会社のデータを持ち出した|営業秘密侵害と横領の違い
この記事は、2026年10月時点の「携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律」(以下「携帯電話不正利用防止法」)と刑法をもとに書いています。懲役刑は2025年6月から拘禁刑に一本化されているため、法定刑は拘禁刑で表記しています。2026年5月29日に公布された同法の改正法(データ通信専用SIMへの対象拡大など)は、公布から1年以内に施行される予定で、本文では該当箇所で触れています。
「使わなくなったスマホを知人に譲っただけなのに、警察から連絡が来るのではと不安になった」「SNSで『SIMカードを買い取る』という募集に応じて、契約したばかりのSIMを渡してしまった」。当事務所には、このように端末や回線を他人に渡した後で、自分の行為がどう扱われるのかを確かめたいというご相談が寄せられます。反対に、家族から「子が自分名義のスマホを人に渡していたらしい」と相談を受けることもあります。
「携帯電話の転売は違法」「SIMを渡すと逮捕される」という説明は、それ自体が誤りというわけではありません。ただ、携帯電話不正利用防止法は、名義が誰のものか、渡した相手が誰か、お金を受け取ったか、繰り返す意思があったかによって、適用される条文も刑の重さも大きく変わります。一律に「違法」とだけ覚えていると、自分の状況を正しく見積もることができません。
この記事では、スマホ本体やSIMカードを他人に渡した場合に、携帯電話不正利用防止法と刑法でどのように扱われるのかを、分かれ目ごとに整理します。銀行口座を売った・貸した場合の扱いは「口座を売っただけ」「名義を貸しただけ」は軽いのかで解説していますので、あわせてご覧ください。
まず確認したい三つの分かれ目
携帯電話不正利用防止法は、契約者の本人確認を事業者に義務づけるとともに、実際の利用者が分からない「匿名の携帯電話」が出回らないよう、端末とSIMカードの譲渡を規制している法律です。SIMカードは、2008年の改正で「契約者特定記録媒体」として、端末本体と同じ規制の対象に加えられました。条文では両者をあわせて「通話可能端末設備等」と呼んでいます。
スマホやSIMを渡した場面でどの規定が問題になるかは、次の三点でおおむね決まります。
| 確認すること | 分かれ目 | 主に関係する条文 |
|---|---|---|
| 名義は誰か | 自分が契約者か、他人が契約者か | 自分名義なら7条1項・20条、他人名義なら21条 |
| 渡した相手は誰か | 親族・生計を同じくする人か、それ以外か | 自分名義の場合、親族等への譲渡は承諾不要(7条1項) |
| 対価と反復性 | お金を受け取ったか、繰り返す意思があったか | 自分名義の場合は「業として有償で」が刑罰の要件(20条1項) |
同じ「スマホを渡した」でも、自分名義か他人名義かで、刑罰が問題になる条件がまったく異なります。以下、名義ごとに見ていきます。
自分名義のスマホ・SIMを渡した場合
承諾のない譲渡はそもそも禁止されている
自分が契約者になっているスマホやSIMカードを他人に譲るときは、親族または生計を同じくしている人に譲る場合を除き、あらかじめ携帯電話会社の承諾を得なければなりません(携帯電話不正利用防止法7条1項)。承諾にあたって、携帯電話会社は譲り受ける人の本人確認を行います(同法5条1項、7条2項)。実務上は、店舗などでの名義変更(譲渡)手続がこれにあたります。
したがって、友人や知人、ネットで知り合った人に、名義変更をしないまま端末やSIMを渡すことは、金額や回数にかかわらず7条1項に反する行為です。
刑罰の対象になるのは「業として有償で」渡した場合
もっとも、7条1項に違反したことがそのまま刑罰につながるわけではありません。刑罰の対象となるのは、7条1項に違反して、業として有償で譲渡した場合で、法定刑は2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその両方です(同法20条1項)。事情を知りながら業として有償で譲り受けた側も、同じ刑の対象になります(同条2項)。
「有償」は、代金や報酬など何らかの対価を受け取ることを指します。「業として」は、反復・継続して行う意思をもって行うことを意味すると一般に解されており、実際に何回行ったかだけで決まるものではありません。複数の回線を契約して次々に引き渡す、買い取り業者に継続して売るといった形は、この要件に当たり得ます。逆に、家計の事情などで一度だけ知人に譲ったような場面では、20条の要件を満たさないと判断される余地があります。
報道では、SNSで契約者を募って多数の端末を集めた側や、少年らが契約したSIMカードを数十枚単位で買い取った側が、この法律の違反で逮捕された事例が伝えられています。ここで逮捕に至るかどうかは、台数や期間、組織的な関与の疑い、証拠を隠すおそれの有無などを踏まえて判断されるもので、違反の疑いがあれば必ず逮捕されるというものではありません。
刑罰が及ばない場合でも残る影響
7条1項に違反して端末等が譲渡された場合、携帯電話会社はその回線について役務の提供を拒むことができます(同法11条3号)。回線の停止や解約の対象になり得るということです。
また、名義変更をしていない以上、契約上の利用者は自分のままです。渡した先で発生した通信料や端末代金の請求は、原則として契約者である自分に届きます。さらに、渡したスマホが犯罪に使われた場合、警察が契約者確認を求める制度(同法8条)を通じて、契約者として照会を受ける立場にもなります。
他人名義のスマホ・SIMを渡した場合
有償・無償を問わず罰則がある
自分が契約者になっていないスマホやSIMカードを他人に譲渡した場合は、50万円以下の罰金の対象になります(同法21条1項)。自分名義の場合と異なり、お金を受け取ったかどうかや、繰り返す意思があったかどうかは、この罪の成立に必要ではありません。
事情を知りながら、契約者でない人から端末等を譲り受けた側も同じ罰則の対象です(同条2項)。これらを業として行った場合は、2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその両方に引き上げられます(同条3項)。
家族名義のスマホを使っている人が渡す場面
この規定が身近に問題になるのは、親名義で契約したスマホを子が使っている、配偶者名義の回線を使っているといった場合です。使っている本人は契約者ではないため、その端末やSIMを友人などに渡すと、21条1項の「自己が契約者となっていない」端末等の譲渡に当たり得ます。
7条1項の「親族等に譲る場合は承諾不要」という例外は、契約者本人が譲る場面についての規定です。契約者でない人が渡す場面には、この例外の定めはありません。家族名義の端末を手放すときは、まず契約者である家族を通じて、名義変更や解約の手続を取るのが安全です。
渡すよう勧誘した側・広告した側
20条や21条1項・2項の行為の相手方になるよう人を勧誘したり、広告などで誘い込んだりした者も、50万円以下の罰金の対象です(同法23条)。SNS上の「SIM買い取ります」「スマホを契約するだけで報酬」といった募集は、募集する側にもこの規定が及び得るものです。こうした募集の典型的な文言と誘導の流れは、「ホワイト案件」「即日高収入」|闇バイト募集の見分け方と誘導の型で整理しています。
携帯電話不正利用防止法の外で問われる罪
渡すつもりを隠して契約した場合の詐欺罪
自分名義の譲渡について、携帯電話不正利用防止法上の刑罰が及ばない場合でも、それで問題が終わるとは限りません。注意が必要なのは、契約の時点ですでに他人に渡すつもりだった場合です。
銀行口座については、第三者に譲渡する意図を隠して口座を開設し、通帳などの交付を受けた行為に詐欺罪が成立するとした最高裁の判断があります(最決平成19年7月17日・刑集61巻5号521頁)。携帯電話についても、第三者に無断で譲渡する意図を隠して自己名義で携帯電話機の購入等を申し込む行為は、詐欺罪の欺罔行為に当たるとした高等裁判所の裁判例があります(東京高判平成24年12月13日・高刑集65巻2号21頁)。詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑です(刑法246条1項)。
つまり、問われ方を分けるのは「渡したこと」だけでなく、「契約した時点で何を考えていたか」でもあります。自分で使うつもりで契約し、後から事情が変わって手放したのか、最初から渡す目的で契約したのかによって、検討すべき罪名が変わります。
渡した端末が犯罪に使われた場合
渡したスマホやSIMが特殊詐欺などに使われた場合、相手が犯罪に使うことを知りながら渡していたのであれば、その犯罪の幇助犯(刑法62条1項)として扱われる可能性があります。反対に、犯罪に使われることを知らなかったのであれば、幇助犯は成立しません。
ただし、「知らなかった」かどうかは本人の言い分だけで決まるものではなく、受け取った報酬の額、相手とのやり取りの内容、募集の文言などから判断されます。相場とかけ離れた高額の報酬が提示されていた、相手が身元を明かさなかったといった事情は、「犯罪に使われるかもしれないと分かっていたのではないか」と評価される材料になり得ます。
問題になり得る罪と法定刑の整理
ここまでの内容を一覧にすると、次のとおりです。
| 行為 | 条文 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 自分名義の端末等を、業として有償で無断譲渡 | 携帯電話不正利用防止法20条1項 | 2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金(併科あり) |
| 上記と知りながら、業として有償で譲り受け | 同法20条2項 | 同上 |
| 他人名義の端末等を譲渡 | 同法21条1項 | 50万円以下の罰金 |
| 他人名義と知りながら譲り受け | 同法21条2項 | 50万円以下の罰金 |
| 上記2つを業として行った | 同法21条3項 | 2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金(併科あり) |
| 譲渡・譲受の相手方になるよう勧誘・広告 | 同法23条 | 50万円以下の罰金 |
| 渡す意図を隠して契約し、端末等を受け取った | 刑法246条1項 | 10年以下の拘禁刑 |
データ通信専用SIMと2026年の法改正
現行法は「音声通話ができる回線」が対象
現行の携帯電話不正利用防止法は、音声通話ができる回線(音声SIM)を対象にしています。そのため、通話機能のないデータ通信専用SIMは、これまで契約時の本人確認義務や譲渡の規制の対象外でした。データ通信専用SIMであっても、契約時に譲渡の意図を隠していれば詐欺罪が問題になり得る点は、上で述べたとおりです。
改正で対象が「携帯通信」に広がる
2026年5月22日に成立し、同月29日に公布された改正法により、対象は「携帯音声通信」から「携帯通信」へと広げられ、法律の題名も改められます。これにより、データ通信専用SIMも本人確認義務などの対象に入ることになりました。具体的にどの回線が対象になるかは総務省令で定めることとされ、SMS機能付きのデータ通信専用SIMを対象とし、IoT機器向けのものは除く方向で検討されていると報告されています。
あわせて、個人が通常想定されない数の回線を契約しようとする場合に、事業者が上限を超える分の契約を断れる規定も設けられました。上限は音声SIM・SMS機能付きデータSIMそれぞれ5回線とする方向で検討されています。施行は公布から1年以内とされ、遅くとも2027年5月までに施行される予定です。施行後の具体的な扱いは、総務省令の内容を確認する必要があります。
渡してしまった後にできること
まず事実関係を書き出す
すでにスマホやSIMを渡してしまった場合、最初に行いたいのは、どのような経緯で何を渡したのかを正確に整理することです。後で説明を求められたとき、記憶だけでは時期や台数があいまいになりがちです。次の点を書き出しておくと、相談の際にも見通しを立てやすくなります。
- 契約した日、店舗、回線の種類(音声かデータ専用か)と台数。
- 渡した日、渡した相手、渡した方法(手渡し・郵送など)。
- 契約の時点で、渡すつもりがあったかどうかと、その経緯。
- 受け取った金額や物、約束された報酬の内容。
- 相手とのやり取り(SNSのメッセージ、募集の画面など)。
やり取りは消さず、追加の契約には応じない
相手とのメッセージや募集の画面は、削除せずに残しておいてください。自分に不利に見える内容でも、「何を知らされていたか」「どの時点で何を考えていたか」を示す材料になります。また、相手から追加の契約や、本人確認書類の送付を求められても応じないことが大切です。身分証の画像などをすでに送っている場合の対応は、身分証の写真を送ってしまった|個人情報を握られた後の対処で解説しています。
渡した回線を止めることは、それ以上の悪用を防ぐ意味があります。一方で、携帯電話会社に事情を説明する過程で、自分の関与を具体的に述べることにもなります。どこまでの説明をどのような形で行うかは、手続の前に一度弁護士に相談しておくと安心です。
警察から連絡が来た・来るかもしれない場合
警察から連絡が来ていない段階で、自ら出頭するかどうかを考える方もいます。自首が成立するかどうかや、出頭することの実務上の意味は、自分から出頭すべきか|自首の成否と実務上の意味で解説しています。端末を渡しただけでなく、その後に指示を受けて現金の受け取りなどに関わってしまった場合は、受け子をしてしまった|自首・出頭の判断と弁護士同行の意味もご参照ください。
捜査の過程でスマホの提出を求められることもあります。提出した端末がいつ返ってくるのか、中身をどこまで見られるのかについては、スマホ・PCを押収された|いつ返るのか、中身はどこまで見られるのかをご覧ください。お子さんの関与が心配なご家族は、【親向け】子どもが闇バイトに関わっているかもしれない|兆候と最初の対応も参考になります。
よくあるご質問
機種変更で使わなくなった古いスマホを、知人に売っても問題ありませんか。
規制の対象になるのは、携帯電話会社の回線に接続されて通話が可能な端末と、契約者を特定する情報が記録されたSIMカードです(携帯電話不正利用防止法2条)。解約済みの端末や、SIMカードを抜いて回線と切り離した端末本体を売ること自体は、一般にこの法律の譲渡規制の対象外と考えられます。ただし、eSIMの情報が端末内に残っていると回線が生きている場合がありますので、譲る前に回線の解約やeSIMの削除を確認してください。
同居していない家族にスマホを譲るのは違反になりますか。
自分名義の端末等を親族に譲る場合は、同居の有無にかかわらず、携帯電話会社の事前の承諾は不要とされています(同法7条1項)。ただし、名義は自分のまま残るため、料金の請求や、端末が悪用されたときの照会は自分に届きます。継続して家族に使ってもらうのであれば、名義変更の手続を取っておくのが確実です。
報酬を受け取っていなければ、罪にはならないのですか。
自分名義の端末等の譲渡で刑罰の対象になるのは「業として有償で」渡した場合ですので、報酬の有無はひとつの分かれ目になります。しかし、他人名義の端末等の譲渡(同法21条1項)は無償でも罰則の対象であり、渡す意図を隠して契約した場合の詐欺罪も、報酬を受け取ったかどうかとは関係なく問題になります。報酬を受け取っていない場合の評価については、【刑事事件】闇バイト|報酬を受け取っていない・未遂で終わった場合の評価もご覧ください。
まとめ
- 自分名義のスマホ・SIMを他人に譲るには、親族・生計を同じくする人を除き、携帯電話会社の事前の承諾が必要です(携帯電話不正利用防止法7条1項)。
- 自分名義の端末等の無断譲渡に刑罰が科されるのは、業として有償で行った場合で、2年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金またはその併科です(同法20条1項)。
- 他人名義の端末等の譲渡は、有償・無償を問わず50万円以下の罰金の対象で、業として行えば刑が引き上げられます(同法21条1項・3項)。
- 譲渡・譲受の相手方になるよう勧誘・広告した側も罰則の対象です(同法23条)。
- 渡す意図を隠して契約した場合は、譲渡の規制とは別に詐欺罪が問題になり得ます(刑法246条1項)。
- 2026年5月公布の改正法により、データ通信専用SIMも対象に加わる予定で、遅くとも2027年5月までに施行されます。
- 渡してしまった後は、経緯を書き出し、やり取りを残したうえで、回線の扱いや出頭の判断を含めて早めに相談することが大切です。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。スマホやSIMカードを他人に渡してしまい、自分の行為がどう扱われるのか不安な方は、経緯が整理しきれていない段階でもご相談ください。
ご家族の名義の端末が渡っていた、お子さんが募集に応じてしまったかもしれないといった、ご家族からのご相談もお受けしています。状況を伺ったうえで、取り得る対応と見通しをご説明します。


