【ストーカートラブル】相手の家族に止めてもらうよう頼めるか|頼む前に確かめることと、警察・弁護士を通す道
この記事は、2026年10月時点のストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」)に基づいて書いています。令和7年12月30日施行の改正(職権による警告の創設、勤務先・学校による援助の努力義務、禁止命令等を担当できる公安委員会の追加など)、令和8年3月10日施行の相手方情報保有者等への通知の制度、2025年6月1日から懲役・禁錮が拘禁刑に一本化されたことを反映しています。
「禁止命令が出て、ようやく落ち着いたと思っていたのに、相手が同じ町内に引っ越してきた」「近所のスーパーで相手を見かけた。命令が出ているのに、なぜ近くに住めるのか」。禁止命令が出た後のストーカー被害のご相談では、このような戸惑いの声を伺うことがあります。ご家族からも「娘の住まいのすぐ近くに相手が移ってきたようだが、警察に何を伝えればよいのか」というご相談が寄せられます。
「禁止命令が出れば、相手は近づけなくなる」と説明されることがあり、それ自体は誤りではありません。ただ、禁止命令が禁じているのはつきまとい等の「行為」であって、相手がどこに住むかまでを決めるものではありません。この点を知らないままでいると、「命令が出ているのに警察が何もしてくれない」と感じてしまったり、反対に、本来は記録して伝えておくべき出来事を見過ごしてしまったりすることがあります。
この記事では、禁止命令が出た後に相手が近所に越してきた場合に、法律上どこからが問題になるのか、気づいたときに何をすればよいのか、生活圏が重なる中で身を守るための備えと、禁止命令以外に検討できる手段を順に整理します。禁止命令を出してもらうまでの手続や、違反時の刑罰の全体像は、それぞれの記事で詳しく扱っています。
相手が近所に越してきたこと自体は、直ちに違反とはならない
禁止命令が制限しているのは「行為」
禁止命令は、都道府県公安委員会が、つきまとい等をした者に対し、「更に反復して当該行為をしてはならないこと」(1号)と、「更に反復して当該行為が行われることを防止するために必要な事項」(2号)を命じるものです(ストーカー規制法5条1項)。1号の命令は、待ち伏せ、見張り、押し掛け、拒まれた後の連続した連絡など、法律が定めるつきまとい等の類型を繰り返さないよう命じるもので、違反すれば刑罰の対象になります。
一方で、禁止命令の中に「被害者の自宅から一定の範囲に住んではならない」といった、住む場所を制限する内容は含まれていません。どこに住むかは、憲法が保障する居住・移転の自由(憲法22条1項)にかかわる事柄でもあります。そのため、相手が近所に越してきたという事実だけでは、禁止命令違反として扱うことは難しいのが実情です。
問題になるのは、越してきた後の行動
ただし、近くに住むようになった相手が、次のような行動をとれば話は変わります。ストーカー規制法は、住居や勤務先などの「付近」で見張りをすることや、住居等の付近を「みだりにうろつく」ことを、つきまとい等の一つとして定めています(同法2条1項1号)。
| 越してきた後の相手の行動 | 考え方 |
|---|---|
| 通勤や買い物の途中で、たまたま顔を合わせた | 1回の遭遇だけで、直ちに違反と評価されるとは限らない。日時と状況を記録しておく |
| 自分の外出や帰宅の時間帯に合わせて、繰り返し近くに現れる | 待ち伏せ・つきまといとして、禁止命令違反が問題になりうる |
| 自宅の前や窓が見える場所に、一定時間とどまっている | 住居等の付近での「見張り」にあたりうる |
| 用事がないのに自宅の周りを行き来している | 住居等の付近を「みだりにうろつく」行為にあたりうる |
| 「近くに越してきた」と伝えてくる、行動を把握しているような言葉を送ってくる | 行動を監視していると思わせる事項を告げる行為(同法2条1項2号)にあたりうる |
警察の運用通達では、「見張り」は一定時間継続的に動静を見守ること、「みだりに」は社会的相当性がないような態様をいうと説明されています。また、「付近」は何メートル以内という距離で決まるものではなく、見張りやうろつきが、身体の安全や住居等の平穏が害される不安を覚えさせるものかどうかで判断されます。相手が近くに住んでいるからこそ、行動の「向き」と「繰り返し」が評価の中心になります。
禁止命令に違反してストーカー行為をした場合は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金(同法19条)、それ以外の禁止命令違反は6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(同法20条)の対象です。違反した場合の扱いは禁止命令が出た|違反した場合の刑罰と期間・更新で整理しています。
相手がどうやって住所を知ったのか
偶然の転居なのか、こちらの住所を調べたうえでの転居なのかは、外からは分かりにくいものです。ただ、住所を知られないよう気をつけていたのに相手がすぐ近くに越してきたという場合は、どこかから情報が漏れていないかを確認しておく必要があります。
ストーカー規制法は、ストーカー行為等をするおそれがある者であることを知りながら、その者に相手方の住所や勤務先、通勤経路などの情報を提供することを禁じています(同法6条1項)。令和8年3月10日からは、警告や禁止命令が出ている事案で、警察が、情報を提供するおそれがある第三者に対し、提供しないよう求める通知もできるようになりました(同条2項)。共通の知人や、相手から依頼を受けた調査業者などから情報が伝わっている疑いがあるときは、その心当たりも警察に伝えておくとよいでしょう。端末や共有サービスからの漏えいについては【ストーカートラブル】スマホや共有サービスから居場所が漏れている|位置情報以外の経路を止めるで扱っています。
相手の転居に気づいたときに、まず行うこと
禁止命令を担当した警察に、転居の事実を伝える
違反といえる出来事がまだ起きていなくても、相手が近くに越してきたことに気づいた時点で、禁止命令の手続を担当した警察署や担当の係に連絡しておくことをおすすめします。相手の住所が変わったことは、警察にとっても再発防止のために把握しておきたい情報です。
禁止命令の2号に基づき、警察職員からの電話や面談などによる連絡・確認に応じるよう相手に命じ、相手の近況や執着の程度を確認する運用が行われています(2号の命令そのものに罰則はありません)。また、警察の運用通達では、行為者の住所の移転を把握した場合に、移転先を管轄する警察へ情報を確実に引き継ぐことが求められています。こちらから伝えることが、相手の新しい住まいを管轄する警察署との連携や、自宅周辺のパトロールの強化などにつながることがあります(同法7条3項)。
自分で確かめに行かない
相手が本当に越してきたのか、どの建物に住んでいるのかを確かめたくなるのは自然なことです。ただ、相手の住まいの様子を見に行く、相手の知人に問い合わせるといった行動は、相手との接点をつくることになり、思わぬ衝突のきっかけにもなりかねません。確認は警察に委ね、ご自身は相手と顔を合わせない動き方を優先してください。
「場所」ではなく「行動の型」を記録する
近所に住んでいる以上、駅や店で相手を見かけることは避けられない場合があります。そのため、記録では「どこで見かけたか」だけでなく、「自分のどの行動に合わせて現れたか」「どのくらいの時間とどまっていたか」「何回目か」を残すことが大切です。
- 日時と場所、相手を見かけていた時間の長さ。
- 自分の外出・帰宅の時刻と、相手が現れたタイミングとの関係。
- 相手の様子(こちらを見ていた、後をついてきた、立ち止まっていたなど)。
- 同じような出来事が何回目か。
- 目撃した家族や近所の方、管理会社の担当者の名前。
- 防犯カメラの映像やインターホンの録画が残っているか。
写真や動画は記録として役立ちますが、相手に近づいて撮影する必要はありません。危険を感じたときは、記録よりも安全を優先し、110番通報をしてください。記録の残し方は証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはで、同じ建物に相手が住んでいる場合の記録の組み立ては【ストーカートラブル】同じマンションの住人につきまとわれている|相手も住み続ける建物で、行動の記録と手続をどう組み立てるかで詳しく解説しています。
生活圏が重なる中で、身を守るための備え
住所や行動の情報を守る
市区町村では、ストーカー行為等の被害を受けている方の申出により、加害者からの住民票の写しなどの交付請求や閲覧を制限する支援措置を受けられる場合があります。申出の際には、警察などの意見を求められるのが一般的です。
相手が近くにいる状況では、郵便物や宅配便の受け取り方、ゴミ出しの時間、決まった時刻の外出など、日々の行動から生活のリズムが読み取られないよう見直しておくことも考えられます。居場所を知られないための対策は引っ越したのに住所を突き止められた|居場所を知られない対策で整理しています。
管理会社・勤務先に協力を求める
警察に援助を申し出ると、警告や禁止命令を実施したことを明らかにする書面(行政措置実施証明書)の交付を受けられる場合があります(同法7条1項、同法施行規則16条7号)。この書面は、特段の必要がない限り相手の氏名や住所を記載しない扱いとされており、管理会社や勤務先に被害を受けていることを示し、防犯カメラの確認やオートロックの運用見直し、来訪者への対応などの協力を求める際に役立ちます。
令和7年12月30日施行の改正では、被害を受けている方を雇用する事業者や、通学先の学校の長も、援助に努めるべき立場として明記されました(同法9条3項)。管理会社との相談の進め方は【ストーカートラブル】自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることをご覧ください。
こちらが転居を考える場合
相手が近くに住み続ける状況が負担になり、ご自身が転居を選ぶ方もいます。転居先を相手に知られないよう、転居の予定は事前に担当の警察に伝え、住民票の支援措置とあわせて準備を進めるのが安全です。令和7年12月30日施行の改正により、行為が行われた時点で被害を受けた方が住んでいた場所を管轄する公安委員会も禁止命令等を担当できるようになったため(同法14条1項)、転居後も、経緯を把握している元の地域の警察と手続を続けやすくなっています。
転居にかかった費用は、相手の行為との因果関係が認められれば、損害賠償の項目として請求を検討できることがあります。請求できる項目の考え方は【ストーカートラブル】ストーカー被害の慰謝料|請求できる項目と組み立てで解説しています。
禁止命令だけでは不安が残るときに検討できる手段
違反があれば、刑事手続を求める
越してきた後に待ち伏せや見張りが繰り返されている場合は、禁止命令違反として刑事手続を求めることが考えられます。警察の運用では、ストーカー事案は事態が急展開して重大事件に発展するおそれがあるとして、危険性・切迫性に応じて検挙による加害行為の防止を図る方針が示されています。被害届と告訴の選び方は被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶで解説しています。
有効期間の延長を早めに相談する
禁止命令の効力は、命令をした日から1年です(同法5条8項)。継続の必要があると認められるときは、申出または職権により、聴聞を経て1年ずつ延長できます(同条9項・10項)。延長の判断では、被害を受けている方の不安の状況や相手のこれまでの行為などが総合的に考慮されます。相手が近所に越してきたことと、その後の出来事の記録は、延長を求める際に伝えておくべき事情といえます。有効期間の満了が近づいている場合は、早めに担当の警察に相談しておくと安心です。
裁判所の手続を併用する
警察の手続とは別に、裁判所に接近禁止の仮処分を求める方法もあります。仮処分では、住居付近をうろつかないこと、面会や連絡を求めないことなど、事案に応じた内容を求めることができます。もっとも、相手の自宅そのものがすぐ近くにある場合は、「一定の距離に近づかない」という定め方が相手の日常生活と重なりやすいため、どの範囲で何を禁じるかの組み立てに工夫が必要になります。
警察と裁判所の手続の違いは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで、仮処分にかかる費用と期間は【ストーカートラブル】接近禁止の仮処分にかかる費用と期間の目安|担保・審尋・決定後の手続までで整理しています。相手が配偶者や元配偶者、同居していた交際相手の場合は、配偶者暴力防止法の保護命令が使えることもあります。どちらの制度で守られるかはストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?をご覧ください。
よくあるご質問
禁止命令が出ている相手を、近所から退去させてもらうことはできますか
警察や公安委員会には、禁止命令に基づいて相手に転居を命じる権限はありません。賃貸物件であれば、家主や管理会社が、相手の行動が賃貸借契約上の迷惑行為の禁止などに反するかどうかを判断することはありますが、被害を受けている方が相手の契約の解除を直接求めることはできません。現実的には、相手の行動を記録し、違反があれば刑事手続や仮処分によって行為そのものを止めていくことが中心になります。
相手が「偶然近くに越しただけ」と説明している場合でも、問題にできますか
転居の理由が偶然か意図的かよりも、越してきた後にどのような行動をとっているかが評価の中心になります。偶然の転居であっても、こちらの外出に合わせて現れる、自宅の前にとどまるといった行動が繰り返されれば、禁止命令違反が問題になります。反対に、こちらの住所を調べたうえでの転居であることが分かれば、そのことは延長や今後の手続での判断材料になります。
近所で一度すれ違っただけでも、警察に伝えるべきですか
1回すれ違っただけで、直ちに禁止命令違反と評価されるとは限りません。ただ、その1回が後に続く出来事の起点になることもあります。日時と状況を記録し、まとめて担当の警察に伝えておけば、繰り返しが生じたときに経緯を説明しやすくなります。不安が強いときは、1回目の段階で相談して差し支えありません。
まとめ
- 禁止命令は、つきまとい等の行為を繰り返さないよう命じるもので、相手の住む場所を制限する内容は含まれない(ストーカー規制法5条1項)。
- 相手が近所に越してきた後に、待ち伏せ、見張り、住居等の付近をみだりにうろつくなどの行為があれば、禁止命令違反が問題になる(同法2条1項1号、19条、20条)。
- ストーカー行為等をするおそれがある者に住所などの情報を提供することは禁じられ、警察は提供のおそれがある者に通知できる(同法6条)。
- 相手の転居に気づいたら、違反がなくても担当の警察に伝え、記録は「場所」ではなく「行動の型」で残す。
- 行政措置実施証明書や住民票の支援措置を使い、管理会社や勤務先の協力を得ながら情報と生活を守る(同法7条1項、9条3項)。
- 禁止命令の有効期間は1年で、延長の判断では相手の転居やその後の出来事も事情として考慮される(同法5条8項・9項)。
- 行為を止める手段として、刑事手続や接近禁止の仮処分を併用できる場合がある。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。禁止命令が出た後に相手が近くに越してきたなど、命令だけでは不安が残る状況でも、警察とのやり取りの整理、記録のまとめ方、仮処分などの手段の検討をご一緒できます。
被害を受けているご本人も、見守るご家族も、一人で抱え込まずにご相談ください。今の状況で取れる手段と、その順序を一緒に整理します。


