【日本版DBS】現在その職に就いている人はどうなるのか|施行後の扱い

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

 日本版DBS(こども性暴力防止法)の施行が近づき、「今の職場で働き続けられるのか」「昔の罰金の前科が、いまになって職場に伝わるのか」と気になっている方もいるかもしれません。事業者の側でも、「在職中の職員に該当者がいたら、どこまでの対応が許されるのか」という疑問が生じやすいところです。

 制度の解説では「すでに働いている人も対象」「施行から3年以内に確認」と説明されることが多く、それ自体は正しい説明です。ただ、確認がいつ始まるのか、本人は何をするのか、結果が出た後に雇用がどう扱われるのかまでは、その一文からは見えにくいところがあります。

 この記事では、施行の時点で既に子どもと接する業務に就いている人(施行時現職者)に絞って、施行後の扱いを整理します。制度全体の仕組みや不起訴の場合の扱いには、ここでは深く立ち入りません。

本記事は、2026年9月11日時点でこども家庭庁が公表している施行ガイドライン(2026年9月2日更新)、Q&A(2026年4月)、施行時現職者の申請時期に関する通知(2026年7月8日)をもとにしています。施行前のため、運用の細部は今後変わることがあります。


「施行時現職者」に当たるのは誰か

 施行時現職者とは、法律が施行される2026年12月25日の時点で対象業務に従事している人、または前日までに内定や内示を受けて従事することが決まっていた人をいいます。対象業務は、子どもに対する支配性・継続性・閉鎖性の3つを備える業務で、教員や保育士のほか、業務の実態によっては事務職員や送迎バスの運転手が含まれることもあります。次のような人も施行時現職者に含まれます。

  • 施行日の時点で育児休業・介護休業・産前産後休業などを取得している人。
  • 施行日の前日までに内定・内示を受け、配属先がまだ決まっていない人。
  • 派遣労働者や、請負・委託先の事業者に雇われて働いている人(確認を行うのは派遣先や委託元)。
  • 有期雇用で、契約終了後も従事を続けることが書面であらかじめ決まっている人。


 なお、学習塾やスポーツクラブなど国の認定を受ける事業では、認定を受けた時点で働いている人が現職者として扱われ(認定時現職者)、認定の日から1年以内に確認が行われます。

確認はいつ行われるのか

 学校や保育所などの義務対象の事業者では、施行時現職者の確認が施行日にいっせいに始まるわけではありません。対象者が全国で約280万人と推計されていることから、こども家庭庁は申請の時期を分散させる方法を示しています。

時期施行時現職者の確認
2026年12月25日〜2027年3月新規採用者を優先する期間とされ、現職者の確認は行わない
2027年4月〜2029年6月27か月に分けて順に申請する
2029年7月〜12月24日終わらなかった分を必ず完了させる猶予期間


 どの月に誰が申請対象になるかは、予測が立たないよう順番に偶然性を持たせて割り振ることとされています。本人には、申請対象月の4か月前をめどに、勤務先から申請の時期と戸籍の提出の必要性が伝えられる流れです。2029年12月24日を過ぎても確認が終わっていなければ、事業者の義務違反となります(法4条3項、同法施行令4条)。

 確認の順番とは別に、施行時現職者は原則として施行日の前までに、性暴力の防止に関する研修を受けることが求められています。

働いている本人に求められる手続

 手続は「こまもろうシステム」と呼ばれるオンラインのシステムで行います。事業者が従事者を登録すると本人にアカウント作成の依頼メールが届き、マイナンバーカードで本人確認をしたうえで、戸籍・除籍の抄本などを提出します。戸籍などの取得費用は本人の負担です。

 提出した戸籍の内容は本人から直接こども家庭庁に届き、事業者が見ることはありません。ただし、提出したかどうかは事業者もシステム上で把握できます。

手続に応じないとどうなるか

 戸籍が提出されないまま期限を迎えると犯罪事実確認書が交付されず、事業者はその人を対象業務に従事させることができなくなります。こども家庭庁が示す就業規則の参考例には、確認の手続に応じる義務を定める項目があり、定め方によっては業務命令違反として扱われることも考えられます。

結果が「該当しない」とされた場合

 特定性犯罪の前科がない場合、本人への事前通知はなく、「該当しない」旨の犯罪事実確認書が事業者に交付されます。前科があっても、拘禁刑の実刑なら刑の執行終了等から20年、執行猶予なら裁判確定から10年、罰金なら執行終了等から10年を過ぎていれば「該当しない」と記載され、過去に該当者であったことも事業者には分かりません。

 その後は5年ごとに再確認を受けます。また、前科の有無とは別に、施行後は事業者ごとに定める「不適切な行為」のルールや、被害の申出があった場合の一時的な措置(自宅待機など)が、すべての従事者に関わってきます。この措置は事実確認までの暫定的なもので、確認が終わる前に加害を前提とした懲戒処分などをすることはできないとされています。

結果が「該当する」とされた場合の流れ


まず本人に事前通知が届く

 該当するという結果が出た場合、事業者に確認書が交付される前に、本人へ事前通知が届きます(法35条5項)。本人は2週間以内に、誤りがないことの連絡、誤りがある場合の訂正請求(法37条)、退職などで従事しなくなる場合の中止要請のいずれかを行い、どれも行われなければ確認書が事業者に交付されます。

 この2週間は、退職を選んで確認書が事業者に渡らないようにするかどうかの期限でもあります。ただ、該当者と分かった現職者に事業者がまず検討するのは配置転換などであり、退職だけが選択肢というわけではありません。なお、中止要請だけでは申請は取り消されず、事業者に従事しない旨を伝えて申請を取り下げてもらう必要があります。

事業者は対象業務から外す措置をとる

 確認書を受け取った事業者は、その人を対象業務に従事させない措置(防止措置)を講じることになります(法6条ほか)。現職者の場合に想定されているのは、子どもと接しない業務への配置転換や業務範囲の見直しです。措置が決まるまでの準備期間も、別の業務や自宅待機とすることが求められています。この自宅待機は懲戒処分としての出勤停止とは異なり、期間中の賃金は原則として支払われるべきものと整理されています(民法536条2項)。

現職者は解雇されるのか

 この点は、採用の時点で特定性犯罪の前科の有無を確認されていたかどうかで、考え方が分かれます。

採用時の状況考え方
前科がないことを明示的に確認され、虚偽の申告をしていた「重要な経歴の詐称」として懲戒の対象になり得る
前科の有無を確認されていなかった経歴詐称には当たらない可能性があり、該当の事実だけで解雇が有効とされるわけではない
在職中に誓約書を求められ、事実と異なる内容を書いた「重要な経歴を詐称して雇用されたとき」には当たらないと考えられている


 施行前に採用された人は、こうした確認を受けていない場合も多いと考えられます。施行ガイドラインは、このような現職者について、まず配置転換や業務範囲の限定を検討することを基本としています。それらを十分に検討しても、事業所の規模や業務内容から解雇以外の選択肢がないという事情があれば、解雇の有効性の判断で重要な要素として考慮され得るとされていますが、最終的には裁判所が個別の事実関係に基づいて判断します(労働契約法16条)。本人の意向の丁寧な確認や再就職の支援も、方策として挙げられています。

資格職や有期雇用の場合

 保育士などの資格職では、職種を限定して雇う合意が成立していることがあり、その場合は本人の同意なく他の職種へ配置転換することはできないと解されています(最高裁判所令和6年4月26日判決)。有期雇用の人を契約期間の途中で解雇するには「やむを得ない事由」が必要とされ(労働契約法17条1項)、更新を拒む場合にも一定の制約があります(同法19条)。

異動や休職のときの扱い


  • 確認前の施行時現職者が同じ事業者内で異動した場合は、異動先に割り当てられた時期(既に来ていれば異動の時点)に確認を受けます。
  • 確認を終えた人が同じ事業者内で異動した場合は、改めての確認は不要です。
  • 教育委員会から首長部局の児童相談所へ移るなど、別の事業者への異動では、新たに従事する人として確認を受けます。
  • 子どもと接しない業務に移っても、同じ事業者に在籍する間は離職に当たらず、確認の記録は離職した日から30日以内に廃棄・消去されます。
  • 施行日に休職中の人も、休職明けではなく割り当てられた時期に確認を受けます。


不安を抱えている場合に整理しておきたいこと

 過去に性犯罪で有罪判決を受け、現在子どもと接する仕事に就いている方は、次の点を早めに確かめておくと、事前通知が届いたときに落ち着いて判断しやすくなります。

  1. 罪名が特定性犯罪に当たるかどうかと、判決の種類、期間の起算点になる日(裁判の確定日や刑の執行終了日)。
  2. 雇用契約や就業規則で、職種が限定されているか、配置転換の定めがあるか。
  3. 事前通知後の2週間で何を選ぶか、退職以外の選択肢も含めた考え方。


 事業者の側では、施行前に「該当者は対象業務に従事させられない」ことを従事者に周知しておくこと、就業規則の見直し、配置転換先となり得る業務の洗い出しが、施行後の選択肢を左右します。弁護士に相談しても結論が約束されるわけではありませんが、契約内容や経緯を踏まえて取り得る対応を整理することはできます。

よくあるご質問


施行日までに退職すれば、確認を受けずに済みますか

 施行日の時点で従事も内定もしていなければ、施行時現職者には当たりません。ただし、その後に義務対象の事業者や認定を受けた事業者で対象業務に就く場合は、従事開始日までに確認を受けることになり、確認対象の期間が続いている限り時期がずれるだけといえます。

施行前に確定した判決も対象になりますか

 確認対象の期間は刑の執行終了や裁判確定の日から数えるため、判決が施行より前でも、期間内であれば該当者として扱われます。新たな刑罰ではなく、配置を判断するための確認という位置づけです。

確認の結果が同僚や保護者に伝わることはありますか

 確認の記録は、確認や防止措置以外の目的での利用や第三者への提供が禁じられ(法12条)、事業者内でも共有は必要最小限の関係者に限られます(秘密保持義務について法39条)。事業者が本人から詳しい事情を聞き取る面談も、同意を強制しないことが求められています。ただ、配置転換などの人事上の変化そのものが周囲の目に触れる可能性までは否定できないため、説明の仕方を事業者と相談しておくことも考えられます。

まとめ


  1. 施行時現職者には、施行日に従事している人のほか、前日までに内定・内示を受けた人、休業中の人、派遣労働者も含まれます。
  2. 義務対象の事業者での確認は2027年4月から27か月に分散して行われ、期限は2029年12月24日です(法4条3項、同法施行令4条)。
  3. 本人が提出した戸籍の内容は事業者に知られませんが、提出しなければ対象業務に就けなくなります。
  4. 該当する場合は交付前に本人へ事前通知が届き、2週間以内に訂正請求や中止要請などを選べます(法35条5項、37条)。
  5. 事業者は対象業務から外す措置をとる必要があり、現職者についてはまず配置転換などの検討が基本とされています(法6条ほか)。
  6. 採用時に前科の有無を確認されていなかった現職者について、該当の事実だけで解雇が有効とされるわけではありません(労働契約法16条)。


日本版DBSへの対応でお悩みの方へ

 施行時現職者の確認は、制度開始の数か月後に順番が来る人もいれば、数年後になる人もいます。時間があるうちに判決の内容や雇用契約を確かめておくことが、事前通知を受けたときの判断の助けになります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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