【親子問題】親が入院することになった、ひきこもりの子の生活はどうする?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

親が急に入院することになったとき、真っ先に気になるのは、家に残るひきこもりの子の生活ではないでしょうか。食事や買い物、お金の管理、役所や病院からの連絡への対応など、これまで親が担ってきたことが、入院を境に一度に止まってしまうことがあります。

 この記事では、親の入院が決まった時点で整理しておきたいことを、お金・日々の暮らし・連絡の3つの面から順に確認します。あわせて、入院中の親の預金をどこまで子が扱えるのか、入院の保証人や費用を子が引き受ける必要があるのか、子が一人で暮らすのが難しいときにどこへ相談できるのかについても取り上げます。

本記事は2026年10月時点の法令・制度をもとにしています。支援制度の名称や窓口の体制は自治体によって異なるため、具体的な手続はお住まいの市区町村にご確認ください。


親の入院で、家に残る子の生活に何が起きるのか

親と子の二人暮らしや、親が家計と家事の大半を担っていた家庭では、入院によって次のような変化が一度に起こりやすくなります。

  • 生活費の受け渡しが止まり、子の手元にお金がなくなる。
  • 食事の用意や買い物、ごみ出しなど、日々の家事が回らなくなる。
  • 郵便物や役所・金融機関からの連絡に、誰も対応しなくなる。
  • 病院からの連絡や面会、入院費の支払いの窓口が定まらない。
  • 子が外部とつながっていないため、家の中の様子が分からなくなる。


 ひきこもりの状態にある子の中には、家事や手続をある程度こなせる人もいれば、親以外の人と話すこと自体が難しい人もいます。入院前の様子から、子が自分でできることとできないことを分けて考えておくと、どこに手助けが必要かが見えやすくなります。

 入院が数日から数週間で終わる見込みなのか、長引いたり退院後に介護が必要になったりする見込みなのかによっても、準備の範囲は変わります。最初は短期の入院を前提に最低限の手配を整え、見通しがはっきりした段階で長期の備えに移る、という順序で考えると負担を分散できます。

入院が決まったら、最初の数日で整理しておきたいこと


生活費をどう渡すか

入院中の子の生活費は、親の口座のキャッシュカードと暗証番号をそのまま渡すのではなく、一定の金額を現金で渡す、子名義の口座に定額を振り込む、といった形で、親の財産と子の手元のお金を分けておくことが考えられます。親の口座ごと渡してしまうと、どこまでが生活費として使われたのかが後から分からなくなり、きょうだいとの間で争いになることもあります。

 子に銀行口座がない場合や、金銭管理が難しい場合には、きょうだいや親族が週ごとに必要な分を渡す方法もあります。渡した金額と日付は、簡単なメモで構わないので残しておくと安心です。

光熱費・家賃などの引落しを確かめる

電気・ガス・水道、家賃や住宅ローン、携帯電話の料金などが親の口座から引き落とされている場合、入院中も残高が足りているかを確認しておく必要があります。口座残高が不足すると、ライフラインが止まるおそれがあり、家に残る子の生活に直接影響します。

病院・子・きょうだいの連絡の流れを決める

病院からの連絡を誰が受けるのか、子の様子を誰が確かめるのかを決めておくと、入院中の混乱を減らせます。整理の目安は次のとおりです。

項目確かめること手配の例
生活費入院中に子が使うお金をどう渡すか定額を現金で渡す・子名義の口座へ振り込む
引落し光熱費・家賃などの残高が足りるか引落し口座の残高確認・支払方法の見直し
連絡病院からの連絡を誰が受けるかきょうだいや親族を連絡先として病院に伝える
見守り子の安否や食事の状況を誰が確かめるか定期的な訪問や電話・配食サービスの利用
郵便物重要な通知を見落とさないか親族がまとめて確認する日を決める


入院中の親の預金を、子が引き出してもよいのか

預金は親名義の財産であり、子であっても、親の了解なく引き出してよいものではありません。入院中に親の口座から生活費や入院費を払う必要がある場合は、親の意思がはっきりしているうちに、どの口座から、何の支払いに、いくらまで使ってよいかを確かめておくことが大切です。

 金融機関によっては、家族が使える代理人カードの発行や、委任状による手続に応じている場合があります。取扱いは金融機関ごとに異なるため、入院前や入院直後に親本人と一緒に確認しておくとよいでしょう。

 一方、親の病状によっては、判断能力が低下して本人の意思を確かめられなくなることもあります。その場合、家族が代わりに財産を管理するには、家庭裁判所に成年後見の申立てを行う必要が出てくることがあります。判断能力があるうちであれば、将来に備えて任意後見契約を結んでおく方法もあります。

 また、子が親の通帳やカードを手元に置いて自由に使ってしまう、使い道の説明を拒むといった事態が起きることもあります。こうした場面での対応は、【親子問題】通帳・カードを取り上げられた場合の対応で詳しく取り上げています。第三者に金銭管理を担ってもらう仕組みについては、【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違いもご覧ください。

入院の保証人や費用の負担は、子が引き受けなければならないのか

入院の際、病院から保証人や身元引受人の記入を求められることがあります。これは病院との契約上の求めであり、子だからといって当然に引き受けなければならないものではありません。厚生労働省も、身元保証人がいないことだけを理由に入院を拒むことは適切でないとする考え方を示しています。保証人を立てられない事情がある場合は、病院の医療ソーシャルワーカーなどに相談してみるとよいでしょう。

 親と子の間には、法律上、互いに扶養する義務があります(民法877条1項)。ただ、成人した親子の間の扶養は、一般に、自分の生活を維持したうえで余力がある範囲で相手を支える義務と考えられています。収入のないひきこもりの子に、親の入院費を負担させることは、通常想定されていません。

 法律相談サイトにも、長くひきこもりの状態が続いている方から、親の入院中の医療費はきょうだいが負担するものの、自分の生活費までは出せないと言われて困っている、という相談が寄せられています。このように、入院をきっかけに、きょうだいの間で誰が何を負担するかが問題になることは珍しくありません。扶養の範囲の考え方は、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで整理しています。

 入院費そのものについては、医療費の自己負担に上限を設ける高額療養費制度を利用できる場合があります。親が加入している健康保険の窓口で、事前に限度額適用認定の手続ができるかを確かめておくと、窓口での支払いを抑えられることがあります。

子が一人で暮らせそうにないときの相談先

親の入院をきっかけに、家族だけでは子の生活を支えきれないと感じたときは、早めに公的な窓口へ相談することが考えられます。親の介護の窓口と、子の生活やひきこもりの窓口は分かれているため、両方につながっておくと支援が入りやすくなります。

相談先主な役割
地域包括支援センター高齢の親の介護や生活の相談。家族の悩みも受け付け、必要に応じてほかの機関へつなぐ
自立相談支援機関生活に困っている人の相談窓口。子の生活費や仕事、住まいの相談に応じる
ひきこもり地域支援センターひきこもりの本人や家族のための専門窓口。電話相談や訪問支援を行うところもある
福祉事務所生活保護の相談と申請の窓口
病院の医療ソーシャルワーカー入院費や退院後の生活、利用できる制度の相談


 親の介護をきっかけに、地域包括支援センターの職員が家にいる子の状況に気づき、子の側の支援につながるという流れもあります。親の入院中でも、家族が窓口に出向いて事情を伝えることは可能です。市区町村によっては、複数の窓口をまとめて支援する体制も整えられています。窓口ごとの使い方は、【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないことや【親子問題】重層的支援体制整備事業とは|市町村窓口の使い方で取り上げています。

 子の生活費が確保できない状態が続く場合は、生活保護の利用を検討することもあります。生活保護は原則として世帯を単位に判断されるため、親と同居している子がどのような扱いになるかは、個別の事情によって変わります。考え方は【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方をご覧ください。

入院が長引く・退院後の介護が見込まれるときに考えておくこと

入院が長引く場合や、退院後に親が介護を必要とする見込みがある場合は、子との同居をこのまま続けられるのかを考える時期に入ります。親が施設に移る、子が独立して暮らす、介護サービスを入れて同居を続けるなど、選べる道はいくつかあります。

 入院中は、親が子と距離を置いて落ち着いて考えられる時期でもあります。退院後の生活を親自身がどう望むのか、子の生活費を誰がどこまで負担するのかを、きょうだいや支援者と一緒に整理しておくと、退院のときに慌てずに済みます。

  • 退院後に親が自宅で暮らせるか、介護サービスや施設が必要かを病院と相談する。
  • 親の年金や預金で、今後の子の生活費をどこまで支えられるかを見積もる。
  • 子が独立して暮らす場合の住まいと収入の手段を、支援機関と検討する。
  • 親の判断能力が低下する場合に備え、財産管理の方法を決めておく。


 親の介護が必要になったときの同居の子の生活については【親子問題】親が要介護になったとき、同居の子の生活はどうなるのか、長い目で見た備えについては【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかで詳しく説明しています。

入院をきっかけに、子からの金銭要求や暴言が強まったとき

親の入院で家の中の状況が変わると、子が不安から病院やきょうだいに何度も連絡したり、お金を強く求めたりすることがあります。親が病床にいる間に、きょうだいがその対応を一手に担うことになり、疲れ切ってしまう例も見られます。

 当事務所では、親の代理人として弁護士が子との連絡の窓口を引き受け、自立支援カウンセラーと役割を分けて、子の住まい探しや仕事、生活保護の申請などを支える取り組みを行っています。親が入院中で動けない場合に、きょうだいからご相談をいただくこともあります。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応、きょうだいが相談するときの進め方は【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときをご覧ください。

よくあるご質問


入院中、子に親の通帳を預けておいても問題はないですか

預けること自体が直ちに問題になるわけではありませんが、使い道の範囲を決めずに渡すと、後で使途が分からなくなるおそれがあります。生活費として使える金額をあらかじめ決めておくか、定額を別に渡す方法のほうが、親子双方にとって後のトラブルを避けやすくなります。

子が病院からの連絡に出られない場合はどうすればよいですか

入院の時点で、きょうだいや親族など連絡を受けられる人を病院に伝えておくことが考えられます。頼れる親族がいない場合は、病院の医療ソーシャルワーカーや地域包括支援センターに事情を伝え、連絡の受け方を相談してみるとよいでしょう。

入院中に子の様子を確かめる方法はありますか

親族が定期的に訪ねる、電話で話す時間を決めるといった方法のほか、配食サービスの利用を通じて様子を把握できる場合もあります。子が親族との接触を拒む場合は、ひきこもり地域支援センターなどの訪問支援を利用できるかを相談してみることも一つの方法です。

 親の入院は、家族の誰にとっても予定外の出来事です。ただ、親が子の生活を一人で支えてきた形を見直し、支援機関や第三者の力を借りるきっかけにもなります。入院中にできることから一つずつ整え、退院後の暮らし方を家族で考える時間にしていただければと思います。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 【親子問題】親が入院することになった、ひきこもりの子の生活はどうする?

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼