保健福祉センターなどの窓口に早めに相談してください。
食事を運ぶことも、止めることも、それだけで状況が解決するわけではありません。今の生活がどれくらい続いているか、子の体調や家族の安全はどうか、親がいつまで支えられるかを一つずつ確かめながら、外の力を借りる時期を考えていくことが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


