クレプトマニア(窃盗症)と言われた|診断が処分に与える影響
この記事は、2026年10月時点の刑法・刑事訴訟法・犯罪捜査規範・民法の規定をもとに、風俗店の利用客の立場から解説しています。不同意性交等罪・不同意わいせつ罪は2023年7月施行の刑法改正後の罪名、法定刑は2025年6月施行の拘禁刑への一本化後の表記です。個別の事情によって見通しは変わりますので、具体的な対応はご相談のうえで判断してください。
「利用の後、女性本人から『大丈夫、警察には行かないから』と言われて安心していた。ところが、しばらくして店から『被害届が出た』と連絡が来た」。風俗トラブルのご相談の中には、このように、女性本人の言葉を信じていた後に状況が変わったという流れのものがあります。
弁護士ドットコムにも、利用後に女性から「警察に言ったら捕まりますよ」と告げられ、その後に店のスタッフが出てきて示談の話になったという相談や、店から「今後は被害届の提出もない」と言われて示談したものの、本当にこれで終わるのか不安だという相談が寄せられています。その場で交わされた言葉と、その後の手続との関係が分からず、戸惑う方が少なくありません。
この記事では、女性本人が「警察には行かない」と口にした後に被害届が出された場面に絞って、その言葉が法的にどう扱われるのか、知った後に何を確かめ、何を避けるべきかを整理します。店が「警察には言わない」と約束した場面については、次の記事で扱っています。
「警察には行かない」という言葉は、届出をしない約束になるのか
結論からいうと、女性本人がその場で「警察には行かない」と言っていたとしても、それによって後から被害届を出すことや告訴をすることができなくなるわけではありません。理由は三つに分けて考えると分かりやすくなります。
届出や告訴は、本人があらかじめ手放せる権利とはされていない
犯罪の被害を受けたと考える人は、告訴をすることができます(刑事訴訟法230条)。告訴については取消しの規定はありますが、告訴をする前に権利を放棄する規定はありません。裁判例でも、被害者が告訴をする前に告訴権を放棄する意思を示していたとしても、それによって告訴権が消えることはないとした例があります。その場の「警察には行かない」という言葉は、そのときの本人の気持ちを示したものにとどまり、将来の届出を法的に縛るものではないと考えておくのが現実的です。
告訴がなくても捜査や起訴ができる罪がある
風俗の場面で問題にされやすい不同意性交等罪(刑法177条1項・5年以上の有期拘禁刑)や不同意わいせつ罪(刑法176条1項・6月以上10年以下の拘禁刑)は、告訴がなくても起訴できる罪です。また、警察は犯罪による被害の届出があればこれを受理しなければならないとされており(犯罪捜査規範61条1項)、本人以外の人が犯罪があると考えて告発することもできます(刑事訴訟法239条1項)。本人の言葉があっても、捜査が始まる経路がすべて閉じるわけではありません。
その場の言葉と、後から確かめられる合意は別のもの
示談は、当事者が互いに譲り合って争いをやめる和解契約です(民法695条)。女性本人の「警察には行かない」という言葉が、金額や条件と結び付いた合意の一部だったのか、その場の気持ちを口にしただけだったのかによって、意味は大きく変わります。言葉の形ごとに整理すると、次のようになります。
| 言葉の形 | 法的な位置づけ | 届出との関係 |
|---|---|---|
| その場で口頭で言われた | そのときの気持ちの表明にとどまることが多い | 後からの届出を妨げない |
| LINEなどで文字で送られてきた | 経緯を示す記録として残る | 後からの届出を妨げない |
| 本人が当事者の示談書で、宥恕と届出の扱いを定めた | 和解契約として成立し、処分の判断で考慮される事情になる | 捜査機関の判断を法的に止めるものではない |
示談書に「被害届を出さない」と入れた場合の意味と限界は、【風俗トラブル】示談書に「女性は被害届を出さない」と入れておけば安心?で詳しく説明しています。
言葉が変わる背景
「警察には行かないと言っていたのに」と感じると、だまされたように思えるかもしれません。ただ、その場の言葉と後の判断が食い違うことは、珍しいことではありません。考えられる事情には、次のようなものがあります。
- その場では動揺していて、気持ちの整理がついていなかった。
- 時間がたつにつれて、出来事の受け止め方が変わった。
- 家族や友人、支援機関に相談し、届出をすすめられた。
- 店が対応を判断し、本人に届出を促した。
- 示談の話がまとまらなかった、または話が途絶えた。
- 体調の変化や検査の結果など、後から分かった事情があった。
言葉が変わったこと自体は、届出の内容が事実かどうかを決めるものではありません。反対に、「後から気が変わったのだから申告は信用できない」と単純に言えるものでもありません。捜査機関は、言葉の変化も含めた経緯全体を確かめていくことになります。
時間がたってから届け出られることもある
被害届は、出来事の直後に出されるとは限りません。2023年の刑事訴訟法改正により、性犯罪の公訴時効は延長され、不同意性交等罪は15年、不同意わいせつ罪は12年とされています(刑事訴訟法250条3項)。数日後、数週間後、あるいは数か月後に連絡が来るという経過もあり得ます。時間が経ってからの連絡への向き合い方は、【風俗トラブル】数か月前の利用について突然連絡が来た|時間が経ってからの請求で扱っています。
被害届が出たと知ったときに確かめること
その情報は誰から伝えられたのか
まず、「被害届が出た」という情報が、警察から直接伝えられたものか、店やスタッフから伝えられたものかを分けて考えます。店から聞いただけで警察からは何の連絡もない場合、追加の支払いを求める流れの中で持ち出されていることもあります。確かめ方は【風俗トラブル】キャストが警察に相談したと聞かされた|本当かどうか確かめる方法はあるかをご覧ください。
届出の後に何が起きるのか
被害届が受理されると、警察は事実関係を確かめるための捜査を進めます。利用客の側には、事情を聞きたいとして警察署への出頭を求める連絡が来ることがあります。逮捕するかどうかは、逃亡や罪証隠滅のおそれなど、身柄を確保する必要があるかによって判断されるとされています(刑事訴訟規則143条の3)。受理された後の流れは【風俗トラブル】被害届が受理されたと言われた|その後の流れと呼び出しまでの期間で、警察が動き始めるきっかけの全体像は風俗トラブルで警察が動くきっかけ|被害届・通報・摘発から捜査が始まる流れで整理しています。
避けたい対応
女性本人に直接連絡して「話が違う」と伝える
約束を破られたと感じて、女性本人に連絡を取りたくなることがあります。しかし、自分の刑事事件について事情を知っていると認められる人に、正当な理由なく面会を強く求めたり、威迫したりすると、証人等威迫罪(刑法105条の2)にあたる場合があります。取下げを求める連絡そのものが、相手に不安を与え、処分の判断で不利な事情として扱われるおそれもあります。相手方への連絡は、弁護士を通じて行うことを基本にしてください。
やり取りを消してしまう
不安から、予約の履歴やメッセージを消したくなる方もいます。しかし、女性本人の「警察には行かない」という言葉が残っている記録は、経緯を説明する材料になり得ます。また、記録を消す行動は、罪証隠滅のおそれを疑われる事情にもなりかねません。手元の記録はそのまま残しておくことをおすすめします。
店に言われるまま支払う
「今払えば取り下げさせる」と店から告げられることがあります。ただ、届出や告訴の取下げを決めるのは女性本人であり、店が代わりに決められるものではありません。誰に、何の名目で支払うのかが分からないまま支払うと、後から刑事手続の中で被害回復として説明しにくくなります。
「警察には行かない」と言われた記録の扱い
女性本人の言葉が、LINEやメッセージ、録音などで残っている場合は、日時が分かる形で保存しておきます。口頭だけだった場合は、言われた日時、場所、前後のやり取りを、できるだけ早く書き出しておきます。記録の作り方は【風俗トラブル】自分側の記録をどう作るか|相談の前に整理しておく材料で紹介しています。
もっとも、こうした記録は、出来事の後にどのようなやり取りがあったかを示す材料にとどまります。その場で同意があったかどうかは、行為の時点の状況から判断されるもので、事後の言葉だけで決まるものではありません。記録に過度な期待をかけず、どの場面で、どのように示すかは弁護士と相談して決めることが大切です。
示談を考える場合
被害届が出された後でも、示談を目指すことはできます。被害を受けたとされる女性本人との間で示談が成立し、処罰を求めない旨(宥恕)が示されれば、検察官が起訴するかどうかを判断する際の事情として考慮されます(刑事訴訟法248条)。ただし、示談は捜査を法的に止めるものではなく、あくまで処分の判断に影響しうる事情の一つという位置づけです。
加害者とされた側が、女性本人の連絡先を知らない、あるいは直接の連絡を控えるべき場面では、弁護士が間に入ることで、本人の意思を確かめながら話を進めやすくなります。宥恕の意味は宥恕文言の意味|「許す」と書かれると刑事処分はどう変わるかで、示談の後の警察からの連絡については【風俗トラブル】示談した後に警察から連絡が来ることはある?で扱っています。当事務所でも、店とキャスト本人を含めた三者で合意に至った例を【解決事例】風俗店で「警察に行く」と告げられた本番行為トラブル|解決金30万円で三者示談が成立した事例でご紹介しています。
よくあるご質問
女性本人の「警察には行かない」というLINEがあれば、被害届は無効になりますか
無効にはなりません。そのメッセージは、当時のやり取りを示す記録として意味を持つことはありますが、被害届の受理や捜査を妨げるものではありません。経緯を説明する材料として、消さずに保存しておいてください。
店から「女の子が被害届を出した」と言われましたが、警察からは何の連絡もありません
店の言葉だけでは、本当に届出がされたのかは分かりません。警察から連絡が来ていない段階で店に支払いを急ぐ必要はなく、まずはやり取りの記録を残し、弁護士に相談してから進め方を決めることをおすすめします。
警察から連絡が来る前に、こちらから弁護士を通じて動いたほうがよいですか
事情によって判断が分かれます。心当たりがあり、早く区切りをつけたい場合には、弁護士を通じて謝罪と示談を申し入れることが考えられます。一方で、申し入れることで止まっていた話が動くこともあるため、待つか動くかは事情を整理したうえで決めるのが望ましいところです。考え方は【風俗トラブル】「被害届を出すかもしれない」と言われたまま連絡が途絶えたら、どうしておく?で整理しています。
まとめ
- 女性本人の「警察には行かない」という言葉は、その場の気持ちの表明にとどまり、後からの届出や告訴を法的に妨げるものではありません(刑事訴訟法230条)。
- 不同意性交等罪・不同意わいせつ罪は告訴がなくても起訴でき、警察は被害の届出を受理しなければならないとされています(犯罪捜査規範61条1項)。
- 言葉が変わる背景はさまざまで、変わったこと自体で申告の真偽が決まるわけではありません。
- 性犯罪の公訴時効は延長されており、時間がたってから届け出られることもあります(刑事訴訟法250条3項)。
- 被害届が出たと聞いたら、まず誰から伝えられた情報かを確かめます。
- 女性本人への直接の連絡、記録の削除、名目の分からない支払いは避け、相手方への連絡は弁護士を通じて行います(刑法105条の2)。
- 示談は捜査を止めるものではありませんが、起訴するかどうかの判断で考慮される事情になります(刑事訴訟法248条)。
女性本人の言葉を信じていた後に被害届が出たと知ると、どう受け止めればよいか分からなくなるものです。その言葉がどのような状況で、どのような形で交わされたのかによって、取れる手立ては変わります。手元のやり取りや記録をお持ちいただければ、その内容を確かめたうえで、警察への対応と示談の進め方を一緒に検討いたします。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


