【親子問題】厚労省「ひきこもり支援ハンドブック」が示した考え方
この記事は、2026年10月時点の健康保険制度と各自治体の案内をもとに書いています。保険料の額、軽減・減免の基準、手続の窓口は市区町村ごとに異なるため、実際の取扱いはお住まいの自治体でご確認ください。
ひきこもりの状態が続いている子について、「健康保険はどうなっているのだろう」と気にかけながら、確かめないまま時間が過ぎているご家庭は少なくありません。体調を崩したときに受診できるのか、保険料は誰が払っているのか、滞納はないのか。どれも親として把握しておきたい事柄ですが、子に直接は尋ねにくいテーマでもあります。
この記事では、ひきこもりの子がどの健康保険に入っているのかを見分ける手がかり、国民健康保険料の納付義務が誰にあるのか、収入のない子の保険料を軽くする仕組み、滞納が続いた場合の扱いを順に整理します。
まず確かめたいのは、子がどの健康保険に入っているか
日本では原則として、誰もが何らかの公的医療保険に加入します。収入のない成人した子の場合、加入先は主に親の働き方と年齢によって決まります。
| 親の状況 | 子の加入先の目安 | 保険料を納める人 |
|---|---|---|
| 会社員・公務員として勤務先の健康保険に加入 | 親の健康保険の被扶養者(条件を満たす場合) | 子の保険料はかからない |
| 自営業や退職後などで国民健康保険に加入 | 国民健康保険(親と同じ世帯) | 世帯主 |
| 75歳以上で後期高齢者医療制度に加入 | 国民健康保険(世帯で子だけが加入) | 世帯主(親が国民健康保険に入っていなくても) |
| 子が住民票上の世帯を分けている | 国民健康保険(子が世帯主) | 子本人 |
紙の保険証は2024年12月2日以降新しく発行されなくなり、マイナンバーカードを保険証として登録していない人には「資格確認書」が届く運用に切り替わっています。子宛ての郵便物にこうした書類が含まれていないか、親の勤務先の扶養の届出に子が載っているかを確かめると、加入先の見当がつきます。
親の扶養に入っていられる条件
親の勤務先の健康保険で子が被扶養者と認められるには、子の年間収入が130万円未満で、同居している場合は親の収入の半分未満であることなどが目安とされています。2025年10月1日以降は、19歳以上23歳未満の子(配偶者を除く)について、この基準が150万円未満に引き上げられました。収入のない子であれば、収入の要件で外れることは多くありません。
ただし、認定するのは親の勤務先の健康保険組合などであり、扶養の実態を確かめる書類の提出を求められることもあります。
扶養から外れるきっかけに注意する
これまで親の扶養に入っていた子でも、次のような場面では被扶養者の資格を失い、国民健康保険への加入手続が必要になります。
- 親が勤務先を退職し、その健康保険を離れたとき。
- 親が75歳になり、後期高齢者医療制度に移ったとき。
- 親が亡くなったとき。
- 子にアルバイトなどの収入が生じ、収入の要件を超えたとき。
国民健康保険は、届出をした日ではなく、ほかの保険の資格を失った日から加入の扱いになります。届出は原則として14日以内とされ、手続が遅れると、さかのぼった期間の保険料をまとめて納めることになりかねません。とくに親が75歳を迎える時期は、親自身の切替えに気を取られ、子の手続が抜け落ちやすいところです。
国民健康保険料の納付書が親に届く理由
国民健康保険は一人ひとりが被保険者ですが、加入と保険料の賦課は世帯単位で行われ、保険料を納める義務を負うのは住民票上の世帯主とされています(国民健康保険法76条1項)。このため、子だけが国民健康保険に加入している世帯でも、納付書や督促状は親宛てに届きます。
親が国民健康保険に入っていなくても納付義務がある
親が勤務先の健康保険や後期高齢者医療制度に加入していて、自身は国民健康保険に入っていない場合でも、同じ世帯に国民健康保険の加入者がいれば、親がその保険料を納める立場になります。このような世帯主は「擬制世帯主」と呼ばれます。
子の保険料が未納のまま放置されると、督促を経て、世帯主である親名義の預金などが差押えの対象となることがあります。「子の保険料だから自分には関係ない」とは言い切れない点に、注意が必要です。
納付義務者を子に替えられる場合もある
自治体によっては、擬制世帯主である親の申出により、国民健康保険に加入している子を保険上の世帯主(納付義務者)に変更する取扱いを設けています。ただし、変更によって軽減の判定が変わる場合があるほか、子が保険料を納められなければ、未納が子の名義で続くだけになるおそれもあります。宛名を替えること自体が目的になっていないか、家計の実情と合わせて検討することが大切です。
収入のない子でも保険料はかかる
国民健康保険料は、所得に応じて計算される部分(所得割)に、加入者1人あたりの額(均等割)や1世帯あたりの額(平等割)を組み合わせて計算されます(構成は自治体により異なります)。そのため、収入のない子であっても、保険料がゼロになるわけではありません。子が40歳以上65歳未満であれば、介護保険分も加わります。
所得の低い世帯の軽減は「申告」が前提
世帯の所得が一定の基準以下の場合、均等割と平等割が7割・5割・2割の段階で軽減されます。この判定は、国民健康保険の加入者だけでなく、擬制世帯主である親の所得も含めて行われるのが一般的です。
見落とされやすいのは、収入がまったくない子でも、所得の申告をしていないと軽減が適用されない場合があるという点です。市区町村は住民税の申告などをもとに所得を把握するため、申告の機会がない子は「所得が不明」として扱われ、軽減の対象から外れていることがあります。収入がなかった旨を申告することで軽減の判定を受けられる場合があるため、自治体の窓口で確認してみてください。医療費が高額になったときの自己負担の上限(高額療養費)の区分も、申告された所得をもとに決まります。
納付が難しいときは早めに窓口へ
災害や失業などの事情があるときは、保険料の減免が認められる場合があります。また、一度に納めることが難しくても、分割納付の相談に応じている自治体は多くあります。督促状が届いた段階で放置せず、まず窓口に連絡することが、差押えなどの手続を避けるうえで大切です。
なお、生計を共にする子の国民健康保険料を親が支払った場合、その金額は支払った親の社会保険料控除の対象になるとされています。具体的な扱いは、税務署や税理士にご確認ください。
滞納が続いた場合に起きること
納期限を過ぎても、すぐに保険診療が受けられなくなるわけではありません。ただ、督促状や催告書が届き、延滞金が加わっていきます。それでも納付がないと、世帯主の財産に対する差押えなどの滞納処分に進むことがあります。
さらに滞納が1年以上に及ぶと、医療機関の窓口でいったん医療費の全額を支払い、後日の申請で本来の自己負担を超える部分の支給を受ける「特別療養費」の扱いに切り替わることがあります。2024年12月に保険証が廃止されたことに伴い、以前の「資格証明書」に代わってこの仕組みが運用されています。
ひきこもりの状態にある子は、もともと医療機関にかかるハードルが高いことが少なくありません。窓口で全額の支払いを求められる状態になると、体調を崩しても受診を先延ばしにするおそれがあります。保険料の問題は、子の健康を守る土台の問題でもあります。心身の不調が疑われる場合の考え方は、【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で解説しています。
世帯分離をすると扱いはどう変わるか
住民票上の世帯を分けると、子は自身が世帯主として国民健康保険に加入し、納付書も子宛てに届きます。軽減の判定も子自身の所得を中心に行われるため、親の所得が一定以上ある世帯では、保険料が下がる場合があります。
ただし、住民票の世帯は「生計を共にしているか」を基準に決まるものであり、同じ家に住みながら保険料の負担だけを理由に世帯を分けようとすると、自治体から生計の実態を確認されることがあります。また、子が保険料を納められなければ、未納が子の名義で積み重なるだけで、問題が解決するわけではありません。世帯分離の考え方は、【親子問題】世帯分離とは|住民票・保険・年金の扱いでも解説しています。
親が整理しておきたいこと
子と直接話しにくい状況でも、親の手元で確かめられることは少なくありません。
- 子がどの健康保険に加入しているか(親の扶養か、国民健康保険か)。
- 国民健康保険料の納付書の宛名と、未納・滞納の有無。
- 子について所得の申告がされているか。
- 親の退職や75歳到達など、子の加入先が変わる時期がいつ来るか。
- 親が保険料を払い続ける場合、それがいつまで続く見込みか。
親が子の保険料を負担し続けること自体が誤りというわけではありません。ただ、親の収入が年金だけになった後や、親が亡くなった後に誰が保険料を納めるのかを考えておかないと、子が医療を受けにくい状態に置かれるおそれがあります。保険料を家計の中でどう扱うかは、【親子問題】家計を分ける実務|口座・光熱費・保険をどう切るかもあわせてご覧ください。
保険料の問題を入口に、生活全体の設計を考える
健康保険の問題は、手続を一つ済ませれば終わるものではなく、子の収入や生活の基盤をどう作るかという問題とつながっています。子が自力で保険料を納める見通しが立たない場合、就労の支援や生活保護の利用も含めて、生活全体の設計を考える必要が出てきます。なお、生活保護を受けると国民健康保険からは外れ、医療費は原則として医療扶助で賄われます。
当事務所では、弁護士が親の代理人として子との間に入り、自立支援カウンセラーが住まい探しや仕事探し、生活保護の申請、日々の金銭管理などを支える形で、親子それぞれの自立に向けた支援を行っています。サービスの内容は、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
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子の健康保険の状態が分からない、子の保険料の請求が親に届いて困っているといった段階でも、保険料の手続と、その背景にある親子の生活の問題をあわせて整理することができます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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