【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界
この記事は、2026年10月時点の法令にもとづいて、主に成人した子から親への暴言を想定して解説しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は専門家にご確認ください。
「手は出さないが、毎日のように怒鳴られる」「人格を否定する言葉を浴びせられ続けて、家にいるのがつらい」。子からの暴言に悩む親御さんから、このようなご相談をいただくことがあります。暴力がないために警察に相談しにくく、相談しても「親子げんか」として扱われ、どうしてよいか分からないまま時間が過ぎてしまうことも少なくありません。
暴言だけの段階でも、法律がまったく関わらないわけではありません。ただし、どの言葉がどの手段につながるかは、言葉の中身や頻度、家族の状況によって分かれます。この記事では、暴言の段階で考えられる刑事・民事・行政の手段と、その前に整えておきたい記録、そして法的手段だけでは解決しにくい理由について整理します。
暴言の段階で考えられる手段の全体像
子からの暴言に対して考えられる手段は、大きく分けると次のとおりです。いずれも「使えるかどうか」は言葉の内容や状況しだいで、すべての家庭に当てはまるものではありません。
| 分野 | 考えられる手段 | 主な判断のポイント |
|---|---|---|
| 刑事 | 脅迫罪・強要罪などとしての相談、被害届 | 害を加えると告げる言葉か、何かを無理にさせたか |
| 民事 | 慰謝料の請求、接触を禁じる仮処分、家からの退去 | 継続性・悪質さ、親が所有する家か、別居しているか |
| 行政 | 高齢者虐待としての相談(65歳以上の親) | 子が親の世話をしている立場か、著しい暴言か |
| 家庭裁判所 | 親族間の調整を目的とする調停 | 子が話し合いの場に出てくる見込み |
表の手段は、どれか一つを選ぶというより、状況に応じて組み合わせて使うものです。以下、それぞれの中身を見ていきます。
刑事事件として扱われうる暴言
害を加えると告げる言葉は脅迫罪にあたることがある
脅迫罪は、本人や親族の生命・身体・自由・名誉・財産に害を加えることを告げた場合に成立する犯罪で、刑は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(刑法222条)。「殺すぞ」「家に火をつける」「殴ってやる」といった言葉は、この類型にあてはまる可能性があります。
家族の間で起きた一部の財産犯について刑を免除する「親族相盗例」という規定がありますが、脅迫罪には適用されません。親子の間でも、脅迫罪は通常どおり成立しえます。一方で、怒鳴る、罵るといった言葉でも、害を加える内容を含まないものは脅迫罪にはあたりにくいとされています。「殺す」という言葉の扱いについては、【親子問題】「殺す」と言われた|脅迫罪として扱われる線引きで詳しく解説しています。
言葉で何かを無理にさせる場合は強要罪の問題になる
脅すような言葉を使って、土下座や謝罪文を書かせる、親の外出をやめさせるなど、義務のないことを行わせた場合は、強要罪(刑法223条、3年以下の拘禁刑)が問題になることがあります。
なお、脅してお金を出させた場合は恐喝罪の問題になりますが、恐喝罪には親族相盗例が準用されるため、親と子(直系血族)や同居の親族の間では刑が免除されます。お金の要求をともなう暴言は、刑事手続だけでは止めにくい場面があることを知っておく必要があります。
家の中だけの悪口は、侮辱罪・名誉毀損罪にはあたりにくい
「暴言=侮辱罪」と考えられがちですが、侮辱罪や名誉毀損罪は、不特定または多数の人が知りうる状態で行われること(公然性)が必要です。家の中で親に向けて言われた言葉は、どれほどひどい内容でも、この要件を満たしにくいのが実情です。一方、子がSNSに親の悪口を書き込む、親戚や近所に言いふらすといった場合は、別の検討が必要になります。
暴言が続いて心身に不調が出た場合
暴言が長く続いた結果、親がうつ状態などの精神的な不調に陥ることもあります。裁判例には、精神的な病気を生じさせたことを傷害にあたるとしたものもありますが(最高裁平成24年7月24日決定など)、暴言と病気との因果関係を示すには、医師の診断や経過の記録が必要になり、立証のハードルは高いといえます。不調を感じたら、法的手段のためというより、まず親御さん自身のために受診しておくことが大切です。
民事で考えられる手段
慰謝料などの損害賠償請求
著しい暴言が繰り返され、精神的な苦痛を受けた場合には、不法行為として慰謝料を請求できる可能性があります(民法709条・710条)。ただ、子に収入や財産がない場合、請求が認められても実際に支払いを受けるのは難しいことが多く、請求そのものが関係を一層こじらせることもあります。損害賠償は、ほかの手段とあわせて検討するのが現実的です。
接近や面談を禁じる仮処分
配偶者や交際相手からの暴力・脅迫であれば、DV防止法の保護命令を申し立てる道がありますが、親子の関係はこの法律の対象に含まれていません。親子の間で接触を止めたい場合は、民事保全の手続で、面談や接近を禁止する仮処分を裁判所に求めることが考えられます。もっとも、同居を続けたままでは使いにくく、多くは親子が別々に暮らし始めた後の手段となります。
親名義の家から出てもらう
親が所有する家に成人した子が住み続けている場合、法的には親が無償で住まわせている関係(使用貸借)として整理されることが多く、一定の条件のもとで退去を求めることができます。ただし、鍵を替えて締め出すなど、親が実力で追い出すことは、自力救済として問題になるおそれがあります。手順については【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しと【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界をご覧ください。
家庭裁判所の調停
家庭裁判所には、親族の間の関係を調整するための調停があります。第三者を交えて今後の関わり方を話し合う場になりますが、相手方が出席しない場合は進めにくいという限界もあります。
65歳以上の親であれば、高齢者虐待としての相談も
高齢者虐待防止法は、65歳以上の高齢者に対する「著しい暴言」や「著しく拒絶的な対応」などを心理的虐待と定めています。対象となるのは、高齢者の世話をしている家族や同居人などの「養護者」による行為です。同居している子が親の身の回りの世話をしている場合などは、市区町村の高齢者福祉の窓口や地域包括支援センターに相談することで、行政が事実確認や支援に動くことがあります。
一方で、子が親の世話をしているとはいえない場合は、この法律の枠組みに当てはまらないこともあります。行政の動き方については【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで解説しています。
どの手段を選ぶ場合でも整えておきたい記録
暴言は形に残りにくいため、後から説明しようとしても「言った・言わない」になりがちです。どの手段を検討する場合でも、次のような記録が判断の材料になります。
- 日時と場所、そのとき何をしていたか。
- 言われた言葉を、できるだけそのままの言い回しで。
- その場にいた家族や、声を聞いた可能性のある人。
- 暴言の前後に物を壊す、ドアを強く閉めるなどの行動があったか。
- 親御さん自身の眠れない、食欲がないといった体調の変化と受診の記録。
- 警察や行政に相談した日と、担当者から言われたこと。
自分が当事者になっている会話を録音することは、一般に違法とはされていません。ただし、録音に気づかれて子が逆上するおそれもあるため、安全を最優先に考えてください。記録の付け方は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録、警察への相談記録の意味は【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続もあわせてご覧ください。
暴言が暴力の手前にあるときの見方
暴言だけの状態が長く続く家庭もあれば、ある時点から物に当たる、手が出るといった形に移っていく家庭もあります。具体的に危害を加える日時や方法を口にする、刃物の話をする、飲酒のたびに激しくなる、といった変化が見られる場合は、暴言の段階と同じ構えでは対応しきれないことがあります。
身の危険を感じたときは、ためらわずに110番してください。その場で伝える内容については【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで整理しています。また、警察に相談しても動いてもらえなかったと感じる場合は、【親子問題】「家庭の問題」と言われて警察が動かないのはなぜかも参考になります。
法的手段だけでは解決しにくい理由
ここまで見てきたように、暴言の段階でも使える手段はありますが、それだけで親子の関係が落ち着くとは限りません。刑事手続は処分が終われば子がまた家に戻ってくることがあり、民事の手続は時間がかかります。暴言の背景には、子が社会とのつながりを失っていることや、親子の距離が近すぎることが関係している場合も多く、法律の手続だけでは根本の部分に手が届きにくいのです。
当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子との連絡窓口になり、親への暴言や要求を受け止めると同時に、自立支援カウンセラーと組んで、子の住まい探しや仕事探しなど生活の立て直しを支える取り組みを行っています。親と子が適度な距離をとることで、暴言が落ち着いていくこともあります。考え方については【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択、【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点、サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応で紹介しています。
よくあるご質問
暴言だけでも弁護士に相談してよいのでしょうか
暴力がない段階でのご相談も受け付けています。むしろ、暴言の段階で記録の付け方や相談先を整理しておくことで、状況が変わったときに動きやすくなります。
「警察に相談する」と子に伝えると、逆上しないか心配です
伝え方や時機によっては、反発を招くおそれがあります。相談したことを子に伝えるかどうかは、安全面を含めて事前に検討しておくことをおすすめします。子に知られた後の接し方については【親子問題】相談を始めたことを子に知られた|その後の接し方をご覧ください。
親の側も言い返してしまったことがあります。不利になりますか
長く続く緊張の中で言い返してしまうことは、珍しいことではありません。それだけで直ちに手段が閉ざされるわけではありませんが、経緯を整理するうえで大切な事情になりますので、隠さずにお伝えください。
ご相談について
子からの暴言は、外から見えにくく、親御さんが一人で抱え込んでしまいやすい問題です。暴力がないからと我慢を続けるより、言葉の内容と家族の状況を整理し、使える手段を早めに確かめておくことが、親御さんと子の双方を守ることにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


