被害届が出る場合と出ない場合|キャスト・店の判断で何が変わるか
盗撮を疑われて捜査を受けており、事実そのものは争うつもりがない。そういう状況で知りたいのは、この先どういう処分になるのか、という一点だと思います。
インターネット上には「初犯なら罰金で済むことが多い」という説明が並んでいます。目安として語られている数字は存在しますが、罰金・略式・不起訴のどれに向かうのかを実際に決めているのは、初犯かどうかという一言ではありません。刑事訴訟法が定めた、いくつかの関門です。
この記事では、風俗店の個室やホテルの室内で撮影が問題になった場面を想定し、事実を認めている場合に、処分の分かれ目がどこにあるのかを条文の順序に沿って整理します。罰金額の目安や示談金の相場には踏み込みません。金額だけを見ても、自分がどの分岐にいるのかは分からないためです。
この記事が前提にしている場面
読み進める前に、範囲を4点だけ確認させてください。
- 風俗店を利用した客の立場を想定しています。店側やキャスト側の立場とは、見え方も取り得る手段も異なります。
- 撮影された相手が成人である場合を前提にしています。相手が18歳未満の可能性がある場合は適用される法律が変わるため、個別の相談が要ります。
- 事実を認めている場面を扱います。身に覚えがない、認識が違うという場合は、この記事とは別の道筋になります。
- 発覚を避ける方法や、捜査機関への受け答えの工夫は扱いません。撮影された相手が現に存在する以上、そこを起点にした説明はしないという方針です。
「初犯だから罰金」と言い切れるのか
「初犯」は法律の言葉ではない
刑法にも刑事訴訟法にも、「初犯」という用語は登場しません。日常的に使われている言葉であって、条文上の区分ではないのです。そのため、同じ「初犯です」という言葉が、実際にはかなり幅のある状態を指すことになります。
| よく「初犯」と呼ばれる状態 | 実際の中身 |
|---|---|
| 前科も前歴もない | 過去に捜査の対象になったことがない |
| 前歴はあるが前科はない | 過去に立件されたが不起訴で終わっている |
| 別の罪名の前科がある | 性的な事案とは異なる類型の前科が残っている |
| 同種の前科があるが年月が経っている | 過去に同じ類型で処分を受けたことがある |
この4つは、捜査機関から見れば同じ状態ではありません。「初犯です」という一語で自分の状況を説明すると、話し手と聞き手で意味がずれることがあります。
条文に「初犯なら罰金」という定めはない
法律は、前科の有無によって処分を自動的に振り分ける仕組みを置いていません。前科や前歴は、後で説明する判断要素の一つとして考慮されるにとどまります。「初犯だから罰金で終わる」という説明は、傾向を述べたものであって、規定を述べたものではないと受け止めておくのが安全です。
処分は誰が、どの順番で決めるのか
分かれ目を理解するには、判断する人が段階ごとに交代することを押さえておくと見通しが立てやすくなります。
| 段階 | 判断するのは | そこで起きること |
|---|---|---|
| 警察の捜査 | 警察 | 事件を検察官に送る(送致)。原則として全件を送る |
| 検察官の処分 | 検察官 | 不起訴にするか、略式命令を請求するか、公判を請求するかを決める |
| 裁判所の判断 | 裁判所 | 略式命令を出すか、通常の裁判で判決を出すかを決める |
警察の段階について、刑事訴訟法246条は、捜査をしたときは書類と証拠物とともに事件を検察官に送らなければならないと定めています。そのただし書には、検察官があらかじめ指定した事件は例外とする旨が置かれており、これが「微罪処分」と呼ばれる扱いの根拠です。犯罪捜査規範198条以下は、犯罪事実がごく軽い一定の事件について送致しないことができるとしたうえで、その場合には訓戒を行い、監督する立場の人から請書を取り、被害の回復や謝罪を促すといった処置をとると定めています。
もっとも、指定されている類型は窃盗・詐欺・横領などが中心とされており、性的な事案がこの扱いで終わることは一般に想定しにくいと考えられています。撮影が問題になっている場面では、事件は検察官に送られる前提で考えておくほうが現実的です。
分かれ目その1|そもそも起訴する必要があるか
検察官が最初に判断するのは、刑罰を求める手続に進める必要があるかどうかです。刑事訴訟法248条は、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができると定めています。これが起訴猶予です。
ここで押さえておきたいのが、不起訴にはいくつかの種類があるという点です。証拠が足りないという理由の不起訴(嫌疑不十分)と、事実は認められるが訴追までは要しないという判断(起訴猶予)は、性質が異なります。事実を認めている場面で目指すことになるのは、主に後者です。
条文が挙げている要素のうち、示談や被害弁償、再発を防ぐための取り組みは「犯罪後の情況」に関わります。一方、撮影の態様や件数は「犯罪の軽重及び情状」に関わります。認めていること自体は前者を支える事情になり得ますが、それだけで結論が決まる構造にはなっていません。
分かれ目その2|100万円以下の罰金で足りるか
起訴すると判断された場合、次に来るのが手続の選択です。ここが、多くの解説で飛ばされている分かれ目です。
刑事訴訟法461条は、簡易裁判所が検察官の請求により、公判を開かずに100万円以下の罰金または科料を科すことができると定めています。これが略式命令です。つまり略式は、金額に上限のある枠なのです。
一方、撮影罪(性的姿態等撮影罪)の法定刑は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。罰金の上限は300万円ですが、略式で科せる罰金は100万円までです。この2つの数字がずれているため、罰金による処理が想定される事案であっても、100万円を超える罰金が相当と判断されれば略式では処理できないという関係になります。
もう一つ、略式命令で科せるのは罰金と科料だけであり、拘禁刑を言い渡すことはできません。したがって、執行猶予が付くかどうかにかかわらず、拘禁刑が相当だと考えられた時点で、手続は公開の法廷での裁判に向かいます。「罰金か、拘禁刑か」という選択の前に、「略式という枠に収まるか」という判断が置かれている、という順序です。
なお、撮影行為と併せて刑法上の性犯罪が問題になる場合には、そもそも罰金刑が定められていない罪が含まれることがあります。その場合、起訴されるのであれば通常の裁判になります。罪名ごとの法定刑は、別のコラムで一覧にしています。
分かれ目その3|本人が異議を述べないこと
略式にはもう一つ条件があります。本人が、その手続によることに異議を述べないことです。
刑事訴訟法461条の2は、検察官は略式命令の請求に先立ち、被疑者に手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の裁判を受けることができる旨を告げたうえで、異議がないかどうかを確かめなければならないと定めています。異議がないときは、その旨を書面で明らかにすることとされ、実務では「略式請書」と呼ばれる書面に署名する形をとります。462条により、検察官はこの書面を添えて請求します。
この署名の場面が、手続のなかで本人が直接関与する分かれ目です。署名すれば書面だけで手続が進み、法廷に出る場面はありません。署名しなければ検察官は略式を選べず、起訴するのであれば通常の裁判を請求することになります。
署名を求められたときに整理しておきたいこと
- 自分が認めている事実と、書面に書かれている事実が同じ内容になっているか。
- 罰金であっても有罪の判断であり、前科として残るということ。
- 略式命令の告知を受けた日から14日以内であれば正式裁判を請求できること(465条1項)。ただし、確定した後に同じ結論を動かすことは容易ではないこと。
- 不起訴を目指す働きかけは、この段階よりも前が中心になるということ。
裁判所の側にも判断の余地があります。463条は、略式命令をすることができない場合や、それによることが相当でないと思われる場合には、通常の規定に従って審判しなければならないと定めています。説明と異議の確認という手続が踏まれていない場合も同様です。本人が同意したからといって、そのまま罰金で終わることが約束されるわけではない、ということです。
また、463条の2は、請求の日から4か月以内に略式命令が告知されないときは、公訴の提起がさかのぼって効力を失うと定めています。そして470条により、正式裁判の請求期間が過ぎれば、略式命令は確定判決と同じ効力を持ちます。
「認めている」の中身によって見通しは変わる
ここまでが手続の枠組みです。実際の相談では、もう一つ大きな分かれ目があります。「認めている」という言葉が何を指しているのか、という点です。
認めるかどうかは○か×かの二択のように語られがちですが、実際には次のような複数の要素を含んでいます。
- 撮影した回数と時期。1回なのか、同じ店で複数回なのか、複数の店にまたがるのか。
- 撮影の対象と態様。どの部分を、どのような方法で撮ったのか。
- 撮影したデータをその後どうしたか。端末に残していたのか、他人に送ったり保存場所を共有したりしたのか。
- その場所に立ち入った経緯。撮影の目的で立ち入ったと評価されるかどうか。
これらは、問われる罪名にも、犯罪の軽重の評価にも関わります。撮影しただけの場合と、そのデータを他人に渡している場合とでは、適用される条文そのものが変わります。
したがって、「認めます」と一言で伝えることと、事実関係を正確に伝えることは同じではありません。記憶が曖昧な部分を、その場の空気で「たぶんそのくらいです」と埋めてしまうと、後から訂正するのは簡単ではなくなります。事実を認めたうえで、件数や態様について自分の記憶と違う点があると述べることは、事実を争っていることにはなりません。どこをどう伝えるかは、弁護人と方針を相談してから臨むほうが安全です。
なお、いったん認める発言をした後で訂正したい場合の考え方は、別のコラムで扱っています。
風俗の場面に特有の事情
起訴猶予を目指すうえで大きな要素になるのが、被害を受けた相手との示談です。ところが、風俗の場面にはここに固有の難しさがあります。
- 相手の氏名が源氏名しか分からないことが多く、自分で連絡先にたどり着けません。
- 店が窓口として前に出てくることがありますが、店に金銭を支払うことと、相手本人との清算とは別の話です。
- 性的な事案では被害を受けた側の情報が慎重に扱われるため、弁護人が捜査機関を通じて意向を確認する形をとることが多くなります。
示談が成立しないまま処分の時期を迎えることは、珍しいことではありません。その場合でも、申し入れをした経過を記録に残す、被害弁償の意思を示す、再発を防ぐための取り組みを続けるといった材料は残ります。示談ができないことと、何もできないこととは違います。詳しくは、示談を断られた場合を扱った別のコラムをご覧ください。
一方で、相手を自分で探そうとすることは避けてください。特定を試みる行為は、証拠に働きかけたと受け止められかねず、身体拘束をめぐる判断にも影響し得ます。
罰金で終わった場合に残るもの
略式命令による罰金は、手続が書面で進むため実感が薄いことがありますが、有罪の判断です。前科として記録に残ります。前科がその後の生活にどう関わるかは、別のコラムで整理しています。
このほか、次の点も押さえておいてください。
- 罰金を完納できないときは、労役場に留置されることがあります(刑法18条1項)。確定から30日以内は、本人の承諾がなければ執行できないとされています(同条5項)。
- 刑事の処分が終わっても、相手からの慰謝料請求という民事の問題は別に残ります。請求されている金額が、そのまま支払うべき金額とは限りません。
- 別の件が後から立件された場合、それは別に判断されます。この点は余罪を扱った別のコラムで説明しています。
いまの段階でできること
処分が決まる前の段階でできることを、順に挙げます。
- 自分が認めている事実を、日時・場所・回数・態様の順に書き出して整理する。
- 手元の資料(予約や決済の記録、店とのやり取りなど)を、消さずにそのまま保管しておく。
- 弁護人を通じて、示談や被害弁償の申し入れができる状況かどうかを確認する。
- 再発を防ぐための取り組みを、記録に残る形で始める。
- 略式に関する書面への署名を求められたら、その場で判断せず、内容を確認できる時間をもらえないか尋ねる。
反対に、避けたい対応も挙げておきます。
- 端末のデータを自分の判断で削除したり、機種を変更したりすること。
- 相手や店に直接連絡を取り、その場で現金を渡したり念書を書いたりすること。
- 記憶が曖昧な部分を、聞かれた流れのまま断定的に答えてしまうこと。
まとめ
この記事の要点を整理します。
- 「初犯」は法律上の区分ではなく、条文に「初犯なら罰金」という定めはありません。
- 分かれ目は3つあります。訴追の必要があるか(刑事訴訟法248条)、100万円以下の罰金で足りるか(461条)、本人が異議を述べないか(461条の2)です。
- 撮影罪の罰金上限は300万円ですが、略式で科せるのは100万円までです。両者がずれているため、罰金が想定される事案でも略式にならないことがあります。
- 略式命令では拘禁刑を科せないため、拘禁刑が相当と考えられた時点で通常の裁判に向かいます。
- 「認めている」の中身(件数・態様・データの取扱い)によって、罪名も評価も変わります。認めることと、事実を正確に伝えることは別の作業です。
処分の見通しは、事案ごとの事情によって変わります。早い段階で弁護士に相談することで選択できる手段は増えますが、相談したからといって望む結果が約束されるわけではありません。それでも、どの分かれ目の手前に自分がいるのかを知っておくことは、これから求められる判断の質を左右します。書面への署名を求められる場面が来る前に、一度専門家に状況を伝えておくことをおすすめします。


