復縁を執拗に迫られる|復縁強要とストーカーの境界
この記事は2026年9月時点の法令に基づいています。ストーカー規制法は令和7年12月30日および令和8年3月10日施行の改正内容を反映しています。弁護士費用の内訳や金額は事務所によって異なりますので、実際の見積もりは個別にご確認ください。
警察には相談に行った。話は聞いてもらえたし、警告も出た。それでも相手からの接触が止まらない。あるいは、相談はしたものの「もう少し様子を見ましょう」と言われたまま日が過ぎている。そういう段階で、弁護士に頼むと何が変わるのかが分からない、というご相談をいただくことがあります。
弁護士は警告を出せませんし、逮捕もできません。では何ができるのか。この点があいまいなまま費用の話に進むと、判断のしようがないと思います。
この記事では、代理人を立てることで実際に変わる部分、警察・裁判所・代理人の役割の分かれ方、依頼した後にご自身がやること、費用の考え方、そして弁護士でも止められないことを、順に整理します。
法律は「本人が相手と交渉する場面」を想定している
意外に思われるかもしれませんが、ストーカー規制法には、被害を受けている方が自分で相手と交渉することを前提にした援助の仕組みが置かれています。
同法7条は、被害を受けている方から申出があり、それが相当と認められるときは、警察本部長等が被害を自ら防止するための措置の教示その他の援助を行うものとしています。援助の中身は施行規則で定められており、次のようなものです。
- 被害を自ら防止するための措置を教示すること。
- 被害防止交渉を円滑に行うために必要な事項を連絡すること。
- 行為者の氏名・住所その他の連絡先を教示すること。
- 被害防止交渉を行う際の心構えや交渉方法について助言すること。
- 被害防止に関する活動を行っている民間の団体を紹介すること。
- 被害防止交渉を行う場所として警察施設を利用させること。
- 防犯ブザーなど被害の防止に資する物品を教示し、または貸し出すこと。
- 警告・禁止命令等を実施したことを明らかにする書面を交付すること。
注目していただきたいのは、6番目です。警察庁の通達では、この場合には第三者を立ち会わせること、申出人が第三者を立ち会わせることができないときは両当事者の了解を得て警察職員を立ち会わせることとされています。
つまり制度の側は、本人が相手と向き合う場面が残ることを前提に設計されているということです。代理人を立てる意味のうち、いちばん大きいのはここだと私は考えています。交渉が必要な場面そのものを、本人の手から外せるということです。
窓口が移ると何が変わるのか
弁護士が代理人に就いたことを相手に伝える書面を、受任通知といいます。以後の連絡先は代理人になります、という趣旨の通知です。仕組みそのものは受任通知とは何かで説明していますので、あわせてご覧ください。
変わるのは、次の3点です。相手からの連絡が事務所に向くこと、返信の内容と時期をこちらで決められること、そして返事をしないという選択が可能になることです。自分の電話に直接かかってくる状態では、無視することにも相当な負担がかかります。
止まりやすい場合と、止まりにくい場合
通知を出せば必ず止まるわけではありません。経験上、傾向は分かれます。
止まりやすいのは、相手がご自身の社会的な立場を気にしている場合や、金銭の清算や荷物の返還など、関係を終える手続が残っている場合です。相手にとって「話し合いたい」対象があると、代理人という窓口が受け皿になります。
止まりにくいのは、接触そのものが目的になっている場合や、すでに警告や禁止命令等を受けたうえで行為が続いている場合です。この場合、通知が届いたこと自体が相手の反応を引き出すおそれがあります。面識がなく、相手が誰か分かっていない事案でも、通知の宛先そのものがありません。
だからこそ、通知を出すかどうか、出すとしていつ出すかは、事案を見て決める必要があります。私は、通知を出す前に、避難や住所の管理、記録の整理といった準備が済んでいるかを確認するようにしています。相手が動く前提で、こちら側の足場を先に固めておくためです。警察庁の通達も、この種の事案では警告等の行政措置が犯行を阻止するのに十分な有効性を持たない場合があるとして、行政措置を優先する考え方を排除し、危険性や切迫性に応じて第一に検挙措置による防止を図るよう示しています。危険が高いと見立てられる場面では、通知より先に刑事手続を動かすことを考えます。
警察・裁判所・代理人の分担
三者は代わりが利きません。どこに何を頼むのかを整理しておくと、動きが速くなります。
| やりたいこと | 担い手 | 押さえておく点 |
|---|---|---|
| 相手に行為をやめるよう命じる | 警察・公安委員会 | 警告と禁止命令等。弁護士は出せない |
| 接近しないことを命じてもらう | 裁判所 | 民事保全の手続として申し立てる |
| 相手を検挙してもらう | 警察・検察 | 被害届や告訴が入口になる |
| 連絡の窓口を移す | 弁護士 | 代理人として通知を出す |
| 損害賠償を求める | 弁護士・裁判所 | 治療費や引越費用も検討の対象 |
| 投稿の削除や発信者の特定 | 弁護士 | 公開された投稿かどうかで扱いが変わる |
| 住所を調べられにくくする | 市区町村 | 支援措置の申出。書面の準備を弁護士が助ける |
このうち、接近しないことを命じてもらう道と、警察に動いてもらう道の使い分けは、接近禁止を実現する2つの道で整理しています。
警察が出す書面を、他の手続で使う
先ほど挙げた援助のうち、8番目の「警告等を実施したことを明らかにする書面の交付」は、あまり知られていない割に使い道があります。通達によれば、これは被害を受けている方が関係行政機関や事業者等に被害防止措置を要請する際に、迅速な協力を得られるようにするためのものとされ、特段の必要がない限り相手方の氏名や住所は記載しないこととされています。
勤務先に配慮を求めるとき、集合住宅の管理会社に依頼するとき、市区町村に支援措置を申し出るとき。口頭で説明するよりも、この書面があるほうが話が通りやすくなります。代理人は、こうした公的な書面を集めて、手続の間を橋渡しする役割も担います。
依頼した後に、ご自身がやること
代理人を立てても、ご自身の側でやめてはいけないことがあります。
- 記録を取り続ける。日時・場所・何があったかを、その日のうちに書き残す。
- 届いた連絡には自分で返信せず、そのまま代理人に転送する。
- 警察との連絡を切らない。担当者が替わることもあるため、相談番号や担当窓口を控えておく。
- 住所や勤務先の情報が新たに広がっていないか、定期的に確認する。
- 身の危険を感じたときは、代理人への連絡より先に110番通報する。
3番目は特に大切です。弁護士に依頼したから警察への相談は不要になる、ということはありません。通達も、警告等の行政措置と犯罪捜査は目的を異にするため、並行して行うことが可能であるとしています。二つのルートは同時に動かすものだとお考えください。
なお、警告の申出をしたのに警告がされなかったときは、その旨と理由が書面で通知されることになっています。動いてもらえていないと感じる場合の考え方は、警察に相談しても動いてくれないときで整理しています。
相手が代理人を無視して直接連絡してきたら
これはよくあります。そのときは、返信せずに記録を残し、代理人に伝えてください。代理人が就いた後に直接連絡してきたという事実自体が、材料になります。すでに窓口が移ったことを知りながら本人に接触しているということですので、拒絶の意思が明確に伝わっていたことの裏づけになり、その後の警告や禁止命令等、刑事手続を検討するうえでも意味を持ちます。
感情的な返信を一度でもしてしまうと、この構図が崩れます。反応しないことが、いちばん強い対応になる場面です。
費用をどう考えるか
金額は事務所によって異なりますので、ここでは考え方だけをお示しします。
何に対して払うのかを分ける
弁護士費用は、法律相談料、着手金、報酬金、実費・日当といった内訳に分かれるのが一般的です。ストーカー被害の場合、依頼の範囲がどこまでかによって金額が大きく変わりますので、次の点を分けて確認してください。
- 通知を1通出すところまでなのか、その後の連絡の窓口を継続して務めるのか。
- 交渉のみか、仮処分や訴訟まで含むのか。
- 刑事の手続(被害届・告訴の準備、捜査機関との連絡)が含まれるのか。
- 対応が長引いた場合の費用の追加はどうなるのか。
また、損害賠償を請求して認められた場合でも、支出した弁護士費用の全額がそのまま相手の負担になるとは限りません。回収できる前提で計画を立てないほうが安全です。
公的な相談の枠組み
法テラスには、DV・ストーカー・児童虐待の被害を受けている方、または受けるおそれのある方を対象としたDV等被害者法律相談援助という制度があります。資力にかかわらず利用でき、処分可能な現金・預貯金の合計額が300万円以下であれば無料で相談できます。この基準を超える場合は、相談料として60分未満で5,500円、60分以上で11,000円を負担する扱いです。被害の防止に必要な相談であれば、刑事・民事を問わず利用できるとされています。
弁護士費用の立替えについては、これとは別に民事法律扶助などの枠組みがあり、収入や資産の要件が定められています。まず相談だけしてみたいという段階では、この制度から入る選択肢もあります。
弁護士でも止められないこと
最後に、期待していただけない部分を正直に書いておきます。
- 警告や禁止命令等を出すこと。これは警察と公安委員会の権限です。
- 相手を逮捕すること、刑事事件をどう処分するかを決めること。
- 継続的に身辺を警護すること。警備は弁護士の業務ではありません。
- 相手の気持ちそのものを変えること。
- 通知が届いた直後に、行動が一時的に激しくなることを防ぐこと。
こう並べると心細く感じられるかもしれませんが、裏を返せば、代理人を立てることは、警察や裁判所を使わなくてよくなることではありません。三つを同時に動かし、どの手続をどの順で使うかを組み立てることが、代理人の実際の仕事です。相談の場では「弁護士に頼めば終わる」ではなく「今の段階では警察のこの手続を先に使いましょう」とお伝えすることもあります。
依頼するかどうかを決める前でも、いま自分の事案がどの段階にあり、次に打てる手が警察側にあるのか裁判所側にあるのかを整理することはできます。費用の見通しも、その整理ができてはじめて出せるものです。判断がつかない段階でこそ、一度お話を聞かせていただければと思います。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


