【ストーカートラブル】相手の家の近くに住んでいる|引っ越すべきかの判断

若井亮

若井亮

テーマ:ストーカートラブル

この記事は、2026年10月時点のストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」)に基づいて書いています。令和7年12月30日施行の改正(禁止命令等を担当できる公安委員会の追加など)を反映しています。住民票の写し等の交付制限(住民基本台帳の支援措置)、令和6年4月1日に始まった不動産登記の住所の代替措置、東京都の転居費用助成(令和7年4月1日時点の案内)にも触れていますが、運用や要件は自治体ごとに異なることがあります。


「相手の家が、歩いて数分のところにある。禁止命令は出たけれど、このまま住み続けてよいのか分からない」「引っ越したい気持ちはあるが、費用のことを考えると踏み切れない」。ストーカー被害のご相談では、相手と生活圏が重なったままの状態で、住まいをどうするかに迷われている方から、このような声を伺います。ご家族からも「娘に引っ越しを勧めるべきか、それとも今の家で守る方法があるのか」というご相談が寄せられます。

 「危険なら引っ越すしかない」「禁止命令が出れば近くに住んでいても大丈夫」という説明は、どちらもそれ自体が誤りというわけではありません。ただ、引っ越しは、新しい住所が相手に伝わらないように準備して初めて効果を持つものです。反対に、住み続ける場合にも、記録と手続を重ねることで取れる手立てがあります。どちらを選ぶかは、相手の行動、危険の程度、そしてご自身の生活の事情を並べて考える必要があります。

 この記事では、相手の家の近くに住んでいる方が、引っ越すかどうかを判断するための物差しと、引っ越す場合・住み続ける場合それぞれの準備、費用の負担の考え方を整理します。禁止命令が出た後に相手のほうが近所に越してきた場合の、命令と居住の関係については、【ストーカートラブル】禁止命令が出た後に相手が近所に越してきた|住むこと自体と、越してきた後の行動を分けて考えるで詳しく扱っています。

相手が近くに住んでいる状況を、法律はどう扱うか

禁止命令は、相手の住まいを動かすものではない

 禁止命令は、都道府県公安委員会が、つきまとい等をした者に対し、その行為を更に反復してはならないことなどを命じるものです(ストーカー規制法5条1項)。禁じられるのは待ち伏せや見張り、住居等の付近をみだりにうろつくことといった「行為」であり、相手にどこへ住むか、どこから退去するかを命じる仕組みではありません。

 そのため、相手の家がすぐ近くにあるという状態そのものは、禁止命令が出た後も変わらないことがあります。警察や公安委員会が相手に転居を命じることはできず、被害を受けている方の側で住まいをどうするかを考えざるをえない場面が出てくるのは、この仕組みによるものです。

引っ越しても、禁止命令の効力は続く

 禁止命令は、被害を受けている方に対する行為を禁じるものであり、特定の住所に結びついたものではありません。命令の効力は命令をした日から1年で(同法5条8項)、必要があれば延長も認められます(同条9項)。

 また、令和7年12月30日施行の改正により、行為が行われた時点で被害を受けた方が住んでいた場所を管轄する公安委員会も、禁止命令等を担当できるようになりました(同法14条1項)。引っ越しをしても、それまでの経緯を把握している警察との手続が途切れにくくなったという点は、転居を考える際の安心材料の一つです。期間や更新の仕組みは禁止命令が出た|違反した場合の刑罰と期間・更新で整理しています。

家族に向けた行為も、規制の対象になる

 ストーカー規制法は、被害を受けている方本人だけでなく、その配偶者、直系または同居の親族、その他社会生活において密接な関係を持つ人に対するつきまとい等も規制の対象としています(同法2条1項)。同居しているご家族への待ち伏せや声かけがあった場合も、その出来事を記録し、警察に伝えておくことが大切です。

引っ越すかどうかを考えるときの物差し

相手の行動が「こちらに向いているか」

 近くに住んでいる以上、駅や店で相手を見かけることは避けにくい場合があります。判断の出発点になるのは、偶然の遭遇が続いているのか、それともこちらの外出や帰宅に合わせて現れる、自宅の前にとどまるといった、こちらに向いた行動があるのかという点です。

 相手の行動がこちらに向いている場合は、住所や生活の時間帯をすでに把握されている可能性があり、近くに住み続けること自体の負担が大きくなります。記録の残し方は証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはで解説しています。

危険の切迫度と、相手の処分の状況

 危害を加える内容の言葉を告げられている、禁止命令が出た後も違反がある、暴力を受けたことがあるといった事情は、引っ越しを含めて早めに住まいを見直す方向に働く事情です。危険を感じる状況では、引っ越しの検討よりも先に、110番通報や一時的な避難を優先してください。

 相手が逮捕・勾留されている間は、住まいを整える時間を確保できる場合があります。釈放や出所の時期を知る方法は【ストーカートラブル】被害者等通知制度を使う|相手の処分や出所の時期を知るで整理しています。

ご自身とご家族の生活の事情

 住まいの判断には、法律だけでなく生活の事情も関わります。持ち家か賃貸か、勤務先や子どもの学校との距離、同居する家族の意向、引っ越しにかけられる費用などは、どれも軽く扱えない要素です。判断の材料を整理すると、次のようになります。

考える要素引っ越しを優先して検討したい事情住み続けながら対策を重ねる余地がある事情
相手の行動外出や帰宅に合わせて現れる、自宅の前にとどまるなど、行動がこちらに向いている見かけるのは通勤路や店での偶然の遭遇にとどまっている
危険の程度危害を加える内容の言葉、暴力の経験、禁止命令の違反がある警告や禁止命令の後、こちらに向いた行動は確認されていない
住所の知られ方住所を知られないよう注意していたのに把握されているもともと近所であることを互いに知っている状態から変化がない
生活の事情賃貸で、勤務先や学校を変えずに移れる範囲に選択肢がある持ち家である、子どもの学校や介護などで動きにくい
周囲の協力管理会社や近隣の協力が得にくい管理会社や勤務先が防犯面の協力に応じている


 表の一つの項目だけで結論が決まるわけではありません。引っ越しは「相手から距離をとる」ことよりも、「新しい住所を相手に知られない」状態をつくれるかどうかで効果が決まるため、住所が伝わる経路を閉じられるかという視点も合わせて考えることが大切です。

引っ越しを選ぶ場合に、移る前に整えておくこと

住所が伝わる経路を先に閉じる

 引っ越し先を知られる経路は、相手が直接調べることだけではありません。共通の知人や職場の同僚、SNSへの投稿、スマートフォンの位置情報の共有、家族のアカウントなど、本人が意識していないところから伝わることがあります。移る前に、次のような点を確認しておくと安心です。

  • 共通の知人に、引っ越すことや新しい住所を伝えない。
  • SNSに、住まいの周辺が分かる写真や行きつけの店の情報を載せない。
  • スマートフォンや家族の端末で、位置情報の共有設定が残っていないかを確かめる。
  • 引っ越し業者や管理会社に事情を伝え、問い合わせがあっても住所を答えないよう依頼する。
  • 郵便物の転送届や各種の住所変更を、どこに出すかを整理しておく。


 ストーカー規制法は、ストーカー行為等をするおそれがある者であることを知りながら、その者に住所などの情報を提供することを禁じています(同法6条)。情報が漏れている心当たりがあれば、警察に伝えておきましょう。居場所を知られないための対策は引っ越したのに住所を突き止められた|居場所を知られない対策で、端末や共有サービスからの漏えいは【ストーカートラブル】スマホや共有サービスから居場所が漏れている|位置情報以外の経路を止めるで扱っています。

住民票と登記に表れる住所を守る手続

 市区町村では、ストーカー行為等の被害を受けている方の申出により、加害者からの住民票の写しなどの交付請求や閲覧を制限する支援措置を受けられる場合があります。申出の際には、警察などの相談機関に支援の必要性を確認する手続がとられるのが一般的で、支援の期間は1年ごとに延長の申出をする扱いが多く見られます。住所が変わると改めて申出が必要になる自治体もあるため、転入の手続と前後して支援措置が途切れないよう、引っ越しの前に担当の警察と市区町村の窓口に相談しておくことをおすすめします。

 引っ越し先として住宅を購入する場合は、不動産の登記にも注意が必要です。登記事項証明書は誰でも取得できますが、令和6年4月1日からは、ストーカー行為等の被害を受け、更につきまとい等をされるおそれがある方などは、申出により、証明書に記載される住所を連絡先となる別の住所に代える措置を受けられるようになりました(不動産登記法119条6項、不動産登記規則202条の3第1号)。

担当の警察に、転居の予定を伝えておく

 転居の予定は、禁止命令や警告の手続を担当した警察に事前に伝えておきましょう。新しい住まいの周辺のパトロールや、転居先を管轄する警察署との連携につながることがあります。都道府県警察によっては、ストーカー被害で自宅に住み続けることが難しくなった方が、転居先が決まるまでの一定期間、公費でホテル等に避難できる制度を設けているところもあります。利用の可否は、相談している警察署に確認してみてください。

 新しい住まいの管理会社に協力を求める際には、警察から交付を受けられる行政措置実施証明書が役立つ場合があります(同法7条1項)。管理会社との相談の進め方は【ストーカートラブル】自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることをご覧ください。

住み続ける場合に、重ねておく対策

生活の動線と時間帯を見直す

 住み続けると決めた場合は、相手と顔を合わせる機会を減らす工夫が中心になります。最寄り駅や買い物先を変える、外出の時間帯を固定しない、ゴミ出しや郵便物の受け取りから生活のリズムが読み取られないようにするといった見直しが考えられます。

 相手を見かけたときは、自分で後を追ったり確かめに行ったりせず、日時や状況を記録して警察に伝えることを優先してください。相手との接点をつくらない動き方が、ご自身の安全にとっても、後の手続にとっても大切です。

管理会社・近隣・勤務先の協力を得る

 防犯カメラの設置や確認、オートロックの運用、来訪者への対応などは、管理会社の協力があると進めやすくなります。令和7年12月30日施行の改正では、被害を受けている方を雇用する事業者や通学先の学校の長も、援助に努める立場として明記されました(同法9条3項)。相手が同じ建物に住んでいる場合の記録と手続の組み立ては、【ストーカートラブル】同じマンションの住人につきまとわれている|相手も住み続ける建物で、行動の記録と手続をどう組み立てるかで詳しく解説しています。

期間の延長と、裁判所の手続を視野に入れる

 近くに住み続ける場合、禁止命令の有効期間が満了する時期は、見落とさないようにしたい点です。満了が近づいたら、その間の出来事の記録をまとめ、早めに担当の警察に延長について相談しておきましょう。住み続けるという選択は、ただ我慢することではなく、記録と手続を積み重ねることを前提に成り立つものといえます。

 警察の手続とは別に、裁判所に接近禁止の仮処分を求める方法もあります。相手の自宅が近い場合は、一定の距離に近づかないという定め方が相手の日常生活と重なりやすいため、禁じる行為を具体的に特定する工夫が必要です。手続の違いは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで、費用と期間の目安は【ストーカートラブル】接近禁止の仮処分にかかる費用と期間の目安|担保・審尋・決定後の手続までで整理しています。

引っ越しにかかる費用は誰が負担するのか

相手に請求できる場合

 つきまとい等によって住み続けることが難しくなり、やむをえず転居した場合には、引っ越し費用や新居の初期費用の一部を、損害賠償の項目として相手に請求することを検討できる場合があります(民法709条)。もっとも、請求が認められるかどうかは、相手の行為と転居との間に相当な因果関係があるといえるかによって判断され、かかった費用のすべてが認められるとは限りません。

 請求を考える場合は、見積書や契約書、領収書を残し、転居を決めた時期と、その直前に起きていた出来事を説明できるようにしておくことが大切です。示談の中で、転居費用を解決金の算定に含めて話し合うこともあります。請求できる項目の考え方は【ストーカートラブル】ストーカー被害の慰謝料|請求できる項目と組み立てで解説しています。

自治体の転居費用助成

 自治体によっては、犯罪被害のために従前の住居に住み続けることが難しくなった方に、転居費用を助成する制度を設けています。東京都の制度は、都内で発生した生命・身体の被害を受けた方などを主な対象とし、実費を上限20万円まで助成するものですが、直接的な被害に当たらない場合でも対象となる場合があるとされています。

 利用には面接相談などの手続が必要で、加害者から賠償を受けられる場合などは対象外とされることがあります。東京都では、公益社団法人被害者支援都民センターが受付の窓口になっています。ストーカー被害だけで対象になるかは事案によって異なるため、まずは問い合わせて確認してみるとよいでしょう。

賃貸の解約と、新居の契約

 賃貸住宅から引っ越す場合は、契約書で解約の予告期間や、短期間での解約に違約金が定められていないかを確認しておきましょう。事情を管理会社に伝えると、退去の時期などについて相談に応じてもらえることもあります。新居を探す際は、オートロックや防犯カメラの有無、管理会社の対応体制なども、立地と並ぶ判断材料になります。

よくあるご質問

引っ越したら、禁止命令の手続をやり直す必要がありますか

 引っ越しをしたことだけで、禁止命令の効力がなくなるわけではありません。令和7年12月30日施行の改正により、行為が行われた時点で住んでいた場所を管轄する公安委員会も禁止命令等を担当できるようになっています(ストーカー規制法14条1項)。ただし、新しい住まいの周辺での警戒などのため、転居の予定と時期は担当の警察に伝えておくことが大切です。

新しい住所を知られずに、相手へ損害賠償を請求できますか

 弁護士が代理人になれば、相手とのやり取りは弁護士を窓口にでき、ご本人の住所を書面に記載せずに交渉を進めることができます。訴訟になった場合も、住所などを知られることで社会生活に著しい支障が生じるおそれがあるときは、裁判所に住所等の秘匿を申し立てる制度があります(民事訴訟法133条)。代理人を立てる意味は【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で整理しています。

家族と同居しています。自分だけが引っ越すべきでしょうか

 同居のご家族に対するつきまとい等も規制の対象になるため(同法2条1項)、ご本人だけが転居しても、ご家族のもとに相手が現れる可能性は残ります。ご家族と別に暮らす場合は、ご家族にも新しい住所を口外しないよう共有し、実家周辺での出来事も記録してもらうことが考えられます。家族全体で転居するかどうかは、相手の行動の向き先と、それぞれの生活の事情を並べて決めていくことになります。

まとめ


  1. 禁止命令は、つきまとい等の行為を禁じるものであり、相手の住まいを動かすものではない(ストーカー規制法5条1項)。
  2. 禁止命令の効力は1年で延長でき、行為時に住んでいた場所の公安委員会も担当できるため、転居しても手続は続けやすい(同法5条8項・9項、14条1項)。
  3. 同居の家族などに対するつきまとい等も規制の対象になる(同法2条1項)。
  4. 引っ越すかどうかは、相手の行動の向き、危険の程度、住所の知られ方、生活の事情を並べて判断する。
  5. 引っ越す場合は、住所が伝わる経路を先に閉じ、住民票の支援措置や不動産登記の住所の代替措置を準備する(同法6条、不動産登記法119条6項)。
  6. 住み続ける場合は、動線の見直し、管理会社や勤務先の協力、期間の延長や仮処分の検討を重ねる(ストーカー規制法9条3項)。
  7. 転居費用は、因果関係が認められれば損害賠償の項目として請求を検討でき、自治体の助成を利用できる場合もある(民法709条)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。相手の家の近くに住み続けるか、引っ越すかに迷われている段階でも、警察とのやり取りの整理、記録のまとめ方、仮処分や損害賠償の検討をご一緒できます。

被害を受けているご本人も、見守るご家族も、一人で判断を抱え込まずにご相談ください。今の状況で取れる手段と、その順序を一緒に整理します。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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