建物や門扉を壊した|建造物損壊と器物損壊はどこで分かれるか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

門扉を蹴って変形させてしまった、外壁に傷をつけてしまった、玄関ドアをへこませてしまった。物を壊してしまったときに問われる罪には、建造物損壊罪(刑法260条)と器物損壊罪(刑法261条)の二つがあります。同じ「壊した」という行為でも、どちらの罪になるかによって、刑罰の重さだけでなく、手続の進み方や解決の道筋まで変わってきます。この記事では、両者がどこで分かれるのか、そしてその分かれ目が実務でどう効いてくるのかを、判例を手がかりに整理します。

まず条文を確認する


建造物損壊罪は刑法260条に、器物損壊罪は刑法261条に定められています。

刑法260条は、他人の建造物または艦船を損壊した者を5年以下の拘禁刑に処すると定めています。これによって人を死傷させた場合は、傷害の罪と比較して重い刑により処断されます。

刑法261条は、「前三条に規定するもののほか」他人の物を損壊し、または傷害した者を、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料に処すると定めています。「前三条」とは、公用文書等毀棄罪(258条)、私用文書等毀棄罪(259条)、そして建造物等損壊罪(260条)を指します。

つまり器物損壊罪は、これらに当たらない物について適用される、いわば受け皿の規定です。壊した対象が「建造物」に当たると判断されれば260条、当たらなければ261条という関係になります。

なお、2025年6月1日施行の改正刑法により、従来の「懲役」と「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました。本記事では改正後の表記に統一しています。

主な違いを整理すると、次のようになります。

項目建造物損壊罪(260条)器物損壊罪(261条)
法定刑5年以下の拘禁刑3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料
罰金刑なしあり
略式命令請求できない請求できる場合がある
告訴の要否非親告罪(告訴がなくても起訴されうる)親告罪(告訴がなければ起訴できない)
公訴時効5年3年
致死傷の加重規定あり(260条後段)なし


分かれ目は「取り外せるかどうか」だけではない


「建造物」とは、屋根を有し、壁または柱によって支えられた土地の定着物であって、少なくともその内部に人が出入りできる構造のものをいうとされています(大審院大正3年6月20日判決)。家屋、庁舎、店舗、倉庫などが典型です。

問題になりやすいのは、建物そのものではなく、建物に取り付けられた部分を壊した場合です。ドア、窓ガラス、シャッター、雨戸、屋根瓦などがこれに当たります。

かつては、損壊しなければ取り外せない物かどうか、という基準で切り分けられてきました。もっとも、最高裁平成19年3月20日決定は、これをより広い枠組みに整理しています。

同決定は、建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体に当たるかどうかは、その物と建造物との接合の程度のほか、その物の建造物における機能上の重要性をも総合考慮して決すべきである、という判断枠組みを示しました。

事案は、5階建て市営住宅1階の居室出入口に設置された金属製の開き戸を、金属バットで叩いて凹損させたというものです。このドアは、厚さ約3.5センチメートル、高さ約200センチメートル、幅約87センチメートルで、建物に固着された外枠の内側に3個の蝶番で接合され、外枠は家屋の外壁と接続していました。塗装修繕工事費の見積額は2万5000円でした。

最高裁は、このドアが住居の玄関ドアとして外壁と接続し、外界との遮断、防犯、防風、防音といった重要な役割を果たしていることから、建造物損壊罪の客体に当たると判断しました。そのうえで、適切な工具を使用すれば損壊せずに取り外すことが可能であっても、この結論は左右されないと述べています。

ここから読み取れるのは、次の二点です。

・物理的にどれだけしっかり接合されているか
・その部分が建物にとってどのような役割を担っているか

この二つを合わせて見る、というのが現在の判断の枠組みです。取り外せるかどうかは考慮要素の一つではありますが、それだけで決まるわけではありません。

門扉・塀・フェンスはどちらに寄りやすいか


門扉やブロック塀、フェンスといった外構部分は、実際にご相談の多い部位です。

まず、門扉や塀そのものは、屋根を持たず、内部に人が出入りする構造でもありませんので、それ単体で「建造物」に当たると評価することは難しい場合が多いといえます。建物とは別に設置された独立の工作物として、器物損壊罪の対象になる可能性が高いケースです。

一方で、門扉のまわりであっても、建物と接合し、建物の一部と評価できる部分であれば、扱いが変わります。

広島高裁平成19年9月11日判決は、他人の住居の外壁やシャッター等に緑色の合成塗料を吹き付けて落書きしたという事案について、門扉の両脇に設置された外壁およびシャッターが「建造物」に該当するかを検討しました。裁判所は、建造物との接合の程度および建造物における機能上の重要性を検討したうえで、これらの外壁およびシャッターは建造物の一部であると判断しています。

つまり、同じ「門のあたりを壊した」という事案でも、

・門扉そのものなのか
・門扉の脇にある建物の外壁やシャッターなのか

によって、評価が分かれうるということです。現場では両者が隣接しているため、どこにどの程度の損傷が生じたのかを正確に押さえておくことが、その後の判断に影響します。

部位ごとの整理


これまでの判例・裁判例で示された判断を整理すると、おおむね次のようになります。

部位評価根拠となる判断
住居の玄関ドア建造物の一部とされた最高裁平成19年3月20日決定、大阪高裁平成5年7月7日判決
建物の外壁・シャッター建造物の一部とされた広島高裁平成19年9月11日判決
店舗のガラスドア・シャッター建造物の一部とされた神戸地裁平成15年4月17日判決
屋根瓦建造物の一部とされた例がある大審院の裁判例
ガラス障子、雨戸・板戸、竹垣器物にとどまるとされた大審院明治43年12月16日判決ほか
門扉、ブロック塀、フェンス個別の判断による(器物と評価されやすい)建物との接合状況による


雨戸や板戸が器物とされてきたのは、損壊しないで取り外すことが機能的にも予定されている物だからです。逆に言えば、その部分を外すことが日常的に想定されているかどうかは、一つの手がかりになります。

なお、カーポート、宅配ボックス、インターホン、表札といった設備については、正面から判断を示した最高裁判例が見当たりません。建物への取り付け方や果たしている役割によって評価が分かれうる領域ですので、一律にどちらと決めつけることはできません。

「壊す」以外の行為も損壊に含まれる


もう一つ押さえておきたいのが、「損壊」の意味です。

判例上、損壊とは、物理的に形を変えたり壊したりする場合だけでなく、事実上その本来の用法に従って使用できない状態に至らせる場合も含むと理解されています。建物の外観や美観も、保護される効用に含まれます。

最高裁平成18年1月17日決定は、公園内の公衆便所の白色外壁に、ラッカースプレーで赤色および黒色のペンキを吹き付け、「反戦」「戦争反対」などと大書した行為について、建物の外観ないし美観を著しく汚損し、原状回復に相当の困難を生じさせたとして、刑法260条前段の「損壊」に当たると判断しました。この事案では、壁面の再塗装に約7万円を要したとされています。

また、最高裁昭和41年6月10日決定は、闘争手段として庁舎の壁、窓ガラス戸、ガラス扉、シャッター等に、1回につき約400枚から約2500枚のビラを密接集中させて貼り付けた行為について、建造物の効用を減損するものとして損壊に当たるとしました。

ただし、貼り付けた枚数や方法によっては損壊に当たらないと判断した下級審の裁判例もあります。汚損行為がすべて損壊になるわけではなく、程度の問題である点には注意が必要です。

分かれ目が実務でどう効いてくるのか


罪名の違いは、条文上の刑の重さにとどまりません。手続の進み方にも差が出ます。

まず、器物損壊罪は親告罪です(刑法264条)。被害者等による告訴がなければ、検察官は起訴することができません。これに対して建造物損壊罪は親告罪ではなく、告訴がなくても起訴される可能性があります。

次に、親告罪には告訴期間があります。刑事訴訟法235条1項は、親告罪の告訴は犯人を知った日から6か月を経過したときはできないと定めています。器物損壊罪にはこの制限が及びますが、建造物損壊罪には及びません。

三つ目に、罰金刑の有無です。器物損壊罪には罰金刑があるため、事案によっては略式命令によって罰金で終わることがあります。一方、建造物損壊罪には罰金刑がなく、略式命令を請求することができません。起訴された場合には公開の法廷での審理となります。この点は、実務上とくに大きな差といえます。

四つ目に、公訴時効です。建造物損壊罪は5年、器物損壊罪は3年です。

五つ目に、損壊の結果として人が死傷した場合、建造物損壊罪には加重規定(刑法260条後段)があります。

こうした違いがあるため、どちらの罪として扱われるのかは、見通しを立てるうえで避けて通れない出発点になります。

被害額の大きさと罪名は連動しない


誤解が生じやすいのは、被害額が大きければ建造物損壊、小さければ器物損壊、という理解です。実際には、両者は連動しません。

先にご紹介した最高裁平成19年3月20日決定の事案では、修繕費用の見積額は2万5000円でしたが、建造物損壊罪の客体に当たると判断されています。壊した金額の多寡ではなく、壊した対象が何であったかによって条文が決まるという構造だからです。

もっとも、被害額や損壊の態様は、最終的な処分の重さや示談の内容には影響します。罪名を決める場面と、処分の重さを判断する場面とを分けて考えることが大切です。

また、捜査の初期段階でつけられた罪名が、その後の捜査の結果や検察官の判断によって変わることもあります。当初は器物損壊として扱われていた事件が建造物損壊として送致されることも、その逆もあり得ます。現時点での罪名を固定的なものと考えず、見通しを確認しておくことをおすすめします。

自分の物や賃貸物件でも問われることがある


建造物損壊罪も器物損壊罪も、対象は「他人の」物です。もっとも、刑法262条は、自己の物であっても、差押えを受けたもの、物権を負担するもの、賃貸したもの、配偶者居住権が設定されたものを損壊した場合には、前三条の例によると定めています。

自分名義の建物であっても、賃貸に出しているなどの事情があれば、罪に問われる場合があるということです。

賃貸物件の場合には、誰が被害者となるのかも問題になります。建物の所有者なのか、管理会社なのか、あるいは居住者なのかによって、示談交渉の相手方が変わります。共有名義の建物やマンションの共用部分についても同様です。被害の範囲と権利関係を早い段階で整理しておくと、その後の対応が進めやすくなります。

複数人で行った場合の扱い


複数人で物を壊した場合には、暴力行為等処罰ニ関スル法律1条が問題になることがあります。

同条は、団体もしくは多衆の威力を示し、団体もしくは多衆を仮装して威力を示し、または兇器を示し、もしくは数人共同して刑法208条(暴行)、222条(脅迫)、261条(器物損壊)の罪を犯した者を、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金に処すると定めています。

この規定が適用される場合、刑法264条の親告罪の規定は及びません。つまり、器物損壊に当たる行為であっても、複数人で行ったことにより、告訴がなくても起訴されうる形に変わることがあります。仲間と一緒に、あるいはその場の勢いで、という事案では見落とせない点です。

故意がない場合はどうなるか


建造物損壊罪も器物損壊罪も、故意犯です。壊すつもりがなかった場合、つまり過失にとどまる場合には、これらの罪は成立しません。運転操作を誤って車が店舗に突っ込んでしまった、といったケースが典型です。

ただし、刑事責任が問われないことと、民事上の責任が生じないこととは別です。過失による損壊であっても、民法709条に基づく損害賠償責任は生じます。また、その過程で人を死傷させた場合には、過失運転致死傷罪など別の罪が問題になります。

なお、故意があったかどうかは、当事者の言い分だけで決まるものではなく、現場の状況や行為の態様から判断されます。「壊すつもりはなかった」という説明が、そのまま受け入れられるとは限りません。

連絡が来たときにできること


警察から連絡があった、あるいは被害者側から請求を受けたという段階で、まず整えておきたいのは事実関係です。

・どこを、どのように損傷させたのか(門扉なのか、外壁なのか、ドアなのか)
・現場の写真が残っているか
・修理の見積書や請求書を受け取っているか
・相手方が誰なのか(所有者、管理会社、居住者)
・複数人が関与していないか

これらは罪名の見通しにも、示談の内容にも直結します。

一方で、被害者のもとに直接出向いて謝罪しようとすることは、かえって事態を複雑にすることがあります。相手方の心情や、接触を避けたいという意向にも配慮が必要です。

損害の賠償については、原状回復に要する費用が基準となります。物的な損害が中心となる事案では、精神的損害の賠償である慰謝料が当然に伴うわけではありませんが、事案によって考え方は異なります。

器物損壊罪として扱われている事案では、告訴がなされる前の段階で解決できるか、あるいは告訴の取消し(刑事訴訟法237条1項は、公訴の提起があるまで告訴を取り消すことができると定めています)に至るかが、処分に大きく影響します。建造物損壊罪の場合は告訴の有無に左右されませんが、被害者との間で解決が図られていることは、起訴・不起訴の判断や量刑を検討するうえで考慮される事情になります。

建物や門扉の損壊でお困りの方へ


建造物損壊罪と器物損壊罪の分かれ目は、壊した物と建物との接合の程度、そしてその物が建物において果たしている役割を合わせて判断されます。門扉や塀のような外構部分は器物と評価されやすい一方、建物と一体をなす外壁やシャッターは建造物の一部と判断されることがあり、現場の状況によって結論が変わりうる領域です。

そして、その分かれ目は、告訴が必要かどうか、略式命令によることができるかどうか、時効が何年かといった手続面にまで影響します。だからこそ、早い段階で事実関係を正確に把握し、見通しを立てておくことに意味があります。

「門扉を壊してしまい、警察から連絡が来た」「請求された修理費用が妥当なのか分からない」「どちらの罪になるのか不安がある」といったお悩みをお持ちの方は、一人で抱え込まず、弁護士にご相談ください。当事務所では、刑事事件について全国からのご相談に対応しております。まずは現在の状況をお聞かせいただければと思います。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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