【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えること
本記事は2026年9月時点の法令に基づいて作成しています。携帯電話の名義変更や解約の具体的な手続は通信会社によって異なるため、実際の手続は各社にご確認ください。
「息子が使っているスマホの契約が、まだ私の名前のままになっている」「娘が乗っている車の名義が私で、事故を起こしたらどうなるのか心配だ」。成人したお子さんとの関係に悩む親御さんからのご相談では、お金の要求や暴力の問題と並んで、こうした「名義」の悩みが出てくることがあります。
子が学生のうちに親名義で契約し、そのまま年月が経ったという経緯は珍しくありません。家族の間で名義を貸すこと自体はよく見られることで、それだけで問題になるわけではありません。ただ、子の生活が親の名義の上に成り立っている状態が長く続くと、滞納や事故、犯罪への悪用といった場面で、責任や連絡が名義人である親に向かうことになります。
この記事では、携帯電話と自動車について、名義人である親にどのようなリスクがあるのか、名義を整理するときに何が必要になるのかを解説します。子を養う義務がどこまであるかという扶養の問題や、子が親名義で勝手に契約した場合の扱いは、別の記事に譲ります。
「名義を持っている」とはどういう立場か
携帯電話は「契約者」、車は「所有者」と「使用者」
携帯電話の名義とは、通信会社との契約の当事者(契約者)が誰かということです。料金の支払義務や、解約・名義変更などの手続を行う権限は、原則として契約者にあります。子が「利用者」として登録されていても、契約上の責任を負うのは契約者である親です。
自動車の場合、車検証には「所有者」と「使用者」の2つの欄があります。親が代金を払って親名義にしている場合は所有者・使用者とも親、ローンで購入した場合は所有者が販売会社や信販会社で使用者が購入した人、という形が一般的です。どちらの欄に親の名前があるかによって、後で見るように届く通知や問われる責任が変わります。
名義人と実際に使う人が違うこと自体は、直ちに違法ではない
親名義の携帯電話を子に持たせること自体は、法律上認められています。いわゆる携帯電話不正利用防止法は、契約者が端末を他人に譲る場合に事前に通信会社の承諾を得ることを求めていますが、親族や生計を同じくする人に譲る場合はこの承諾が不要とされています(携帯電話不正利用防止法7条1項)。
自動車も、親が購入して家族が運転するのはよくある形です。一方で、実際には子が代金を払い、子のものとして使っているのに登録だけが親になっている、あるいは子に譲ったのに名義変更をしていないという状態は、実態と登録がずれた状態です。道路運送車両法は、所有者が変わったときは15日以内に移転登録を申請するよう定めています(道路運送車両法13条1項)。名義と実態がずれた期間が長くなるほど、後で整理するときの手間が増えるという点は意識しておきたいところです。
携帯電話の名義を親が持っている場合のリスク
料金を支払う義務は名義人にある
通信料金や端末代金の支払義務を負うのは契約者です。子が使った分であっても、通信会社から見れば請求先は親になります。有料サービスやキャリア決済などで想定以上の請求が来た場合も、まず名義人である親が対応を求められます。
支払が滞ると、各社の約款に沿って利用停止や契約解除へと進みます。さらに、契約解除後も料金の不払いが残っていると、その情報が携帯電話会社の間で共有され、新たな契約の審査に使われる仕組みがあります(電気通信事業者協会などによる不払者情報の交換)。端末代金を分割払いにしている場合は、割賦契約として信用情報機関に記録されることもあります。つまり、子の使い方次第で、親自身の携帯電話の契約や信用情報に影響が出るおそれがあるということです。
犯罪に使われた疑いがあるとき、確認を求められるのは名義人
子が特殊詐欺などのいわゆる闇バイトに関わり、親名義の携帯電話が連絡に使われていたという場合もあります。警察署長は、詐欺罪や恐喝罪などに携帯電話が使われていると認めるに足りる相当な理由があるとき、通信会社に対して契約者の確認を求めることができます(同法8条1項)。契約者がこの確認に応じない場合、通信会社は通信サービスの提供を拒むことができます(同法11条4号)。
名義人であることだけで、親が直ちに罪に問われるわけではありません。ただ、名義人として事情を聞かれたり、回線が止められたりするのは親の側です。子の交友関係や行動に不安がある場合は、名義をそのままにしておくことの意味を一度考えておく必要があります。
子が携帯電話を第三者に渡した場合
親名義の携帯電話を、子がさらに知人やネット上で知り合った相手に渡してしまうこともあります。この場合、渡した子は「自分が契約者となっていない携帯電話を他人に譲渡した」として、処罰の対象となる可能性があります(同法21条1項)。この規定は、代金を受け取ったかどうかを要件としていません。
「頼まれて渡しただけ」という認識でも、法律上の評価は軽くならないことがあります。名義を貸す・渡す行為の評価については「口座を売っただけ」「名義を貸しただけ」は軽いのかで解説しています。
車の名義を親が持っている場合のリスク
人身事故では「運行供用者」として責任を問われることがある
自動車損害賠償保障法は、「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)に、人身事故の損害を賠償する責任を負わせています(自動車損害賠償保障法3条)。運転していない名義人であっても、車の運行を事実上支配・管理すべき立場にあると評価されれば、運転した子と並んで責任を問われることがあります。
最高裁は、父親と同居して農業に従事していた子(事故当時20歳)が、父親の了承のもとで父親名義にして購入し、自宅の庭に保管していた車で事故を起こした事案で、父親を運行供用者と認めました(最高裁昭和50年11月28日判決)。また、父親が車を買い与えて保険料などの経費を負担し、子が父親に頼って生活していた事案でも、父親の責任が認められています(最高裁昭和49年7月16日判決)。
反対に、義理の親から譲り受けた原付自転車で子が事故を起こした事案では、両者が同居しておらず、名義人が税金や維持費を負担していなかったことなどから、名義人の責任が否定されました(大阪地裁平成25年7月16日判決)。裁判所は、名義人と運転者の関係、同居の有無、費用の負担、保管場所、保険の契約関係などを総合して判断しています。子が成人していても、同居し、車の費用を親が負担している状態は、親の責任が認められる方向に働きやすいと考えておいたほうがよいでしょう。
なお、運行供用者責任は人身の損害についての責任です。物損については、民法の不法行為の問題として別に検討されます。
税金や駐車違反の通知は名義人に届く
自動車税は、毎年4月1日時点の所有者に課されます(ローンで販売会社などが所有権を留保している場合は買主)。子が使っている車でも、所有者が親であれば納税通知書は親に届きます。
駐車違反も同様です。運転者が出頭して反則金を納めない場合、車両の使用者に放置違反金の納付が命じられます(道路交通法51条の4第4項)。運転していたのが子であっても、使用者である親に命令が向かうことになり、納めなければ督促や滞納処分、車検を受ける際の支障につながります。
任意保険の内容が実態と合っているか
任意保険は、運転する人の範囲や年齢条件を定めて契約するのが一般的です。子が実際に運転しているのに、運転者の範囲に子が含まれていない、年齢条件が合っていないといった場合、事故の際に保険金が支払われないことがあります。保険で賄えない部分は、運転した子や、場合によっては名義人である親が負担することになりかねません。名義を当面そのままにする場合でも、保険の内容が実態に合っているかは確認しておく価値があります。
携帯と車のリスクを一覧で整理する
名義人である親に向かう可能性があるものを、場面ごとにまとめると次のとおりです。
| 場面 | 携帯電話 | 自動車 |
|---|---|---|
| 日常の支払 | 通信料金・端末代金の請求は契約者へ | 自動車税の納税通知は所有者へ(所有権留保の場合は買主) |
| 滞納・未納 | 利用停止・契約解除のうえ、不払い情報が事業者間で共有されることがある | 放置違反金の督促・滞納処分、車検時の支障 |
| 事故・犯罪 | 詐欺などへの利用が疑われると、契約者の確認を求められる | 人身事故で運行供用者として賠償責任を問われることがある |
| 名義の整理 | 名義変更には子の本人確認が必要。解約は契約者が手続できる | 移転登録には新所有者となる子の書類や車庫証明などが必要 |
名義を子に移す・解約するときの考え方
携帯電話は「名義変更」か「解約」か
子が引き続き同じ電話番号を使うなら、子への名義変更(契約の承継)が選択肢になります。名義変更の際には、新たに契約者となる子の本人確認が行われるため(同法5条1項)、子が本人確認書類を用意して手続に応じる必要があります。親子の同席が必要かどうかなど、具体的な手続は通信会社によって異なるため、事前に確認しておくと進めやすくなります。
子が名義変更に応じない場合、契約者である親が解約するという選択肢もあります。ただし、携帯電話は子にとって、仕事探しや行政とのやり取りに欠かせない連絡手段でもあります。連絡手段が途絶えると、自立に向けた動きがかえって止まってしまうこともあるため、子が自分名義で新たに契約する段取りと組み合わせて考えるのが現実的です。
車は移転登録に子の協力が要る
車の名義を子に移すには、運輸支局で移転登録の手続を行います。新しい所有者となる子の側でも書類をそろえ、保管場所の証明(車庫証明)を取るなどの準備が必要です。ローンが残っていて販売会社などが所有者になっている場合は、まず所有権留保の扱いを確認することになります。軽自動車の場合は、軽自動車検査協会での手続となります。
子が手続に協力しないからといって、親が車を無断で持ち出すといった方法をとると、実際に誰の車なのかによってはトラブルを大きくするおそれがあります。自分の力で解決しようとすることの限界については、【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界も参考にしてください。協力が得られないときは、弁護士を窓口にした書面での申入れや、裁判所の手続を通じて登録手続を求める方法を検討することになります。
「払うのをやめる」だけでは名義人の不払いになる
成人した子の生活費を親がどこまで負担すべきかという問題と、名義人としての支払義務は、別の問題です。親が成人した子の携帯電話代を払い続ける法的な義務を負うとは限りませんが(扶養義務の範囲は【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで解説しています)、名義が親のままで支払だけを止めると、それは親自身の不払いとして扱われます。負担を終えたいときは、支払を止める前に名義を整理するという順序が、親の側を守ることにつながります。
家庭内に緊張がある場合の進め方
名義の整理が「取り上げ」と受け止められることがある
携帯電話や車は、子にとって日常生活の基盤です。親が名義を整理しようとすることを、子が「生活の手段を取り上げられる」と受け止め、強く反発する場合もあります。これまでに暴言や暴力があった家庭では、話を切り出す時期や方法、親自身の安全の確保を先に考えておく必要があります。【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録もあわせてご覧ください。
名義の整理は子の自立の段取りの一部として
名義を子に移すことは、子が自分の名前で契約し、自分の収入で支払っていくことを意味します。言い換えれば、名義の整理は子の自立と切り離して進めることが難しい課題です。
当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子との連絡窓口を担い、提携する民間の自立支援カウンセラーが、子の仕事探しや住まい探し、日々の金銭管理などを支える形で取り組んでいます。名義の問題も、子の生活の見通しと並べて段取りを組むことで、親子双方の負担を抑えながら進めやすくなります。窓口を弁護士に代える意味については【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で、この取り組みの全体像については【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応で紹介しています。
よくあるご質問
子はもう成人しています。それでも車の事故で親が責任を問われることはありますか。
可能性はあります。未成年の子に対する監督責任とは別に、名義人である親が車の運行を事実上支配・管理すべき立場にあると評価されれば、運行供用者として責任を問われることがあります(自動車損害賠償保障法3条)。子の年齢よりも、同居の有無や費用の負担、車の保管場所といった事情が判断に影響します。
子が使っている携帯電話を、名義人である親が解約してもよいのでしょうか。
契約者は親なので、手続として解約することは一般に可能です。ただ、子の連絡手段が突然なくなると、生活や仕事探しに支障が出るうえ、家庭内の緊張を高めることもあります。事前に伝えたうえで、子が自分名義で契約できるまでの期間を設けるなど、段階を踏むことが望ましいでしょう。
名義変更の話をしても、子が応じてくれません。どうすればよいですか。
親子の間で直接話すと感情的になりやすく、話が進まないことは珍しくありません。弁護士が代理人として書面で申し入れると、子にとっても家族の口論ではなく手続の話として受け止めやすくなる場合があります。ご相談の際は、契約書や車検証、支払の記録など、名義と費用の負担が分かる資料をお持ちいただくと話が早く進みます。【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報も参考にしてください。
まとめ
- 親名義の携帯電話を家族に持たせること自体は認められているが、料金の支払義務は契約者である親にある(携帯電話不正利用防止法7条1項)。
- 滞納が続き、契約解除後も不払いが残ると、事業者間で情報が共有され、親自身の契約に影響が出ることがある。
- 詐欺などへの利用が疑われると、名義人である親が契約者の確認を求められ、応じなければ回線が止められることがある(同法8条1項・11条4号)。
- 子が親名義の携帯電話を他人に渡すと、子自身が処罰の対象となる可能性がある(同法21条1項)。
- 車の名義人である親は、同居や費用負担などの事情によっては、人身事故の運行供用者として責任を問われることがある(自動車損害賠償保障法3条)。
- 自動車税の納税通知や放置違反金の納付命令は、所有者・使用者である親に届く(道路交通法51条の4第4項)。
- 負担を終えたいときは、支払を止める前に、名義変更(携帯電話不正利用防止法5条1項)や移転登録(道路運送車両法13条1項)で名義を整理する。
お子さんの携帯・車の名義にお悩みの親御さんへ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、家庭内暴力やひきこもり、金銭の要求など、成人したお子さんとの関係に悩む親御さんからのご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士若井亮は5年以上にわたり、北海道から沖縄まで全国の親子の問題に取り組んできました。遠方の方のご相談については【親子問題】遠方でも依頼できるのか|全国対応の実際をご覧ください。
名義の整理は、お子さんの生活の立て直しと一体の問題です。「名義をそのままにしておいてよいのか分からない」「話を切り出すと関係が悪化しそうで動けない」という段階でも、状況を整理するところからご一緒できますので、お気軽にご相談ください。


