【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断
本記事は、2026年10月時点の法令をもとに、主に成人した子がお酒を飲んで暴れる場面を想定して解説しています。アルコール依存症にあたるかどうかの判断や治療の方針は、医師などの専門家にご確認ください。
普段は落ち着いているのに、お酒が入ると大声を出す、物を壊す、家族に手を上げる。こうしたお悩みは、子が成人していても、親御さんがなかなか外に相談できないまま長く続いていることがあります。「飲まなければ普通の子だから」と考え、酔いがさめるのを待つ対応を繰り返しているご家庭も少なくありません。
この記事では、子が飲酒して暴れたときにその場でできること、警察が関わった場合の流れ、しらふのときに家族が準備しておけること、飲酒の問題として相談できる窓口、そして法的に考えられる対応を順に整理します。
酔って暴れても、行為そのものは問題になる
お酒の影響があっても、家族を殴る、物を壊す、「殺す」などと脅すといった行為は、暴行罪・傷害罪・器物損壊罪・脅迫罪などにあたり得ます。親子の間であっても、こうした罪の成立が否定されるわけではありません。親子間の事件の扱いについては、【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲で解説しています。
刑法39条は、心神喪失者の行為は罰しない、心神耗弱者の行為は刑を減軽すると定めていますが、お酒に酔っていたことだけで直ちにこれにあたるわけではありません。責任能力が争われるのは限られた場面で、通常の酔いの範囲であれば、行為の責任は本人が負うと考えられています。
「酔っていたのだから仕方がない」と家族が受け止め続けると、本人も同じように考えやすくなります。酔っているかどうかにかかわらず、暴力や物を壊す行為は家庭の中でも許されないということを、まず家族の側で確認しておくことが出発点になります。
飲んで暴れている最中にできること
言い合わず、まず距離を取る
酔っている相手を理屈で説得しようとしても話が通じにくく、かえって興奮させてしまうことがあります。その場で飲酒をとがめたり、お酒を取り上げようとしたりすると、もみ合いになるおそれもあります。別の部屋に移る、家の外に出るなど、物理的な距離を取ることを優先してください。
酔ったときに暴れることが繰り返されている場合は、飲み始めた段階で家を離れられるよう、財布・携帯電話・鍵・常用している薬などをまとめておくと動きやすくなります。
110番を考える場面
刃物を持ち出した、首を絞められた、けがをした、暴力が止まらないといった場面では、ためらわず110番通報してください。通報の際は、住所、子がお酒を飲んでいること、暴力の内容、刃物の有無、けが人の有無を伝えると、警察も状況をつかみやすくなります。
酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律(以下「酩酊者規制法」といいます)6条は、酔った人が住居内で同居の親族に暴行しようとしているなど、生命・身体・財産に危害を加えようとしている場合に、警察官が必要に応じて住居に立ち入ることができると定めています。家の中の出来事であっても、警察に対応を求めてよい場面があるということです。
通報の判断に迷ったときは、【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかもあわせてご覧ください。夜間で緊急性がはっきりしない場合の窓口は、【親子問題】夜間に子が暴れたときの相談先|時間帯別の窓口で整理しています。
警察が酔った子を保護したときの流れ
酔って暴れている人について、警察官は法律に基づいて一時的に保護することがあります。主な根拠は次のとおりです。
| 根拠 | 主な内容 |
|---|---|
| 警察官職務執行法3条1項 | 泥酔のため自分や他人の生命・身体・財産に危害を及ぼすおそれがあり、応急の救護が必要と認められる人を、警察署などの適当な場所で保護する |
| 酩酊者規制法3条 | 公共の場所や乗物で粗野・乱暴な言動をしている酔った人を保護し、親族などに知らせて引取りの手配をする |
| 酩酊者規制法7条 | 保護した人にアルコールの慢性中毒またはその疑いがあると認めたときは、最寄りの保健所長に通報する |
| 酩酊者規制法8条 | 通報を受けた保健所長は、必要に応じて医師の診察を受けるようすすめ、医療施設を紹介することができる |
保護は逮捕とは異なり、酔いをさますなどの救護を目的とした措置です。保護の後、家族に引取りを求める連絡が入ることがあります。引き取るかどうか、引き取った後にどう接するかは、家族の安全を踏まえて考えてよい事柄です。詳しくは【親子問題】子が警察に保護された|引き取りを求められたときで解説しています。
一方で、暴行や傷害の疑いがある場合は、保護ではなく事件として扱われ、状況によっては逮捕に至ることもあります。
7条・8条の仕組みからも分かるとおり、法律は酔って暴れる問題を、取締りだけでなく保健・医療の問題としても位置づけています。警察への相談と並行して、保健所などの窓口ともつながっておくことが大切です。
しらふのときに家族が準備しておくこと
お酒の問題について話し合う、記録を整える、生活の決まりを見直すといったことは、子がお酒を飲んでいない落ち着いた時間に行うのが基本です。家族として準備しておきたいことは次のとおりです。
- 暴れた日時、飲んでいたお酒の量や種類、言動、壊れた物、けがの内容を記録しておくこと。
- けがをしたときは早めに受診し、診断書を取っておくこと。
- 壊れた物や部屋の様子を写真に残しておくこと。
- 警察や保健所に相談した日付と窓口を控えておくこと。
- 避難先と、すぐに持ち出す物を決めておくこと。
- お酒の買い置きや、お酒代の負担を続けるかどうかを家族で話し合っておくこと。
記録は、警察や医療機関に状況を伝えるときにも、後に法的な手続をとるときにも役立ちます。記録や診断書については、【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録と【親子問題】診断書はいつ取るべきか|傷害の立証で詳しく説明しています。
家族が「後始末」を引き受け続けていないか
壊された物を黙って片付ける、二日酔いで仕事に行けない子の代わりに勤務先へ欠勤の連絡を入れる、飲酒が原因の借金を親が肩代わりする。家族としては事を大きくしたくないという思いからの対応ですが、こうした後始末が続くと、本人が飲酒による問題の重さを実感しにくくなるといわれています。
すぐにすべてをやめる必要はありませんが、家族が何を引き受けているのかを書き出してみると、見直せる部分が見えてくることがあります。お酒代などのお金を求められる場合の考え方は、【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけが参考になります。
子が20歳未満の場合
20歳未満の者の飲酒は法律で禁止されており、未成年の子の親権者には、飲酒を知ったときに制止することが求められています。子が18歳・19歳で成年に達していても、飲酒が禁止されている点は変わりません。お酒を家に置かない、入手の経路を確かめるといった対応も、早い段階で検討しておくとよいでしょう。
飲酒の問題として相談できる窓口
お酒が入ったときだけ暴れるという場合、その背景に飲酒習慣の問題があることも考えられます。依存症かどうかを家族が見極める必要はなく、本人が相談を拒んでいても、家族だけで相談できる窓口があります。
| 相談先 | 主に期待できること |
|---|---|
| 保健所・精神保健福祉センター | 家族からの飲酒問題の相談、医療機関や家族向けプログラムの紹介 |
| 依存症の専門医療機関 | 診察・治療、家族相談(対応は医療機関によって異なります) |
| 自助グループ・家族会 | 同じ悩みを持つ家族との情報交換、家族自身の支え |
| 警察(緊急時は110番、緊急でなければ#9110) | その場の制止、暴力についての相談、相談記録の作成 |
| 弁護士 | 暴力や金銭要求への法的な対応、子との交渉の窓口 |
アルコール健康障害対策基本法のもとで、国や自治体は、精神保健福祉センターや保健所などで本人と家族の相談に応じる体制づくりを進めています。お住まいの地域の窓口は、都道府県や区市町村のホームページで確認できます。
飲酒に加えて、強い気分の落ち込みや、現実にないものが見えるといった様子がある場合は、精神科の受診を検討することも考えられます。医療につなぐ判断については【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で、入院の同意を求められた場面については【親子問題】医療保護入院の同意を求められた|家族が同意することの意味で解説しています。
暴力が続く場合に法的に考えられること
飲酒と暴力が繰り返され、家族の生活や安全が保てなくなっている場合には、次のような対応が考えられます。
- 被害届の提出や、警察への継続的な相談。
- けがの治療費や壊れた物の修理費などの損害賠償の請求。
- お酒代を含む金銭要求への対応と、生活費の負担の範囲の見直し。
- 親の一時的な避難や、子の独立に向けた住まいの分離。
どの対応を選ぶかによって、家族関係や子の生活に及ぶ影響は変わります。被害届を出すかどうかは、出した後の見通しも踏まえて考えることが大切です。一時的に親が家を離れる選択については、【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択をご覧ください。
なお、子が親の家に同居している場合に、親が鍵を替えて締め出すといった自力での対応をとると、別の法的な問題が生じることがあります。住まいの分離は、話し合いや手続を通じて進めるのが基本です。
弁護士が親の代理人として関わる場合
当事務所では、家庭内暴力や金銭の無心に悩む親御さんの代理人として、子との交渉の窓口を担う取り組みをしています。親が直接は言いにくいことを弁護士から伝え、暴力や金銭要求から親を守る役割です。
ただ、子を一方的に遠ざけるだけでは、生活の立て直しにはつながりにくいと考えています。そのため、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、弁護士は親の保護を、カウンセラーは子の住まい探しや仕事探し、日々の金銭管理などの生活面の支援を担います。必要に応じてご自宅を訪問して子と話をすることもあり、暴力の傾向がある場合などは警察と連携しながら、安全に配慮して進めます。
飲酒の問題がある場合は、医療機関や保健所などの支援と並行して進めることが前提になります。弁護士の関わりは治療の代わりにはなりませんが、家族が安全を確保しながら医療や支援につないでいくための環境づくりを担うことはできます。サービスの内容は、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご案内しています。
よくあるご質問
翌日に「酔っていて覚えていない」と言われたら、どう受け止めればいいですか
記憶がないと言われても、暴れた事実がなくなるわけではありません。責め立てるのではなく、記録をもとに何があったのかを落ち着いて伝えることが考えられます。暴れた翌朝の動き方は、【親子問題】子が夜中に暴れた翌朝|親がその日のうちにすることで整理しています。
成人した子のお酒代を出すのをやめてもいいですか
成人した子の飲酒の費用を親が負担しなければならない法的な義務は、一般的には考えにくいところです。もっとも、急に打ち切ると反発を招くこともあるため、伝える時期や方法、家族の避難先などをあらかじめ考えておくと安心です。
本人が治療や相談を拒んでいる場合、家族だけで動いても意味はありますか
保健所や精神保健福祉センターでは、家族だけの相談にも応じています。家族が先に相談先とつながり、接し方を学んだり記録を整えたりしておくことで、本人が相談に向かう機会をつかみやすくなることがあります。
暴れる前に、飲み方や様子の変化で気づけることはありますか
飲む量が増える、帰宅時間が遅くなる、言葉が荒くなるなど、前触れに気づける場合もあります。そうした段階での備えは、【親子問題】子の暴力が始まる前触れに気づいたとき、何をしておけばいい?で解説しています。
お酒が入ると暴れる子のことでお悩みの方へ
お酒が入ったときだけ暴れる子のことは、「飲まなければ普通だから」と家族の中で抱え込まれやすい問題です。けがや危険を感じる場面が出てきたら、警察、保健所、医療機関、弁護士といった役割の異なる窓口を組み合わせて対応していくことが、家族の安全を守る一歩になります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


