【ストーカートラブル】交際相手の元恋人からつきまとわれている|ストーカー規制法と迷惑防止条例の分かれ目
この記事は、2026年10月8日時点の刑事訴訟法、ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」といいます)、検察審査会法、民法、民事保全法、および法務省「被害者等通知制度実施要領」(令和7年6月1日施行の改正後のもの)に基づいて記載しています。2025年6月1日施行の刑法改正により、懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されています。
ストーカー被害のご相談では、「警察から『検察で処分が決まった』とだけ聞いたが、どういう結果だったのか分からない」というお声をいただきます。被害を受けているご本人のご家族からも、「相手が不起訴になったと聞いた。また近づいてくるのではないか」というご相談が寄せられます。
一般には「不起訴=罪に問われなかった」と説明されることが多く、それ自体は誤りではありません。ただ、被害を受けた側から見ると、不起訴で何が決まり、何がまだ決まっていないのか、そして処分の中身をどこまで知ることができるのかは、意外と見えにくいところです。処分の結果を知らないままでは、次に何を備えればよいのかも決めにくくなります。
この記事では、相手が不起訴になった場合に、被害を受けた方が処分の結果と理由を知る方法と、処分後の接触に備えて整えておきたい準備を中心に解説します。検察審査会への申立ての詳しい流れや、民事での請求の詳細は、それぞれの個別記事に委ねます。
不起訴で決まったこと・決まっていないこと
まず、不起訴という処分の意味を、被害を受けた側の視点から整理しておきます。
不起訴にはいくつかの区分がある
不起訴は、検察官が「この事件を裁判にかけない」と判断した処分です。その理由には、犯罪の疑いがない「嫌疑なし」、証拠が足りない「嫌疑不十分」、事実は認められるものの、反省や示談の有無などの事情を考慮して裁判にかけない「起訴猶予」などの区分があります。
被害を受けた側から見ると、この区分によって受け止め方が大きく変わります。たとえば起訴猶予は、相手の行為があったこと自体は前提とされている処分です。一方、嫌疑不十分は、証拠が足りないという判断であり、「何もなかった」と認定されたわけではありません。
不起訴は「最終的な決着」とは限らない
不起訴には、裁判の判決のような確定力がありません。新しい証拠が出てきた場合などには、公訴時効が完成するまでの間、検察官が事件を再び取り上げて捜査することがあります。ストーカー規制法違反の罪の公訴時効は3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。
また、不起訴のあとに新たなつきまといがあれば、それは新しい事件として扱われます。不起訴は「その時点で、その事件について裁判にかけない」という判断であり、相手のその後の行動まで許されたことを意味するものではありません。
「処分保留」との違いに注意する
相手が勾留されていた場合、処分が決まらないまま釈放される「処分保留」となることがあります。これは不起訴ではなく、捜査が続いている状態です。警察や検察から「釈放された」と聞いたときは、不起訴なのか処分保留なのかを確認しておくと、その後の見通しを立てやすくなります。処分保留の位置づけは、処分保留で釈放された|終わったわけではない状態で解説しています。
処分の結果と理由を知る方法
不起訴の結果は、何もしなくても必ず被害者に知らされるとは限りません。知るための方法は、被害届だけを出しているのか、告訴もしているのかによっても変わります。
被害者等通知制度|希望を伝えておくことが出発点
検察庁には「被害者等通知制度」があり、被害者やその親族、弁護士である代理人が希望すれば、事件の処理結果(公判請求・略式命令請求・不起訴などの別と処理年月日)が通知されます。検察官等による事情聴取の際に通知の希望を確認されるのが通常ですが、聴取の機会がなかった場合でも、被害者等や代理人の弁護士から照会すれば通知を受けることができます。
さらに、特に希望すれば、不起訴裁定の主文や理由の骨子、勾留・保釈といった相手の身柄の状況なども通知の対象になります。処分の結果だけでなく理由や身柄の状況まで知りたい場合は、その旨をはっきり伝えておくことが大切です。ただし、理由の骨子は詳しい説明ではなく、不起訴の区分を示す程度の簡潔なものにとどまることが多いとされています。
告訴をしている場合に使える刑事訴訟法上の通知
ストーカー規制法違反の罪は、2017年1月の改正法施行により、告訴がなくても起訴できる罪(非親告罪)になりました。それでも告訴をしておく意味はあります。告訴をした人に対しては、検察官は起訴・不起訴の処分をしたときに速やかに通知しなければならず(刑事訴訟法260条)、不起訴の場合には、告訴人から請求があれば理由を告げなければなりません(同法261条)。
被害届と告訴の違いや選び方は、被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶで詳しく解説しています。
| 知る方法 | 使える人 | 知ることができる内容 |
|---|---|---|
| 被害者等通知制度(希望・照会) | 被害者、その親族等、弁護士である代理人 | 処分の別と処理年月日。特に希望すれば、不起訴の主文・理由の骨子、身柄の状況など |
| 告訴人への処分通知(刑事訴訟法260条) | 告訴をした人 | 起訴・不起訴の別 |
| 不起訴理由の告知(同法261条) | 告訴をした人(請求が必要) | 不起訴の理由 |
問い合わせ先が分からないときは
事件が警察から検察庁に送られると、担当する検察庁と検察官が決まります。どこに問い合わせればよいか分からない場合は、まず相談していた警察署の担当者に、送致先の検察庁を確認するのが近道です。代理人の弁護士がいる場合は、弁護士から照会することもできます。
不起訴の結論に納得できないとき
処分の結果を知ったうえで、その判断に納得できない場合に取りうる手段を整理します。
検察審査会への申立て
検察官の不起訴処分に不服がある場合、告訴をした人や犯罪により害を被った人は、検察審査会に審査を申し立てることができます(検察審査会法30条)。申立てに費用はかかりません。審査の結果、「起訴相当」や「不起訴不当」の議決が出れば、検察官は改めて処分を検討することになります。
申立書の書き方や審査の流れは、不起訴に納得できない|検察審査会への申立てで解説しています。
不起訴事件の記録を見ることができる場合
不起訴になった事件の記録は、関係者の名誉やプライバシーを守るため、原則として公開されません(刑事訴訟法47条)。ただし法務省は、被害者等が民事で損害賠償を求める場合などに、一定の範囲で記録の閲覧を認める方針を示しています。対象は実況見分調書などの客観的な証拠が中心で、開示の可否と範囲は検察庁が事案ごとに判断します。
検察審査会への申立てや民事での請求を検討するときは、記録の閲覧によって手元の材料を補えるかどうかも、あわせて検討しておく価値があります。
新たな証拠や新たな被害が出たとき
不起訴のあとに、当時は提出していなかったメッセージや画像が見つかった場合、または相手から新たな接触があった場合は、日時・内容・経路を記録したうえで、警察や担当検察庁に伝えます。記録の残し方は、証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはが参考になります。
処分後の接触に備える|身を守る準備
刑事手続の結果がどうであれ、被害を受けた方の生活の安全は、別の手続や工夫によって確保していく必要があります。
身柄を拘束されていた相手は不起訴と同時に釈放される
相手が勾留されていた場合、不起訴になればその時点で釈放されます。在宅のまま捜査されていた場合は、相手はもともと普段の生活を続けています。いずれの場合も、不起訴の結果を知った時点で、相手が自由に動ける状態にあることを前提に備えを考えることになります。
警察には、同じ加害者から再び被害を受けるおそれのある方を「再被害防止対象者」に指定し、情報の連絡や警戒などを行う仕組みがあります(警察庁「再被害防止要綱」)。処分の結果を知ったら、相談していた警察署に、不起訴後の対応について改めて相談しておくとよいでしょう。
警告・禁止命令は刑事処分とは別の手続
ストーカー規制法には、警察署長等による「警告」(4条)と、都道府県公安委員会による「禁止命令」(5条)という行政上の手続があります。これらは刑事処分とは別の手続であり、相手が不起訴になったからといって、すでに出されている禁止命令が効力を失うわけではありません。禁止命令の有効期間は1年で、必要があれば延長することもできます。
まだ禁止命令が出ていない場合でも、つきまとい等が繰り返されるおそれがあれば、不起訴のあとに禁止命令を求めることは可能です。禁止命令の期間や違反した場合の罰則は禁止命令が出た|違反した場合の刑罰と期間・更新で、相手が配偶者や交際相手の場合の制度の選び方はストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?で解説しています。
生活面で整えておきたいこと
法的な手続とあわせて、日常の生活の中で接触の経路を減らしておくことも大切です。たとえば、次のような準備が考えられます。
- 住民票や戸籍の附票について、市区町村の窓口でDV等支援措置(閲覧・交付の制限)を申し出る。
- 自宅の管理会社や勤務先に、必要な範囲で事情を共有し、来訪や電話への対応を決めておく。
- 通勤経路や帰宅時間、よく利用する店舗など、相手が把握している行動の型を見直す。
- スマホの位置情報や共有アカウントなど、居場所が伝わる経路を点検する。
- 新たな接触があったときに、すぐに記録して通報できるよう手順を決めておく。
自宅での備えは【ストーカートラブル】自宅マンションに来られている|管理会社・オートロック・防犯カメラでできることで、端末やアカウントからの情報の漏れについては【ストーカートラブル】スマホや共有サービスから居場所が漏れている|位置情報以外の経路を止めるで、それぞれ具体的に解説しています。
刑事とは別に、民事でできること
刑事事件で不起訴になっても、民事上の責任を問う道は残っています。刑事と民事では目的も判断の基準も異なるためです。
損害賠償の請求
つきまといによって受けた精神的苦痛や、転居・通院などにかかった費用については、不法行為に基づく損害賠償を請求できる場合があります(民法709条・710条)。不起訴になったことは、民事で請求できないことを意味しません。ただし、損害と加害者を知った時から原則として3年で時効にかかる点には注意が必要です(民法724条1号)。
不起訴後の民事請求の考え方は、不起訴になった後に民事で請求できるのかで詳しく解説しています。
裁判所の手続で接近を禁じる
警察の禁止命令とは別に、裁判所に対して、相手の接近や連絡を禁じる仮処分を申し立てる方法もあります(民事保全法23条2項)。刑事処分の結果に左右されずに、裁判所の判断で接触を禁じる枠組みを作れる点が、この手続の特徴です。警察の手続との使い分けは、接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで解説しています。
代理人を立てて相手との窓口を一本にする
民事での請求や接触禁止の合意を進める場面では、ご本人が相手と直接やり取りをすると、それ自体が新たな接触のきっかけになりかねません。弁護士が代理人となれば、相手との連絡はすべて弁護士を通すことになり、ご本人の連絡先や所在を知らせずに手続を進めることができます。代理人を立てる意味は、【ストーカートラブル】弁護士に依頼すると何が変わるのか|ストーカー被害で代理人を立てる意味で解説しています。
よくあるご質問
不起訴の通知がいつまでも届きません。処分はまだ出ていないのでしょうか。
通知の希望を伝えていない場合や、告訴をしていない場合には、処分が出ていても通知が届かないことがあります。まずは送致先の検察庁に、被害者として処分結果を照会してみてください。照会すれば、処分の別と処理年月日を知ることができます。処分保留のまま捜査が続いている場合もあるため、その点もあわせて確認しておくと安心です。
被害届だけを出していました。今からでも告訴したほうがよいのでしょうか。
すでに不起訴になった事件について、告訴をすれば処分が見直されるというわけではありません。ただ、告訴をした人には、刑事訴訟法上の処分通知や不起訴理由の告知を受ける立場が生じます。今後、新たなつきまといがあった場合に備えて、その時点で告訴を検討するかどうかを含め、手続の選び方を整理しておくことが大切です。
不起訴になった後に、相手側から謝罪や示談の申し出が来たらどうすればよいですか。
不起訴のあとでも、相手側から謝罪や金銭の支払いの申し出が来ることがあります。応じるかどうかはご自身が決めてよいことですが、応じる場合は、接触禁止や違約金などの条件を書面に入れることが重要です。直接のやり取りは避け、内容を確認してから判断してください。確認しておきたい点は、加害者側から示談を持ちかけられた|応じる前に確認することで整理しています。
まとめ
- 不起訴には嫌疑なし・嫌疑不十分・起訴猶予などの区分があり、「何もなかった」と認定されたとは限らない。
- 不起訴には判決のような確定力がなく、公訴時効(ストーカー規制法違反の罪は3年。刑事訴訟法250条2項6号)までは再び捜査されることがある。
- 処分の結果は、被害者等通知制度に基づき希望・照会することで知ることができ、特に希望すれば理由の骨子や身柄の状況も通知の対象になる。
- 告訴をしていれば、処分の通知(刑事訴訟法260条)と、請求による不起訴理由の告知(同法261条)を受けられる。
- 不起訴に不服があれば検察審査会に申し立てることができ(検察審査会法30条)、一定の範囲で不起訴記録の閲覧が認められる場合もある(刑事訴訟法47条)。
- 警告(ストーカー規制法4条)や禁止命令(同法5条)は刑事処分とは別の手続であり、不起訴後も使うことができる。
- 民事では、損害賠償(民法709条・710条)や接近禁止の仮処分(民事保全法23条2項)によって、刑事とは別に責任を問い、接触を禁じることができる。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ストーカー被害に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。処分の結果の確認から、検察審査会への申立てや記録の閲覧の検討、禁止命令の申出、民事での請求や接触禁止の合意まで、状況に応じて必要な手続を整理します。
相手が不起訴になり、今後の接触に不安を感じている方も、ご家族が被害を受けていて備えを考えたい方も、警察や検察とのやり取りの記録をお手元にご用意のうえ、お気軽にご相談ください。


