日本版DBSで何が変わるのか|性犯罪歴の確認が始まる職種と風俗トラブルの接点
この記事は2026年9月時点の法令に基づいて書いています。ストーカー規制法については令和7年12月30日施行の改正を、刑法の法定刑については2025年6月1日施行の拘禁刑への一本化を反映しています。個別の事情によって結論は変わりますので、一般的な整理としてお読みください。
「返してほしいのは自分の物だけです」。そうお話しになる方は少なくありません。別れた後も相手の部屋に残したままの衣類や本、二人で買った家電、立て替えたままのお金。こちらから言わなければ何も戻ってこないので、何度か連絡を入れる。すると「しつこい」「警察に行く」と返ってきて、いつの間にか自分が責められる側に回っている。
他方で、連絡を受けた側から「用件を口実に接触してくる」というご相談も、同じくらい届きます。どちらの言い分にも、その人なりの筋があります。
「用件が正当なら問題にならないはずだ」という理解は、それ自体が誤りというわけではありません。ただ、評価の対象になるのは用件の正しさだけではなく、その用件をどう伝えたかという部分でもあります。ここがずれたまま連絡を重ねると、請求しているつもりが、こちらの行為のほうを説明しなければならない立場に変わってしまうことがあります。
この記事では、私物や金銭の清算という用件を持っている方に向けて、どこで評価が分かれるのか、直接連絡以外にどの届け方があるのか、手続に乗せる場合に何が使えるのかを整理します。
正当な用件でも評価が変わるのはなぜか
返してもらう権利があること自体は動きません。自分が所有している物であれば、返すよう求めることはできます。問題になるのは、その求め方のほうです。
最初に見られるのは「目的」
ストーカー規制法が規制の対象としているのは、特定の相手に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で行われる行為です(法2条1項)。財産を清算したいだけであれば、この目的の要件には本来乗りにくいことになります。
ただ、目的は本人の申告ではなく、外から見える行為の形から推し量られます。元交際相手という関係があり、連絡が深夜に及び、文面に未練や恨みを感じさせる表現が混じっていれば、荷物の話は入口にすぎないのではないか、と受け取られることがあります。
「返してほしい」が別の形に読み替えられる場面
つきまとい等の類型のひとつに、面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求する行為があります(法2条1項3号)。返す義務は相手の側にあるのだから当たらないはずだ、と考えたくなるところです。
もっとも、警察庁の通達は、実際に権利を有していて正当な権利行使に見える場合であっても、権利の濫用に当たるときは「義務のないことを行うことを要求する」に該当し得るとしています。返せという要求そのものより、「今夜会って直接渡せ」「実家まで持ってこい」といった付随する要求のほうが、この評価を招きやすい部分です。
回数が効いてくる類型
電話やメッセージについては、拒まれたにもかかわらず連続して送る行為が別に置かれています(法2条1項5号)。ここでの「拒まれた」には、はっきり言葉にされた拒絶だけでなく、黙示の拒絶も含まれ得るとされています。着信拒否やブロックの設定がされていても、履歴から送信の事実が確認できれば、行為があったと見られることがあります。
連絡が1回にとどまる場合の考え方は、連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違いで整理していますので、あわせてご覧ください。
同じ「返して」でも分かれる点
| 見られる点 | 落ち着いて見える形 | 問題にされやすい形 |
|---|---|---|
| 内容 | 返してほしい物と受け渡しの方法だけを書く | 近況や気持ちに触れる文章が混じる |
| 回数 | 一度伝えて期限まで待つ | 返事がないたびに送り直す |
| 時間帯 | 日中に1通 | 深夜や早朝に続けて送る |
| 宛先 | 本人にだけ伝える | 実家・勤務先・共通の知人にも伝える |
宛先を広げる行為は特に慎重に考えたい部分です。ストーカー規制法は、本人だけでなく、その家族や社会生活において密接な関係を有する人への行為も対象にしています。共通の知人に頼んで伝えてもらう方法も、頼んだ人の行為として評価されることがあります。
直接連絡以外に、どの届け方があるのか
連絡の回数が増えるほど評価が悪くなるのであれば、回数を増やさずに用件を届ける形を選ぶことになります。
書面で一度だけ伝える
返してほしい物、受け渡しの方法、返事をもらいたい期限、そしてそれ以降は直接の連絡をしないことを、1通の書面にまとめて送る方法です。内容証明郵便や配達証明を使えば、いつ何を伝えたかが記録として残ります。
請求した事実を残しながら、こちらの連絡回数を1回で固定できる点が、この方法の利点です。返事がないときに催促を重ねず、次は手続に移ると決めておくと、やり取りが長引きにくくなります。
代理人を窓口にする
弁護士が代理人として受任通知を出すと、以後のやり取りは代理人との間で行われます。ご本人からの連絡が止まるため、連絡の回数や時間帯が問題にされる余地が小さくなります。すでに関係が悪化している場合ほど、窓口を移す意味は大きくなります。
すでに警察から警告を受けている場合
警告を受けている方から、「荷物の件だけなら連絡してよいか」と尋ねられることがあります。警告や禁止命令の内容は、その原因になった行為だけでなく、法が定める行為全般に及ぶ形で告げられるのが通例です。用件が何であっても、直接連絡は避け、書面か代理人を通す形に切り替えるのが安全です。警告を受けた後に何が起きるのかは、警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのかで説明しています。
荷物と金銭では、使える手続が違う
話合いで戻らない場合、裁判所の手続を考えることになります。ここで押さえておきたいのは、求めるものによって使える手続が変わる点です。
| 求めるもの | 使える手続 | 注意点 |
|---|---|---|
| 特定の私物の引渡し | 通常の訴訟・民事調停 | 支払督促や少額訴訟は使えない |
| 貸したお金などの支払 | 支払督促・少額訴訟・通常の訴訟・民事調停 | 少額訴訟は60万円以下の金銭の支払を求める場合に限られる |
少額訴訟は60万円以下の金銭の支払を求める訴えのための手続で、支払督促は金銭、有価証券その他の代替物の給付を対象とします。どちらも、その私物そのものを取り戻す場面には使えません。私物の引渡しを求めるなら、通常の訴訟か、話合いで解決する民事調停を選ぶことになります。
判決を得た後、動産の引渡しの強制執行は、執行官が相手方から取り上げて申立人に引き渡す方法で行われます(民事執行法169条1項)。逆に言えば、現物がすでに手元にない場合、この方法では回収できません。その場合は、失われた物の価値を金銭で請求する形に切り替えることになります。
金銭の清算を求める場合
金銭は、名目を分けておくと話が進みやすくなります。貸したお金なのか、立て替えたお金なのか、共同で買った物の負担分なのか、預けていたお金なのかで、説明すべき事実が変わるためです。交際中の支出は、後から見ると贈与だったと評価されることもあり、借用書や送金記録のほか、返す約束があったことをうかがわせるやり取りが手がかりになります。
期間の面では、債権は、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年で時効にかかるとされています(民法166条1項)。他方、所有権そのものは消滅時効にかかりません。時間が経った私物の返還を求めること自体は妨げられませんが、処分されてしまえば請求の中身は損害賠償という債権に変わり、時効の枠に入ります。
合意ができた場合は、口約束で終えずに書面にしておくことをお勧めします。清算の合意で何を定めておくべきかは、示談書に必ず入れる条項と、入れると危険な条項をご覧ください。
取りに行く前に確認したいこと
自分の物だから自分で取り返してよい、という考え方は、法律上は原則として認められていません。権利があっても、その実現は手続によるべきだとされており、最高裁も、原則として自力での実現は許されないという立場を示しています。
- 合鍵を持っているので勝手に入る。
- 相手が不在の時間帯を選んで部屋に上がる。
- 置いてある自分の物を、断りなく持ち出す。
- 帰るように言われた後も部屋にとどまる。
これらは、住居侵入や不退去として評価されるおそれがあります(刑法130条・3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金)。持ち出した物の所有関係に争いがあれば、窃盗として申告される可能性も残ります。
なお、ストーカー規制法に当たらない場合でも、他の規定が残ります。軽犯罪法には、不安や迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとう行為の規定があり、こちらには反復や目的の要件が置かれていません。規制法の枠に入らないことと、何も起きないことは別だとお考えください。
諦めたほうが安いと判断できる場面
すべてを取り戻すことが最善とは限りません。次のような事情が重なる場合、引き際を考える価値があります。
- 物の値段より、手続や郵送にかかる費用と時間のほうが大きい。
- 現物がすでに処分された可能性が高い。
- 相手の現在の住所が分からず、書面を届ける先がない。
- 置いていた期間の保管の負担を、逆に持ち出されそうな事情がある。
- すでに警告を受けており、連絡を重ねること自体のリスクが大きい。
買い直せる物であれば、費用を比べたうえで割り切るほうが結果として負担が軽いこともあります。区切りをつける場合も、無言でやめるのではなく、請求を取り下げることと今後は連絡しないことを1通の書面で伝えて終えると、後から蒸し返されにくくなります。
よくあるご質問
脅すようなことは何も言っていないのに、ストーカーだと言われました
文言の乱暴さだけで判断されるわけではありません。関係、回数、時間帯、宛先の広がりなどが合わせて見られます。丁寧な文面でも、短期間に何度も送っていれば、その点が評価の対象になることがあります。
相手が「もう捨てた」と言っています
現物がない場合、引渡しを求める道は事実上使えなくなります。残るのは、失われた物の価値を金銭で求める方向です。購入時期や価格が分かる資料、部屋に置いていたことが分かる写真ややり取りが手がかりになります。
共通の友人に頼んで受け取ってもらってよいですか
相手が承諾している場合は現実的な方法です。承諾がないまま第三者を介して接触すると、頼んだ側の行為として評価されることがあります。受け渡しの方法自体を、先に書面で提案しておくほうが安全です。
まとめ
- 返してもらう権利があることと、求め方が適切であることは、別々に判断される。
- ストーカー規制法は目的の要件から入るが、目的は外から見える行為の形で判断される(法2条1項)。
- 正当な権利行使でも、権利の濫用に当たるときは要求行為として扱われ得る(法2条1項3号)。
- 拒まれた後に連続して連絡を送る行為は、別の類型として置かれている(法2条1項5号)。
- 私物の引渡しには支払督促も少額訴訟も使えず、通常の訴訟か民事調停を選ぶことになる。
- 現物がなければ引渡しの強制執行は実現せず、金銭の請求に切り替えることになる(民事執行法169条1項)。
- 自分の物でも自力で取り返すことは原則として認められず、住居侵入等に当たるおそれがある(刑法130条)。
私物や金銭の清算は、本来なら事務的に終わるはずの話です。それが長引くときは、請求の中身よりも伝え方の設計でつまずいていることが少なくありません。どの手段をどの順番で使うかを先に決めておけば、連絡の回数を増やさずに済みます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


