【刑事事件・ストーカー事件】緊急禁止命令が出されたら?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

この記事は、2026年10月時点のストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」)にもとづいて書いています。令和7年12月30日施行の改正(職権による警告の創設など)と、2025年6月1日から懲役・禁錮が拘禁刑に一本化されたことを反映しています。


「警告も聴聞もないまま、警察署で突然禁止命令を言い渡された」「15日以内に意見を聴く手続があると説明されたが、それまでは仮の扱いなのか分からない」というご相談をいただくことがあります。

 事前に言い分を聴かれないまま命令が出され、後から意見を述べる機会が設けられるため、これを「仮の命令」のように受け止める方もいます。しかし、現在のストーカー規制法では、この命令は「緊急禁止命令」と呼ばれ、通常の禁止命令と同じ効力をもつ命令です。この記事では、緊急禁止命令を受けた方の立場から、命令の性質、15日以内に行われる意見の聴取への備え、命令が出た後に避けたい行動を整理します。

「仮の命令」の制度はすでに廃止されている

 ストーカー規制法には、かつて「仮の命令」という制度がありました(改正前の6条)。警告を求める申出を受けた事案で緊急の必要がある場合に、警察本部長や警察署長が出すもので、効力は15日に限られていました。その間に公安委員会が意見の聴取を行い、正式な禁止命令に切り替えるか、効力を失わせるかを決める仕組みです。

 この制度は平成28年の法改正で廃止され、平成29年6月14日からは、公安委員会が聴聞を経ずに禁止命令を出せる「緊急禁止命令」(同法5条3項)に置き換えられました。現在、聴聞の前に出される命令は、仮のものではなく禁止命令そのものです。

項目旧制度の仮の命令現行の緊急禁止命令
出す機関警察本部長・警察署長都道府県公安委員会
前提となる手続警告を求める申出を受けていること警告を経ている必要はない
効力の期間15日1年(延長あり)
事後の手続意見の聴取を経て、禁止命令に切り替えるか効力を失わせる命令から15日以内に意見の聴取を行う


 実際の交付や説明は、公安委員会から事務の委任を受けた警察署などが行うのが一般的です(同法17条)。警察庁の資料では、令和2年に出された禁止命令等1,543件のうち、729件が緊急禁止命令等とされています。緊急の手続は例外的に使われるものというより、実務で広く用いられている手続といえます。

緊急禁止命令が出される場面


法律が定める要件

 通常の禁止命令は、命令を受ける人の言い分を聴く「聴聞」を事前に行わなければなりません(同法5条2項)。これに対し、相手方の身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害されることを防止するために緊急の必要があると認めるときは、聴聞を行わずに禁止命令を出すことができます(同条3項)。

 緊急禁止命令は、原則として相手方の申出にもとづいて出されます。ただし、相手方の身体の安全を守るために緊急の必要があるときは、申出がなくても公安委員会の職権で出すことができるとされています。

緊急と判断されやすい事情

 どのような場合に「緊急の必要」があるといえるかは、個々の事案ごとの判断です。警察の事務処理の要領では、行為の態様、頻度、期間、行為をした人の心理状態などを総合して判断するとされています。一般には、次のような事情が重なると、聴聞を待たずに命令が出される可能性が高まると考えられます。

  • 短い期間に、連絡や訪問が何度も繰り返されています。
  • 拒まれた後も、自宅や勤務先の付近での待ち伏せや押しかけが続いています。
  • 危害を加えることをほのめかす言葉や、強い怒りを示すメッセージが送られています。
  • 警察から注意を受けた後も、行動が止まっていません。
  • 相手方が転居や避難を考えるほど強い不安を感じています。


命令書を受け取ったら確認したいこと

 禁止命令は命令書を交付する方法で行われるのが原則ですが、命令書を交付するいとまがないほど急を要する場合には、口頭で行われることもあります。いずれの場合も、どのような内容の命令なのかを正確に把握しておくことが、意図しない違反を避ける出発点になります。

  • 命令がされた日付(有効期間の起算日)。
  • 命令の相手方と、禁止されている行為の具体的な内容。
  • 再発を防ぐために必要な事項として命じられている内容。
  • 意見の聴取の日時・場所と、その通知の届き方。
  • 命令書に記載された担当部署と、不服申立ての方法。


 効力は、通常の禁止命令と同じく命令をした日から起算して1年です(同法5条8項)。継続の必要があると認められれば延長されることもあり、その仕組みは【刑事事件・ストーカー事件】禁止命令の有効期間は?延長されることはある?で解説しています。口頭で命令を受け、内容に分からない点がある場合は、担当部署に確認し、書面で内容を示してもらうよう求めることも考えられます。

15日以内に行われる「意見の聴取」


命令を出した後に言い分を聴く手続

 緊急禁止命令をした公安委員会は、命令をした日から起算して15日以内に、命令を受けた人から意見を聴く「意見の聴取」を行わなければなりません(同法5条3項後段)。事前の聴聞を省いた代わりに、事後に言い分を述べる機会を設ける仕組みです。期日の通知は速やかに行うこととされており、命令を受けてから期日までの時間は短いと考えておく必要があります。

 意見の聴取には、行政手続法の聴聞に関する規定が準用されます(同法5条4項)。そのため、次のことが認められています。

  • 期日に出頭して意見を述べること。
  • 証拠書類などを提出すること。
  • 代理人を選ぶこと。
  • 命令の原因となった事実を裏づける資料の閲覧を求めること。


 公安委員会は、意見の聴取を行ったときは、その結果を考慮しなければならないとされています。

意見の聴取を待つ間も命令の効力は続く

 旧制度の仮の命令は、効力が15日に限られていました。これに対し、緊急禁止命令は、意見の聴取が終わるまでの暫定的な命令ではなく、出された時点から1年の効力をもつ命令です。意見の聴取を待っている間も命令は有効であり、その間に禁止された行為をすれば、命令違反として扱われるおそれがあります。

 意見の聴取で述べた事情が考慮され、命令の扱いが見直される可能性がないわけではありません。ただ、命令がそのまま続くことも十分に考えられるため、「意見の聴取が終わるまでは様子を見てよい」と考えるのは避けたほうが安全です。

準備しておきたいこと


  • 相手方との関係が始まってから命令を受けるまでの経緯を、時系列でまとめたメモ。
  • 命令の原因とされた事実のうち、認める点と事実と異なる点の整理。
  • 連絡先の削除や生活圏の見直しなど、今後相手方と関わらずに過ごすための具体的な取り組み。
  • 相手方の側から連絡があった場合の、その日時と内容の記録。


 意見の聴取での発言は記録に残ります。相手方への不満を中心とした述べ方や事実と異なる説明は、かえって命令を続ける必要を裏づける材料として受け取られるおそれがあります。認めるべき点は認めたうえで、今後どう過ごすかを具体的に伝えることが大切です。正当な理由なく出頭せず書面も出さない場合、意見を述べる機会がないまま手続が終わることもあるため、出頭が難しいときは陳述書を出せるかを担当部署に確認しておくとよいでしょう。述べ方の考え方は【ストーカートラブル】禁止命令の前の聴聞に呼ばれた|聴聞で述べることも参考になります。

命令を受けた後に避けたい行動


相手方への連絡は、謝罪や弁明のためでも控える

 「誤解を解きたい」「一言謝りたい」という気持ちから、相手方に連絡したくなる方は少なくありません。しかし、命令の有効期間中に相手方へ連絡すれば、その目的にかかわらず命令違反として扱われるおそれがあります。共通の友人や家族を通じて気持ちを伝えることや、相手方が見ることを想定したSNSへの投稿も、同じように問題になる場合があります。謝罪の連絡が問題になる理由は【ストーカートラブル】謝りたい|謝罪の連絡そのものが問題になる理由で解説しています。

違反した場合の刑罰

 禁止命令に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金(同法19条)、それ以外の形で命令に違反した場合は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(同法20条)の対象になります。緊急禁止命令であっても、この点は通常の禁止命令と変わりません。違反した場合の手続の流れは【刑事事件・ストーカー事件】禁止命令に違反すると、どんな処分になる?で扱っています。

相手方から連絡が来たとき

 命令を受けた後に、相手方の側から連絡が来ることもあります。返信してよいか迷う場面については【ストーカートラブル】相手から先に連絡が来た|返信したら違反になるのかで整理しています。

命令の内容に納得できないとき

 緊急禁止命令は行政処分であるため、不服がある場合には審査請求や取消訴訟によって争う道があります。審査請求は原則として処分があったことを知った日の翌日から3か月以内、取消訴訟は原則として処分があったことを知った日から6か月以内という期間の制限があります。命令書には不服申立ての方法が記載されるのが通常ですので、まずはその記載を確認してください。

 もっとも、争っている間も命令の効力は続くのが原則です。手続には時間と労力もかかるため、意見の聴取で事情を述べることとあわせて、どの方法をとるのが現実的かを検討することになります。

よくあるご質問


警告を受けていないのに、いきなり禁止命令が出ることはあるのですか

 あります。平成28年の法改正で、禁止命令を出す前に警告を経ている必要はなくなりました。警告の段階を経ずに緊急禁止命令が出されることも、法律上予定されています。警告を受けた段階の見通しは警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのかで扱っています。

禁止命令は裁判所から出されるのですか

 ストーカー規制法の禁止命令を出すのは、裁判所ではなく都道府県公安委員会です。裁判所が関わるのは、相手方が民事の手続で接近禁止の仮処分を申し立てた場合や、命令違反などで起訴された場合などです。

緊急禁止命令を受けると前科がつくのですか

 禁止命令は行政処分であり、刑罰ではないため、それだけで前科がつくことはありません。前科は、命令に違反するなどして起訴され、有罪の裁判が確定した場合につくものです。詳しくは【刑事事件】ストーカーで前科はつくのか|警告・検挙・起訴の分かれ目と、不起訴になる場合をご覧ください。

弁護士に相談できること

 命令を出すかどうか、続けるかどうかを決めるのは公安委員会であり、弁護士が結論を左右できるわけではありません。そのうえで、弁護士は、命令書の内容を確認して禁止されている行為の範囲を整理し、意見の聴取に向けた陳述書や証拠書類の準備、代理人としての出席を担うことができます。相手方との謝罪や示談を検討する場合の窓口になることや、不服申立ての手続を検討することもできます。

まとめ


  • 「仮の命令」の制度は平成29年6月14日に廃止され、現在は緊急禁止命令に置き換えられています。
  • 緊急禁止命令は、聴聞を経ずに出される点を除けば通常の禁止命令と同じ効力をもち、有効期間は1年です。
  • 公安委員会は、命令をした日から15日以内に意見の聴取を行わなければなりません。
  • 意見の聴取では、意見を述べたり証拠書類を提出したりでき、代理人を立てることもできます。
  • 意見の聴取を待っている間も命令は有効で、違反すれば刑罰の対象になります。
  • 謝罪や弁明のためであっても、相手方への連絡は命令違反と受け取られるおそれがあります。


 緊急禁止命令を受けた直後は、何が禁止されているのか、意見の聴取までに何をすればよいのかが分からないまま時間が過ぎてしまいがちです。命令書と意見の聴取の通知書をお手元にご用意のうえご相談いただければ、期日までに準備できることを一緒に確認できます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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