【親子問題】子が親名義で契約した|追認しないという選択

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は2026年9月時点の法令・判例に基づいて作成しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応はご相談のうえでご判断ください。


同居している子が、親の名前で携帯電話やクレジットカード、ローン、ネット上のサービスなどを契約していた。督促状が届いて初めて気づいた、という場面があります。結論から申し上げると、親が代理権を与えておらず、後から認める(追認する)こともしなければ、その契約の効果は原則として親には及びません。ただし、何も言わずに放置したり、事情を知ったうえで支払いを続けたりすると、後で争いにくくなることがあります。本記事では、「追認しない」という選択の法的な意味と、その伝え方を整理します。

親名義の契約は、親が認めなければ親に効力が及ばない

 民法113条1項は、代理権を持たない人が他人の代理人としてした契約は、本人が追認しなければ本人に効力を生じないと定めています。これを無権代理といいます。子が「親の代わりに手続きをしている」と名乗って契約した場合が典型です。

 実際には、子が代理人と名乗らず、親本人になりすまして申込書に親の名前を書いたり、ネット上で親の情報を入力したりする形のほうが多いかもしれません。このような名義の冒用についても、無権代理の規定を類推して考えるのが一般的な扱いです。親が関与していない以上、支払義務は原則として親には生じません。

 なお、夫婦の間には、日用品の購入など日常の家事に関する債務について夫婦が連帯して責任を負うという規定があります(民法761条)。しかし、親子の間にはこれに相当する規定はありません。同居している、家族であるという理由だけで、子が結んだ契約の責任を親が負うことにはなりません。家族の名義で届いた請求の整理全般については【不当要求対応】同居していない家族の名義で請求が来た|誰の債務なのかで、成人した子の生活をどこまで支える義務があるかについては【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで解説しています。

「追認しない」と相手方に伝えることの意味

 無権代理の契約は、親が追認するか、追認を拒絶するかによって扱いが決まります。追認すれば契約は締結の時にさかのぼって有効になり(民法116条)、親が契約者として支払う立場になります。反対に追認を拒絶すれば、契約の効果が親に及ばないことが確定します。

 追認や追認の拒絶は、契約の相手方である事業者に対して行わなければ、原則として事業者に主張できません(民法113条2項)。子に「こんな契約は認めない」と伝えただけでは足りず、事業者に伝える必要があります。

 また、事業者の側は、相当の期間を定めて追認するかどうかを答えるよう親に求める(催告する)ことができ、期間内に答えなければ追認を拒絶したものとみなされます(民法114条)。もっとも、届いた書面が法律上の催告にあたるかどうかは一見して分からないことも多く、黙っていれば安全とは言い切れません。はっきりと追認しない旨を伝えておくほうが、後の紛争を防ぎやすいといえます。

親の対応契約の扱い親への影響
追認する契約時にさかのぼって有効になる契約者として支払う立場になる
追認を拒絶する親に効力が及ばないことが確定する原則として支払義務を負わない
何もしない効力が決まらないまま続く督促が続き、行動によっては追認と評価されるおそれがある


追認の拒絶が親亡き後に意味を持つ場面

 追認の拒絶をはっきりさせておく意味は、親が亡くなった後にも表れます。判例上、本人である親が亡くなり、無権代理をした子が単独で相続した場合には、子は自分がした無権代理について追認を拒絶できず、契約が有効になると扱われています(最高裁昭和40年6月18日判決)。

 一方、本人が生前に追認を拒絶していた場合には、その後に無権代理をした者が本人を相続しても、契約が有効になるものではないとされています(最高裁平成10年7月17日判決)。この事案は、判断能力を失った親の代理人として長男が担保の設定契約などを結んだもので、親子の間で起きた問題でした。追認しない意思を明確にしておくことは、将来の相続を考えるうえでも意味があります。

追認したと受け取られやすい行動

 追認は、書面や明確な言葉でなくても、契約を認める態度を示したと評価される行動によって成立することがあります。これを黙示の追認といいます。事情を把握した後は、次のような行動に慎重になる必要があります。

  • 契約の存在を知ったうえで、親の口座から支払いを続けること。
  • 事業者からの確認に対し、「私が払います」「分割にしてください」などと答えること。
  • 契約内容の変更や更新の手続きを、親自身が行うこと。
  • 契約で得た商品やサービスを、親が自分のものとして使い続けること。


 なお、気づく前に口座振替などで引き落とされていた分は、親が事情を知らずに支払ったものですから、それだけで追認があったことにはならないと考えられます。すでに支払った分を誰にどう返してもらうかは、事業者との協議や子への請求として、別に検討することになります。

例外的に親が責任を負うことがある場面|表見代理

 追認しなければ親に効力が及ばないという原則には、例外があります。親の側にも一定の関与や落ち度があり、事業者が子に権限があると信じたことに正当な理由がある場合には、親が契約の責任を負うことがあります。これを表見代理といいます(民法109条・110条・112条)。親子の間で問題になりやすいのは、次のような事情です。

  • 別の手続きのために、実印や印鑑登録証明書を子に渡していたこと。
  • 以前に親の代わりに契約手続きを任せ、その後に任せるのをやめたことを相手方に伝えていないこと。
  • 通帳、キャッシュカード、本人確認書類、ログイン情報などを子に預け、管理を任せていたこと。


 一方で、子が親に無断で実印を持ち出して使った場合のように、親が何かを任せたわけではないときは、表見代理は成立しにくいと考えられています。また、金融機関や貸金業者には契約時に本人確認を行うことが求められているため、事業者がどこまで確認したかも判断に影響します。表見代理にあたるかどうかは事情によって分かれますので、心当たりがある場合は、追認拒絶を伝える前に事実関係を整理しておくことをおすすめします。

追認しない意思の伝え方

 事業者に追認しない意思を伝えるときは、感情的なやり取りを避け、後から確認できる形で進めることが大切です。一般的には、次の順序で進めます。

  1. 請求書や督促状に記載された事業者に連絡し、契約書や申込書の写し、申込みの日時や方法の記録を取り寄せること。
  2. 申込書の筆跡、届け出られた連絡先、引き落とし口座などから、誰がどのように契約したのかを整理すること。
  3. 契約を締結していないこと、代理権を与えたこともないこと、追認しないことを書面で通知すること。
  4. ローンやクレジットの契約であれば、信用情報機関に親名義の登録がないかを確認すること。
  5. すでに支払った分がある場合は、その扱いを事業者と協議すること。


 通知の書面は、送った事実と内容を後で示せるよう、内容証明郵便などを使うのが一般的です。書面では、契約したのが子であることを事業者に説明することになりますが、その後、事業者が子に請求したり、被害の申告を検討したりすることもあり得ます。どこまで説明するかは、後の家族関係も見据えて考える必要があります。相談の際に手元にそろえておきたい情報は、【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報でまとめています。

追認しない場合、子はどのような責任を負うのか

 親が追認を拒絶すると、事業者は契約をした子に対して責任を問うことになります。民法117条は、代理権がないのに他人の代理人として契約した者は、相手方の選択に従い、契約の履行または損害賠償の責任を負うと定めています。事業者が代理権のないことを知っていた場合などには責任が否定されますが、事業者に過失があったとしても、子自身が権限のないことを知っていたときは責任を免れません(同条2項)。

 また、親の名前で申込書を作成して提出する行為は、私文書偽造罪や同行使罪に問われる可能性があり、事業者を欺いて商品などを得た場合には詐欺罪が問題になることもあります。家族の財産をめぐる一部の犯罪には刑が免除される特例(親族相盗例)がありますが、被害を受けたのが事業者であれば、この特例は原則として及びません。刑事上の扱いについては、他人になりすまして契約した|詐欺と私文書偽造の重なりや同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で解説しています。親として被害届を出すかどうかで迷う場合は、【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることもあわせてご覧ください。

「追認しない」は子を突き放すことではない

 子が結んだ契約を親が引き受けることは、督促を止める早道に見えるかもしれません。しかし、同じことが繰り返される場合、親が支払いを引き受け続けることで、子が自分の行動の結果に向き合う機会が少しずつ失われていくこともあります。

 追認しないという選択は、契約の責任を本来の当事者に戻すことであり、子との関係を断つこととは別の問題です。当事務所では、弁護士が親御さまの代理人として事業者や子との窓口になり、民間の自立支援カウンセラーが子の生活面の立て直しを支える形で、親と子それぞれの自立に向けた取り組みを行っています。取り組みの全体像は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応で、弁護士が間に入ることで何が変わるかは【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択でご紹介しています。

よくあるご質問


一度、子の代わりに支払ってしまいました。今後の分も払わなければなりませんか

 契約の存在を知ったうえで支払ったり、支払う意思を事業者に伝えたりしていた場合は、追認があったと主張されるおそれがあります。ただし、一度の支払いが直ちに契約全体の追認と評価されるとは限りません。「自分の契約だと認めて払った」のか、「子の債務を今回に限って代わりに払った」のかによって評価が分かれることもあり、支払った経緯や事業者とのやり取りが判断材料になります。今後の支払いを止める前に、それまでの経過を整理しておくことをおすすめします。

事業者から「お子さまに請求することになります」と言われました。追認したほうがよいのでしょうか

 追認するかどうかは親が決めることであり、子が責任を問われる可能性があることを理由に、追認しなければならないわけではありません。契約が生活に必要なもので、親として引き受けると判断して追認する選択もあり得ますが、その場合は親が契約者として責任を負うことになります。契約の内容と、今後も同じことが起こり得るかを確認したうえで決めることが大切です。

弁護士に相談したことは、子に伝わりますか

 弁護士には守秘義務があり、ご相談の内容がご本人の了解なく子に伝わることはありません。連絡方法についても、ご家庭の状況に合わせて調整できます。詳しくは【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方をご覧ください。

まとめ

 子が親名義で結んだ契約は、親が追認しない限り、原則として親に効力は及びません。ただ、表見代理にあたる事情がないか、すでに追認と評価される行動をしていないかによって、取るべき対応は変わります。督促が届いた段階で慌てて支払う前に、契約書の写しと手元の記録を確認し、追認しない意思を書面で伝えるところから始めることが大切です。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼