【ストーカートラブル】接客の仕事で客につきまとわれている|個人でできること
本記事は、ストーカー行為等の規制等に関する法律(令和3年改正後のもの)、東京都の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(令和4年10月1日施行の改正後のもの)、および令和7年6月1日から懲役・禁錮が拘禁刑に一本化されたことを踏まえ、2026年10月時点の内容で作成しています。
「別れた相手の車が、週に何度か家の前を通っていく」「停まっているわけではないけれど、同じ車を見かける回数が増えた」――ご相談の場では、こうした車をめぐるお話を伺うことがあります。その一方で、「公道を走っているだけなのだから、違法とまでは言えないのでは」と考えて、相談をためらっている方も少なくありません。
ストーカー規制法の解説では、自宅の付近をみだりにうろつく行為が規制の対象になると説明されることが多く、その説明自体は正確です。ただ、車の場合には、「通りかかっただけ」と「うろつき」をどう分けるのか、その車が相手のものだとどう示すのか、相手の目的をどう考えるのかといった、徒歩の場合とは少し違う判断のポイントが出てきます。
この記事では、相手が車で自宅の周囲を走っている場面に絞って、法律上どのように扱われ得るのか、そのために何を記録しておけばよいのかを整理します。待ち伏せや押しかけ全般については元交際相手のつきまとい・待ち伏せ|ストーカー規制法でできる対応、マンションの設備を使った対策については【ストーカートラブル】自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることで詳しく扱っています。
車で家の周りを走る行為は「うろつき」に当たり得る
まず、車で自宅の周囲を走る行為が、法律のどの規定と関係するのかを確認しておきます。
条文が定める「住居等の付近をみだりにうろつく」こと
ストーカー規制法は、規制の対象となる「つきまとい等」の一つとして、つきまといや待ち伏せ、住居等の付近での見張り、住居等への押しかけと並んで、「住居等の付近をみだりにうろつくこと」を挙げています(ストーカー規制法2条1項1号)。このうろつきの類型は平成28年の改正で加えられたもので、それまでは捉えにくかった、自宅の周りを行き来する行為が明文で対象になりました。
また、令和3年の改正では、自宅や勤務先などの「通常所在する場所」に加えて、実家や外出先といった「現に所在する場所」の付近での見張りやうろつきも対象に含められています。
徒歩か車かは区別されていない
条文は、うろつきの手段を徒歩に限っていません。そのため、車で自宅の周囲を何度も回る、家の前の道を行き来するといった行為も、うろつきとして評価の対象になり得ます。車に乗っているから対象外になるわけではなく、どのような走り方をしているかが問われると考えておくとよいでしょう。
「みだりに」が意味するもの
一方で、条文には「みだりに」という言葉が付いています。これは、正当な理由がないのに、という意味です。相手の通勤経路や買い物の経路にたまたま自宅前の道が含まれている場合には、通り過ぎるだけでうろつきと評価するのは難しくなります。逆に言えば、生活の動線から外れているのに繰り返し走っている事情があれば、「みだりに」と評価される方向に働きます。
「通過」と「うろつき」を分ける事情
車の場合、一度通り過ぎただけでは判断が難しいのが通常です。どのような事情があると「うろつき」に近づくのかを見ていきます。
回数・時間帯・走り方
うろつきかどうかは、一つひとつの通過ではなく、全体の様子から判断されます。次のような事情は、単なる通過ではないことをうかがわせる材料になります。
- 同じ車が、短い期間に何度も家の前を通っている。
- 深夜や早朝など、通常は人の行き来が少ない時間帯に繰り返し見かける。
- 袋小路や生活道路など、通り抜ける必要のない道に入ってくる。
- 家の前で速度を落とす、周囲を何周も回るといった走り方をしている。
- 帰宅や外出の時間に合わせるように現れる。
どれか一つがあれば足りるというものではなく、こうした事情がいくつ重なっているかで評価が変わってきます。
停車して様子をうかがう場合は「見張り」や「待ち伏せ」も
走り回るだけでなく、家の近くに車を停めて中から様子をうかがっている場合は、「見張り」に当たる可能性があります。帰宅する時間帯に近くで停車しており、こちらが近づくと動き出すといった場合には、「待ち伏せ」として評価されることも考えられます。車の動きを記録するときは、走っていたのか、停まっていたのかも分けて書き留めておくと、どの類型に当たるかを検討しやすくなります。
相手の目的と「不安を覚えさせる方法」
ストーカー規制法の対象になるのは、恋愛感情やその他の好意の感情、あるいはそれが満たされなかったことへの恨みの感情を満たす目的で行われる場合です。元交際相手や、一方的に好意を寄せてきた相手であれば、この目的が認められやすいといえます。
これに対し、近隣トラブルや仕事上の恨みなど、好意とは関係のない感情から車で周囲をうろつかれている場合は、ストーカー規制法の目的に当たらないことがあります。東京都では、迷惑防止条例が、妬みや恨みなどの悪意の感情に基づくつきまとい行為等を別に禁止しており、住居等の付近をみだりにうろつく行為もその対象とされています(東京都迷惑防止条例5条の2第1項)。
さらに、刑罰の対象となる「ストーカー行為」と評価されるには、うろつきなどが繰り返され、かつ、身体の安全や住居等の平穏が害される不安を覚えさせるような方法で行われていることが必要です(ストーカー規制法2条)。一度の通過で判断するのではなく、記録を積み重ねて「繰り返し」と「不安を覚えさせる方法」を示せるかどうかが分かれ目になります。つきまとい等とストーカー行為の違いについては、連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違いもあわせてご覧ください。
「相手の車」だと示すための記録
車をめぐるご相談では、その車が本当に相手のものなのか、運転しているのが相手本人なのかが問題になりやすい点に特徴があります。警察や弁護士に相談する前に、次のような記録を整えておくと話が進みやすくなります。
日時・場所・ナンバー・車種を書き留める
見かけるたびに、日付と時刻、場所、走っていたか停まっていたか、車種と色、ナンバーを書き留めておきます。ナンバーは4桁の数字だけでなく、地名・分類番号・ひらがなまで控えておくと、同じ車であることを示しやすくなります。手帳でもスマートフォンのメモでも構いませんが、後から書き足したと受け取られないよう、その日のうちに記録しておくのが望ましいでしょう。記録の付け方の全体像は証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはで整理しています。
防犯カメラやドライブレコーダーの映像
自宅に防犯カメラを設置している場合は、車が映った場面の映像を、上書きされる前に別の媒体へ保存しておきます。自分の車のドライブレコーダーに駐車中の録画機能があれば、それも記録の一つになります。運転者の顔が映っていれば、相手本人であることを示す手がかりになります。
なお、撮影は自宅の敷地内や窓からなど、安全な場所から行うことが前提です。相手の車に近づいたり、追いかけたりして撮影することは、身の安全の面からも避けてください。
ナンバーから持ち主を自分で調べることの難しさ
車の登録事項等証明書は、ナンバーだけでは原則として請求できず、車台番号の一部が必要とされています。そのため、見かけた車の持ち主を個人で確かめるのは、制度上難しいのが実情です。相手の車かどうかがはっきりしない場合は、記録を持って警察に相談するほか、弁護士が関与する場合には弁護士会を通じた照会などを検討することになります。相手が誰か分からない場面の考え方は、【ストーカートラブル】相手が誰か分からない|匿名のつきまといで相手をたどる方法と、たどれないときの守り方で詳しく扱っています。
警察・弁護士に相談するときの進め方
記録がある程度そろったら、相談先に持ち込んで、どのような手続を取るかを検討していきます。
警察への相談と、警告・禁止命令
警察には、最寄りの警察署の生活安全課などで相談できます。相談すると、相談の記録が残るほか、事案に応じて自宅周辺のパトロールを強めてもらえることもあります。
ストーカー規制法に当たる行為がある場合は、相手に対して警告を出すよう申し出ることができます(ストーカー規制法4条)。さらに、反復のおそれがあると認められれば、公安委員会が、つきまとい等をしてはならないという禁止命令を出すことがあります(同法5条)。危険を感じる場面では、ためらわずに110番通報をしてください。警察の対応が進まないと感じる場合の考え方は、警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができることでまとめています。
禁止命令が出た後に車で来た場合
禁止命令が出た後も相手が車で周囲をうろつく場合は、禁止命令違反として刑罰の対象になり得ます(同法19条・20条)。禁止命令が出た後こそ、それまでと同じように日時やナンバーを記録し、違反があったときにすぐ伝えられるようにしておくことが大切です。警告・禁止命令の流れについては、SNS・LINEの執拗な連絡はストーカーになる?警告・禁止命令の流れもご参照ください。
弁護士に依頼してできること
相手が誰か分かっている場合、弁護士が代理人として相手に通知を送り、自宅周辺に近づかないよう求めることができます。そのうえで、接触しないことを約束する合意書を取り交わしたり、事案によっては裁判所に接近禁止の仮処分を申し立てたりすることも考えられます。警察の手続と、弁護士による民事の手続は、どちらか一方を選ぶものではなく、並行して進めることができます。両者の使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分け、代理人を立てる意味は【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で詳しく扱っています。
車で来ていることに気づいたときに避けたいこと
相手の車を見かけると、何とかしてやめさせたいという気持ちになるのは自然なことです。ただ、対応の仕方によっては、身の安全を損なったり、こちらが責任を問われたりするおそれがあります。
直接の接触や、車への働きかけ
次のような対応は、控えるようにしてください。
- 相手の車を追いかける、車の前に立って止めようとする。
- 車に近づいて直接注意をする、窓を叩く。
- 車に貼り紙をする、傷を付ける、タイヤに細工をする。
- ナンバーや車の写真をSNSに投稿して、相手を特定させようとする。
車への貼り紙や傷は器物損壊として扱われるおそれがあり、SNSへの投稿は内容によっては名誉毀損などの問題を生じます。相手に注意を伝えたい場合は、警察や弁護士を通じて行うほうが安全です。
行く先々で同じ車を見かける場合
自宅の周りだけでなく、職場や出かけた先でも同じ車を見かけるようであれば、自分の車や持ち物に位置情報を取得できる機器が取り付けられている可能性も視野に入れる必要があります。その場合の考え方は、GPS・AirTagで居場所を追跡された|改正ストーカー規制法と位置情報無承諾取得の罪や【ストーカートラブル】スマホや共有サービスから居場所が漏れている|位置情報以外の経路を止めるで整理しています。
よくあるご質問
相手が近所に住んでいて、自宅前の道が相手の生活道路になっています。それでも対象になりますか?
自宅前の道が相手の通勤や買い物の経路になっている場合、通り過ぎるだけで「みだりに」うろついていると評価するのは難しくなります。ただし、必要のない時間帯に何度も行き来する、家の前で停車して様子をうかがうなど、通常の通行とは異なる動きがあれば、評価が変わる可能性があります。生活上の通行とは違う点を意識して記録しておくことが大切です。
運転しているのが相手本人かどうか分かりません。家族の車やレンタカーかもしれない場合はどうすればよいですか?
車の名義人と運転者が一致しないことは珍しくありません。その場合は、運転者の顔や服装が映った映像、相手が車から乗り降りする場面など、運転者を示す材料が重要になります。はっきりしない段階でも、記録を持って警察に相談すること自体は可能です。相手を決めつけて直接問いただすことは避けてください。
警察に相談しただけで、相手に知られてしまうことはありますか?
相談しただけで、警察がすぐに相手に連絡するとは限りません。一方で、警告を出してもらう場合などには、相手に警察から連絡が入るため、相談したことが相手に伝わる形になります。相談の際に、相手への働きかけをどの段階で行うのか、その前に身の安全をどう確保するのかを確認しておくと安心です。
まとめ
- 住居等の付近をみだりにうろつく行為は、ストーカー規制法の「つきまとい等」に含まれており、手段は徒歩に限られないため、車で自宅の周囲を走る行為も対象になり得ます(ストーカー規制法2条1項1号)。
- 「みだりに」とは正当な理由なくという意味であり、通勤経路などでの通過だけでは評価が難しく、回数・時間帯・走り方などの事情の積み重ねで判断されます。
- 停車して様子をうかがう場合は「見張り」、帰宅時に合わせて現れる場合は「待ち伏せ」として評価される可能性もあります(同号)。
- 刑罰の対象となるストーカー行為と評価されるには、反復と、不安を覚えさせるような方法で行われていることが必要です(同法2条)。
- 好意と関係のない恨みなどによる場合は、東京都では迷惑防止条例のつきまとい行為等の規定が問題になり得ます(東京都迷惑防止条例5条の2第1項)。
- 日時・場所・ナンバー・車種の記録と、防犯カメラやドライブレコーダーの映像が、相手の車であることを示す材料になります。
- 警察への警告の申出(同法4条)・禁止命令(同法5条)と、弁護士による通知や合意、仮処分は、並行して進めることができます。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。相手の車が自宅の周りを走っていて不安を感じている方、これまでの記録で警察に相談できるのか判断がつかない方、警察への相談と並行して相手に近づかないよう求めたい方は、お手元のメモや映像をお持ちのうえでご相談ください。
一度の通過だけでは判断が難しい場面でも、記録を重ねることで取れる手段が見えてくることがあります。身の安全を第一に、どのような順序で進めるかを一緒に検討いたします。


