【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味
この記事は、2026年10月時点の法令にもとづいて書いています。ストーカー規制法は令和7年(2025年)12月10日に改正法が公布され、同年12月30日から、警察が被害者の申出がなくても警告を出せる「職権警告」の創設や、被害者の住居地を管轄する公安委員会も禁止命令等を出せるようにする改正が施行されています。本文はこの改正後の内容を反映しています。
「別れた元彼が、気づいたら同じ町内に越してきていた」「最寄り駅やスーパーで何度も顔を合わせるようになり、偶然とは思えない」。ストーカー被害のご相談では、こうした声をうかがうことがあります。反対に、「たまたま近くに住んだだけなのに、元交際相手からストーカー扱いされている」というご相談が寄せられることもあります。
近所に引っ越してきたことについては、「住む場所は自由なので、越してきただけでは違法にならない」と説明されることが多く、その説明自体は誤りではありません。ただ、この説明だけを聞くと「何もできないのか」と受け止めてしまいがちです。実際には、越してきた後に相手がどう行動しているかによって、警察や弁護士を通じて取れる手段は変わってきます。
この記事では、警告や禁止命令がまだ出ていない段階で、元恋人がわざと近所に越してきたと感じたときに、何を記録し、どこに相談し、どのような手段があるのかを整理します。すでに禁止命令が出ている相手が越してきた場合や、自分が引っ越すべきかの判断については、それぞれ別の記事で詳しく扱っています。
近所に越してきたこと自体は、それだけでは違法とされにくい
住む場所を選ぶ自由と、法律の考え方
どこに住むかは、憲法で保障された居住・移転の自由(憲法22条1項)に含まれます。そのため、元恋人が近くに越してきたという事実だけをもって、すぐに違法と評価したり、警察が相手を退去させたりすることは難しいのが一般的です。
ストーカー規制法も、「近くに住むこと」そのものを禁止しているわけではありません。同法が規制しているのは、つきまといや見張り、押し掛けといった具体的な行為です。
分かれ目は「越してきた後の行動」
相手が本当にわざと越してきたのかどうかは、相手の内心の問題であり、外から確かめるのは容易ではありません。一方で、越してきた後に家の前で立ち止まる、帰宅時間に合わせて外に出てくる、「近くに住んでいるよ」と連絡してくるといった行動は、記録として残すことができます。
法的に動けるかどうかの分かれ目は、「なぜ越してきたか」よりも「越してきた後に何をしているか」にあります。この視点で状況を整理していくと、取れる手段が見えやすくなります。
ストーカー規制法で捉えられる行動
見張り・押し掛け・うろつき
ストーカー規制法は、住居や勤務先などの付近で見張りをすること、住居等に押し掛けること、住居等の付近をみだりにうろつくことを「つきまとい等」の一つとして定めています(ストーカー規制法2条1項1号)。近所に住んでいる相手であっても、次のような行動は、この類型に当たり得ます。
- 自宅の前や向かいで、たびたび立ち止まってこちらの様子をうかがう。
- 帰宅や外出の時間に合わせて、繰り返し家の近くに現れる。
- 用事がないのに自宅の玄関先まで来る、インターホンを押す。
- 自宅の周辺を、行き来する必要のない時間帯に何度も歩き回る。
近所に住んでいれば、道ですれ違うこと自体は避けられません。問題になるのは、通常の生活の範囲を超えて、こちらの住まいや行動に向けられた動きが繰り返されている場合です。車で周囲を走る行動については、【ストーカートラブル】相手の車が家の周りを走っている|うろつきとして扱えるかで解説しています。
「近くに住んでいる」と知らせてくる行為
越してきたことを、相手のほうから伝えてくるケースもあります。「近くに引っ越したから、いつでも会える」「今日は遅かったね」といった連絡は、行動を監視していると思わせるような事項を告げる行為(同法2条1項2号)に当たり得ます。会うことを求める連絡が続けば、面会や交際などの要求(同項3号)として扱われることもあります。
こうした連絡は、文面そのものが記録になります。削除せず、スクリーンショットなどで日時が分かる形で残しておくことが大切です。
目的の要件と、条例による規制
ストーカー規制法の対象になるのは、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的で行われる場合です。元交際相手であれば、この目的が認められやすい傾向があります。つきまとい等を反復して行うと「ストーカー行為」となり、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象になります(同法18条)。
恋愛感情などの目的がはっきりしない嫌がらせであっても、東京都では迷惑防止条例が、つきまといや住居付近での見張りなどを規制しています。どちらの規制で扱うかは警察が判断するため、まずは事実をそのまま伝えることが出発点になります。
越してきたと気づいたときに整えておきたい記録
日時・場所・様子を時系列で残す
相手の行動が偶然の範囲なのか、こちらに向けられたものなのかは、一度の出来事だけでは判断しにくいものです。複数回の出来事を並べることで、行動の傾向が見えてきます。記録には、次のような項目を入れておくと整理しやすくなります。
- 日付と時刻、場所(自宅前、最寄り駅、スーパーなど)。
- 相手がしていたこと(立ち止まっていた、後ろを歩いてきた、声をかけてきたなど)。
- その時の自分の状況(帰宅途中、ゴミ出しの最中など)。
- 相手が越してきたと気づいた経緯と、その時期。
メモは手書きでもスマートフォンでも構いません。後から書き足す場合も、書いた日を分かるようにしておくと、記録としての信頼性が保たれます。
防犯カメラや管理会社の記録を生かす
集合住宅であれば、管理会社や管理組合に事情を伝え、共用部分の防犯カメラの映像を保存してもらえるか相談する方法があります。映像は一定期間で上書きされることが多いため、気になる出来事があった日は早めに連絡することが望まれます。自分で防犯カメラを設置する場合の注意点は、【ストーカートラブル】防犯カメラの映像を証拠にする|設置と保存の注意点で解説しています。
マンションの管理会社やオートロックを通じてできる対策については、【ストーカートラブル】自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることも参考になります。
相手に直接確かめにいかない
「なぜ近くに越してきたのか」と、相手に直接問いただしたくなる気持ちは自然なものです。しかし、こちらから連絡をしたり会いに行ったりすると、相手に接触のきっかけを与え、関係を続ける口実にされることがあります。後で警察や弁護士が対応する際にも、「連絡を取り合っていた」と受け止められるおそれがあります。
確かめたいことがあっても、直接のやり取りは避け、記録をとったうえで第三者を通じて動くほうが、結果として早く落ち着くことが多いといえます。避けたい行動については、ストーカートラブルに遭ったら絶対にやってはいけない5つのこと|早期・穏便に解決するためにで詳しく解説しています。
警察に相談して進める手段
相手の転居は、自分から伝える必要がある
相手が過去に警察から注意を受けていたとしても、その後に相手がどこへ引っ越したかという情報が、自動的に警察へ届く仕組みはありません。以前に相談したことがある警察署であっても、「相手が近所に越してきた」という事実は、改めて伝える必要があります。
相談の際は、前の章で整理した記録を持参すると、状況が伝わりやすくなります。過去に別の警察署へ相談したことがあれば、その時期や担当部署も伝えておくと、記録の照合がしやすくなります。
警告・禁止命令と、改正で設けられた職権警告
つきまとい等が認められると、警察は相手に対して、行為をやめるよう警告することができます(同法4条)。改正前は被害者からの申出が必要でしたが、令和7年12月30日以降は、申出がなくても警察の判断で警告を出せるようになりました。
警告に従わない場合や、より強い対応が必要な場合には、公安委員会が禁止命令を出すことができます(同法5条)。改正により、被害者の住居地を管轄する公安委員会も禁止命令等を出せるようになったため、相手が近所に越してきた場合でも、手続の主体が分かりやすくなっています。禁止命令に違反してつきまといなどをすると、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金の対象になります(同法19条)。申出の方法については【ストーカートラブル】禁止命令を出してもらうには|申出の方法と出るまでの期間、相談しても警告が出ないときの対応は【ストーカートラブル】警察に相談したのに警告が出ない|次に取れる手段で解説しています。
パトロールや援助の申出
警告や禁止命令に至らない段階でも、自宅周辺のパトロールの強化や、防犯上の助言を受けられることがあります。また、被害を防ぐための援助を受けたいと申し出ることもできます(同法7条)。
相手の行動がまだ規制の対象とまではいえない段階でも、警察に相談の記録を残しておくことには意味があります。後に行動がエスカレートした場合に、経緯を一から説明し直す負担が軽くなるためです。
弁護士を通じて取れる手段
代理人からの通知で接触を止める
弁護士が代理人となり、相手に対して、つきまといや連絡をやめるよう書面で通知する方法があります。以後の窓口を弁護士に一本化することで、ご本人が相手と直接やり取りする場面を減らすことができます。警察への相談と並行して進めることも可能です。代理人を立てることの意味については、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で解説しています。
接近禁止の仮処分を求める
裁判所に対し、人格権にもとづいて、自宅や勤務先への接近を禁じる仮処分を申し立てる方法もあります(民事保全法23条2項)。相手がすぐ近くに住んでいる場合は、「自宅から何メートル以内への接近を禁止する」といった範囲の決め方が、相手の生活範囲と重なることがあり、決定の内容をどう組み立てるかが問題になります。
仮処分で相手の住まいそのものから退去するよう命じてもらうのは、一般にハードルが高いと考えられています。そのため、接近の禁止に加えて、待ち伏せや声かけ、連絡の禁止など、具体的な行為を対象にする形で申し立てることが多くなります。費用と期間の目安は【ストーカートラブル】接近禁止の仮処分にかかる費用と期間の目安|担保・審尋・決定後の手続まで、警察の手続との使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで解説しています。
引っ越し費用や慰謝料の請求
相手のつきまといによって転居を余儀なくされた場合や、精神的な苦痛を受けた場合には、不法行為にもとづく損害賠償として、転居費用や慰謝料を請求できる可能性があります(民法709条、710条)。ただし、相手の行為と転居との結びつきを説明できるかどうかが問われるため、ここでも記録が重要になります。請求できる項目については、【ストーカートラブル】ストーカー被害の慰謝料|請求できる項目と組み立てで解説しています。
自分が住まいを移すかどうかの考え方
引っ越しは選択肢の一つ
相手が近くにいることで日常生活に強い不安が続く場合、自分が住まいを移すことも選択肢になります。ただ、転居には費用や仕事、通学への影響もあり、すぐに決められることではありません。警察や弁護士による対応で相手の行動が落ち着くかどうかを見ながら、判断していく方法もあります。判断の目安については、【ストーカートラブル】相手の家の近くに住んでいる|引っ越すべきかの判断で解説しています。
移る場合は、移った先を知られない手順を
引っ越す場合は、転居先を相手に知られないための手続を先に整えておくことが大切です。ストーカー被害を受けている方は、市区町村に申し出て、住民票の写しなどの交付を制限する支援措置を受けられることがあります。手続の順序については、【ストーカートラブル】引っ越した先を知られないための手続の順序で解説しています。
よくあるご質問
偶然かもしれない段階でも、警察や弁護士に相談してよいですか?
相談して差し支えありません。相手が本当にわざと越してきたのかどうかを、ご自身で確かめてから相談する必要はありません。偶然の範囲なのか、規制の対象になり得る行動なのかは、記録をもとに専門家と一緒に整理していくことができます。相談の順序については、【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序で解説しています。
禁止命令が出た後に越してきた場合は、扱いが変わりますか?
禁止命令が出ている場合、近所に住むこと自体は命令違反とされないことがあっても、越してきた後のつきまといなどは命令違反として扱われる可能性があります。この場合の考え方は、【ストーカートラブル】禁止命令が出た後に相手が近所に越してきた|住むこと自体と、越してきた後の行動を分けて考えるで詳しく解説しています。
相手の部屋の大家さんに、退去させるよう頼めますか?
相手の賃貸借契約は、相手と大家さんとの間の契約であるため、第三者が退去を求めることは基本的にできません。大家さんや管理会社に事情を伝えること自体は可能ですが、契約を解除するかどうかは大家さん側の判断になり、迷惑行為を理由とする解除も簡単には認められないのが一般的です。相手方の住まいへの働きかけよりも、警察の警告や禁止命令、弁護士による対応で相手の行動を止める方向で考えるほうが現実的です。
まとめ
- 元恋人が近所に越してきたこと自体は、居住・移転の自由(憲法22条1項)との関係で、それだけで違法とされにくい。
- 越してきた後の見張り・押し掛け・うろつきは、つきまとい等に当たり得る(ストーカー規制法2条1項1号)。
- 「近くに住んでいる」と知らせてくる連絡は、監視していると告げる行為などに当たり得る(同項2号、3号)。
- 警察には相手の転居が自動的に伝わらないため、記録をもとに自分から相談し、警告(同法4条)や禁止命令(同法5条)を求める。
- 令和7年12月30日以降は、被害者の申出がなくても警察が警告を出せるようになっている。
- 弁護士を通じて、通知による接触の停止や接近禁止の仮処分(民事保全法23条2項)、転居費用や慰謝料の請求(民法709条、710条)を検討できる。
- 相手に直接確かめにいかず、日時・場所・様子を時系列で記録しておくことが、どの手段を取る場合にも土台になる。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。元恋人が近所に越してきて不安を感じている方は、偶然かどうかが分からない段階でも、記録をお持ちいただければ、警察への相談の進め方や代理人としての対応を一緒に検討します。
近所に住んだだけなのにストーカーと言われて困っている方からのご相談もお受けしています。どちらの立場であっても、早い段階で状況を整理することが、落ち着いた解決への近道になります。


