スマホ・PCを押収された|いつ返るのか、中身はどこまで見られるのか
職場や学校で盗撮が問題になったとき、動き出す手続は一つではありません。会社や学校が行う内部の調査と、警察や検察が行う刑事手続は、別の主体が、別の根拠で、別の物差しを使って進みます。
そして、この二つはどちらが先に始まるかが場面ごとに違います。順序が違えば、最初に説明を求めてくる相手も、そこで話したことが後にどう使われるかも変わってきます。「会社の調査に応じたのに、なぜ警察からも同じことを聞かれるのか」という戸惑いは、この二つを一つの流れとして考えているところから生まれます。
この記事では、二つの手続がどのような順序で動くのかという一点に絞って整理します。どの規定に当たるのかという罪名の問題、身柄を拘束された後の流れ、懲戒処分や解雇の種類そのものについては、それぞれ別の解説で扱っています。撮影したとされている側と、申告を受けて対応する側のどちらの立場でも読めるよう、立場を限定せずに書いています。
二つの手続は別々に動いている
まず押さえておきたいのは、内部調査と刑事手続が上下関係にも前後関係にも立っていないという点です。会社が調査を終えたから捜査が始まるわけではありませんし、刑事の結論が出るまで組織の手続が止まるわけでもありません。
両者の違いを並べると、次のようになります。
| 観点 | 会社や学校の内部調査 | 刑事手続 |
|---|---|---|
| 動かしているもの | 使用者や学校の設置者 | 捜査機関と裁判所 |
| よりどころ | 労働契約と就業規則、学校の規程や法律 | 刑事訴訟法などの手続法 |
| 判断の対象 | 組織の秩序を乱す行為があったかどうか | 犯罪が成立するかどうか |
| 出てくる結論 | 処分をするかどうか、どの処分にするか | 起訴か不起訴か、有罪か無罪か |
| 時間の進み方 | 組織の判断で早くも遅くもなる | 身柄拘束の有無で期間の枠組みが決まる |
同じ出来事を扱っていても、見ている対象が違います。ここを分けて考えられるかどうかが、その後の対応の分かれ目になります。
発覚の入口によって順序が変わる
どちらが先に動くかは、その出来事がどこから明るみに出たかでおおむね決まります。
| 発覚の入口 | 先に動き出すもの | 最初に説明を求めてくる相手 |
|---|---|---|
| その場で気づかれ、警察が呼ばれた | 刑事手続 | 警察官 |
| 申告を受けた会社や学校が把握した | 内部の調査 | 上司や調査の担当者 |
| 申告した人が直接警察に相談した | 刑事手続 | 警察官 |
| 機器が見つかり、行為者が分からない | 内部の調査 | 関係者全般への聞き取り |
このうち、対応の設計がいちばん難しいのは三番目です。組織が知らないところで捜査が先行し、捜査機関から会社に照会や協力の依頼が届いて、そこで初めて組織が事態を知るという順序になります。この場合、内部調査は捜査の中身をある程度前提とした形で始まります。
四番目のように行為者が特定されていない段階では、聞き取りが特定の人に向けられたものではなく、広く行われることがあります。自分に向けられた調査なのか、全体に対する確認なのかを取り違えると、応じ方を誤りやすくなります。
会社が行う調査の根拠と限界
会社が事実関係を調べること自体は、法律上の裏づけがあります。最高裁は昭和五十二年十二月十三日の判決で、企業は企業秩序を維持確保するために必要な事項を定め、指示や命令をすることができ、秩序に違反する行為があった場合には、乱された秩序の回復に必要な指示や命令を出し、また制裁として懲戒処分を行うために事実関係の調査をすることができる、と述べています。
もっとも、同じ判決は続けて、企業が調査をすることができるからといって、労働者がいつ、いかなる場合にも当然に調査へ協力する義務を負うと解することはできない、としています。労働者は労働契約によって労務提供義務や企業秩序遵守義務を負うものの、企業の一般的な支配に服するわけではない、というのがその理由です。
そのうえで判決は、他の労働者に対する指導や監督、秩序の維持などを職責とする立場にあり、調査への協力が職務の内容になっている場合には協力義務があるとし、それ以外の場合には、調査の対象となっている行為の性質や内容、その行為を見聞きした機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法があるかどうかといった事情を総合して、協力することが労務提供義務を果たすうえで必要かつ合理的と認められる場合に限られる、としました。
ただし、この事案は同僚の行為に関する事情聴取を断ったというものです。自分自身の行為が調査の対象になっている場面と同じに考えることはできません。協力の求めに応じないという判断は、それ自体が組織との関係で別の評価につながることがあるため、断るかどうかは切り離して検討する必要があります。
私物の端末や持ち物の確認を求められたとき
調査の場面で、かばんの中を見せてほしい、スマートフォンを確認させてほしいと求められることがあります。所持品の検査については、最高裁の昭和四十三年八月二日の判決が判断の枠組みを示しています。そこでは、所持品検査が適法といえるためには、検査を必要とする合理的な理由があること、一般的に妥当な方法と程度で行われること、制度として職場の従業員に対し画一的に実施されること、就業規則その他の明示の根拠に基づくことが必要であり、根拠となる定めがなければ、同意しない人に対して実施することはできない、とされています。
私物の端末の中身を見せるという行為は、かばんの中を見せることよりも踏み込んだ内容です。就業規則にどこまでの定めがあるのか、その場での求めが検査なのか任意の協力の依頼なのかによって、位置づけが変わります。
なお、求められたことに応じるかどうかとは別に、自分の判断でデータを消す、機器を処分するという対応は避けたほうがよい場面です。組織との関係でも刑事手続との関係でも、後から不利に評価される要素になり得ます。削除したデータの扱いについては別の解説で触れています。
調査で話したことは刑事手続でどう扱われるか
順序を考えるうえで見落とされやすいのが、内部調査で口にした内容が、その後の刑事手続に残るという点です。
取調べで黙っていることができるという権利は、捜査機関や裁判所との関係で保障されているものです。会社や学校の調査は捜査ではありませんから、この権利が当然に同じ形で及ぶわけではありません。他方で、前の章のとおり、調査に協力する義務が常に生じるわけでもありません。両者は別の話です。
会社が作成した聞き取りの記録、本人が書いた始末書や報告書、調査結果をまとめた書面は、会社が任意に提出すれば捜査の資料になり得ます。組織に説明した内容と、後に捜査機関へ説明する内容が食い違えば、その食い違い自体が説明を求められる対象になります。
だからこそ、記憶がはっきりしない部分を、その場の空気で埋めて説明してしまうことは避けたいところです。分からないことは分からないままにしておくほうが、後の段階で不自然さを残しません。
自宅待機を命じられたとき
調査が始まると、当面出社しなくてよい、と言われることがあります。ここで区別しておきたいのは、業務命令としての自宅待機と、懲戒処分としての出勤停止が別のものだという点です。前者は処分ではなく、調査の間の事実上の措置にとどまります。
賃金の扱いも同じではありません。使用者の責めに帰すべき事由による休業にあたる場合には、平均賃金の百分の六十以上の休業手当を支払わなければならないとされており、使用者の故意や過失などが認められる場面ではさらに全額の支払いが問題になります。
裁判例には、自宅謹慎は当面の職場秩序維持の観点からとられる一種の職務命令とみるべきものであるから、使用者が当然に賃金支払義務を免れるわけではないとしたうえで、賃金を支払わないためには、就労させないことについて不正行為の再発や証拠隠滅などの緊急かつ合理的な理由があること、自宅待機を実質的に出勤停止処分に転化させることについて懲戒規定上の根拠があることが必要だとしたものがあります。
実際の扱いは就業規則の定め方によって変わります。自宅待機を命じられたときは、それが処分なのか調査の間の措置なのか、賃金がどう扱われるのかを、口頭ではなく書面で確認しておくと後の行き違いが減ります。
懲戒の手続は刑事の結論を待つとは限らない
懲戒処分は、就業規則に定められた事由に該当することを前提に、行為の性質や態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合に有効とされます。相当と認められない場合には、権利の濫用として無効になります。
ここで問題になるのが時間です。刑事手続の結論が出るまでには相応の期間がかかりますが、組織の側にその結論を待つ義務があるわけではありません。事実関係の確認ができたと判断すれば、処分が先に出ることもあります。
逆に、組織が結論を待つこともあります。処分をした後で前提となる事実が違っていたと分かっても、いったん行った処分を元に戻すのは簡単ではないからです。どちらの運び方をとるかは組織の判断であり、外から一律に決まるものではありません。
なお、同じ事実について重ねて懲戒処分を行うことは、一般に相当性を欠くと考えられています。処分の前に弁明の機会が設けられている場合、そこで何を述べるかは、後から差し替えのきかない場面になります。
二つの結論がずれることがある
内部調査の結論と刑事手続の結論は、同じ方向になるとは限りません。
刑事手続では、犯罪の成立に必要な事実が証拠によって認められるかどうかが問われます。組織の調査では、就業規則に定められた事由に当たる行為があったかどうかが問われます。要求される証明の程度も、対象となる事実の広さも同じではありません。
そのため、刑事手続が不起訴で終わったからといって、すでに行われた処分が当然に無効になるわけではありません。反対に、組織が処分をしなかったとしても、刑事手続はそれとは無関係に進みます。
「刑事の結論が出れば全部が決まる」という前提で予定を組むと、想定と違う順序で物事が動いたときに対応が遅れます。二つの時計が別々に進んでいる、と考えておくほうが実際に近い見方です。
申告した人が同じ職場にいる場合
職場や学校の事案に特有の難しさとして、申告した人と行為者とされた人が同じ組織に所属しているという点があります。
組織は、調査の間、両者の接触を避ける措置をとることがあります。席を離す、担当を外す、連絡の経路を限定するといった対応です。この状態で、本人が直接連絡をとろうとすると、事情の説明のつもりであっても、調査の妨げや接触の禁止に反する行為と受け止められることがあります。
また、相手の連絡先を組織が把握していても、それを行為者とされた側に伝えることは通常ありません。話し合いの窓口をどこに置くかという問題は、組織の外の事案とは別の設計が必要になります。この点や、被害を申告した人との話し合いの進め方については、別の解説で扱っています。
学校の場合 教職員による撮影とされたとき
学校では、順序の一部が法律で定められています。教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律は、通常衣服で隠されている人の下着又は身体を撮影すること、撮影する目的で写真機その他の機器を差し向けたり設置したりすることを、児童生徒性暴力等に含めています。
そのうえで同法第十八条は、児童生徒等から相談を受けた場合などにおいて事実があると思われるときは、その児童生徒等が在籍する学校又は学校の設置者へ通報するなどの適切な措置をとるものとし、犯罪の疑いがあると思われるときは速やかに所轄警察署に通報するものとしています。公務員については、犯罪があると思われるときの告発について刑事訴訟法の定めるところによる、とされています。
学校の側については、通報を受けたときなどは、直ちに設置者へ通報するとともに、事実の有無の確認を行うための措置を講じ、その結果を設置者に報告するものとされ、報告までの間は児童生徒等と当該教育職員等との接触を避けるなどの措置をとるものとされています。犯罪があると認めるときは、直ちに所轄警察署へ通報し、連携して対処しなければならないとも定められています。
さらに第十九条は、設置者が報告を受けたときに、医療、心理、福祉及び法律に関する専門的な知識を有する者の協力を得て、速やかに必要な調査を行うものとしています。
つまり学校の事案では、内部の事実確認と警察への通報が並行して進むことが、法律のうえで想定されています。会社の場合のように、組織がどの順序で動くかを裁量で決められる範囲は狭くなります。免許や身分の扱いについては、別の解説で整理しています。
学校の場合 児童生徒が行為者とされたとき
行為者とされたのが児童生徒である場合は、前の章とは前提が異なります。同じ法律が同じ順序を定めているわけではなく、学校の内部の調査、保護者への連絡、警察への相談をどうするかは、事案ごとの判断になります。
年齢によって、その後に進む手続の枠組み自体が変わる点にも注意が必要です。学校が児童生徒に対して行う懲戒の手続や、退学、停学といった処分の枠組みについては、別の解説で扱っています。
ここで押さえておきたいのは、学校の聞き取りが比較的早い段階で行われること、そしてその記録が後の手続で参照される可能性があることです。保護者としてどこまで同席できるか、記録がどう残るかは、その場で確認しておいてよい事柄です。
順序を見誤りやすい行動
二つの手続を一つの流れとしてとらえていると、次のような対応をとってしまうことがあります。
・その場の判断で機器やデータを処分する。
・調査の場で、記憶にない部分まで補って説明する。
・申告した人に直接連絡し、自分の口から事情を説明しようとする。
・退職を申し出れば手続が終わると考える。
・刑事の結論が出るまで組織の手続は止まると考える。
相談前に整理しておくこと
弁護士に相談する前に、次の点を書き出しておくと話が早く進みます。
・出来事の時期と場所、その場に誰がいたか。
・会社や学校から求められた事柄と、自分が応じた範囲。
・提出した書面と、渡した物。
・警察からの接触があったかどうか、あればどの段階か。
・就業規則や学校の規程のうち、調査と処分に関わる部分。
思い出せない部分は、思い出せないまま書いておいてかまいません。あいまいな部分を埋めてしまうと、後で訂正するほうが負担になります。
弁護士に確認できること
順序に関わる論点として、次のような点を相談の場で確認できます。
・調査への協力をどこまで求められている場面なのか。
・提出を求められた物に、どのように応じるか。
・自宅待機の位置づけと、賃金の扱い。
・刑事手続の見通しと、組織へ説明する順序。
・申告した人との関係で、連絡の窓口をどこに置くか。
まとめ
この記事の内容を整理します。
・内部調査と刑事手続は、別の主体が別の根拠で進める手続で、上下関係にはない。
・どちらが先に動くかは、その出来事がどこから明るみに出たかでおおむね決まる。
・会社が事実関係を調査することはできるが、労働者が常に協力義務を負うわけではないとされている。
・所持品の検査には、合理的理由、方法と程度の妥当性、画一的な実施、明示の根拠という枠組みが示されている。
・内部調査で話した内容や書いた書面は、後の刑事手続に残り得る。
・自宅待機は懲戒処分としての出勤停止とは別で、賃金の扱いも同じではない。
・懲戒の手続は刑事の結論を待つとは限らず、二つの結論はずれることがある。
・学校の事案では、事実の確認と警察への通報が並行することが法律上想定されている。
順序を把握しておくことは、次に何を求められるかを予測し、その場で判断を迫られる場面を減らすことにつながります。もっとも、早く動いたからといって望ましい結果が約束されるわけではありません。手続の性質を理解したうえで、どの段階で何を選ぶのかを一つずつ決めていくことが現実的な進め方になります。


