【親子問題】子が親の株や投資信託を勝手に売っていたら?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は2026年10月時点の法令をもとに作成しています。証券会社ごとの規約や不正取引の補償方針は会社によって異なり、改定されることもありますので、実際の取扱いはお使いの証券会社に確認してください。


親が長年保有してきた株式や投資信託が、知らないうちに売却されていた。取引履歴を見ると、操作したのは同居している子や、パスワードを知っている子らしい。こうしたご相談は、ネット証券の利用が広がるにつれて増えています。
 親としては「家族のことなので大ごとにしたくない」という思いと、「財産を守らなければならない」という思いの間で迷われることが多いと思います。この記事では、子が親の株や投資信託を無断で売却していた場合に、何が問題になり、何を求められるのか、そして気づいた日から何をしておくとよいのかを順に整理します。

まず分けて考えたいのは「売却」と「お金の行方」

 無断の売却と一口にいっても、売却代金がどこにあるかによって、法的な整理も取れる手段も変わります。株や投資信託を売っただけで代金は親の口座に残っている場合と、代金が引き出されたり子の口座へ移されたりしている場合とでは、問題の重さが大きく異なります。

状況主に問題になること
売却代金が親名義の口座に残っている無断のログインや操作そのもの、売却によって生じた損失
売却代金が引き出された・移された上記に加えて、お金を自分のものにした点(返還の請求、刑事上の責任)
親が以前に操作を任せていた任せた範囲を超えた取引かどうか


 証券口座の売却代金は、通常、あらかじめ登録した本人名義の銀行口座にしか出金できない仕組みになっています。そのため、証券口座の取引履歴と、出金先の銀行口座の入出金履歴をあわせて確認すると、お金の流れが見えてくることが多いです。銀行口座から現金が引き出されていた場合の整理は、【親子問題】親の預貯金を勝手に引き出された|刑事と民事の分かれ道でも解説しています。

売却された株や投資信託は、元に戻せるのか


成立した取引を取り消すのは難しいことが多い

 証券取引所などで成立した売買は、相手方となった買い手がいるため、後から「無断だった」と伝えても、取引そのものをなかったことにするのは難しいのが一般的です。証券会社の規約にも、登録されたIDやパスワードで行われた取引は本人の取引として扱う旨の定めが置かれていることが多くあります。
 そのため、現実的には「同じ銘柄を買い直すかどうか」を親自身が判断し、売却によって生じた差額などを子に求めていく、という順序で考えることになります。

証券会社の補償は、家族による取引を対象外とすることがある

 2025年以降、第三者による証券口座の乗っ取り被害が相次いだことを受け、大手の証券会社は被害者への補償方針を打ち出しました。ただ、こうした補償方針や約款には、配偶者や二親等内の親族、同居の親族などによる不正な取引を補償の対象外とする定めが置かれていることがあります。
 子による無断売却は、補償の対象にならない可能性も考えておく必要があります。とはいえ、扱いは会社ごとに異なりますので、まずは証券会社に事実を伝え、どのような対応があり得るかを確認してください。

子に何を求められるのか|民事での整理


売却代金を子が使った場合

 親の財産である売却代金を子が自分のために使った場合、親は子に対して、そのお金の返還を求めることができます。法律上は、不当利得の返還請求や、不法行為に基づく損害賠償請求として整理されます。成人した子であれば、親子であっても請求できることに変わりはありません。

代金が親の口座に残っている場合

 代金が親の口座に残っているなら、親の財産が丸ごと失われたわけではありません。ただ、売却後にその銘柄の価格が上がっていた、売却に手数料がかかった、売却益に税金が差し引かれた、配当や株主優待を受け取れなくなった、といった形で親に不利益が生じていることがあります。
 こうした不利益を損害としてどこまで求められるかは、売却時と比べる時期をいつにするか、親がもともとその株を持ち続けるつもりだったかなどによって変わり、争いになりやすい部分です。「損はしていない」と子が言う場合でも、内容を確かめてから判断するのがよいと思います。

「頼まれていた」と言われたとき

 親がネット取引に不慣れで、以前に子へ口座の管理を任せていたというケースもあります。この場合は、どの商品を、いくらまで、いつまで扱ってよいと任せていたのかが問題になります。口頭で任せただけで範囲を決めていないことが多いため、任せた範囲を超えた取引だったかどうかは、当時のやり取りや取引の内容から確かめていくことになります。
 親の判断能力が低下した後に取引が続いていた場合は、以前の了承がその後の取引まで含んでいたのかがさらに分かりにくくなります。きょうだいなど他の家族から疑問が出やすい場面でもあります。

請求には期限がある

 不法行為に基づく損害賠償は損害と相手を知った時から3年、不当利得の返還請求は請求できることを知った時から5年で、時効により請求できなくなることがあります。親子間の問題は先送りにされやすいため、気づいた時点で記録を残しておくことが大切です。

刑事事件として扱われるのか


無断のログインそのものが問題になる場面

 親のIDやパスワードを無断で入力して証券口座にログインする行為は、不正アクセス禁止法の不正アクセス行為にあたる可能性があります。法定刑は3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。親がパスワードを教えて操作を任せていた場合は、承諾があるものとして扱われ、この罪にはあたらないと考えられます。

お金を引き出した・移した部分

 売却代金を親のキャッシュカードで引き出した場合は窃盗、システムに虚偽の情報を与えてお金を移した場合は電子計算機使用詐欺などが問題になり得ます。ただし、これらの罪には刑法の親族相盗例があり、親と子(直系血族)の間では刑が免除されます。一方で、不正アクセス禁止法の罪には親族相盗例は及びません。
 警察に相談した場合にどのような対応になるかは、事案の内容によって異なります。被害届を出すかどうかは、家族関係への影響も含めて考える必要があります。【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることもあわせてご覧ください。

気づいた日にしておきたいこと


  1. 証券会社に連絡し、ログインパスワードと取引パスワードを変更すること。
  2. 登録されているメールアドレス、電話番号、出金先口座が変えられていないかを確認すること。
  3. 取引履歴、取引報告書、ログイン履歴を取り寄せ、保存すること。
  4. 出金先の銀行口座の入出金履歴を確認すること。
  5. いつ、誰が、どの端末で操作できたのかをメモに残すこと。
  6. 子と話をする前に、何を求めるのかを整理すること。


 証券会社には、二段階認証の設定や、取引のたびに通知が届く設定ができることもあります。取引報告書を郵送で受け取る設定にしておくと、紙の記録が手元に残ります。通帳やキャッシュカード、印鑑も一緒に持ち出されている場合は、【親子問題】子が親の実印や権利証を持ち出した|悪用を止める手続の順序と、使われていた場合の対応も参考にしてください。

同じことを繰り返さないための備え

 親の判断能力がしっかりしているうちであれば、家族が関わる形をあらかじめ決めておくことができます。

  • 日本証券業協会の「家族サポート証券口座」のように、証券会社に家族を代理人として届け出る仕組みを使うこと。
  • 財産管理委任契約と任意後見契約を組み合わせ、判断能力が低下した後の管理者と範囲を決めておくこと。
  • 家族信託で、株式などの管理を任せる相手と内容を設計すること。
  • 判断能力がすでに低下している場合は、成年後見制度の利用を検討すること。


 どの方法でも、パスワードを家族に預けて本人になり代わって操作する形は避け、権限の範囲を書面に残しておくことが、後の争いを防ぐことにつながります。

子と話をするときに気をつけたいこと

 無断売却の背景に、子の借金や浪費、生活費の不足があることも少なくありません。問い詰めるだけでは、お金の要求がかえって強まることもあります。暴力や暴言が心配な場合は、親だけで向き合わず、話し合いの窓口を第三者に任せることも考えてください。
 返還の方法や今後の約束がまとまった場合は、合意書として書面にしておくと、後で内容を確かめやすくなります。【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界で、書面にするときの注意点を解説しています。

よくあるご質問


子が「代金は親の口座にあるのだから損はしていない」と言います

 代金が残っていても、売却後の値上がり分、手数料や税金、受け取れなくなった配当などの不利益が生じていることがあります。また、無断でログインしたこと自体が問題になる場合もあります。損がないかどうかは、取引の内容を確認したうえで判断するのがよいと思います。

警察に相談すると、子は必ず逮捕されますか

 相談したからといって、直ちに逮捕につながるわけではありません。どのような捜査が行われるかは、行為の内容や証拠、子の状況などによって判断されます。警察に相談した記録は、後で手続をとる際に意味を持つこともあります。

親が亡くなった後に、きょうだいによる売却に気づいた場合も同じですか

 親が亡くなった後は、親が持っていた返還請求などの権利を相続人が引き継ぎます。生前の無断売却や使い込みは、遺産分割の話し合いの中で問題になることが多く、取引履歴などの記録をもとに整理していくことになります。

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弁護士にご相談いただく場合

 子が親の株や投資信託を無断で売却していた問題は、取引の記録の確認、子への返還の求め方、刑事手続を使うかどうか、今後の財産管理の設計と、考えることが多岐にわたります。当事務所では、親御さんの代理人として子との窓口を担い、必要に応じて自立支援カウンセラーと連携しながら、お金の問題とその背景にある親子関係の両方に目を向けて対応しています。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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