【不貞慰謝料】本人が書いた念書・謝罪文の証拠価値
この記事は2026年9月時点の法令に基づいています。ストーカー規制法は令和7年12月10日に改正法が公布され、職権による警告の創設などが令和7年12月30日から、情報提供をめぐる規定の一部が令和8年3月10日から施行されています。設備の運用や契約の内容は建物ごとに異なりますので、実際の対応は個別にご確認ください。
エントランスのインターホンが夜中に何度も鳴る。宅配業者に続いてオートロックの中に入られたらしく、玄関ドアの前に紙が置かれていた。管理会社に電話したものの、警察に相談してくださいと言われて終わってしまった。自宅マンションまで来られている方から、こうしたお話を伺うことがあります。
この段階でいちばん困るのは、誰に何を頼めばよいのかが分からないことだと思います。警察、管理会社、大家さん、宅配業者、郵便局と、関係する相手が一度に増えるうえ、どこも「うちではできない」と言いがちだからです。
この記事では、共用部で起きていることをどう位置づけるか、管理会社や大家さんに何をどこまで頼めるか、防犯カメラの映像を出してもらうにはどうするか、そして住み続けるか出るかを考えるときの材料を、順に整理します。
共用部に入ってくること自体が、別の問題になり得る
まず知っておいていただきたいのは、オートロックの内側や廊下は、法律上「外」ではないということです。
最高裁は、集合住宅の共用部分について、刑法130条(住居侵入等)の対象になり得るという立場を示しています。分譲マンションの玄関ホールを通って廊下等に立ち入った事案では、そこは住人らが私的生活を営む場所であり、一般に人が自由に出入りできる場所ではないとして、同条前段の罪の成立が認められました(最高裁平成21年11月30日判決)。集合住宅の共用部分をめぐっては、平成20年4月11日の最高裁判決も同様の枠組みを示しています。
ですから、「玄関ドアの前まで来られた」と「入り口の前をうろついていた」は、意味の違う事実です。前者は建物の中まで入られたということであり、管理会社に話すときも警察に相談するときも、扱いが変わってきます。
記録するときに分けておきたいこと
次の3点を分けて書き留めておくと、後で説明しやすくなります。
- どこで起きたか(建物の外・エントランス前・オートロックの内側・自室の玄関前)。
- どうやって入ったと考えられるか(住人について入った、誰かに解錠させた、暗証番号を知っていた)。
- そのとき自分が在宅していたか、していなかったか。
3番目を挙げたのは、ストーカー規制法でいう「押し掛け」について、警察庁の運用上、相手が在宅しているかどうかは問わないと整理されているためです。留守中に来られていた場合も、後から知って不安を覚えたのであれば、記録しておく意味があります。
なお、記録を残すこと自体が相手を刺激しないかというご心配については、ストーカーを刺激せず関係を断つで整理していますので、あわせてご覧ください。
管理会社・大家に、何をどこまで伝えるか
管理会社に連絡するとき、事情をすべて説明しなければならないと考えて、切り出せなくなる方がいます。しかし、依頼を通すために必要なのは、次の3点だけです。
- 共用部で起きた事実(日時と場所)。
- こちらが頼みたいこと。
- 緊急時の連絡先と、連絡してよい方法。
相手との関係や過去の経緯まで話す必要はありません。管理会社が動く根拠は「建物の中で起きていること」であって、当事者間の事情ではないからです。伝えたくないことは伝えないまま、依頼だけを成立させることができます。
頼めることを具体化する
「何とかしてください」ではなく、項目にして伝えたほうが通りやすくなります。建物によって可否は変わりますが、次のようなものが検討の対象になります。
| 頼む内容 | 想定される相手 | 留意点 |
|---|---|---|
| 来訪者に解錠しないよう掲示・周知 | 管理会社・管理組合 | 他の住民への協力依頼になる |
| 集合ポストや表札の氏名表示を外す | 管理会社・自分 | 氏名表示に法律上の義務はない |
| 宅配ボックスや置き配の運用変更 | 管理会社・宅配事業者 | 伝票の記載内容も見直す |
| 管理員の巡回時間帯の調整 | 管理会社 | 常駐でない建物では難しい場合がある |
| 玄関錠の交換・補助錠の設置 | 大家・管理会社 | 費用負担の取り決めを先に確認する |
| 防犯カメラ映像の保存 | 管理会社・管理組合 | 上書きされる前に依頼する |
このうち錠については、相手が合鍵を持っている可能性があるかどうかで、急ぐ度合いが変わります。返してもらう交渉を先に試すのか、待たずに交換するのかという判断は、別れた相手が合鍵を持っているで整理しています。
また、相手の荷物が部屋に残っている、あるいは自分の荷物を相手の家に置いたままだという場合、その受け渡しが来訪の口実として使われることがあります。荷物をどう扱うかについては、相手の荷物が家に残っているをご覧ください。
入居者の情報を教えないよう頼む
見落とされやすいのが、この依頼です。ストーカー規制法は、ストーカー行為等をするおそれがある者だと知りながら、その人に対して被害を受けている方の氏名・住所その他の情報を提供することを、誰に対しても禁じています(法6条1項)。管理会社や大家さんも、この「何人も」に含まれます。
さらに令和8年3月10日からは、警察が警告や禁止命令等をした場合に、警察本部長等が、そうした情報を持っている人に対して提供を行わないよう求めることができる規定が動き出しました(法6条2項)。加えて同法は、ストーカー行為等が行われている地域の住民に、被害を受けている方への援助に努めるよう求めています(法9条3項)。
管理会社がこの条文の「地域の住民」や「関係事業者」に当然に当たるとまでは言い切れませんが、法律にこうした規定が置かれていること自体は、依頼を裏づける材料になります。口頭だけでなく、短い書面やメールで残しておくことをおすすめします。
防犯カメラの映像を出してもらう|断られる理由と、別の道
実務でいちばん詰まるのがここです。共用部にカメラがあっても、管理会社に頼むと「個人情報なので出せません」と言われることが少なくありません。
先に頼むのは「出すこと」ではなく「消さないこと」
映像は多くの場合、一定期間で上書きされて消えていきます。保存期間は設置者の運用によって異なりますので、最初の連絡では何日分が残っているのかを確認し、その日時の映像を消さないでほしいと伝えるのが先です。開示の可否を交渉している間に、対象の映像そのものが消えてしまうことがあります。
なぜ断られるのか
断られる理由は、必ずしも「法律で禁じられているから」ではありません。
個人情報保護委員会は、防犯カメラの映像について、特定の個人に係る映像を検索できるように体系的に構成されたものでない限り、個人情報保護法上の「個人情報データベース等」には当たらないとしています。日時では検索できても、人物では検索できない一般的な防犯カメラは、これに当たらないと整理されるのが通常です。そうすると、自分が映っているからといって、本人としての開示請求ができるとは限らないことになります。
もっとも、同じ理由から、第三者に提供することを法が一律に禁じているわけでもありません。実際に管理会社が渋る背景には、社内規程で決めていない、他の居住者が映り込んでいる、トラブルに巻き込まれたくない、といった事情があることが多いと感じています。なお個人情報保護法には、人の生命・身体・財産の保護のために必要があり本人の同意を得ることが困難な場合の例外も定められています(同法27条1項2号)。
断られたときに残っている道
直接の依頼が通らない場合、次の三つが検討の対象になります。
- 警察を通す方法。捜査に必要があるときは、警察が公務所または公私の団体に照会して報告を求めることができます(刑事訴訟法197条2項)。この照会への回答は個人情報保護法27条1項1号の「法令に基づく場合」に当たるため、本人の同意がなくても提供できると整理されています。
- 弁護士会照会を使う方法。弁護士が受任している事件について所属弁護士会に申し出て、弁護士会が団体に照会する制度です(弁護士法23条の2)。ただし回答を拒まれても罰則はありません。
- 裁判所の手続を使う方法。あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使うことが困難になる事情があるときは、訴えを起こす前でも証拠保全を申し立てることができます(民事訴訟法234条、235条2項)。事情の疎明が必要で、時間も費用もかかるため、最初の一手ではありません。
実際には、警察に被害相談をしたうえで警察から照会してもらう流れが、いちばん現実的なことが多いと思います。この点でも、相談を早くしておく意味があります。
郵便・宅配・表札から漏れているもの
どうやって部屋番号まで分かったのか、という疑問が残ることがあります。建物まわりには、意外なほど情報が出ています。
- 集合ポストの氏名表示や玄関の表札(氏名を出す法律上の義務はありません)。
- 玄関前に置かれた荷物の伝票や、置き配のラベル。
- ポストからはみ出したままの郵便物やダイレクトメール。
- 通販・サブスクリプションの登録住所や、退会せずに残っているアカウント。
郵便については、日本郵便に転居届を出すと、届出日から1年間、旧住所あての郵便物が新住所に転送されます。また、不在届を出すと最長30日間、郵便局で保管してもらえます。重要な書類は本人限定受取や郵便局留めを使うという選択肢もあります。
いずれも仕組みそのものは中立ですので、相手側から使われる可能性も含めて考える必要があります。住所をたどられる経路の全体像については、引っ越したのに住所を突き止められたで整理しています。
住み続けるか、出るか|賃貸契約を途中で終える場合
引っ越しを考え始める方も多いのですが、契約の途中で出る場合、費用の問題が出てきます。
期間を定めた賃貸借は、期間内に解約する権利を留保していなければ、途中で解約できないのが原則です(民法618条)。住宅の賃貸借契約では、1か月前の予告で解約できるという特約が置かれていることが大多数ですので、まず契約書の解約条項を確認してください。
いわゆる定期借家契約の場合は、少し扱いが違います。居住用で床面積が200平方メートル未満の建物については、転勤・療養・親族の介護その他のやむを得ない事情により生活の本拠として使用することが困難となったときは、特約がなくても解約を申し入れることができ、申入れの日から1か月の経過で終了します(借地借家法38条7項)。これに反する借主に不利な特約は無効とされています(同条8項)。
残存期間分の賃料を全額違約金とするような条項が置かれている場合もありますが、こうした定めが常にそのまま有効と判断されるとは限りません。金額に納得がいかないときは、支払う前に相談していただくのがよいと思います。
また、退去のタイミングは情報が動くタイミングでもあります。転居届、退去の立会い、旧居のポストの扱いを含めて、順番を決めてから動いたほうが安全です。
手続をどの順で組むか
最後に、並べ方を整理します。どれか一つで解決する場面は多くありません。
- 共用部で起きた事実を、日時・場所・入り方に分けて書き出す。
- 管理会社に連絡し、映像を消さないよう依頼したうえで、頼みたい項目を書面で伝える。
- 警察に相談し、映像や記録を持ち込む。相手が分かっている場合は、警告や禁止命令等の検討につなげる。
- 住まいの守り方(錠・表札・受け取り方法)を見直す。
- 契約と費用の見通しを立てたうえで、住み続けるか出るかを決める。
このうち3番目については、警察の措置と裁判所の手続という二つの枠組みがあり、それぞれ使いどころが違います。詳しくは接近禁止を実現する2つの道をご覧ください。
自宅まで来られている状況では、判断を急がされている感覚になりやすいと思います。ただ、映像のように期限のあるものと、契約のように落ち着いて決めてよいものとは、切り分けることができます。何を今日中にお願いし、何を後で決めるのか。その線引きだけでも、一度外の目を入れて整理していただければと思います。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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