【親子問題】子が家に知らない人を出入りさせる、防犯上どうすればいい?
この記事は、18歳以上の成人した子が精神科などに通院・入院している場面を想定し、2026年10月時点の法令や厚生労働省の通知をもとに整理しています。個別の治療方針については、主治医や医療機関の相談窓口にご確認ください。
成人した子が精神科などに通っていると、主治医から「ご家族にも協力してほしい」と言われることがあります。通院への付き添い、薬の見守り、入院の同意、保証人欄への署名、退院後の受け入れなど、求められる内容は場面によってさまざまです。
子の回復を願う気持ちから、言われたことはすべて引き受けなければならないと感じる方は少なくありません。一方で、子からの暴力やお金の無心が続いている家庭では、これ以上の負担は難しいと悩む方もいます。
この記事では、主治医から求められる「家族の協力」を法的な性質ごとに分け、親に義務があるもの・ないもの、応じる前に確かめておきたい点を整理します。
主治医が家族に求める「協力」にはどのようなものがあるか
主治医が家族に協力を求めるのは、家庭での様子や生活環境が治療に大きく関わるためです。精神科の治療では、本人の話だけでは分からない生活の実態を家族から聞くことが、診断や治療方針の見直しに役立つ場面があります。
よく求められる協力には、次のようなものがあります。
- 通院への付き添いや送迎。
- 服薬の見守りや薬の管理。
- 家庭での様子や困りごとの情報提供。
- 医療保護入院の際の同意。
- 入院手続での身元保証人・連帯保証人への署名。
- 退院後の受け入れや同居の再開。
- 家族面談や家族教室への参加。
これらは同じ「協力」という言葉でくくられていても、法的な性質が異なります。事実上のお願いにとどまるもの、法律上の手続の一部になっているもの、契約として責任を負うものが混ざっているため、一つずつ分けて考えることが大切です。
成人した子について、親に法律上の「協力義務」はあるのか
親権は子が18歳になった時点で終わる
民法では18歳で成年となり(民法4条)、親権に服するのは未成年の子に限られます(民法818条1項)。成人した子の治療について、親が本人に代わって決めたり、治療を受けさせたりする権限や義務は、親権としては残っていません。
治療を受けるかどうか、どの医療機関にかかるかは、原則として子本人が決めることになります。
扶養義務は「生活に余裕がある範囲で」の援助
親と成人した子の間には、直系血族として互いに扶養する義務があります(民法877条1項)。ただし、成人した子に対する扶養義務は、自分の生活を維持したうえで余力がある範囲で援助する「生活扶助義務」と解されています。弁護士ドットコムニュースでも、精神疾患を抱える成人の娘をめぐる相談について、同様の考え方が紹介されています。
また、扶養義務は主に経済的な援助を内容とするもので、通院の付き添いや同居、身の回りの世話といった具体的な行動までを義務づけるものではないと考えられています。扶養義務の範囲については、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく解説しています。
かつての「保護者制度」はすでに廃止されている
以前の精神保健福祉法には「保護者」の制度があり、家族に治療を受けさせる義務などが課されていました。この制度は、2014年4月に施行された法改正で廃止されています。
現在、家族が主治医から協力を求められる場面の多くは、法律上の義務というより、治療を進めるうえでの依頼と位置づけられます。
求められた協力を、法的な性質ごとに分けて考える
主治医から求められる協力を、法的な位置づけごとに整理すると次のようになります。
| 協力の内容 | 法的な位置づけ | 応じるかどうかの考え方 |
|---|---|---|
| 通院の付き添い・服薬の見守り | 事実上の依頼 | 義務ではなく、家族の状況に応じて範囲を決められる |
| 家庭での様子の情報提供 | 事実上の依頼 | 伝えるかどうかは家族の判断でできる |
| 医療保護入院の同意 | 精神保健福祉法上の手続 | 同意・不同意のほか、意思表示をしない選択もある |
| 身元保証人・連帯保証人への署名 | 医療機関との契約 | 署名するかどうかは任意で、署名すれば契約上の責任を負う |
| 退院後の受け入れ・同居 | 事実上の依頼 | 法律上の引き取り義務はなく、受け入れ方は相談して決められる |
以下、特に判断に迷いやすい3つの場面を取り上げます。
医療保護入院の同意を求められた場合
本人の同意が得られないものの入院が必要と判断された場合に、精神保健指定医の診察と家族等の同意によって入院させる仕組みが医療保護入院です(精神保健福祉法33条)。
2024年4月の改正で、家族等の全員が同意・不同意の意思表示を行わない場合にも、市町村長の同意で入院を進められるようになりました。厚生労働省は、本人と疎遠である家族や、意思表示によって本人との関係が悪化することを懸念して関わりを避けたい家族がいることを考慮した見直しだと説明しています。ただし、単に電話に出ないなど連絡が取れないだけでは足りず、意思表示をしない旨を明らかにする必要があるとされています。
あわせて、医療保護入院の期間が法律で定められ、入院から6か月を経過するまでは3か月以内、その後は6か月以内とされました。期間を更新する際にも家族等の同意が求められるため、一度同意すれば終わりではない点も知っておきたいところです。同意することの意味については、【親子問題】医療保護入院の同意を求められた|家族が同意することの意味もあわせてご覧ください。
入院の身元保証人や連帯保証人を求められた場合
入院の際、医療機関から身元保証人や連帯保証人の欄への署名を求められることがあります。これは医療機関との契約であり、署名するかどうかは家族が判断できます。
厚生労働省は、入院による治療が必要であるにもかかわらず、身元保証人等がいないことだけを理由に入院を拒むことは医師法19条1項に抵触するとの考え方を示しています。また、医療行為への同意は本人に固有のものであり、身元保証人などの第三者に同意の権限はないと整理されています。
署名する場合は、何を保証するのか(入院費の支払いか、緊急時の連絡先か、退院時の引き取りか)を確かめておくことが大切です。継続して発生する入院費などを個人が保証する契約は、保証する上限額(極度額)を書面で定めなければ効力を生じません(民法465条の2)。費用負担の考え方は、【親子問題】成人した子の入院費・治療費を誰が払うのか|扶養義務と保証人欄の意味で解説しています。
退院後の受け入れや同居の再開を求められた場合
退院が近づくと、「ご自宅で受け入れてほしい」と相談されることがあります。成人した子を引き取って同居させる法律上の義務はなく、受け入れるかどうか、どのような形で支えるかは家族が判断できます。
入院前に暴力や強い金銭要求があった家庭では、同居を再開すると同じ状況に戻ってしまうおそれもあります。グループホームや一人暮らしなど、自宅以外の住まいも含めて、病院の退院支援の担当者と相談することが考えられます。措置入院の場合については、【親子問題】子が措置入院になった|退院後の受け入れをどうするかで整理しています。
協力を深めると、親の法的な責任が重くなることはあるか
協力を引き受けるほど、子が他人に損害を与えたときに親が責任を問われるのではないか、と心配される方もいます。
この点について、最高裁平成28年3月1日判決は、精神障害のある人と同居する家族であるというだけで、民法714条の「法定の監督義務者」に当たるとはいえないと判断しました。そのうえで、日常生活での関わりの実態から、監督を現に行い、その態様が単なる事実上の監督を超えているなど、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情がある場合には、監督義務者に準ずる者として責任を負うことがあるとしています。判断にあたっては、日常的な接触の程度や財産管理への関与、関わりの実情などが総合的に考慮されます。
なお、この議論は、子が自分の行為の責任を判断する能力を欠く状態で他人に損害を与えた場面に関するものです。子に責任能力がある場合は、原則として子本人が責任を負います。
判例は、家族が関わること自体を責任の根拠とするものではありません。通院の付き添いや服薬の見守りといった協力が、ただちに重い責任につながるわけではないと考えられます。ただし、関わり方が具体的にどう評価されるかは個別の事情によって異なるため、不安がある場合は弁護士に相談しながら関わり方を決めると整理しやすくなります。
どこまで応じるかを決めるための4つの視点
親自身の安全と生活を先に確かめる
子から暴力を受けている、あるいは金銭を強く求められている場合、主治医の求めにそのまま応じることが親の安全を損なうことがあります。協力の範囲を考える前に、親自身が安全に暮らせているかを確かめることが出発点です。
できること・できないことを具体的に伝える
「月に1回の通院には付き添えるが、毎日の服薬管理は難しい」のように、引き受けられる範囲を具体的に伝えると、主治医も治療計画を立てやすくなります。家庭で暴力が続いている場合は、その事実も治療方針に関わる大切な情報です。
なお、家族が主治医に情報を伝えることは家族の判断でできますが、主治医から家族に診療内容を伝える場面では、本人の同意の有無などが関係します。家族が知りたいことをすべて聞けるとは限らない点も、理解しておくとよいでしょう。
書面に署名する前に内容を確かめる
保証人欄や、退院後の引き取りを約束する書面への署名を求められた場合は、その場で決めず、持ち帰って内容を確認することも考えられます。保証の範囲や上限額が分からない書面には、署名を急がないほうがよい場合があります。
家族だけで抱え込まない
病院の精神保健福祉士などの相談員、保健所や精神保健福祉センター、家族会などは、家族の負担や関わり方についての相談にも応じています。主治医への伝え方に迷うときも、こうした窓口で整理してから臨む方法があります。【親子問題】家族会・当事者会の役割|弁護士に頼む前にできることも参考にしてください。
弁護士に相談できること
主治医から求められる協力そのものは医療の問題ですが、その背景に法律の問題が含まれていることがあります。たとえば、次のような場面では弁護士に相談することが考えられます。
- 保証契約や誓約書の内容と責任の範囲の確認。
- 子からの暴力や金銭要求への対応。
- 退院後の住まいや生活費の負担をめぐる子との話し合い。
- 親名義の家に住み続ける子との同居の解消。
当事務所では、弁護士が親の代理人として子との窓口になり、自立支援カウンセラーと役割を分担しながら、親子それぞれの自立を目指す取り組みを行っています。医療機関による治療と並行して、家庭内の問題を整理したい場合のご相談もお受けしています。詳しくは、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。
主治医からの協力の求めは、子の回復を願う家族にとって断りにくいものです。ただ、求められる協力には法律上の義務があるものとないものがあり、引き受けられる範囲を主治医に伝えたうえで関わり方を決めることも、長く子を支えるための一つの方法です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


