会社の内部調査(ヒアリング)に呼ばれた|話す前に整理すべきこと
「壊すつもりはなかった」――器物損壊の疑いで警察から話を聞かれている方から、よくうかがう言葉です。実際、器物損壊罪は故意がなければ成立しない犯罪で、不注意で壊しただけであれば刑事責任は問われません。
ところが、そう説明しても捜査が終わらない、というご相談は少なくありません。故意があったかどうかは、本人が「わざとではない」と述べたかどうかではなく、行為の様子や前後の言動といった外から見える事情をもとに判断されるためです。
この記事では、器物損壊罪の故意がどの点で認定されるのか、「わざとじゃない」という説明がどこまで届き、どこから届きにくくなるのかを整理します。
まず、条文の位置づけを確認する
器物損壊罪は刑法261条に定められています。「前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する」という条文です。拘禁刑は、従来の懲役刑と禁錮刑を一本化した刑罰で、2025年6月1日に施行されました。
条文の冒頭に「前三条に規定するもののほか」とあるとおり、物を壊す行為は対象によって適用される条文が分かれます。
| 条文 | 主な対象 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 刑法258条(公用文書等毀棄) | 公務所の用に供する文書・電磁的記録 | 3月以上7年以下の拘禁刑 |
| 刑法259条(私用文書等毀棄) | 権利義務に関する他人の文書・電磁的記録 | 5年以下の拘禁刑 |
| 刑法260条(建造物等損壊) | 他人の建造物・艦船 | 5年以下の拘禁刑 |
| 刑法261条(器物損壊等) | 上記以外の他人の物 | 3年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金または科料 |
そのうえで、刑法38条1項は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない」と定めています。器物損壊罪には過失犯を処罰する規定が置かれていないため、過失で他人の物を壊しても、この罪には問われません。また、未遂を処罰する規定もないため(刑法44条)、壊そうとして壊れなかった場合も同様です。
「わざとでなければ罪にならない」という理解自体は、ここまでは正確です。問題はその先、「わざとかどうかを誰がどう決めるのか」にあります。
故意の中身は「壊す目的」ではない
ここで多くの方が誤解されるのが、故意の意味です。
刑事実務でいう故意とは、①その結果が生じることを認識し、②その結果が生じてもかまわないと受け入れていた(認容していた)という心理状態を指します。「壊してやろう」という積極的な目的までは必要とされていません。
つまり、「壊れるかもしれないが、それでもかまわない」と考えて行為に及んだ場合も故意にあたります。これを未必の故意といいます。
このため、次のような説明は、本人の実感としては「わざとではない」でも、法的には故意が認められる方向に働くことがあります。
・腹が立って机を強く叩いたところ、上に置かれていた機器が落ちて壊れた
・相手ともみ合った際、間にあった物を払いのけたら破損した
・立ちふさがっていた自転車を蹴ってどかしたら、部品が曲がった
いずれも「壊すこと」自体は目的ではありません。しかし、その行為をすれば物が壊れる可能性は当然に予想できる、という評価がされやすい場面です。動機や目的が別のところにあったことは、故意を否定する事情というより、量刑や処分を考えるうえでの事情として扱われることが多いといえます。
「わざとじゃない」には、性質の違う場面が混ざっている
ご相談の場面で「わざとじゃない」と言われる内容は、実際には次のように分かれます。どれにあたるかで、主張の通りやすさが大きく変わります。
| 説明の内容 | 実際の中身 | 故意の評価 |
|---|---|---|
| 手が滑った、ぶつかっただけ | 結果の予想も受け入れもない不注意 | 故意は認められにくい |
| 壊れるとは思ったが、そこまで考えていなかった | 結果を予想したうえで行為に及んでいる | 未必の故意が問題となる |
| 壊すつもりはなく、別の目的だった | 行為自体は意図的で、結果も予想できた | 故意が認められる方向に働く |
| 酔っていて覚えていない | 記憶の問題であり、行為時の認識とは別 | そのままでは否定材料になりにくい |
| 自分の物・共有物だと思っていた | 「他人の物」という認識を欠く | 故意が否定される余地がある |
このうち1番目と5番目は、主張として筋が通る類型です。一方、2番目から4番目は、本人の感覚では「わざとではない」でも、そのまま説明しても捜査機関の見方が変わりにくい類型といえます。
ご自身の説明がどの類型にあたるのかを整理しないまま「わざとじゃない」とだけ繰り返すと、話がかみ合わないまま取調べが続くことになりかねません。
「損壊」の範囲が広いため、「壊れていない」も反論になりにくい
もう一点、押さえておきたいのが「損壊」の意味です。
判例は、損壊を物理的に壊す行為に限定していません。大審院は、料理店の食器に放尿した行為について、その食器を本来の用途に用いることができない状態にしたとして器物損壊罪の成立を認めています(大判明治42年4月16日)。物の効用を失わせる行為が広く含まれる、という考え方です。
同様に、他人の池の鯉を流出させた行為も対象とされ(大判明治44年2月27日)、校庭に杭を打ち込み立札を掲げて授業に支障を生じさせた行為についても、その効用を害するとして器物損壊罪の成立が認められています(最決昭和35年12月27日)。
この考え方のもとでは、次のような場面でも成立の余地が出てきます。
・物に液体や塗料をかけて、そのままでは使えない状態にした
・嫌がらせのために物を隠して、使えないようにした
・飼育されている生き物を逃がした
こうした場面で問われるのは「壊す認識」ではなく、「その物を使えない状態にする認識」です。「形は残っているのだから壊していない」という説明が、想定したほど反論として機能しないのはこのためです。
捜査機関が故意を推認する客観的な材料
故意は目に見えません。そのため、捜査機関は次のような客観的事情を積み上げて判断します。
・行為の態様(力の向き、当たった箇所、繰り返しの有無)
・道具を用いたか、その場にあった物を使ったか、持参したか
・損傷の形状が、偶然の接触と説明できる形か
・行為の直前のやり取り(口論、感情的な言葉のあったか)
・行為の直後の言動(謝ったか、その場を離れたか、申告したか)
・当事者間の関係やトラブルの経緯
・防犯カメラの映像、目撃者の説明
・被害の申告内容と、本人の説明との食い違い
たとえば、同じ「car のミラーが破損した」という結果でも、通行の際に体が当たったのか、正面から手で複数回押し込んだのかで、映像や損傷の形から受ける評価は変わります。
とくに影響が大きいのが、直後の行動です。その場で被害者に申し出た事情は、故意を否定する方向にも、真摯な対応として処分を軽くする方向にも働き得ます。反対に、その場を離れた、連絡を取らなかったという事情は、後から「わざとではない」と説明しても整合しないと見られやすくなります。
取調べで、故意の記載が生まれる場面
実務上、故意の認定に最も直結するのは、供述調書に残る一文です。
取調べでは、「壊れると思わなかったのか」「壊れてもかまわないと思っていたのではないか」といった趣旨の質問が繰り返されることがあります。これらは未必の故意の有無を確かめる質問です。
このとき、「そう言われればそうかもしれません」「壊れる可能性は考えなかったとまでは言えません」といった曖昧な受け答えが、調書では「壊れてもかまわないと思っていた」という要約になることがあります。調書は一問一答の記録ではなく、取調官がまとめた文章として作成されるためです。
対応として押さえておきたいのは、次の点です。
・調書は読み聞かせを受けたうえで署名押印するもので、内容が自分の認識と違う場合は訂正を申し立てられる(刑事訴訟法198条4項、同条5項)
・署名押印そのものを拒むこともできる
・記憶が曖昧な部分は、曖昧なまま「覚えていない」と述べるほうが、後の説明と矛盾しにくい
・言い直しをしないまま供述が積み重なると、後から覆すのは容易ではない
いったん故意を認める内容の調書が作成されると、その後に説明を変えても、変遷した理由を説明する必要が生じます。取調べの初期段階で弁護人と方針を確認しておく意味は、この点にあります。
「酔って覚えていない」は、故意の否定にはつながりにくい
飲酒後のトラブルは、器物損壊で相談が多い場面の一つです。
ここで注意が必要なのは、「記憶がない」ことと「故意がなかった」ことは別だという点です。行為の当時に判断して行動していたのであれば、後で記憶が残っていなくても、故意は認められ得ます。
また、酩酊の程度が著しく、是非善悪を判断する能力を欠いていたといえる場合には、責任能力の問題(刑法39条)として別に検討されますが、これが認められる場面は限られています。防犯カメラに映った歩行や会話の様子、店員とのやり取りなど、行動に一貫性があったことを示す資料が残っていることも少なくありません。
「覚えていない」とだけ述べ続けると、事実を争っているのか認めているのかが不明確になり、示談や被害弁償の話にも進みにくくなります。記憶のある部分とない部分を分けて説明することが現実的な対応になります。
「自分の物だと思っていた」場合の扱い
故意の対象には、「他人の物である」という点も含まれます。そのため、自分の所有物だと誤解していた場合には、故意が否定される余地があります。
もっとも、次の点には注意が必要です。
まず、自分の物であっても対象になる場合があります。刑法262条は、自己の物であっても、差押えを受けた物、物権を負担する物、賃貸している物、配偶者居住権が設定されている物を損壊した場合には、前三条の例によると定めています。
次に、共有物の場合です。共有者の一人であっても、他の共有者の持分がある以上、「他人の物」としての性質は失われないと考えられています。同居の家族や共同で購入した物をめぐるトラブルでは、この点が問題になります。
「自分にも権利があるつもりだった」という認識が、法的にどう評価されるかは、購入や契約の経緯によって変わります。事実関係を整理したうえで説明することが必要です。
ドアや壁を壊した場合は、罪名が変わることがある
見落とされやすいのが、罪名そのものが変わる場面です。
建物に取り付けられた物を壊した場合、器物損壊罪ではなく建造物等損壊罪(刑法260条)にあたることがあります。最高裁は、建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体にあたるかは、建造物との接合の程度と、その物の建造物における機能上の重要性を総合考慮して決すべきであるとしたうえで、住居の玄関ドアについて、外壁と接続し、外界との遮断・防犯・防風・防音等の重要な役割を果たしていることから、工具を使えば損壊せずに取り外せるとしても建造物にあたると判断しました(最決平成19年3月20日)。
建造物等損壊罪の法定刑は5年以下の拘禁刑で、罰金刑の定めがありません。また、後述する親告罪にもあたりません。玄関ドアを蹴った、壁を殴って穴を開けたといった事案では、当初は器物損壊として扱われていたものが、罪名を含めて検討されることがあります。
故意を争うことと、示談を進めることは両立させて考える
器物損壊罪は親告罪です(刑法264条)。被害者等の告訴がなければ起訴できず、告訴は犯人を知った日から6か月を経過するとできなくなります(刑事訴訟法235条1項)。また、告訴は公訴の提起があるまで取り消すことができます(同法237条1項)。公訴時効は3年です(同法250条2項6号)。
この構造から、実務上は、被害者との示談が成立し告訴が取り消されれば、起訴に至らない見通しが立ちやすくなります。
一方で、故意を争っている段階で示談の話を進めることに、抵抗を感じる方は少なくありません。「示談すれば認めたことになるのではないか」という懸念です。
この点は、示談書の文言の作り方で調整できる場合があります。刑事責任を認める趣旨ではないことを明示したうえで、生じた損害を補填する内容として合意する、といった組み立てです。実際、故意については争いつつ、民事上の賠償責任は果たすという整理は、矛盾するものではありません。刑事責任には故意が必要でも、民事の不法行為責任は過失でも生じるためです(民法709条)。なお、この損害賠償請求権は、被害者が損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効消滅します(民法724条)。
どちらを優先するかは、証拠の内容と本人の説明の整合性、被害の程度、被害者の意向によって変わります。故意を争う姿勢を貫くのか、事実関係の一部は認めたうえで早期解決を優先するのかは、供述を重ねる前に方針を決めておくことが望まれます。
早い段階でご相談ください
「壊すつもりはなかった」というお気持ちは、多くの場合、事実だと思われます。問題は、その気持ちが法律上の故意の有無とは別の物差しで評価され、しかも外から見える事情によって判断されるという点にあります。
・どの類型の「わざとではない」なのかを整理する
・取調べで、どこまで話し、どこを保留するかを決めておく
・調書の記載が自分の認識と合っているかを確認する
・故意を争う場合でも、被害弁償・示談の設計を並行して検討する
これらは、事情聴取が進む前の段階で着手するほど選択肢が残ります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、器物損壊事件について、取調べ対応の助言、被害者との示談交渉、逮捕の回避や不起訴に向けた活動を行っています。警察から連絡があった段階、出頭を求められている段階でも構いません。ご本人はもちろん、ご家族からのご相談もお受けしていますので、お早めにご相談ください。


