【ストーカートラブル】習い事・ジムで知り合った人からのつきまとい|施設への相談と、警察・弁護士へ進む目安
この記事は、2026年10月時点の民事保全法、民事訴訟費用等に関する法律、ストーカー規制法、配偶者暴力防止法(2024年4月施行の改正を反映)にもとづいて記載しています。裁判所に納める郵便切手の額や手続の運用は、裁判所ごとに異なる場合があります。
「裁判所に接近禁止を出してもらいたいが、いくらかかって、どのくらいで決まるのか分からない」。ストーカー被害のご相談では、手続の内容よりも先に、費用と時間の見通しを尋ねられることが少なくありません。仕事や生活を続けながら手続を進める以上、当然の疑問です。
インターネット上では「接近禁止命令の費用は数千円」「1〜2週間で発令される」といった説明がよく見られます。これ自体は誤りではありませんが、その多くは配偶者暴力防止法の「保護命令」についての説明です。民事保全法にもとづく「接近禁止の仮処分」は別の手続で、担保(保証金)の準備が必要になるなど、費用の構造も期間の考え方も異なります。
この記事では、接近禁止の仮処分に絞って、裁判所に納める費用、弁護士に依頼する場合の費用、申立てから決定までの期間、決定の後にかかりうる費用と時間を整理します。警察の手続と裁判所の手続のどちらを選ぶかという全体像は、接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで解説しています。
まず確認したいこと|「接近禁止命令」と「接近禁止の仮処分」は別の手続
名前の似た3つの手続
相手の接近や接触を止めるための公的な手続には、主に次の3つがあります。費用と期間を調べるときは、どの手続の話なのかを最初に確かめておくと混乱が少なくなります。
| 手続 | 申し出る先 | 申立ての手数料 | 効力の続く期間 |
|---|---|---|---|
| ストーカー規制法の禁止命令 | 警察(公安委員会) | かからない | 1年(更新あり) |
| 配偶者暴力防止法の保護命令(接近禁止命令など) | 地方裁判所 | 収入印紙1,000円 | 1年 |
| 民事保全法の仮処分(接近禁止の仮処分) | 地方裁判所 | 収入印紙2,000円のほか担保 | 一律の期間制限はない |
禁止命令は警察が手続を進めるため、被害を受けた側が裁判所に費用を納める必要はありません。保護命令は、配偶者や生活の本拠を共にする交際相手などからの暴力が対象で、対象となる関係が限られています。どちらの手続の対象になるかは、ストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?もあわせてご覧ください。
仮処分が検討される場面
接近禁止の仮処分は、相手との関係に制限がなく、恋愛感情を前提としない嫌がらせやつきまといにも使える点に特徴があります。警察の手続の対象になりにくい場合や、警察の手続と並行して民事上の手当てをしておきたい場合に検討されることが多い手続です。
その一方で、費用の面では担保の準備が、期間の面では相手方を呼んで話を聞く手続が、ほかの2つにはない負担になります。以下では、この2点を中心に見ていきます。
裁判所に納める費用|収入印紙・郵便切手・担保
申立ての手数料と郵便切手
仮処分の申立てには、申立書に収入印紙を貼って手数料を納めます。申立人と相手方が1人ずつの場合、手数料は2,000円です(民事訴訟費用等に関する法律3条1項・別表第一)。このほか、裁判所から相手方への呼出しや書類の送付に使う郵便切手を予納します。切手の額は裁判所ごとに定められていて、数千円程度となるのが一般的です。
このほか、相手方の住所を確認するための住民票の取得費用など、細かな実費がかかることがあります。
担保(保証金)とは何か
仮処分は、正式な裁判(本案訴訟)の結論を待たずに、相手方の行動を制限する手続です。後の本案訴訟で申立人の主張が認められなかった場合、相手方は不当に行動を制限されたことになり、損害を被る可能性があります。その損害の賠償に備えて、裁判所は申立人に担保を立てさせたうえで命令を出すのが通常です(民事保全法14条1項)。
担保の額は事案ごとに裁判所が決めるもので、法律で一律に定められてはいません。実務家向けの教材では、面談強要禁止などの仮処分について、10万円程度を一つの基準とし、事情に応じて0円から30万円程度の幅で定めるという考え方が示されています。相手方が過去にも同様の約束や命令に反している事情があれば、低額になったり、担保が不要とされたりする場合もあります。
担保は裁判所への手数料ではなく、一定の条件のもとで戻ってくる預け金という性格のお金です。ただし、申立ての時点で手元に用意できなければ手続が進まないため、資金の段取りは早めに考えておく必要があります。
担保の納め方と、戻ってくる場面
担保は、法務局(供託所)に金銭を供託する方法で立てるのが一般的です。このほか、銀行などと支払保証委託契約を結ぶ方法も認められています(民事保全法4条1項)。後者の場合、担保額の全額を現金で用意する必要はありませんが、金融機関への手数料がかかり、契約の条件も金融機関ごとに異なります。
立てた担保は、本案訴訟で申立人の主張が認められた場合や、相手方が担保の取消しに同意した場合などに、裁判所に担保の取消しを申し立てて取り戻します(民事保全法4条2項、民事訴訟法79条)。和解で事件が終わる際に、相手方の同意を合意の中に入れておくこともあります。取消しの手続にも一定の時間がかかるため、担保は数か月から、場合によってはそれ以上の期間、手元を離れるお金として考えておくと見通しが立てやすくなります。
弁護士に依頼する場合の費用
費用は事務所ごとに定められている
弁護士費用は、2004年に日本弁護士連合会の報酬基準が廃止されて以降、各事務所が自由に定めています。法律事務所が公開している例を見ると、接近禁止の仮処分の着手金は20万円台から40万円台の幅で示されているものが多く、これに成功報酬や実費が加わる形が一般的です。
費用の内訳は、相談料、着手金、報酬金、実費、日当などに分かれます。それぞれの意味は弁護士費用の内訳|相談料・着手金・報酬金・実費・日当・手数料で整理しています。
見積りで確かめておきたい項目
仮処分は、決定が出た後に別の手続が続く場合があるため、見積りの範囲を事前に確かめておくことが大切です。次のような点を確認しておくと、後から想定外の費用が生じにくくなります。
- 担保として必要になるお金が、弁護士費用とは別に必要であることの確認。
- 相手方が保全異議を申し立てた場合の対応が、見積りに含まれているか。
- 本案訴訟を起こすことになった場合の費用が、別の扱いになるか。
- 相手方が命令に違反した場合の間接強制の申立てが、別の扱いになるか。
- すでに交渉を依頼している場合、仮処分に移ったときに着手金がどう扱われるか。
費用の負担が難しい場合には、分割払いや法テラスの民事法律扶助といった選択肢もあります。詳しくは弁護士費用が払えないときの選択肢|分割・法テラス・着手金の考え方をご覧ください。
申立てから決定までの期間
申立て前の準備にかかる時間
仮処分は「疎明」という、裁判官が一応確からしいと判断できる程度の証明で足りる手続です。それでも、つきまといの日時や内容、相手方とのやり取り、警察への相談の経過などを整理し、陳述書にまとめる作業には時間がかかります。記録がそろっていれば準備は短く済み、記録が散らばっている場合は整理に時間を要します。
日々の記録の残し方は、ストーカーを刺激せず関係を断つ|安全な接触遮断と証拠の残し方で解説しています。
審尋から決定・和解まで
接近禁止の仮処分は「仮の地位を定める仮処分」に当たり(民事保全法23条2項)、原則として、相手方が立ち会うことのできる審尋の期日を経なければ命令を出すことができません(同法23条4項)。申し立てれば相手方に伝わるという前提で、期間と安全の両方を組み立てる必要があります。
段階ごとの時間の目安は、おおむね次のとおりです。
| 段階 | 時間の目安 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 申立てから審尋期日まで | 1〜2週間程度 | 裁判官との面接、相手方の呼出し |
| 審尋から決定・和解まで | 数日から数週間程度 | 双方の言い分の確認、和解の協議 |
| 担保の提供から決定まで | 数日から1週間程度 | 法務局への供託など |
申立てから決定や和解までは、数週間から1か月程度で終わることが多いといわれています。ただし、相手方が事実関係を強く争う場合や、審尋が複数回にわたる場合には、1か月を超えることもあります。審尋の場で、相手方が今後接触しないことを約束する和解が成立し、仮処分の決定を待たずに終わることもあります。
担保を立てる期間
裁判所が仮処分を認める判断に至ると、担保の額と、担保を立てるべき期間が示されます。期間は数日から1週間程度とされることが多く、その間に供託などを済ませて裁判所に届け出ると、決定が出されます。期間内に担保を立てられないと、申立てが認められない結果になりかねないため、申立ての段階で資金の準備を進めておくことが大切です。
決定の後にかかる費用と時間
決定に期限はあるのか
仮処分の決定には、禁止命令や保護命令のような一律の有効期間はありません。ただし、決定がそのまま永続するとは限りません。相手方は保全異議を申し立てて決定の当否を争うことができ(民事保全法26条)、事情が変わった場合には決定の取消しを求めることもできます(同法38条)。
また、相手方の申立てにより、裁判所が申立人に対して一定期間内に本案訴訟を起こすよう命じることがあります(同法37条1項)。期間内に訴えを起こさないと、相手方の申立てにより決定が取り消されます(同法37条3項)。
本案訴訟が必要になった場合
本案訴訟では、接近や接触の差止めを求めるのが一般的で、損害賠償を併せて請求することもあります。差止めのように金額で表せない請求は、訴えの価額を160万円とみなして手数料を計算するため(民事訴訟費用等に関する法律4条2項)、その部分の手数料は13,000円となります。弁護士費用も、仮処分とは別に定められているのが通常です。仮処分の費用を考えるときは、本案訴訟に進む可能性も視野に入れておくと見通しを誤りにくくなります。
相手方が命令に違反した場合
仮処分の決定に違反しても、それだけで犯罪になるわけではありません。この点は、違反そのものに罰則がある禁止命令との大きな違いです。禁止命令の違反については、禁止命令が出た|違反した場合の刑罰と期間・更新で解説しています。
仮処分に違反した相手方に対しては、違反1回ごとに一定の金銭の支払いを命じる「間接強制」を裁判所に申し立てることが考えられます(民事執行法172条、民事保全法52条1項)。この申立てにも手数料と弁護士費用がかかります。また、保全執行には期間の制限があり(民事保全法43条2項)、接触をしないよう命じる仮処分では違反があった時から起算すると解されているため、違反を確認したら記録を残し、早めに相談することが大切です。違反の態様によっては、ストーカー規制法などにもとづいて警察に相談する道も並行して検討します。
費用と期間から見た、手続の選び方
警察の手続を先に検討する場面
つきまといが恋愛感情などにもとづくもので、ストーカー規制法の対象になる場合には、費用がかからず、違反に罰則がある警察の手続を先に検討するのが一般的です。警察の対応が思うように進まない場合の考え方は、警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができることで取り上げています。
仮処分が向いている場面
相手方の動機が恨みや金銭の要求などで、ストーカー規制法の対象に当たりにくい場合、相手方との関係が保護命令の対象に当たらない場合には、仮処分が現実的な選択肢になります。また、相手方に勤務先や社会的な立場があり、裁判所の命令や間接強制による金銭の負担が抑止として働きやすい場合にも検討する意味があります。
交渉と合意書で足りる場面
相手方の身元が分かっていて、代理人からの通知で接触が止まる見込みがある場合には、裁判所の手続を使わずに、接触禁止の条項を入れた合意書で解決を図ることもあります。担保が不要で、期間も短く済む場合があります。弁護士が窓口に立つことで何が変わるかは【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味を、合意書に入れる条項の考え方は接触禁止条項の書き方|今後の連絡を止める設計をご覧ください。交渉で止まらなかった場合に仮処分へ移るという段階的な進め方も考えられます。
よくあるご質問
弁護士に依頼せず、自分で申し立てることはできますか。
法律上は、ご本人で申し立てることも可能です。ただし、申立書には、どのような権利にもとづいて、どのような行為の禁止を求めるのかを具体的に書く必要があり、審尋では裁判官の質問に答えながら事情を説明することになります。禁止の範囲が曖昧だと、違反があったときに間接強制を使いにくくなるため、申立ての段階から書き方を検討しておくことが大切です。
担保のお金がすぐに用意できない場合はどうなりますか。
裁判所が定めた期間内に担保を立てられないと、決定を受けることができません。支払保証委託契約を利用する方法や、担保の額について事情を説明する方法が考えられますが、いずれも申立ての前に検討しておく必要があります。費用全体の見通しは、ご相談の際に担保を含めて確認されることをおすすめします。
申し立てると、相手方に今の住所を知られてしまいますか。
仮処分の申立書には、原則として申立人の住所を記載します。もっとも、住所を知られることで身に危険が及ぶおそれがある場合などには、一定の要件のもとで住所や氏名を相手方に秘匿する申立てができる場合があります(民事訴訟法133条、民事保全法7条)。転居後の住所を守るための対策は、引っ越したのに住所を突き止められた|居場所を知られない対策もあわせてご覧ください。
まとめ
- 「接近禁止命令」(配偶者暴力防止法の保護命令)と「接近禁止の仮処分」(民事保全法)は別の手続で、費用と期間の構造が異なります。
- 仮処分の申立て手数料は、当事者が1人ずつの場合で収入印紙2,000円です(民事訴訟費用等に関する法律3条1項・別表第一)。
- 担保の額は裁判所が事案ごとに定め、取消しの手続を経て戻ってくる性格のお金です(民事保全法14条1項、4条2項、民事訴訟法79条)。
- 原則として相手方が立ち会える審尋を経るため、申し立てれば相手方に伝わる前提で準備します(民事保全法23条4項)。
- 申立てから決定や和解までは数週間から1か月程度が多いものの、相手方が争えばそれ以上かかることもあります。
- 決定の後も、保全異議や起訴命令による本案訴訟、違反時の間接強制といった費用と時間がかかる場合があります(民事保全法26条、37条、民事執行法172条)。
- 警察の手続、交渉と合意書、仮処分のどれを選ぶかは、相手方の動機や関係、求める効果によって変わります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。接近禁止の仮処分を検討する場合も、警察の手続や交渉との組み合わせを含めて、費用と期間の見通しをご説明したうえで進め方を一緒に考えます。
警察に相談したものの手続が進まずお困りの方、裁判所の手続にどのくらいの費用と時間がかかるのかを事前に確かめたい方は、まずはお気軽にご相談ください。


