【刑事事件】交際相手への傷害で逮捕された、職場への影響は?
別れ話がこじれて感情が高ぶり、相手のスマートフォンを床に投げつけた、部屋の物を払い落とした――。我に返ってから「これは犯罪になるのか」「警察に届けられたらどうなるのか」と不安になる方は少なくありません。
他人の物をわざと壊せば、器物損壊罪にあたる可能性があります。ただ、別れ話の場面では「その物が誰の物なのか」がはっきりしないことが多く、壊した物や壊し方によっては別の罪名が問題になることもあります。この記事では、別れ話の最中に相手の物を壊してしまった方に向けて、器物損壊罪が成立するかどうかの考え方と、その後の手続、いまできることを整理します。
本記事は、2025年6月1日施行の改正刑法により懲役・禁錮が「拘禁刑」に一本化された点を反映しています。
器物損壊罪が成立するための3つの要素
器物損壊罪は、他人の物を損壊した場合に成立する犯罪で、法定刑は3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料です(刑法261条)。成立するかどうかは、おおむね次の3点で判断されます。
- 壊した物が「他人の物」であること。
- 物を「損壊」したといえること。
- わざと壊したこと(故意があること)。
別れ話の場面で特に問題になりやすいのは、1つ目の「他人の物かどうか」です。交際中は物のやり取りや共同での購入が多く、別れる時点で所有がはっきりしないことがあるためです。
「誰の物か」で結論が変わる
相手に贈ったプレゼント
自分がお金を出して買った物でも、相手にプレゼントとして渡した時点で、所有は相手に移ったと考えるのが一般的です。「自分が買ってあげた物だから」という理由で壊したとしても、相手の物を壊したと評価されるおそれがあります。別れ話の中で「返してほしい」と言い出す場面はよくありますが、返してもらえないからといって壊してしまうと、別の問題を自分から作ることになります。
二人で買った物・同棲中の家具や家電
二人でお金を出し合って買った家具や家電は、共有と見られることがあります。共有物は、自分の持分があっても相手の持分が含まれる以上、「他人の物」として扱われると考えられています。同棲中の部屋の物は、誰が代金を払ったか、誰の名義で買ったかといった事情から所有が判断されることになります。
自分の物でも問題になる場合
自分の物を壊しても、通常は器物損壊罪にはなりません。ただし、差押えを受けている物や、他人に貸している物などは、自分の物でも損壊罪の対象になります(刑法262条)。また、ローンで購入して所有権が販売会社に残っている物や、賃貸物件の備品などは、そもそも自分の物ではない場合があります。
| 壊した物の例 | 誰の物と見られやすいか | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 相手のスマートフォン・衣類 | 相手の物 | 最も典型的な器物損壊の場面 |
| 自分が贈ったプレゼント | 相手の物 | 渡した時点で所有が移ったと見られやすい |
| 二人で買った家具・家電 | 共有の物 | 自分の持分があっても対象になり得る |
| 賃貸の部屋の壁・ドア | 大家(貸主)の物 | 建造物損壊罪が問題になることがある |
| 自分の物 | 自分の物 | 差押え・貸している物などは例外 |
「壊した」「わざと」はどう判断されるか
「損壊」は、物を物理的に壊すことに限られず、その物の本来の効用を害する行為を広く含むと解されています。画面を割る、踏みつけて使えなくする、水に沈めるといった行為のほか、持ち去って隠し、相手が使えない状態にすることも損壊にあたるとされた例があります。
一方で、器物損壊罪は「わざと」壊した場合に成立する犯罪です。もみ合いの中で手が当たって落ちた、よろけた拍子に踏んでしまったなど、壊すつもりがなかったのであれば、刑事上の責任は問われないことがあります。ただし、相手に向かって物を投げた、床にたたきつけたといった行為は、壊れることを分かっていたと評価されやすい点に注意が必要です。また、刑事責任が問われない場合でも、壊した物の弁償など民事上の責任が残ることはあります。故意の判断については壊すつもりはなかった|器物損壊罪の故意はどこで認定されるかで詳しく解説しています。
器物損壊だけで済まない場合がある
別れ話の最中の行為は、器物損壊以外の罪名に当てはまることがあります。代表的なものは次のとおりです。
- 賃貸の部屋の壁やドアを壊した場合の建造物損壊罪(5年以下の拘禁刑、刑法260条)。
- 相手のすぐ近くに物を投げつけた場合の暴行罪(刑法208条)。
- 「次はお前だ」など危害を告げる言葉を伴った場合の脅迫罪(刑法222条)。
建造物損壊罪と暴行罪、脅迫罪は、後で説明する親告罪ではありません。被害者が処罰を求めるかどうかにかかわらず起訴される可能性がある点で、器物損壊罪とは扱いが異なります。物を投げて相手に当たらなかった場合でも暴行罪が問題になることがあり、その範囲は押した・つかんだだけで暴行罪になるのか|「有形力の行使」の範囲で、建物の一部かどうかの分かれ目は建物や門扉を壊した|建造物損壊と器物損壊はどこで分かれるかで取り上げています。
また、同棲している交際相手との間の暴力は、配偶者暴力防止法の保護命令の対象になることがあります。この点は交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応で整理しています。
器物損壊罪は「親告罪」である
器物損壊罪は、被害者の告訴がなければ起訴されない親告罪です(刑法264条)。このことには、いくつかの意味があります。
- 告訴は、原則として犯人を知った日から6か月以内にする必要があります(刑事訴訟法235条)。
- 告訴は起訴されるまで取り消すことができ、一度取り消すと同じ事実で再び告訴することはできません(刑事訴訟法237条)。
- 告訴がされる前でも、警察が事情を聞いたり、状況によっては逮捕したりすることはあります。
- 告訴できるのは原則として物の所有者ですが、その物を正当に使っていた人にも告訴を認めた判例があります(最判昭和45年12月22日)。
つまり、親告罪だから警察は動かない、ということではありません。別れ話の現場で110番通報され、そのまま署で事情を聞かれる、現行犯で逮捕されるといった展開も考えられます。そのうえで、最終的に起訴されるかどうかは、被害者の告訴の有無に大きく左右されることになります。告訴の取消しを書面でどう整えるかは被害届の取下げ・告訴の取消をどう書くかで解説しています。
通報された後の一般的な流れ
別れ話の場で相手が110番通報した場合、おおむね次のような流れが考えられます。
- 警察官が現場に来て、双方から事情を聞きます。
- その場で逮捕される場合と、署で事情を聞かれた後に帰宅できる場合とに分かれます。
- 帰宅した場合は在宅のまま、後日あらためて呼び出しを受けることがあります。
- 被害者が告訴するかどうか、示談が成立するかどうかなどを踏まえ、検察官が処分を決めます。
逮捕されるかどうかは、壊した物の内容や被害の程度、暴力の有無、逃亡や相手への働きかけのおそれなどを総合して判断されます。後日、警察から連絡が来た場合の対応は警察から呼び出しの電話が来た|任意同行・出頭要請への対応も参考にしてください。
壊してしまった後に気をつけたいこと
相手に直接連絡して取り下げを頼まない
謝りたい、弁償したいという気持ちから、相手に繰り返し連絡したり、自宅を訪ねたりしたくなることがあります。しかし、別れ話がこじれた直後の連絡は、相手に不安を与えやすく、「告訴をやめてほしい」と頼む内容であれば、圧力をかけていると受け取られるおそれがあります。連絡の仕方によっては、ストーカー規制法上のつきまといが疑われる場面も考えられます。この点は【ストーカートラブル】謝りたい|謝罪の連絡そのものが問題になる理由や【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面でも触れています。
示談で話し合う内容
器物損壊罪は親告罪のため、被害者との示談は処分に大きく影響することがあります。示談では、壊した物の修理費や時価をどう算定するか、処罰を求めない旨(宥恕)を盛り込むか、今後の接触をどうするかといった点を話し合うことになります。新品の購入価格と、使用期間を踏まえた時価とでは金額が変わることもあるため、相手から示された金額をそのまま受け入れる前に内訳を確認しておくことが大切です。修理費と示談の進め方は器物損壊で被害届が出された|修理費と示談で、弁償が処分に与える影響は弁償すれば終わるのか|財産犯で被害弁償が処分に与える影響で解説しています。
記録を残しておく
何をどのように壊したのか、そのときどのような言い合いがあったのか、相手からの暴力はなかったかなどを、記憶が新しいうちにメモにしておくと、後で事実を整理する助けになります。相手からも手が出ていた場合の考え方は相手も殴ってきた(相互暴行)|被害者でも加害者でもある場合で取り上げています。
よくあるご質問
壊した物を弁償すれば、罪にはならないのでしょうか
弁償をしても、壊した時点で犯罪が成立していることには変わりがありません。ただ、器物損壊罪は親告罪のため、弁償を含めた示談が成立し、被害者が告訴をしない、または取り消すことになれば、起訴されないことになります。
相手がまだ被害届を出していない段階でも相談できますか
ご相談いただけます。告訴の前に弁護士が間に入って弁償や今後の接触について話し合うことで、刑事手続に進まずに解決できることもあります。
別れ話そのものはまだ終わっていません
物を壊したことをきっかけに、本人同士で話し合いを続けることが難しくなる場合もあります。弁護士を窓口にして関係の整理を進める方法については【男女トラブル】別れ話を弁護士に任せるときの流れ|本人と会わずに関係を終えるをご覧ください。
まとめ
別れ話の最中に相手の物を壊してしまった場合、器物損壊罪が成立するかどうかは、その物が誰の物か、わざと壊したといえるかによって判断されます。壊した物が建物の一部であったり、相手の近くに物を投げつけたりした場合には、親告罪ではない罪名が問題になることもあります。感情的になった直後こそ、相手に直接働きかけるのではなく、事実を整理したうえで弁償や示談の進め方を考えることが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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