【刑事事件】風俗トラブルでDNAを採取させてほしいと警察に言われたら?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

本記事は、2026年10月時点の刑事訴訟法、刑法(2023年改正後の不同意性交等罪・不同意わいせつ罪)、国家公安委員会規則「DNA型記録取扱規則」をもとに記載しています。実際の対応は、事件の内容や捜査の段階によって異なります。


風俗店の利用後に警察署へ呼ばれ、話を聞かれた最後に「口の中の細胞を綿棒で取らせてほしい」と言われた、というご相談があります。「断ったら怪しまれるのでは」「応じたら不利になるのでは」と迷い、その場で何も決められないまま帰宅して不安が続く方も少なくありません。

 インターネット上では「DNA採取は任意なので拒否できる」と説明されることが多く、その説明自体は誤りではありません。ただ、風俗トラブルでDNAを求められる場面には特有の事情があり、断るか応じるかの判断は、何が疑われているのか、自分が何を認め何を争うのかによって変わります。

 この記事では、警察からDNAの採取を求められたときの法的な位置づけと、風俗トラブルの場面で判断を分ける事情を整理します。身体からの資料採取全般の仕組みは身体からの資料採取を求められた場合|任意採取と令状で解説していますので、あわせてご覧ください。

警察のDNA採取は「任意」と「令状」の2通りがある

警察が被疑者からDNAを得る方法は、本人の承諾を得て行う任意の採取と、裁判官が発する令状に基づく強制の採取に分かれます。まずはこの違いを押さえておくことが、落ち着いて判断するための出発点になります。

指紋・写真とDNAは扱いが違う

逮捕などで身体を拘束された被疑者については、令状がなくても指紋の採取や写真の撮影ができると法律に定められています(刑事訴訟法218条3項)。一方、DNAの採取については同じような規定がありません。

 そのため、口の中の粘膜を綿棒でこすり取る方法は、通常、本人が任意に提出する形で行われます(同法221条)。逮捕されていない在宅の段階で「DNAを取らせてほしい」と言われた場合、それは協力のお願いであり、応じるかどうかは本人が決められます。

令状がある場合は拒めない

これに対し、裁判官から身体検査令状(同法218条1項)や鑑定処分許可状(同法225条、168条1項)が発付されている場合は、強制処分として採取が行われます。この場合は、拒んでも採取を止めることはできません。

 令状が出るには、裁判官が犯罪の嫌疑や採取の必要性を審査します。「DNAの提出を断ったから」という理由だけで令状が出るわけではありませんが、不同意性交等罪のように重い罪が疑われ、DNAが事実の確認に役立つ事件では、令状が請求される可能性も考えておく必要があります。

項目任意の採取令状による採取
根拠本人の承諾(任意提出)身体検査令状・鑑定処分許可状
拒めるか拒むことができる拒むことはできない
主な方法口腔内の粘膜を綿棒で採取採血などを含む
書面承諾書・任意提出書への署名を求められることが多い令状が示される


本人が手放した物から採られることもある

本人が提出を断っても、警察は本人が捨てた物や置いていった物を領置することができます(同法221条)。こうした物からDNAが検出されることもあります。

 つまり、「断ればDNAが知られることはない」とまでは言えないという点も、判断の前提として知っておいたほうがよいでしょう。

風俗トラブルでDNAを求められる理由

風俗店の利用をめぐる事件では、女性側が被害を申告した後、医療機関などで体液の付着物を採取していることがあります。警察が客にDNAを求めるのは、それと照らし合わせるためと考えられます。

DNAで分かること・分からないこと

DNAの照合で分かるのは、主に「誰の体液や細胞か」という点です。接触があったことや、場合によっては性交があったことの裏付けにはなります。

 一方で、DNAの結果から、その行為に同意があったかどうかは分かりません。不同意性交等罪(刑法177条)や不同意わいせつ罪(同法176条)で争点になるのは、多くの場合、同意の有無や、同意できない状態だったかどうかです。罪名が出たときの整理は【風俗トラブル】不同意性交等罪と言われた|風俗の場面で罪名が出たときの整理をご覧ください。

争う点によってDNAの意味が変わる

風俗店の利用では、客と女性が接触したこと自体は前提になっていることがほとんどです。そのため、DNAが意味を持つかどうかは「何を争うのか」によって変わります。

 たとえば、性交があったことは認めたうえで同意の有無を争うのであれば、DNAの結果が争点を左右する場面は限られます。反対に、性交そのものがなかったと述べている場合は、DNAの結果がその説明と食い違わないかが問題になり得ます。DNAへの対応と、取調べで話す内容は、一体として考える必要があります。取調べで聞かれる項目は風俗事件の取調べで聞かれること|供述が争点に直結する項目で整理しています。

利用者の特定に使われる場合もある

偽名で予約していた場合や、店が客の連絡先を把握していない場合には、DNAが利用者の特定に使われることもあります。すでに警察から連絡が来ている段階であれば、特定の手がかりは別にあると考えるのが自然です。

 警察から最初に連絡が来た段階の対応は、警察から呼び出しの電話が来た|任意同行・出頭要請への対応で解説しています。

断るか応じるかを考えるときの視点

DNAの提出は、断ることも応じることも本人の自由です。どちらが適切かは一律には決まらず、事件の状況によって変わります。

応じることが意味を持つ場面

人違いである場合や、問題とされている行為をしていないことがDNAで裏付けられる場合には、自分から応じることで早く疑いが解ける可能性があります。

 また、DNAの結果が自分の説明と矛盾しないことが明らかな場合には、協力的な姿勢を示すことが、その後の在宅での捜査の進み方にとって不利に働くことは考えにくいでしょう。

慎重に考えたい場面

一方で、何の事件で、何と照合するために求められているのかが分からないまま応じることには慎重であってよいと考えます。採取されたDNA型は警察のデータベースに記録され、別の事件の捜査に使われることがあるためです。

 DNAは黙秘権の対象となる「供述」そのものではありませんが、任意の提出を断ることは、本人に認められた選択の一つです。断ったことだけを理由に直ちに逮捕されるわけではありません。ただ、事件の重さや他の証拠によっては令状が請求されることもあるため、断れば終わるとは考えないほうがよいでしょう。黙秘との関係は黙秘したほうがよいのか|黙秘の効果とリスクの整理で解説しています。

その場で決めきれないときの伝え方

その場で判断がつかない場合は、「任意でしょうか、令状はありますか」「何の事件の捜査かを教えてください」と落ち着いて確認し、「弁護士に相談してから回答したい」と伝えることも考えられます。

 その際、書面への署名を求められたら、承諾書なのか任意提出書なのか、何が書かれているのかを確認してから判断してください。スマホの提出を求められた場合も考え方は共通しており、【刑事事件】警察に「スマホを任意で出してほしい」と言われた|応じる前に確認することで解説しています。

採取された後と、弁護士に相談する意味

すでにDNAを提出してしまった方も、提出したこと自体を過度に心配する必要はありません。大切なのは、その後の取調べや示談への向き合い方です。

提出したDNAの記録はどうなるのか

採取されたDNA型の記録は、国家公安委員会規則に基づいて警察が管理し、本人が死亡したときや保管する必要がなくなったときに抹消するとされています。ただ、不起訴になれば自動的に消えるという運用にはなっていません。

 この点について、名古屋高裁は2024年8月30日、無罪が確定した方のDNA型・指紋・顔写真のデータを保管し続けることは許されないとして、抹消を命じる判決を出し、確定しています。抹消を求めることができるかは事案ごとの判断になり、すべてのケースで認められるわけではありません。

弁護士が関わることでできること

弁護士は、警察から何の事件で何を求められているのかを確認し、DNAへの対応と供述の方針を一緒に組み立てることができます。在宅の捜査では、本人の知らないところで手続が進むこともあるため、早い段階で方針を決めておく意味は小さくありません。

 また、風俗トラブルでは、女性側との示談が処分に影響することが多くあります。被害届が出される前、受理された後、起訴の前でできることが変わるため、示談を始めるタイミング|被害届前・受理後・起訴前で何が違うかもあわせてご覧ください。在宅事件の進み方は在宅事件になった場合|見えない時間の進み方で解説しています。

よくあるご質問


DNAの提出を断ったら、逮捕されますか?

断ったことだけを理由に逮捕されることは通常ありません。逮捕には、罪を犯したと疑うに足りる理由に加え、逃亡や証拠隠滅のおそれなどが必要とされます。ただし、警察からの呼び出しに応じない状態が続くなど、他の事情と合わさって判断されることはあります。

一度提出したDNAを、後から返してもらうことはできますか?

提出した資料やDNA型の記録の返還・抹消を求めることは考えられますが、応じてもらえるかは事案によります。不起訴となった場合でも、警察が記録を保管し続けることがあります。抹消を求めたい場合は、事件の結果が出た段階で弁護士にご相談ください。

店から「DNA鑑定をする」と言われた場合と同じですか?

同じではありません。店や女性側には、客にDNAの提出を強制する権限はありません。警察の場合は、令状があれば採取が強制されることがあります。店から言われた場合は、それを理由に金銭の支払いを急がされていないかに注意し、警察から求められた場合は、任意か令状に基づくものかをまず確認することが大切です。

まとめ


  1. 逮捕などで身体を拘束された被疑者の指紋・写真は令状なしで採取できますが(刑事訴訟法218条3項)、DNAには同様の規定がありません。
  2. 令状がない場合のDNA採取は任意の提出であり(同法221条)、応じるかどうかは本人が決められます。
  3. 身体検査令状や鑑定処分許可状がある場合は強制処分となり、拒むことはできません(同法218条1項、225条)。
  4. DNAで分かるのは誰の体液や細胞かという点で、不同意性交等罪(刑法177条)で争点になりやすい同意の有無は分かりません。
  5. DNAへの対応は、取調べで何を認め何を争うかと一体で考えることが大切です。
  6. 断っただけで逮捕されることは通常ありませんが、事件によっては令状が請求されることもあります。
  7. 採取されたDNA型の記録は国家公安委員会規則に基づき管理され、抹消が認められるかは事案ごとの判断になります。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。風俗店の利用をめぐって警察から連絡が来た方、事情聴取やDNAの提出を求められて対応に迷っている方からのご相談にも対応しています。

すでにDNAを提出した後の方、これから警察署に行く予定がある方も、状況を整理するところからお手伝いします。ご家族からのご相談もお受けしていますので、一人で判断する前にお問い合わせください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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