【ストーカートラブル】引っ越した先を知られないための手続の順序

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

この記事は、2026年10月時点の法令と行政の運用に基づいて書いています。ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」)は、令和7年12月30日施行の改正(職権による警告の創設、勤務先・学校による援助の努力義務、禁止命令等を担当できる公安委員会の追加など)と、令和8年3月10日施行の情報提供者への通知の制度を反映しています。住民票の支援措置は総務省の案内、郵便の転居届の情報提供は令和5年6月1日に始まった運用に基づいています。窓口での具体的な取扱いは、市区町村や郵便局によって異なることがあります。


「相手から離れるために引っ越すと決めたが、何から手をつければよいのか分からない」「住民票を移すと、新しい住所が相手に知られてしまうのではないか」。ストーカー被害のご相談では、転居を決めた方からこのような声を伺うことがあります。ご家族からも「娘を引っ越させたいが、手続の順番を間違えたくない」というご相談が寄せられます。

 転居先を知られないための対策としては、住民票の閲覧制限や郵便物の受け取り方など、個々の手続が紹介されることが多く、その説明自体は誤りではありません。ただ、同じ手続でも、行う時期が前後すると十分な効果が得られないことがあります。たとえば、転出した後の旧住所の住民票(除票)や、本籍地の戸籍の附票にも新しい住所が記録されるため、新しい住所地で手続をしただけでは、別の記録から住所が伝わる余地が残ります。

 この記事では、転居を決めてから新居での生活が落ち着くまでを4つの段階に分け、それぞれの段階で行う手続と、その順序にする理由を整理します。すでに引っ越した後に住所を知られてしまった場合の経路の点検や、不動産の登記・裁判の書類といった個別の記録の扱いは、引っ越したのに住所を突き止められた|居場所を知られない対策で詳しく扱っています。

転居の手続は「順序」によって効果が変わる

新しい住所は、手続のたびに記録に残る

 引っ越しに伴う手続は、そのひとつひとつが新しい住所を記録に残す行為でもあります。転出届を出すと旧住所の住民票は除票となり、そこには転出先が記録されます。転入届を出せば新しい住民票が作られ、本籍地で管理される戸籍の附票にも新しい住所が加わります。郵便の転居届、金融機関や携帯電話会社への住所変更も、それぞれの記録に新住所を残します。

 市区町村の支援措置(住民基本台帳事務におけるDV等支援措置)は、こうした記録のうち、住民基本台帳の一部の写しの閲覧、住民票(除票を含む)の写しの交付、戸籍の附票(除票を含む)の写しの交付について、相手からの請求を制限する仕組みです(住民基本台帳法11条、12条、20条ほか)。言い換えれば、制限の対象は公的な記録の一部であり、郵便や民間の契約の記録は、ご自身で伝える範囲を管理していくことになります。

4つの段階で見る手続の全体像

 転居を決めてから生活が落ち着くまでの手続を、時期ごとに並べると次のようになります。

段階主な手続この時期に行う理由
1 転居を決めた段階警察への相談、記録の整理、端末やアカウントの点検支援措置の申出では、相談機関の意見などで支援の必要性が確認されるため
2 物件探し・契約の段階転居先を伝える範囲の決定、契約名義と連絡先の確認、勤務先への相談契約や引継ぎの場面で、住所が人づてに伝わる経路が生まれやすいため
3 住民票を動かす段階支援措置の申出、転出届・転入届除票や戸籍の附票にも新住所が記録されるため、届出と申出の時期をそろえる
4 転居後の段階郵便・各種契約の住所変更、新しい地域の警察への相談、期間の管理変更先が増えるほど住所が伝わる経路も増えるため、範囲を決めて行う


 全体を通じた考え方は、住所が記録される手続の前に、記録の閲覧や交付を制限する手続を置くということです。以下、段階ごとに見ていきます。

転居を決めた段階|警察への相談と記録の整理を先に行う

転居の予定を、担当の警察に伝えておく

 総務省の案内では、支援措置を受けるには、原則として、はじめに警察などの相談機関に被害の相談をすることとされています。市区町村は、相談機関の意見を聴くか、ストーカー規制法に基づく警告等の実施書面などの提出を求めることで、支援の必要性を確認します。相談機関に申出書を持参して意見を付してもらい、それを市区町村に提出するという流れも示されています。そのため、警察への相談は、転居の準備のなかで最初に置いておきたい手続です。

 相談の際には、転居を考えていること、時期の見込み、旧居の周辺で気になっていることも伝えておくとよいでしょう。警察は、被害を受けている方からの申出に応じて、被害を防ぐための援助を行うことができます(ストーカー規制法7条)。また、令和7年12月30日施行の改正により、行為が行われた時点で被害を受けた方が住んでいた地域を管轄する公安委員会も、禁止命令等を担当できるようになりました(同法14条1項)。転居後も、経緯を把握している元の地域の警察と手続を続けやすくなっています。どこに先に相談するか迷う場合は、【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序もご覧ください。

旧居での出来事の記録を、転居前にまとめておく

 転居すると、旧居の周辺で起きた出来事を後から確かめることが難しくなります。マンションの防犯カメラの映像には保存期間がありますし、管理会社とのやり取りも、退去後は進めにくくなることがあります。

 日時、場所、相手の行動、目撃した方の名前、届いた手紙や物の写真などは、転居の前に一度まとめておくことをおすすめします。転居にかかった費用の見積書や領収書も、後に損害賠償を検討する際の資料になりえますので、捨てずに保管してください。記録の残し方は証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはで、請求できる項目の考え方は【ストーカートラブル】ストーカー被害の慰謝料|請求できる項目と組み立てで解説しています。

物件を探し始める前に、端末とアカウントを点検する

 物件探しを始めると、地図アプリの検索履歴、不動産サイトの閲覧履歴、内見の予定を入れたカレンダーなど、転居先を推測させる情報が端末に増えていきます。相手と位置情報を共有していた、写真やカレンダーを共有するアカウントがある、家族向けの共有プランに相手が入っているといった場合は、物件を探し始める前に見直しておくのが安全です。

 共有の解除や紛失防止タグの確認の進め方は、【ストーカートラブル】スマホや共有サービスから居場所が漏れている|位置情報以外の経路を止めるとGPS・AirTagで居場所を追跡された|改正ストーカー規制法と位置情報無承諾取得の罪で整理しています。

物件探し・契約の段階|住所が人づてに伝わる経路をつくらない

転居先を伝える相手を、あらかじめ決めておく

 公的な記録を制限しても、共通の知人や家族から住所が伝わってしまうことがあります。転居先を伝える相手は必要最小限にとどめ、伝える場合も「誰かに聞かれても答えないでほしい」と事情を添えておくことが大切です。相手が家族や知人を装って問い合わせてくることもあるため、ご家族とは、問い合わせがあったときの答え方を決めておくと安心です。

 ストーカー規制法は、ストーカー行為等をするおそれがある者であることを知りながら、その者に相手方の住所などの情報を提供することを禁じています(同法6条1項)。令和8年3月10日からは、警告や禁止命令などが出ている事案で、警察が、情報を提供するおそれがある者に対し、提供しないよう求める通知もできるようになりました(同条2項)。共通の知人や、相手から依頼を受けた調査業者などから情報が伝わる心当たりがあるときは、転居の前に警察に伝えておくとよいでしょう。

契約の名義と緊急連絡先を確認する

 携帯電話、インターネット回線、公共料金などの契約名義が相手やその家族になっている場合、そのまま住所を変更すると、相手の名義の契約に新しい住所が記録されます。このような契約は、転居の前に名義の変更や解約を済ませ、新居ではご自身の名義で契約し直すという順序が安全です。

 新しい賃貸借契約でも、連帯保証人や緊急連絡先に、相手と面識のある方を記載しないようにします。保証会社を利用する場合も、緊急連絡先の欄には同じ注意が必要です。不動産会社や管理会社には、事情を必要な範囲で伝え、入居者情報の扱いに配慮を求めておくことも考えられます。

勤務先・学校には、必要な範囲で事情を伝える

 通勤手当の申請や住所の届出によって、勤務先には新しい住所が伝わります。社内で住所を知ることができる人の範囲を限ってもらえるよう、人事の担当者など限られた方に事情を伝えておくことが考えられます。令和7年12月30日施行の改正では、被害を受けている方を雇用する事業者や、通学先の学校の長も、援助に努めるべき立場として明記されました(同法9条3項)。

 協力を求める際には、警察から警告や禁止命令を実施したことを明らかにする書面(行政措置実施証明書)の交付を受けられる場合があり、事情を説明する資料として役立ちます(同法7条1項)。引っ越し当日の動きについても、旧居の周辺に相手が現れるおそれがあるときは、日程を担当の警察に伝え、周辺の見回りなどについて相談しておくと安心です。

住民票を動かす段階|届出と支援措置の申出の時期をそろえる

支援措置の申出先と、制限される記録

 支援措置の申出は、住民票のある市区町村や、戸籍の附票のある市区町村(本籍地)に申出書を提出して行います。ストーカー規制法に規定するストーカー行為等の被害者で、更に反復してつきまとい等や位置情報無承諾取得等をされるおそれがある方が対象です。同じ住所に住むご家族についても、あわせて措置を求めることができます。

 支援の必要性が確認されると、相手からの閲覧や交付の請求は拒否されます。そのほかの第三者からの請求についても、相手が第三者になりすますことや、相手の依頼を受けた第三者が請求することを防ぐため、本人確認や請求事由の審査がより厳格に行われます。申出を受けた市区町村から、関係する市区町村へ申出書が転送される流れも示されています。

転出の前と転入の時の、二つの時点を意識する

 住民票を移すときに意識しておきたいのは、転出の前と転入の時という二つの時点です。転出届を出すと旧住所の住民票は除票となり、転出先が記録されます。転入届を出すと、本籍地の戸籍の附票にも新しい住所が記録されます。いずれも支援措置で制限できる記録ですが、措置が始まる前の期間に請求されれば、制限は及ばないことになります。

 そのため、転出届を出す前に、現在の住所地の窓口で支援措置について相談し、転入先や本籍地での取扱い、転入の際に改めて申出が必要かどうかを確認しておくことをおすすめします。転入先の市区町村にも事前に問い合わせ、転入届と同じ機会に申出ができるよう、警察の意見を付した申出書などを準備しておくと、届出と申出の間に空白ができにくくなります。

 支援措置の期間は、確認の結果が申出者に連絡された日から1年です。期間終了の1か月前から延長の申出ができます。

住民票を移さないという選択の注意点

 住所を知られることを心配して、住民票を移さずに転居することを考える方もいます。ただ、転入をした日から14日以内に転入届を出すことが定められており(住民基本台帳法22条1項)、正当な理由なく届出をしない場合は5万円以下の過料の対象となりえます(同法52条2項)。また、支援措置は住民票のある市区町村に申し出るものなので、新しい住所では措置を受けにくくなりますし、住所地で受ける行政サービスの手続にも影響します。

 郵便の転居届との関係にも注意が必要です。令和5年6月1日から、弁護士会が弁護士法23条の2に基づいて照会した場合に、日本郵便が、住民票を移さずに転出して所在の把握が難しくなっている訴え等の相手方について、転居届の新住所を提供する運用が始まっています。この照会は、弁護士会が審査して、DV・ストーカー・児童虐待の事案との関連がうかがわれない法的手続であると判断したものに限られています。それでも、住民票を移さずに転居届だけを出している状態は、この運用の対象となりうる形であることは知っておきたい点です。住民票を移すかどうかは、支援措置を前提に、警察や弁護士、市区町村の窓口と相談して判断することをおすすめします。

転居後の段階|住所を伝える先を絞り、期間を管理する

住所の変更は、伝える先を決めてから行う

 転居後の住所変更は、一度にすべてを済ませようとせず、必要性の高いものから順に、伝える先を決めて行うことをおすすめします。金融機関、勤務先、公的な手続など変更が欠かせないものを先にし、相手と共通の知人が関わるサービスや、相手に知られているアカウントで利用していたサービスは、退会や新しいアカウントでの利用もあわせて検討します。

 郵便の転居届を出すと、届出日から1年間、旧住所あての郵便物が新住所に転送されます。転送を利用するか、郵便局留めなど別の受け取り方を組み合わせるかは、相手が旧住所あてに郵便物を送ってくる可能性や、受け取る郵便物の種類によって判断が分かれます。通販の配送先や宅配便の伝票にも住所や氏名が残るため、受け取り方を見直しておくと安心です。

新しい地域を管轄する警察署にも状況を伝える

 転居後は、新しい住所を管轄する警察署にも、これまでの経緯と元の担当の警察署を伝えておきましょう。新居の周辺で相手を見かけた、相手から「住所を知っている」と受け取れる連絡が来たといった出来事があれば、すぐに相談できる状態にしておくことが大切です。令和7年12月30日施行の改正により、被害を受けている方からの申出がなくても、警察の職権で警告ができるようになっています。

 新居が分譲マンションや管理会社のある建物であれば、管理会社にも事情を伝え、来訪者への対応などで協力を求めることが考えられます。その進め方は【ストーカートラブル】自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることで、相手が近くに越してきた場合の考え方は【ストーカートラブル】禁止命令が出た後に相手が近所に越してきた|住むこと自体と、越してきた後の行動を分けて考えるで解説しています。

支援措置と禁止命令の期間を記録しておく

 転居後の生活が落ち着くと、手続の期間を意識しにくくなります。支援措置は1年ごとの延長が必要で、期間終了の1か月前から延長の申出ができます。禁止命令の効力も命令をした日から1年で、継続の必要があるときは延長を求めることができます(同法5条8項・9項)。二つの期間の満了日を手帳やカレンダーに控えておき、早めに延長の相談をすることで、記録の制限や命令の効力が途切れることを防げます。

 自治体によっては、住民票の写しや戸籍謄本などが第三者に交付されたときに本人へ知らせる「本人通知制度」を設けているところもあります。交付の後に通知される仕組みですが、転居先の自治体で実施されているかどうかを確認し、あわせて利用を検討するとよいでしょう。

よくあるご質問

引っ越す前に警察に相談していなくても、支援措置は申し出られますか

 総務省の案内では、原則として、はじめに警察などの相談機関に被害の相談をすることとされていますが、相談が転居の後になったからといって申出ができなくなるわけではありません。転居後に新しい住所を管轄する警察署などに相談し、申出を行うことも考えられます。ただ、相談から支援の必要性の確認までには一定の時間がかかるため、転居を決めた時点で相談しておくほうが、住民票を動かす時期と申出の時期をそろえやすくなります。

相手が配偶者や元配偶者の場合も、同じ順序で考えてよいですか

 基本的な順序は同じですが、婚姻中の配偶者は同じ戸籍に入っているため、戸籍の附票の扱いにより注意が必要です。また、配偶者や元配偶者、生活の本拠を共にしていた交際相手からの暴力などがある場合は、配偶者暴力相談支援センターも相談機関となり、配偶者暴力防止法の保護命令が使えることもあります。どちらの制度で守られるかは、ストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?をご覧ください。

引っ越した後に、相手から住所を知っているような連絡が来たら、どうすればよいですか

 連絡には返信せず、内容をそのまま保存して、新しい住所を管轄する警察署と元の担当の警察署に伝えてください。そのうえで、どの経路から住所が伝わった可能性があるかを点検することになります。身の危険を感じる場合は、ためらわず110番通報をしてください。経路の点検の進め方は、冒頭でご紹介した引っ越したのに住所を突き止められた|居場所を知られない対策で詳しく扱っています。

まとめ


  1. 転居の手続はそれぞれ新しい住所を記録に残すため、記録を制限する手続を先に置く。
  2. 支援措置の申出では警察などの相談機関の意見で必要性が確認されるため、転居を決めた時点で警察に相談する(ストーカー規制法7条)。
  3. 改正により、行為が行われた時点の住所地の公安委員会も禁止命令等を担当でき、転居後も元の警察と手続を続けやすい(同法14条1項)。
  4. 住所の情報を提供するおそれがある人の心当たりは、転居前に警察へ伝える(同法6条1項・2項)。
  5. 支援措置は住民票(除票を含む)と戸籍の附票(除票を含む)の交付等を制限するため、転出の前と転入の時の両方で窓口に確認し、届出と申出の時期をそろえる(住民基本台帳法11条、12条、20条)。
  6. 住民票を移さない選択には届出義務や過料のほか、郵便の転居届に関する弁護士会照会の運用との関係もあるため、相談のうえで判断する(同法22条1項、52条2項)。
  7. 転居後は住所を伝える先を絞り、支援措置と禁止命令の期間を管理して延長に備える(ストーカー規制法5条8項・9項)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。転居を決めた段階での警察とのやり取りの整理、記録のまとめ方、転居にかかった費用や慰謝料の請求、相手との接触を断つための交渉まで、状況に応じた進め方をご一緒に考えます。

被害を受けているご本人も、引っ越しを支えるご家族も、手続の順序に迷われたときは一人で抱え込まずにご相談ください。今の状況で取れる手段と、その順番を一緒に整理します。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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