【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択
この記事は、2026年10月時点の民法(贈与・扶養に関する規定)、相続税法、生活困窮者自立支援法などに基づいて作成しています。個別の事情によって結論が変わることがあるため、具体的なご判断の際は専門家にご相談ください。
「30代の息子に毎月仕送りを続けてきたが、自分たちの老後を考えるともう続けられない」「働ける年齢なのに、仕送りがあるから仕事を探そうとしない」。成人したお子さまへの仕送りについて、こうしたご相談をいただくことがあります。一方で、「急に止めたら子の生活が立ち行かなくなるのではないか」「止めると言ったら激しく反発されるのではないか」と、切り出せずにいる親御さんも少なくありません。
仕送りについては、家計の見直しや親子の話し合いの大切さを説く記事が多く見られます。その説明自体は誤りではありませんが、仕送りが法律上どのような性質のものか、止めた後にどのような請求を受けうるか、親名義の契約や保証が残っていないかといった点は、あまり触れられていません。こうした点を確認しないまま止めると、仕送りは止まったのに親の負担は残る、という結果になることがあります。
この記事では、成人したお子さまへの仕送りを止めたいと考えている親御さんに向けて、法律上の位置づけ、止める前の確認事項、止め方と伝え方を順に整理します。親の扶養義務の範囲そのものや、子を家から独立させる手順については、それぞれ別の記事で詳しく扱っています。
仕送りは法律上どう位置づけられるのか
仕送りを止めてよいのかを考える前提として、これまでの仕送りが法律上どのような性質のものだったのかを確認しておきます。
多くの仕送りは「贈与」として続いてきたもの
親が子に対価を求めずにお金を渡す行為は、法律上は贈与にあたるのが通常です。そして、書面によらない贈与は、まだ渡していない部分について各当事者が解除できるとされています(民法550条)。毎月その都度振り込んできたような仕送りであれば、将来の分まで約束していたとはいえない場合も多く、これから先の仕送りを止めること自体は、法律上は親の判断で可能なことが多いといえます。
ただし、同じ条文のただし書きにより、すでに渡し終えた分は取り戻せません。これまでの仕送りを返してほしいという話は、貸したお金であったことを示す借用書などがない限り、通りにくいのが実情です。
約束を書面にしていた場合
「大学院を修了するまで毎月10万円を送る」といった約束を書面にしていた場合は、書面による贈与として、一方的な解除は認められにくくなります。どの程度の書面であれば「書面」にあたるかは、文言ややり取りの経緯によって判断が分かれることがあり、メッセージアプリでの約束をどう評価するかも一律には決まりません。
また、「仕事を探すことを条件に仕送りを続ける」といった約束は、負担付贈与(民法553条)と評価されることがあります。この場合、子が条件を守っていないことが、仕送りを止める理由の一つになりえます。なお、定期的に給付する贈与は、贈与者か受贈者の死亡によって効力を失います(民法552条)。
扶養義務との関係
親子は互いに扶養する義務を負います(民法877条1項)。ただ、成人して自立が期待される子に対する扶養は、親が自分の生活を維持したうえで余力がある範囲で行えば足りると考えられています。扶養の程度や方法について話がまとまらないときは、家庭裁判所が当事者の資力その他一切の事情を考慮して定めます(同法879条)。扶養義務の範囲については、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく解説しています。
止める前に確認しておきたいこと
仕送りを止めると決める前に、子の状況とお金の流れを一度整理しておくと、止めた後の混乱を小さくできます。
子がどのような状況にあるか
同じ成人した子でも、在学中の学生、働ける状態にあるのに働いていない子、病気や障害のために働くことが難しい子とでは、考え方が変わります。在学中の子については、親の資力や学業の状況によって、成人後も一定の扶養が求められる場合があります。病気や障害がある子については、医療や福祉の支援につながっているかを先に確認し、仕送りを止める時期と、公的な支えに切り替わる時期をずらさないようにすることが大切です。
「仕送り」以外のお金の流れが残っていないか
毎月の振込を止めても、子の住まいの賃貸借契約で親が契約者や連帯保証人になっていれば、家賃が滞ったときの請求は親に来ます。携帯電話や車、クレジットカードの家族カードが親名義のままになっている場合も同じです。仕送りの停止とあわせて、次のような契約がないかを確認しておきます。
- 子の住まいの賃貸借契約で、親が契約者・連帯保証人になっていないか。
- 携帯電話・インターネット回線・サブスクリプションが親名義になっていないか。
- 車の所有者・使用者、任意保険の契約者が親になっていないか。
- 親のクレジットカードの家族カードや、親名義の口座のキャッシュカードを子が持っていないか。
それぞれの整理の仕方は、【親子問題】家を借りる際の保証人・保証会社の問題|無職の子のために親が引き受ける前に、【親子問題】子の携帯・車の名義を親が持っている場合のリスク、【親子問題】家計を分ける実務|口座・光熱費・保険をどう切るかで取り上げています。
子が使える公的な支えを把握しておく
仕送りを止めた後、子がすぐに収入を得られるとは限りません。生活困窮者自立支援法に基づく自立相談支援の窓口では、就労の相談や、条件を満たせば家賃相当額を支給する住居確保給付金の案内を受けられます。収入や資産で生活を維持できない場合は、生活保護の申請も選択肢になります。生活保護の申請があると親に扶養照会が届くことがありますが、親の生活状況を踏まえて援助が難しい旨を回答することは可能です。詳しくは【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方と【親子問題】生活保護の申請に同行するということ|扶養照会の実際をご覧ください。
止め方|一度に打ち切るか、段階的に減らすか
止め方には大きく分けて三つの形があります。どれが適しているかは、子の状況と親の家計の余力によって変わります。
| 止め方 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 期限を決めて段階的に減らす | 半年から1年程度かけて金額を減らし、最終月を決めておく | 働ける状態にあり、準備期間があれば自立が見込める場合 |
| 期限を予告して一度に止める | 数か月前に最終月を伝え、その月で終える | 親の家計に余力がなく、減額を続けられない場合 |
| まとまった額を渡して区切る | 一定額を一度に渡し、以後の仕送りはしないと決める | 転居や就職など、区切りとなる出来事がある場合 |
予告期間と最終月をはっきりさせる
いずれの形でも、「いつまで」「いくら」を具体的に決めて伝えることが、その後の話し合いを落ち着かせる助けになります。「そのうち止める」「様子を見て減らす」といった伝え方では、子が準備を始めるきっかけになりにくく、止めた時点で「聞いていない」という反発を招きやすくなります。
まとまった額を渡す場合の注意
扶養義務者の間で生活費や教育費として通常必要な範囲で渡すお金には、贈与税はかかりません(相続税法21条の3第1項2号)。ただし、数年分の生活費をまとめて渡し、それが預貯金などに回された場合は、非課税の扱いにならないとされています(相続税法基本通達21の3-5)。区切りとしてまとまった額を渡すことを考えている場合は、金額によっては税理士に課税関係を確認しておくと安心です。
送金の仕組みそのものを止める
自動送金の設定を解除する、家族カードを解約する、子が使っている親名義の口座を解約または名義変更するなど、送金の仕組みを止めておかないと、気持ちのうえでは止めたつもりでも実際にはお金が流れ続けることがあります。最終月を迎える前に、手続を済ませておくとよいでしょう。
伝え方|衝突を小さくするために
仕送りを止めることは、法律上は親の判断でできることが多い一方で、伝え方によって親子関係に与える影響は大きく変わります。
理由・時期・金額を具体的に伝える
理由は、親自身の生活や老後の資金といった、親の側の事情として伝えるほうが受け止められやすい傾向があります。子の生活ぶりを責める形で切り出すと、話が仕送りから親子の過去の不満へと広がりやすくなります。そのうえで、最終月と金額、利用できる相談窓口を添えておくと、子が次に何をすればよいかが見えやすくなります。
口頭だけでなく書面でも残す
話し合いの場で伝えた内容は、後から「言った」「言っていない」の食い違いが生じやすいものです。伝えた内容を手紙やメールなどの書面にして残しておくと、子にとっても見返せる情報になり、親にとっても伝えた事実の記録になります。書面には次のような事項を入れておくと整理しやすくなります。
- 仕送りを終える理由(親の生活上の事情)。
- 最終の送金月と、それまでの金額。
- 親名義の契約をいつまでにどう整理するか。
- 利用できる公的な相談窓口。
- 今後の連絡の取り方。
反発が強い場合は安全を先に考える
仕送りの停止を伝えたことをきっかけに、暴言や暴力、物を壊すといった行動が出ることもあります。このような場合は、話し合いを続けることよりも、親自身の安全を確保することを優先してください。また、自分の命に関わるような言葉が出たときは、一人で抱え込まず、警察や医療機関、精神保健福祉センターなどに相談することが考えられます。対応の考え方は、【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録や【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで解説しています。これまでの送金や要求のやり取りの記録の意味については、【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つかもあわせてご覧ください。
弁護士が間に入るという選択
親子の間では、どれだけ言葉を選んでも感情がぶつかり、話が進まないことがあります。そのような場合、弁護士が親の代理人として子への通知や話し合いを担うことで、親が直接やり取りする負担を減らせます。
窓口を代えることで変わること
弁護士が窓口になると、仕送りの終了時期や親名義の契約の整理を、親子の感情的なやり取りから切り離して進めやすくなります。子からの連絡や要求を弁護士が受けることで、親が一人で対応し続ける状態から抜け出すきっかけになります。詳しくは【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択をご覧ください。
仕送りを止めた後の子の生活も視野に入れる
仕送りを止めることは、子を突き放すことと同じではありません。当事務所では、弁護士が親の側に立って子と向き合う一方、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、住まい探しや仕事探し、公的支援の申請、日々の金銭管理といった子の生活の立て直しを支える形で取り組んでいます。実際の進め方は【親子問題】弁護士とカウンセラーはどう介入するのか|4つの事例で見るサービスの実際で、ご相談から自立までの流れは【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問で紹介しています。
よくあるご質問
仕送りを止めたら、子から扶養料を請求されることはありますか。
子が家庭裁判所に扶養を求める調停や審判を申し立てることは制度上可能です。その場合、家庭裁判所は子の必要とする生活費、子自身の資力、親の収入や生活状況などを考慮して判断します(民法879条)。働ける状態にある成人した子について、親の生活を切り詰めてまで扶養するよう求められることは通常は考えにくいものの、子が病気や障害のために働けない場合などは、一定の扶養が認められることもあります。
これまで送ったお金を返してもらうことはできますか。
贈与として渡したお金は、すでに渡し終えた部分については解除できないため、返還を求めるのは難しいのが通常です(民法550条ただし書)。ただし、貸したお金であることを示す借用書やメッセージがある場合は、貸金として返済を求められる可能性があります。
仕送りを止めたら「実家に戻る」と言われた場合はどうすればよいですか。
実家に住まわせるかどうかは、仕送りとは別の問題として考える必要があります。いったん同居を再開すると、後から退去を求める際に話し合いや手続が必要になることがあるため、受け入れる前に条件や期間を決めておくことが大切です。考え方は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで解説しています。
まとめ
- 書面によらない仕送りは贈与にあたり、まだ渡していない分は解除できるため、これからの仕送りを止めること自体は親の判断で可能なことが多い(民法550条)。
- すでに渡した分は原則として取り戻せず、書面で約束していた場合や条件付きの約束であった場合は別の検討が必要になる(民法550条ただし書・552条・553条)。
- 成人した子への扶養は、親が自分の生活を維持したうえでの余力の範囲で足りると考えられ、争いがあれば家庭裁判所が事情を考慮して定める(民法877条1項・879条)。
- 仕送りを止める前に、賃貸借の保証や携帯・車・家族カードなど、親名義の契約が残っていないかを確認する。
- 段階的に減らすか、予告して一度に止めるかを決め、最終月と金額を具体的に伝える。
- まとまった額を渡して区切る場合は、贈与税の扱いを確認しておく(相続税法21条の3第1項2号、相続税法基本通達21の3-5)。
- 伝えた内容は書面でも残し、反発が強い場合は親自身の安全を優先する。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、成人したお子さまへの仕送りや金銭の要求、家庭内暴力、ひきこもりなどに悩む親御さんからのご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親の代理人として子と向き合い、自立支援カウンセラーとチームを組んで、親と子それぞれの生活の立て直しに取り組んでいます。遠方にお住まいの方からのご相談にも対応しています。
仕送りを止めたいが切り出し方が分からない方、止めると伝えたものの話し合いが進まない方は、お一人で抱え込まず、まずはご相談ください。


