薬物事件の再逮捕|余罪が増える流れと身柄の長期化
マッチングアプリやSNSで知り合った相手と会った後、夫や交際相手を名乗る男性が現れ、「警察に言う」「家族や会社に知らせる」と迫られてお金を払ってしまった。こうした、いわゆる美人局(つつもたせ)の被害に遭った方からは、「自分にも後ろめたいところがあるので、被害を訴えてよいのか分からない」というご相談が多く寄せられます。この記事では、脅されて払ったお金について恐喝の被害届を出せるのか、出す前に整理しておきたいこと、払ったお金を取り戻す道について解説します。
本記事は2026年10月時点の法令に基づいています。売春防止法の見直しが国で議論されていますが、本文はこの時点の規定を前提にしています。
美人局で脅されて払ったお金は、恐喝の被害として届け出られる
結論から言うと、脅されてお金を払った場合、恐喝罪の被害として警察に被害届を出すことは可能です。お金を払ったあとでも、届け出ができなくなるわけではありません。
恐喝罪は、相手を脅して怖がらせ、その結果としてお金や物を渡させる犯罪です(刑法249条)。法定刑は10年以下の拘禁刑で、要求されたものの払わずに済んだ場合でも、恐喝未遂として処罰の対象になります(刑法250条)。
美人局では、次のような言葉で支払いを迫られることがよくあります。
- 「警察に行く、被害届を出す」と言われた。
- 「奥さんや会社に全部話す」と言われた。
- 「今ここで払えば終わりにしてやる」と言われ、ATMやコンビニに連れて行かれた。
- 「誠意を見せろ」と言われ、金額を書いた念書や借用書に署名させられた。
「警察に言う」「家族に話す」という言葉は、一見すると正当な権利の主張のようにも聞こえます。しかし、最高裁判所の判例(最高裁昭和30年10月14日判決)は、権利を行使する形をとっていても、その方法が社会通念上許される範囲を超えていれば恐喝罪が成り立つという考え方を示しています。仕組まれた状況で弱みに付け込み、その場で高額の支払いをさせる行為は、恐喝にあたる可能性が高いと考えられます。
恐喝のほかに問題になる罪
美人局の手口によっては、恐喝罪以外の罪名で扱われることもあります。届け出の際に警察がどの罪名で受け付けるかは事情によって変わりますが、大まかには次のように整理できます。
| 手口の特徴 | 問題になる主な罪 | 法定刑の上限など |
|---|---|---|
| 脅して怖がらせ、お金を払わせた | 恐喝罪(刑法249条) | 10年以下の拘禁刑 |
| 「妊娠した」「夫に知られた」など嘘の話を信じさせて払わせた | 詐欺罪(刑法246条) | 10年以下の拘禁刑 |
| 抵抗できないほどの暴行・脅迫でお金を奪った | 強盗罪(刑法236条) | 5年以上の有期拘禁刑 |
| お金は払わなかったが、念書や謝罪などを無理にさせられた | 強要罪(刑法223条) | 3年以下の拘禁刑 |
実際の事案では、脅しとだましが混ざっていることも少なくありません。どの罪名にあたるかを自分で判断する必要はなく、何を言われ、何をさせられたのかを事実として伝えることが大切です。
「自分にも後ろめたいことがある」ときの考え方
美人局の被害者が警察に行くのをためらう最大の理由は、「自分のしたことも問題になるのではないか」という不安です。加害者側はまさにこの不安を利用して支払いを迫ります。
まず押さえておきたいのは、自分に落ち度があったとしても、脅されてお金を払わされたことについては被害者であるという点です。後ろめたい事情があることは、恐喝の被害を訴えることを妨げる理由にはなりません。
そのうえで、届け出の前に、自分の側の事情を落ち着いて整理しておくことが大切です。事情によって、注意すべき点が変わるためです。
相手が成人で、合意のうえだった場合
成人同士が合意のうえで会い、食事をしたり性的な関係を持ったりしただけであれば、通常、それ自体が犯罪として扱われることはありません。お金のやり取りがあったとしても、現行の売春防止法には、成人の合意に基づく買春をした側を処罰する規定は置かれていません。
既婚者であることや不倫関係にあったことは、配偶者との間で民事上の問題になることはあっても、刑事事件の対象ではありません。「不倫をばらす」という脅しに屈する必要はないということです。
相手が18歳未満だった可能性がある場合
相手が18歳未満だった場合は事情が異なります。対価を渡して性的な関係を持つと児童買春の罪にあたることがあり、対価がなくても各都道府県の青少年保護育成条例に触れるおそれがあります。美人局では「この子は未成年だ」と言って脅すことも多いため、まずはその話が本当かどうか、相手の年齢を知っていたか、知り得たかを整理する必要があります。
この場合でも、脅されてお金を払わされたことが恐喝の被害であることに変わりはありません。ただ、届け出によって自分の行為についても事情を聞かれる可能性があるため、警察に行く前に弁護士と方針を相談しておくことをおすすめします。
「同意がなかった」と言われている場合
相手の女性が「無理やりだった」と主張している場合は、不同意性交等罪などの性犯罪として、逆に被害届を出されるおそれがあります。恐喝の被害届と、相手からの被害届の両方が出るかたちになることもあり、言い分を裏付けるやり取りの記録が重要になります。
この場合も、どちらの手続が先に動くか、自分の言い分をどう説明するかを、早めに弁護士と検討しておくことが望ましいといえます。
被害届を出すまでの流れと準備
被害届は、最寄りの警察署や、被害に遭った場所を管轄する警察署で出すことができます。警察官は、被害の届け出があれば、管轄区域の事件かどうかにかかわらず受理しなければならないとされています(犯罪捜査規範61条)。
もっとも、実際には「まず相談として話を聞く」という扱いになり、その場で被害届の受理に至らないこともあります。受理してもらうためには、被害の内容が具体的に伝わる資料をそろえておくことが役に立ちます。
- 相手とのメッセージ・通話履歴(アプリのやり取りはスクリーンショットで保存)。
- 相手のアカウント名、電話番号、会った日時と場所が分かる記録。
- 脅された際の録音や、言われた言葉を思い出せる限り書き出したメモ。
- 振込明細、ATMの利用明細、引き出した日時の記録。
- 署名させられた念書や借用書、その写真。
- 同行した店舗やホテルの名称、利用した交通手段の記録。
記憶は時間とともに薄れていくため、言われた言葉や順序は、できるだけ早いうちにメモにしておくとよいでしょう。相手が送ってきたメッセージを自分で消したり、相手をブロックしたりする前に、まず記録を残しておくことが大切です。
被害届と告訴の違い
被害届は、犯罪の被害に遭った事実を警察に申告するものです。これに対して告訴は、被害の申告に加えて、加害者の処罰を求める意思を示す手続です。告訴を受けた警察は、関係する書類や証拠を検察官に送付しなければならないとされています(刑事訴訟法242条)。
恐喝罪は、告訴がなければ起訴できない親告罪ではないため、被害届だけでも捜査が始まることはあります。ただ、警察の動きが鈍いと感じる場合や、処罰を求める意思をはっきり示したい場合には、告訴を検討することもあります。
家族や勤務先に知られるのか
被害届を出したこと自体が、警察から家族や勤務先に知らされるわけではありません。捜査の過程で連絡先として自宅が使われることはありますが、連絡方法について希望を伝えることもできます。
また、加害者が起訴された場合に備えて、起訴状などで被害者の氏名や住所を伏せる制度も設けられています。周囲に知られることを心配して届け出をためらっている方は、こうした仕組みがあることも踏まえて判断するとよいでしょう。
時間が経ってからでも届け出はできる
恐喝罪の公訴時効は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。数か月前の被害であっても、届け出ができなくなるわけではありません。ただし、時間が経つほど相手の特定や証拠の確保が難しくなるため、迷っている場合でも早めに動き出すことが望ましいといえます。
払ったお金を取り戻す道
脅されて払ったお金は、本来払う必要のなかったお金です。取り戻すための道は、大きく分けて刑事手続の中での被害弁償と、民事上の請求の二つがあります。
刑事手続の中での被害弁償・示談
加害者が逮捕・起訴された場合、加害者側の弁護人から、被害弁償や示談の申し出が来ることがあります。加害者にとって、被害者への弁償や示談は処分や量刑に影響しうる事情であるため、この段階でお金が戻ることも少なくありません。
示談に応じるかどうか、被害届を取り下げるかどうかは被害者が決めることです。弁償額や示談書の条項、今後の接触の禁止などについて、内容を確認したうえで判断することが大切です。
民事上の請求
加害者に対しては、不法行為による損害賠償として支払ったお金の返還を求めることができます(民法709条)。脅されてした支払いの約束や念書についても、強迫を理由に取り消すことができる場合があります(民法96条1項)。
損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から3年、被害に遭った時から20年で時効にかかるとされています(民法724条)。相手の本名や住所が分からない場合でも、電話番号や振込先の口座などの手がかりがあれば、弁護士会照会などを通じて特定を試みることができる場合があります。
なお、脅される前に女性本人へ渡した対価については、事情によって返還を求めにくいことがあります。脅されて払ったお金とそれ以前のやり取りは、分けて整理しておくとよいでしょう。
届け出の前後で気をつけたいこと
一度お金を払うと、「まだ足りない」「次は会社に行く」などと、追加の要求が続くことがあります。追加の要求には応じず、やり取りの記録を残しておくことが大切です。
届け出をしたあとに、相手から「被害届を取り下げろ」「取り下げれば返す」と直接連絡が来ることもあります。こうした連絡にその場で応じると、新たなトラブルにつながるおそれがあります。弁護士が窓口になれば、相手との直接のやり取りを減らし、返金や接触の停止について条件を整えたうえで話を進めることができます。
美人局の被害は、恥ずかしさや後ろめたさから一人で抱え込んでしまいやすい問題です。届け出るかどうかを決める前の段階でも、事実関係を整理することから始めてみてください。
関連する解説記事
- マッチングアプリで美人局に遭った|「彼氏を名乗る男」への対処
- 美人局と正当な慰謝料請求の見分け方|払う前に確認すべきこと
- 恐喝・強要・脅迫はどう違うのか|言い方で罪名が変わる
- 自分にも非がある場合の警察相談|恐喝被害を申告する際の障害
- 「未成年だった」と脅された|事実確認と恐喝への対応
- 被害届を受理してもらえない|断られたときにできること
- 払ってしまった後に取り戻せるか|恐喝・強迫を理由とする返還
- 脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違い
- 【解決事例】パパ活を装った性的行為の強要・恐喝被害|現場での身元特定と交渉により被害金・諸費用を含む400万円の回収を実現した事例
弁護士法人若井綜合法律事務所へのご相談
美人局の被害では、恐喝の被害届を出すかどうか、自分の側の事情をどう説明するか、払ったお金をどう取り戻すかを、あわせて考える必要があります。当事務所では、警察への届け出の準備から、加害者側との交渉、返金の請求まで、ご事情に合わせた進め方をご提案します。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


