【親子問題】子がきょうだいの家にまで押しかける|親以外の家族を守る
本記事は、2026年10月時点の民法・借地借家法の規定と、公表されている裁判例の考え方をもとに一般的な整理をしたものです。実際の結論は、契約書の条項や個別の事情によって変わります。
賃貸住宅で暮らすなかで、成人した子が大声を出す、壁やドアを壊す、近隣の住民と言い争いになる、といったことが続くと、管理会社や大家から「このままでは契約を続けられない」「退去してほしい」と告げられることがあります。子の問題に向き合っている最中に、住まいまで失うのではないかという不安を抱える親御さんは少なくありません。
大家から退去を求められたからといって、それだけで直ちに部屋を明け渡さなければならないわけではありません。一方で、同居する子の行為は契約者である親の義務違反として扱われることがあり、対応を誤ると契約の解除や損害賠償の請求につながるおそれもあります。この記事では、誰が契約者なのかによって変わる親の立場と、退去を求められた段階で整理しておきたいことを解説します。
退去を求められたら、まず確かめたい3つのこと
大家や管理会社からの連絡を受けると、すぐに謝罪や退去の約束をしてしまいがちです。その前に、次の3点を手元の書類で確かめておくと、その後の対応を組み立てやすくなります。
誰が契約者で、誰が住んでいるか
親が契約者で子と同居しているのか、親名義の部屋に子だけが住んでいるのか、子が自分で契約して親が連帯保証人になっているのかによって、親が負う責任の範囲は大きく異なります。賃貸借契約書と、入居時に提出した入居者の届出を確認しておきましょう。
求められているのは「お願い」か「解除の通知」か
口頭や貼り紙で「出ていってほしい」と言われた段階と、「○日以内に改善されなければ契約を解除する」「本書面をもって契約を解除する」という書面が届いた段階とでは、意味が違います。書面が届いた場合は、日付、差出人、求められている内容、期限を控えておくことが大切です。
契約書に何が書かれているか
多くの契約書には、他の入居者や近隣に迷惑をかける行為を禁止する条項や、違反があった場合の解除の条項が置かれています。どの条項が根拠として挙げられているのかを確かめておくと、大家側の主張を整理しやすくなります。
子の行為でも、契約者の責任になる理由
賃借人には、契約や建物の性質によって定まった用法に従って部屋を使う義務(民法616条が準用する594条1項)と、借りた部屋を善良な管理者の注意をもって保管する義務(民法400条)があります。迷惑行為の禁止条項がなくても、近隣に迷惑を及ぼさないことは、この義務の内容に含まれると考えられています。
問題になるのは、暴れているのが契約者本人ではなく同居する子である場合です。賃貸の実務では、同居する家族は賃借人の「履行補助者」と位置づけられ、その家族の迷惑行為を賃借人が放置していることが、賃借人自身の義務違反と評価されることがあります。そのため、「暴れているのは子で、自分ではない」という説明だけでは、大家への応答としては足りないことが多いといえます。
退去まで認められるかの分かれ目
賃貸借は継続的な契約であるため、裁判所は、義務違反があってもそれだけで解除を認めるのではなく、貸主と借主の信頼関係が壊れたといえる程度に至っているかを見て判断する傾向にあります(いわゆる信頼関係破壊の理論)。迷惑行為が問題となる場面では、主に次のような事情が考慮されます。
- 行為の内容、頻度、時間帯、続いている期間。
- 建物の損傷の有無や程度。
- 大家や管理会社から注意や警告を受けた後に、改善が見られたかどうか。
- 他の入居者からの苦情や、迷惑行為を理由とした退去が出ているかどうか。
- 契約書に迷惑行為を禁止する条項があるかどうか。
裁判例の中には、共同住宅の入居者がゴミを階下に捨てる、近所の子どもに罵声を浴びせる、廊下に私物を置いて通行を妨げるといった行為を2年ほど断続的に続け、階下や隣室の住民が退去した事案で、信頼関係の破壊を認めたものがあります。反対に、一度大きな物音がした、口論が聞こえたという程度で、ただちに解除が認められる場面は限られます。
見方を変えると、注意を受けた後に親がどのような手を打ったかが、結論を左右する事情になりうるということです。注意を受けても何も変わらない状態が続くと、親の側に不利な事情として積み重なっていくおそれがあります。
大家ができること・できないこと
大家が取りうる手段は、注意や警告、改善の要求、損害賠償の請求、契約の解除の通知、そして明渡しを求める訴訟です。訴訟で明渡しを命じる判決が出て、それでも退去しない場合に、強制執行の手続へ進むという流れになります。
これに対し、大家が裁判所の手続を経ずに鍵を交換する、荷物を運び出す、電気や水道を止めるといった方法で退去を迫ることは、法律が認めていない「自力救済」にあたるおそれがあります。退去を求められている側であっても、こうした対応を受けた場合には、記録を残したうえで早めに相談することをおすすめします。
契約の形ごとに異なる親の立場
| 契約の形 | 親の立場 | 主な論点 |
|---|---|---|
| 親が契約者で、子と同居している | 賃借人本人 | 子の行為が親の義務違反とされるか、住み続けるための改善策 |
| 親名義の部屋に、子だけが住んでいる | 賃借人本人 | 子に退去してもらう段取り、契約を終える時期、原状回復の負担 |
| 子が契約者で、親が連帯保証人 | 連帯保証人 | 退去させる義務はないが、未払いの賃料や修繕費を保証する立場 |
親が契約者で、子と同居している場合
親自身が退去を求められている当事者です。住み続けたいのであれば、子の行為をどう改善するのかを具体的に示すことが中心になります。状況によっては、子に別の住まいで暮らしてもらう、あるいは親が一時的に避難するといった選択も視野に入ります。
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親名義の部屋に、子だけが住んでいる場合
契約上の借主は親なので、大家との関係では親が対応する立場にあります。親が契約を終わらせる場合でも、実際に住んでいる子が退去しなければ明渡しは完了しないため、子との話し合いの進め方と、解約の時期の調整を並行して考える必要があります。
【親子問題】子が親名義で借りた部屋を解約したい|契約者としてできることと退去までの順序
子が契約者で、親が連帯保証人の場合
連帯保証人は、子に代わって部屋を明け渡す義務を負うわけではありません。ただし、未払いの賃料や、子が壊した部分の修繕費などの金銭の支払いを求められることがあります。2020年4月1日以降に結ばれた契約で個人が保証人になっている場合は、保証の上限額(極度額)が定められていなければ保証は無効とされるため(民法465条の2)、契約書の記載を確認しておきましょう。
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壊した部分の修繕費は誰が負担するのか
賃借人は、退去するときに、通常の使用による傷みや経年による劣化を除き、借りた部屋の損傷を元に戻す義務を負います(民法621条)。子が壁やドアを壊した損傷は通常の傷みとはいえないため、契約者である親が修繕費の負担を求められることがあります。親が負担した場合に、その分を子に請求できるかは、別途検討することになります。
また、壁やドアは大家の所有物であるため、大家の側が器物損壊として被害届を検討する場合もあります。修繕の範囲や金額について話し合い、合意できた内容を書面にしておくことが、後の行き違いを防ぐことにつながります。
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退去を求められた段階で、親がしておきたいこと
大家・管理会社とのやり取りを記録に残す
いつ、誰から、どのような内容の連絡があったのかを、日付とともに記録しておきます。電話で伝えられた内容も、メモに残しておくと後で役立ちます。
改善の取り組みを具体的に伝える
「気をつけます」と伝えるだけでなく、警察や支援機関への相談、子との住まいを分ける準備、壊れた箇所の修繕など、実際に進めていることを具体的に伝えることが大切です。取り組みの経過は、信頼関係が保たれているかを判断する事情にもなりえます。
安全の確保を後回しにしない
退去の話し合いを優先するあまり、親自身や近隣の方の安全が後回しになってしまうことは避けたいところです。身の危険を感じる場面では、ためらわずに警察へ通報してください。警察への相談記録は、大家に対して状況を説明する際の裏付けにもなります。
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退去に応じる場合は、条件を書面で決める
退去を受け入れる場合でも、条件を決めないまま合意書に署名することは避けたほうがよいでしょう。少なくとも、次の点は書面で確認しておくことをおすすめします。
- 退去の日と、鍵の返し方。
- 原状回復の範囲と費用の負担。
- 敷金の精算方法。
- 未払いの賃料や違約金の扱い。
- 合意した内容以外に互いに請求をしないこと。
弁護士に相談すると変わること
弁護士が代理人になると、大家や管理会社とのやり取りの窓口を弁護士に一本化できます。解除の通知が法的に有効といえるか、改善策をどう示すか、退去に応じる場合の条件をどう整えるかを、契約書と経緯に照らして検討することができます。
また、大家への対応だけでなく、問題の根にある子との関係に手を打たなければ、引っ越した先でも同じことが起きかねません。当事務所では、親の代理人として子に向き合うとともに、民間の自立支援カウンセラーと連携し、子の住まい探しや仕事探しなど、親と子がそれぞれ自立するための支援に取り組んでいます。
【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択
よくあるご質問
「子がやったことなので、親は関係ない」と大家に伝えれば足りますか
親が契約者で子と同居している場合、子の行為は契約者の義務違反として評価されることがあるため、それだけでは十分な説明にならないことが多いと考えられます。子の行為を止めるために何をしているかを、具体的に伝えることが大切です。
管理会社から「すぐに出ていかないと鍵を替える」と言われました
裁判所の手続を経ずに鍵を替えて締め出すことは、原則として認められていません。そのような予告を受けた場合は、やり取りを記録したうえで、早めに弁護士へご相談ください。
子が契約者で、親は連帯保証人です。子を退去させる義務はありますか
連帯保証人が負うのは主に金銭の支払いの保証であり、子に代わって部屋を明け渡す義務まで負うわけではありません。ただし、退去が長引くほど未払い賃料などの保証額が膨らむおそれがあるため、早い段階で状況を把握しておくことをおすすめします。
まとめ
- 大家から退去を求められても、それだけで直ちに明け渡す義務が生じるわけではありません。
- 同居する子の行為は、契約者である親の義務違反と評価されることがあります。
- 退去まで認められるかは、行為の程度や注意を受けた後の改善の有無など、信頼関係が壊れたといえるかで判断されます。
- 契約者が誰かによって、親が負う責任の範囲は変わります。
- 退去に応じる場合は、条件を書面で確認してから合意することが大切です。
賃貸住宅での子の問題は、大家との契約の問題と、子との関係の問題が重なって起きています。住まいをどうするかを考えると同時に、子の自立に向けた手立てを並行して進めることが、同じ問題を繰り返さないことにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


