保釈が却下された後にできること|再請求のタイミング
この記事は、2026年10月時点の刑事訴訟法・刑事訴訟規則・刑法に基づいて作成しています。捜索の後に逮捕されるかどうか、捜査にどのくらいの期間がかかるかは、事件の内容や押収された物の量、警察署ごとの運用によって異なります。個別の見通しは、ご事情を伺ったうえでお伝えしています。
「朝早くに警察が来て家の中を調べられ、スマートフォンとパソコンを持っていかれた。そのまま連れて行かれると思っていたが、捜査員は『また連絡します』と言って帰っていった」。ご本人からは、このようなご相談が寄せられます。ご家族からも「夫の部屋が捜索されたのに、夫は家にいる。これで終わったのか、それとも後で逮捕されるのか」というお問い合わせをいただきます。
家宅捜索の後でも逮捕される可能性はある、という説明はよく目にしますし、それ自体は誤りではありません。ただ、捜索の当日に逮捕されなかった理由はひとつではなく、当日に示された令状や交付された書面、捜査員の言葉から、いまどのような位置に置かれているのかをある程度読み取れる場合があります。
この記事では、捜索の当日に逮捕されなかった後の見通しと、その間にしておきたいこと・しないほうがよいことに絞って整理します。捜索に立ち会う場面での対応は家宅捜索(ガサ入れ)が来た|立ち会いでできること・できないことで、押収された端末の中身がどこまで見られるのかはスマホ・PCを押収された|いつ返るのか、中身はどこまで見られるのかで取り上げています。
捜索の当日に逮捕されなかった理由として考えられること
捜索の令状と逮捕の令状は別のもの
家宅捜索は、裁判官が発付する捜索差押許可状に基づいて行われます(刑事訴訟法218条1項)。逮捕は、これとは別に逮捕状の発付を受けて行うものです(同法199条1項)。捜査機関が捜索差押許可状だけを請求し、逮捕状は請求していない段階で捜索に来ることは珍しくありません。
証拠を集めてから逮捕するかどうかを判断するという順序で捜査が進むことも多く、捜索の時点では、まだ逮捕するかどうかが決まっていない場合があります。
逮捕には「必要性」が求められる
逮捕状は、罪を犯したと疑うに足りる理由があるだけでは発付されません。裁判官は、被疑者の年齢や境遇、犯罪の軽重や態様などに照らし、逃亡や罪証隠滅のおそれがないなど、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、請求を却下しなければならないとされています(刑事訴訟規則143条の3)。
住所や仕事、同居の家族があって生活が安定していること、証拠となる物がすでに押収されていることなどは、逮捕の必要性を判断する際に考慮される事情です。捜索で主な証拠が押収された結果、身柄を拘束しなくても捜査を進められると判断される場合もあります。
被疑者として扱われていない場合もある
捜索は、被疑者以外の人の住居に対しても、押収すべき物があると認められる状況があれば行うことができます(刑事訴訟法222条1項・102条2項)。同居する家族の事件、取引相手や知人の事件の関係で、ご自宅が捜索の対象になることもあります。
この場合、ご本人は参考人として話を聞かれる立場にとどまることがあります。もっとも、捜査の進み方によっては扱いが変わることもあるため、『参考人』として呼ばれた|被疑者に切り替わる瞬間もあわせてご確認ください。
いずれの理由であっても、当日に逮捕されなかったことは、疑いが晴れたことを意味するわけではありません。捜査はこの後も続いていると考えて、次の章で、いまの位置を確かめる手がかりを見ていきます。
当日の書面と言葉から、いまの位置を読み取る
捜索差押許可状に書かれていること
捜索差押許可状には、被疑者の氏名、罪名、差し押さえるべき物、捜索すべき場所、有効期間などが記載されます(刑事訴訟法219条1項)。被疑者の欄に誰の名前があるのか、罪名が何かによって、捜査の焦点はかなり見えてきます。
ただし、令状は捜索の開始前に示されるものの、写しが交付されないのが通例です。示された時点で、罪名や被疑者名を手元に書き留めておくと、その後の相談で見通しを立てやすくなります。すでに捜索が終わっている場合も、覚えている範囲で書き出しておくことをおすすめします。
押収品目録交付書は捜査の関心を映す
物が押収された場合、捜査機関は押収品の目録を作り、所有者や所持者に交付しなければなりません(刑事訴訟法222条1項・120条)。この目録に何が記載されているかは、捜査機関がどの事実を裏づけようとしているのかを知る手がかりになります。
たとえば、スマートフォンやパソコンだけが押収された場合は、通信履歴や画像などのデータ解析が捜査の中心になると考えられます。書面の読み方は押収品目録交付書から分かること|還付請求の手順で詳しく説明しています。
捜査員の言葉や当日の出来事から考えられること
当日に何が起きたかによっても、見通しは変わります。あくまで目安ですが、次のように整理できます。
| 当日の出来事 | 考えられる位置づけ |
|---|---|
| 令状の被疑者欄に自分の氏名があった | 被疑者として捜査の対象になっている。押収物の解析や取調べを経て、在宅のまま進むか、逮捕に切り替わるかが判断される |
| 令状の被疑者欄が家族や知人の氏名だった | 自宅が証拠のある場所として捜索された可能性がある。参考人として事情を聞かれることがある |
| 捜索の後に警察署で取調べを受け、家族が身元引受人として迎えに来た | 身柄を拘束せずに捜査を進める方針が示されている場合が多い。ただし後の逮捕の可能性がなくなったわけではない |
| 「また連絡します」とだけ言われ、取調べはなかった | 押収物の解析を先に進める段階であることが多い。呼び出しまで時間が空くことがある |
当日の書面と言葉は、この先の見通しを考えるうえで最初の材料になります。記憶が新しいうちに、時刻、捜査員の人数や所属、言われたことを書き留めておくと役に立ちます。
この先に考えられる3つの経路
押収物の解析を経て、後日逮捕される場合
押収されたスマートフォンやパソコン、書類の解析によって新しい証拠が見つかったり、別の事件の疑いが出てきたり、共犯者の存在が明らかになったりした場合には、改めて逮捕状が請求されることがあります。
解析にかかる期間は、事件の内容や押収物の量によって異なり、数週間で動きがあることもあれば、数か月以上たってから連絡が来ることもあります。連絡がない期間に何が起きているのかは捜査が長引く理由と待ち方|連絡が来ない期間に何が起きているかと【刑事事件】事件から時間が経ってから連絡が来た|捜査が動く時期の読み方で取り上げています。
逮捕されないまま捜査が進む場合(在宅事件)
逮捕されずに捜査が進む事件は、一般に在宅事件と呼ばれます。日常生活を続けながら、警察や検察庁からの呼び出しに応じて取調べを受けることになります(刑事訴訟法198条1項)。警察での捜査が終わると、事件は書類や証拠物とともに検察官に送られ(同法246条)、検察官が起訴・不起訴を判断します。
在宅事件には、逮捕・勾留された事件のような時間の制限がありません。そのため、処分が決まるまでに長い時間がかかることもあります。在宅事件で時間がどう流れていくかは在宅事件になった場合|見えない時間の進み方で説明しています。在宅事件だからといって不起訴になると決まっているわけではなく、証拠がそろえば起訴されることもあります。
嫌疑が固まらず、捜査が終わる場合
押収物の解析や関係者の取調べを経ても、犯罪の疑いを裏づける証拠が集まらなければ、嫌疑不十分などの理由で不起訴となることがあります。不起訴にも複数の種類があり、それぞれの違いは不起訴の3類型はどう違うのか|どれを目指すべきかで整理しています。
なお、不起訴の処分が出ても、自宅に通知書が自動的に届くとは限りません。被疑者から請求があれば、検察官は不起訴にした旨を告げなければならないとされています(刑事訴訟法259条)。処分の結果を確かめたい場合は、弁護人を通じて確認する方法もあります。
どの経路になるかは、捜索の当日には確定していないことが多く、その後の過ごし方によって変わる部分もあります。次の章では、その「過ごし方」で気をつけたい点を見ていきます。
捜索の後にしないほうがよいこと
データの削除や関係者との連絡
捜索を受けた後、不安から手元に残ったデータを消したり、事件の関係者と連絡を取ったりしたくなる方は少なくありません。しかし、こうした行動は、逮捕や勾留の判断で重視される「罪証を隠滅するおそれ」を示す事情として受け取られる可能性があります。次のような行動は控えることをおすすめします。
- クラウドに保存されたデータや、別の端末に残ったデータを削除すること。
- SNSやメッセージアプリのアカウントを削除・退会すること。
- 共犯者や被害者、事件の関係者に連絡を取り、話の内容をすり合わせること。
- 押収されなかった関係書類や物を処分・移動すること。
自分自身の事件の証拠を隠すことは、証拠隠滅罪(刑法104条)が対象とする「他人の刑事事件に関する証拠」には当たらないと解されています。もっとも、共犯者がいる事件では他人の事件の証拠にも当たるとして問題になる余地がありますし、罪に当たるかどうかとは別に、逮捕の必要性を基礎づける事情として扱われるおそれがあります。
呼び出しを放置する、黙って転居する
逮捕されていない段階での取調べは任意であり、出頭を拒んだり、途中で退去したりすることも法律上は認められています(刑事訴訟法198条1項ただし書)。ただ、連絡を絶ったまま呼び出しに応じない状態が続くと、逃亡のおそれがあると判断される材料になりかねません。
仕事などの都合で指定された日に行けない場合は、無断で欠席するのではなく、日程の調整を申し出るのが現実的です。調整の考え方は【刑事事件】取調べの日程を仕事に合わせられるか|当日にかかる時間と、複数回に及ぶ場合の組み立てで紹介しています。転居や長期の出張・旅行の予定がある場合も、事前に伝えておくほうが無用な疑いを招きにくくなります。
供述の方針を一人で決めてしまう
取調べでは、自己の意思に反して供述をする必要がないことが告げられます(刑事訴訟法198条2項)。どこまで話すか、黙秘するかは、事件の内容や証拠の状況によって判断が分かれるところです。黙秘の効果と注意点は黙秘したほうがよいのか|黙秘の効果とリスクの整理で整理しています。
捜索の後の行動は、そのまま逮捕の必要性の判断材料になり得るという意識を持っておくことが大切です。
押収された物はいつ返ってくるのか
留置の必要がなくなれば返される
押収物のうち、捜査のために留め置く必要がなくなったものは、事件の終結を待たずに還付しなければならないとされています(刑事訴訟法222条1項・123条1項)。もっとも、解析が終わっていない段階や、裁判で証拠として使われる見込みがある段階では、手元に戻らないことが多いのが実情です。
返還を求めるときの進め方
仕事に欠かせないパソコンや、生活に必要な物が押収された場合は、担当の捜査員に事情を伝えて還付を申し出ることができます。必要なデータだけ先に複製してもらえないかを相談することもあります。押収そのものに不服がある場合には、裁判所に準抗告を申し立てる手続もあります(刑事訴訟法430条)。
本人が直接申し出るよりも、弁護人を通じて必要性を具体的に伝えたほうが、話が進みやすい場面があります。
逮捕されていない段階で弁護人に依頼する意味
在宅の段階では国選弁護人がつかない
被疑者段階の国選弁護人は、勾留状が発せられた場合に選任される制度です(刑事訴訟法37条の2)。逮捕も勾留もされていない在宅の段階では国選弁護人はつかないため、弁護人をつける場合は私選で依頼することになります。
弁護人ができること
捜索の後、逮捕されていない段階でも、弁護人ができることはあります。たとえば、次のような活動です。
- 捜査機関との連絡窓口となり、呼び出しの日程や事件の見通しについてやり取りすること。
- 住居や仕事、家族の監督状況を資料にまとめ、逮捕の必要がないことを捜査機関に伝えること。
- 取調べの前に、聞かれると予想される点や供述の方針を一緒に整理すること。
- 被害者のいる事件で、弁護人を通じて示談の申入れを行うこと。
- 検察官に意見書を提出し、不起訴を含めた処分について意見を述べること。
依頼の時期によってできることが変わる理由は弁護人を頼むタイミング|捜査段階で差がつく理由で説明しています。
ご家族が担える役割
ご家族が身元引受人となり、生活を監督する体制があることは、逮捕の必要性を判断する際に考慮される事情のひとつです。同居のご家族が捜索に立ち会った場合は、その場で見聞きしたことを書き留めておくと、後の相談で役立ちます。
逮捕されていない段階は、できる手当てを落ち着いて準備できる時間でもあります。
よくあるご質問
捜索から数か月たっても連絡がありません。もう終わったと考えてよいですか。
連絡がないことだけで、捜査が終わったと判断することは難しいです。押収物の解析や関係者の捜査に時間がかかり、その間は本人に連絡が来ないことがあります。また、公訴時効(刑事訴訟法250条)が完成するまでは、捜査が続けられる可能性があります。気になる場合は、弁護人を通じて状況を確認する方法があります。
捜索を受けたことは勤務先に知られますか。
捜索を受けたことが、警察から勤務先へ通知される仕組みがあるわけではありません。ただし、勤務先が捜索の対象になった場合や、取調べのために仕事を休む必要がある場合、後に逮捕された場合などには、知られるきっかけが生じることがあります。勤務先への伝え方を含めて、早めにご相談いただくことをおすすめします。
自分から警察に連絡して、今後の見通しを聞いてもよいですか。
問い合わせること自体は可能ですが、捜査の内容や見通しについて、捜査機関から詳しい説明を受けられることは多くありません。また、問い合わせの際のやり取りの中で、事件について話をすることになる場合もあります。話す内容を整理しないまま連絡するよりも、弁護人を通じて確認するほうが落ち着いて進めやすいでしょう。
まとめ
- 家宅捜索は捜索差押許可状に基づいて行われ(刑事訴訟法218条1項)、逮捕状とは別の令状です。当日に逮捕されなかったことは、疑いが晴れたことを意味しません。
- 逮捕には必要性が求められ、逃亡や罪証隠滅のおそれがないなど明らかに必要がない場合には逮捕状は発付されません(刑事訴訟規則143条の3)。
- 令状の罪名・被疑者名(刑事訴訟法219条1項)や押収品目録(同法120条)は、いまの位置を知る手がかりになります。
- この先は、押収物の解析を経て逮捕される場合、在宅のまま捜査が進む場合(同法246条)、嫌疑が固まらず不起訴となる場合が考えられます。
- データの削除や関係者との連絡、呼び出しの放置は、逮捕の必要性を基礎づける事情として扱われるおそれがあります。
- 押収物は留置の必要がなくなれば還付されますが(同法123条1項)、捜査中は戻らないことが多いのが実情です。
- 在宅の段階では国選弁護人がつかないため(同法37条の2)、弁護人をつける場合は私選での依頼となります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。家宅捜索の後に逮捕されず、この先どうなるのか分からないまま過ごしている方、押収物の返還や呼び出しへの対応に迷っている方は、当日に示された書面や言われたことをお手元にまとめたうえでご相談ください。
ご本人だけでなく、家族の部屋や自宅が捜索を受け、今後の見通しを知りたいというご家族からのご相談もお受けしています。状況を伺ったうえで、いま取れる手当てを一緒に整理します。


