あとから診断書が出てきた|暴行が傷害に切り替わる場面と対応
警察に相談した日、被害届を受け付けてもらった日、告訴状を提出した日、そして報道で「立件」と伝えられた日。どれも事件の始まりのように見えますが、この4つの言葉は、同じ物差しの上に並んでいるわけではありません。
相談には警察庁の通達に定めがあり、被害届は国家公安委員会規則である犯罪捜査規範に、告訴は刑事訴訟法という法律に根拠があります。これに対して「立件」には、根拠となる定めが見当たりません。よりどころがそれぞれ違うため、「自分の件はもう事件になっているのか」という問いに、一つの答えを返すことが難しくなります。
この記事では、4つの言葉がどの仕組みに属しているのかを整理したうえで、始まりと呼びうる時点がいくつあり、そのうちどれが当事者に伝わるのかを見ていきます。あわせて、届出の日とは無関係に進んでいる期限についても触れます。
4つの言葉は、それぞれ別の仕組みに属している
同じ場面を説明する言葉として並べて使われがちですが、由来をたどると、それぞれ位置づけが異なります。整理すると次のようになります。
| 言葉 | 定めのある場所 | 指しているもの |
|---|---|---|
| 相談 | 警察庁の通達 | 措置を求める申出の受け方と、その管理の仕方 |
| 被害届 | 犯罪捜査規範(国家公安委員会規則) | 被害の届出と、その受理・記録の手続 |
| 告訴 | 刑事訴訟法 | 処罰を求める意思表示と、それに伴う効果 |
| 立件 | 根拠となる定めが見当たらない | 文脈によって指す時点が変わる言葉 |
相談・被害届・告訴は手続の名前ですが、立件だけは手続の名前ではありません。この違いを踏まえておくと、以下の話が整理しやすくなります。
「相談」は、記録に残らないわけではない
警察に何かを申し出たとき、それが相談として扱われることがあります。相談は事件そのものではありませんが、まったく記録に残らないというものでもありません。
警察庁の通達では、相談を、指導や助言、相手方への警告、検挙といった何らかの権限行使その他の措置を求めるものと位置づけています。道順の教示や運転免許証の更新手続の案内といった単純な事実の教示は含まれず、単なる情報提供も相談には当たらないとされています。
注目したいのは、この通達が「事件相談」という区分を置いていることです。告訴や告発に関する相談のほか、被害の申告はあったものの、何らかの事情で犯罪事件受理簿に登載されず、事件の認知に至っていないものについても、相談に含めるとされています。受け渋りや処理の遅れといった不適切な取扱いを防ぐための整理です。
ここから読み取れるのは、「まだ事件になっていない状態」の境目が、犯罪事件受理簿への登載という記録の有無に置かれているということです。当事者の実感ではなく、簿冊の側に線が引かれています。
相談として受理されると、警察署の総務・警務部門に置かれた窓口で管理簿に登載され、管理のための番号が付されます。処理を担当する部門は受理票を作成して警察署長に報告し、その後の点検も原則として月1回以上行われ、結果が署長に報告されることとされています。相談した側から進捗の確認や処理方針についての要望を、総務・警務部門で受け付ける仕組みも置かれています。
また、相談に当たるかどうかは、申し出た人の言葉から形式的に判断するのではなく、その人の立場や置かれている状況その他の事情を総合的に考慮して、実質的に判断するものとされています。「相談のつもりで話しただけ」という本人の認識と、警察側の扱いが一致しないことがあるのは、このためです。
相談として受理された後に、届出の受理へ移ることがある
同じ通達は、相談として受理した後の展開についても定めています。処理部門で告訴・告発や被害届を受理し、犯罪事件受理簿への登載などの組織的な管理に移った場合には、告訴・告発等を受理した旨を管理簿に記載したうえで、総務・警務部門による点検を終えることとされています。
相談と事件は断絶しているのではなく、一方から他方へ移る道筋が想定されている、ということです。なお、被害の申告の後すぐに被害届が受理され、速やかに犯罪事件受理簿に登載されるものは相談には当たらず、管理簿への登載も要しないとされています。
被害届が受理されると、簿冊に登載される
被害届については、犯罪捜査規範に受理の定めがあります。犯罪による被害の届出があったときは、その事件が管轄区域内のものでないときであっても、これを受理しなければならないとされています。届出をする人が自ら書面を作れない場合に、警察官が代書することも予定されています。
そして、犯罪事件を受理したときは、定められた様式の犯罪事件受理簿に登載することとされています。届出そのものと、それが記録として立ち上がることは、別の段階として組み立てられているわけです。
「被害届を出した」という言い方には、書面を持って行ったという意味と、受け取られて記録に載ったという意味の両方が含まれ得ます。前者と後者の間には距離があり、この距離が「その後どうなっているのか分からない」という感覚の一因になります。
手元に紙が残らなくても、記録は残っていることがある
被害届を提出しても、控えが渡されないことがあります。手元に何も残らないため、受け取ってもらえたのかどうかが本人には見えにくくなります。
もっとも、受理されていれば、警察の側には記録が残ります。届出の日付や取扱いの状況を確認したい場合は、届け出た警察署に問い合わせるのが近道です。届出を持ち込んだものの受理に至らなかった場合の対応は別の論点になるため、ここでは扱いません。
告訴は、法律に効果が書かれている手続
告訴は、刑事訴訟法に根拠があります。被害者などが捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示を指します。被害届との大きな違いは、法律の側に効果が書き込まれている点にあります。
司法警察員が告訴を受けたときは、速やかに書類と証拠物を検察官に送付するものとされています。検察官が事件について公訴を提起し、又はこれをしない処分をしたときは、告訴をした人に速やかにその旨を通知するものとされ、不起訴とした場合に告訴人から請求があれば、その理由を告げることとされています。処分の結果や理由が届く道筋が、法律上用意されているということです。
告訴がなければ公訴を提起できない罪については、犯人を知った日から6か月という期間の定めがあります。また、告訴は公訴の提起があるまで取り消すことができ、取り消した人は、同じ事件について再び告訴することができないとされています。
なお、告訴を受けた場合の捜査については、犯罪捜査規範に速やかに捜査を行うよう努める趣旨の定めがありますが、これは努力を求める形の規定です。「告訴すれば直ちに捜査が動き出す」と一対一で結び付けて理解すると、実際の運びとずれることがあります。
「立件」には、根拠となる定めがない
4つの言葉のうち、立件だけは性質が異なります。刑事訴訟法に立件という手続は置かれておらず、捜査機関の内部規程にも、この語を定義した条文は見当たりません。統計上の用語としても使われていません。
国語辞典を見ても語釈が一致しておらず、辞典によって、捜査機関が事件として取り上げることを指すものとされていたり、検察官が起訴することを指すものとされていたりと、幅があります。報道でも、捜査の開始を指す場合、検察官への送致を指す場合、起訴を指す場合があり、文脈によって意味が変わります。
「立件されますか」という問いに一言で答えにくいのは、問いの側の言葉に定まった意味がないためです。この語が出てきたときは、捜査が始まっているのか、送致されたのか、起訴されたのかというように、どの時点を指しているのかを言い換えて確かめるのが実際的です。
統計で使われるのは「認知」と「検挙」
警察の犯罪統計に関する定めでは、認知と検挙という語が使われます。認知は、警察が犯罪の発生を確認したことを指し、検挙は、被疑者を特定して事件の処理を行ったことを指します。
検挙という語は身柄の拘束を含意するものではなく、身柄を拘束されずに在宅のまま手続が進む場合も検挙に含まれます。立件とは別の言葉であり、そのまま置き換えて読むことはできません。
「始まり」と呼びうる時点は、一つではない
ここまでを踏まえると、事件の始まりと呼びうる時点は複数あることが分かります。そして、そのほとんどは、当事者に通知される仕組みになっていません。
| 区切りとして語られる時点 | 根拠や呼び名 | 当事者への伝わり方 |
|---|---|---|
| 捜査の端緒をつかんだ時点 | 刑事訴訟法(犯罪があると思料するとき捜査する) | 通常は伝わらない |
| 犯罪事件受理簿に登載された時点 | 犯罪捜査規範 | 届出をした側への通知の定めはない |
| 検察官に送致・送付された時点 | 刑事訴訟法 | 呼出しなどから間接的に分かることがある |
| 検察庁で事件が受理された時点 | 事件事務規程(検察庁の内部規程) | 通常は伝わらない |
| 公訴が提起された時点 | 刑事訴訟法(起訴状の謄本が送達される) | 書面が届く |
書面という形ではっきりと外から見えるのは、表の一番下の段階です。それより前の区切りは、原則として内部の記録の中で進みます。「いつ始まったのか」を当事者が正確に把握しにくいのは、制度の作りに由来する部分があるということです。
届出がなくても、事件として動き出すことがある
もう一つ押さえておきたいのは、捜査を始めるための法律上の条件が、届出の受理ではないという点です。刑事訴訟法は、司法警察職員は犯罪があると思料するときは犯人及び証拠を捜査するものとする、と定めています。
犯罪捜査規範も、警察官は新聞その他の出版物の記事やインターネットを利用して提供される情報、匿名の申告、風説などの社会の事象に注意し、警らや職務質問の励行によって進んで捜査の端緒を得るよう努めなければならないとしています。端緒には、たとえば次のようなものがあります。
- 新聞やインターネット上の情報、匿名の申告など、広く社会の事象から把握される場合。
- 警らや職務質問の中で把握される場合。
- 被害者以外の第三者から告発があった場合。
- 本人が自ら申し出た場合、いわゆる自首の場合。
- 現行犯人として逮捕された場合。
被害を受けた人が特定できない類型の事件や、個人ではなく社会全体の利益を守るための罪では、そもそも被害届を出す人がいないこともあります。それでも捜査が行われるのは、開始の条件が届出に結び付けられていないためです。
逆に言えば、被害届を出していないから何も動いていない、という前提で状況を判断すると、実際とずれる場合があります。
動いている期限は、届出の日とは別の時計で進む
「いつ始まったのか」が気になるのは、多くの場合、期限との関係が心配だからです。ただ、当事者を拘束している期限の多くは、届出の日を起点にしていません。
公訴時効は、犯罪行為が終わった時から進行するものとされています。被害届が出された日や受理された日ではなく、行為の側を起点とする定めです。したがって、届出が遅れたかどうかと、時効の進み方は直接には連動しません。
告訴がなければ公訴を提起できない罪の6か月という期間も、犯人を知った日を起点とするものであり、被害の発生日や届出の日とは別の数え方をします。
このほか、防犯カメラの映像や通信の記録といった資料には、それぞれの保存期間があり、これも独自の時計で進みます。手続上の区切りが見えないまま時間が経過することはありますが、その間に何も動いていないとは限りません。
同じ言葉が、すれ違いやすい場面
相談の場面では、同じ言葉を双方が違う意味で使っていることがあります。特に混ざりやすいのが次の3点です。
「受理された」と「事件になった」
書面を受け取ってもらったことと、犯罪事件受理簿に登載されて事件として扱われることは、同じではありません。受理という言葉が、窓口で受け取られたことを指しているのか、記録に載ったことを指しているのかで、その後の見通しが変わります。
「捜査が始まった」と「自分が疑われている」
捜査が始まっていることと、特定の人が被疑者として扱われていることは、別の段階です。端緒をつかんだ段階では、行為者が誰かは定まっていないこともあります。連絡が来たからといって直ちに被疑者として扱われているとは限らず、参考人として事情を聞かれる場合もあります。
「立件された」と「起訴された」
前述のとおり、立件という語の指す時点は一定ではありません。人によっては捜査の開始を、人によっては起訴を意味して使っています。処分がどうなるかを考えるうえでは、送致されたのか、検察官の処分が出たのか、という具体的な段階に置き換えて確認するほうが実際的です。
弁護士に確認できること
自分の件が今どの段階にあるのかを外から把握するのは、簡単ではありません。弁護士に相談する場合、次のような点を整理する形で確認できます。
- 申し出た内容が、相談として扱われているのか、届出として受理されているのか。
- 自分の立場が、被害を届け出た側なのか、事情を聞かれる側なのかで、この先どの手続に関わるのか。
- 被害届と告訴のどちらの形が、目的に照らして適しているのか。
- 公訴時効や、告訴の期間といった期限が、いつを起点に進んでいるのか。
- 連絡や呼出しがあった場合に、どこまで応じ、何を書面として残しておくのか。
弁護士は、警察署や検察庁に対して、事件の受理状況や担当部署を照会することができます。当事者本人が問い合わせるよりも、確認できる範囲が広がる場面があります。
まとめ
この記事で見てきた内容を整理します。
- 相談・被害届・告訴・立件は、それぞれ別の仕組みに属する言葉であり、同じ物差しでは比べられません。
- 警察庁の通達は、被害の申告があっても犯罪事件受理簿に登載されていないものを事件相談として扱っており、事件かどうかの境目が記録の有無に置かれています。
- 被害届は犯罪捜査規範に受理の定めがあり、受理された犯罪事件は簿冊に登載されます。
- 告訴は刑事訴訟法に根拠があり、送付や処分結果の通知、不起訴理由の告知といった効果が定められています。
- 立件は法律や内部規程に定義が見当たらない言葉で、指している時点が文脈によって変わります。
- 始まりと呼びうる時点は複数あり、書面という形で外から見えるのは、公訴が提起されて起訴状の謄本が届く段階です。
- 公訴時効は犯罪行為が終わった時から進行し、届出の日とは別に進みます。
刑事事件の手続でお悩みの方へ
自分の件が今どの段階にあるのか、これから何が起きるのかが見えない状態は、それ自体が負担になります。被害を届け出た側であっても、事情を聞かれる側であっても、手続のどこに立っているのかが分かるだけで、次に取る行動の選び方は変わります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を承っています。届出や告訴を検討している段階、警察から連絡があった段階、いずれのご相談にも対応しております。状況を伺ったうえで、現在の位置づけと、取り得る対応を整理してお伝えします。まずはお気軽にご相談ください。


