【親子問題】弁護士とカウンセラーはどう介入するのか|4つの事例で見るサービスの実際
親が買って子に渡した車や、子のために名義を貸した車について、「やはり返してほしい」と考える場面は少なくありません。仕事に使うからと渡した車にほとんど乗っていない、ローンや税金を親が払い続けている、子との関係がこじれて車の負担だけが残っているなど、きっかけはご家庭ごとにさまざまです。
ただ、「子に渡した車」といっても、法律上は「あげた」のか「貸した」のか、車検証の名義が誰になっているのかによって、取り戻せるかどうかの見通しが大きく変わります。この記事では、渡し方ごとの整理と、返還を求めるときの進め方、避けておきたい行動について解説します。
本記事は、2026年10月時点の民法などの規定をもとに、一般的な考え方を説明するものです。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応はご相談のうえでご判断ください。
「渡した」の中身で見通しが変わる
親が子に車を渡す形には、主に次のようなものがあります。どれにあたるかで、返還を求める根拠も、取り戻しやすさも異なります。
| 渡し方 | 法律上の整理 | 返還を求める見通し |
|---|---|---|
| 親名義のまま子に使わせている | 使用貸借(無償で貸している状態) | 貸す関係を終わらせれば、返還を求めやすい |
| 子の名義に変えて渡した | 贈与と扱われることが多い | 原則として、取り戻すのは難しい |
| 条件を付けて渡した | 負担付贈与にあたることがある | 条件が守られなければ、解除の余地がある |
| 親名義のローンで買い、子が乗っている | ローン完済まではローン会社などが所有者のことが多い | ローン会社との関係も含めた整理が必要 |
実際には、親は「貸したつもり」、子は「もらったつもり」と、認識が食い違っていることがよくあります。親子の間では書面を作らずに車を渡すことが多いため、どちらの言い分にも決め手がない状態から整理を始めることになります。
車検証の名義はどこまで手がかりになるか
まず確認したいのが、車検証の「所有者」欄と「使用者」欄です。所有者が親のままであれば、親の車を子に使わせていた(貸していた)という説明がしやすくなります。反対に、所有者が子に変更されていれば、親から子への贈与があったとみられやすくなります。
もっとも、名義はひとつの手がかりにすぎません。購入代金を誰が出したか、保険料・自動車税・車検費用を誰が負担してきたか、渡すときにどのような言葉を交わしたかといった事情も、あわせて考慮されます。
また、ローンで購入した車では、完済するまで所有者欄がローン会社や販売店になっていることがあります(所有権留保)。この場合、親も子も完済までは法律上の所有者ではないため、ローン会社との契約内容を確認しながら整理を進める必要があります。
「貸した」車であれば返還を求められる
親名義のまま無償で子に使わせている場合、法律上は「使用貸借」と整理されることが多くなります。使用貸借は、借りている側が無償で物を使える契約で、次のような場合に終了し、または親の側から解除できます(民法594条・597条・598条)。
- 返す時期を決めていた場合に、その時期が来たとき。
- 通勤のためなど使い道を決めていた場合に、その使い道に沿った使用が終わったとき、または使うのに足りる期間が過ぎたとき。
- 時期も使い道も決めていなかった場合に、親が解除を伝えたとき。
- 親の承諾なく第三者に使わせるなど、決められた使い方に反したとき。
- 借りている子が亡くなったとき。
使用貸借が終われば、子は車を返す義務を負います。もっとも、子が「これはもらったものだ」と主張すると、贈与か使用貸借かをめぐる争いになります。その場合に意味を持つのが、購入時の経緯、維持費の負担、渡したときのメッセージやメモといった記録です。お金の貸し借りでも同じ構図の争いが起きやすく、整理の考え方は【親子問題】子に貸したお金を返してもらいたい|「もらった」と言われたときの整理と請求の進め方でも解説しています。
「あげた」車を取り戻すのは難しいことが多い
子の名義に変えて車を渡した場合など、贈与にあたると判断されると、原則として後から返してもらうことはできません。
民法550条は、書面によらない贈与は各当事者が解除できるとしつつ、すでに履行が終わった部分は解除できないと定めています。口約束で車をあげた場合でも、車を引き渡し、名義変更まで済ませていれば、履行は終わっていると評価される可能性が高いと考えられます。贈与契約書を作って渡した場合は、書面による贈与として、この条文による解除はそもそもできません。
条件を付けて渡していた場合
「ローンは自分で払う」「親の通院の送迎に使う」など、子が何かを負担することを前提に車を渡していた場合は、負担付贈与にあたることがあります。負担付贈与では、子が負担を果たさないとき、親は相当の期間を定めて履行を求めたうえで、贈与を解除できる余地があります(民法553条・541条)。
ただし、その条件が親の希望や期待にとどまっていたのか、贈与の内容として合意されていたのかは争いになりやすい点です。渡すときのやり取りが残っているかどうかが、見通しを左右します。
渡した後に子の態度が変わった場合
「車をあげた後から、暴言や金銭の要求が始まった」というご相談もあります。贈与を受けた人が贈与者にひどい仕打ちをした場合に贈与を撤回できるとする規定(いわゆる忘恩行為による撤回)は、日本の民法には置かれていません。裁判例の中には、個別の事情から贈与の解除を認めたものもありますが、例外的な扱いにとどまります。態度が変わったことだけを理由に車を取り戻すのは、難しいのが実情です。
親名義のまま子が乗っている車で気をつけたいこと
取り戻しを考えるきっかけとして多いのが、名義だけが親に残っている状態への不安です。親が所有者として登録されていると、次のような負担や責任が親に及ぶことがあります。
- 自動車税(種別割)の納税通知が、所有者である親に届きます。
- 子が事故を起こしたとき、所有者として損害賠償の責任を問われる可能性があります。
- 車検証の使用者欄も親になっている場合、放置駐車違反の放置違反金の納付を求められることがあります。
- ローンの契約者が親の場合、子が支払わなくなると親が返済を求められます。
名義を親に残しておくことのリスクは【親子問題】子の携帯・車の名義を親が持っている場合のリスク、事故の際の責任は【親子問題】子が親の車で事故を起こした|親名義の車と賠償、ローンの支払いをめぐる問題は【親子問題】子がローンで車を買い、支払いを親に求めてくる|親に返済義務はあるのかで詳しく取り上げています。
合鍵があっても、無断で持ち帰るのは避ける
親の名義で合鍵も手元にあると、子のいない間に車を持ち帰りたいと考えることもあるでしょう。しかし、法律上の権利があっても、裁判などの手続を経ずに自分の力で取り戻すこと(自力救済)は、原則として認められていません。
子が住むアパートの敷地や駐車場、ガレージに無断で立ち入れば、住居侵入などの問題を指摘されるおそれがあります。車内に子の私物が残っていれば、その扱いをめぐって新たな争いが生じることもあります。持ち帰ったことをきっかけに、子が実家に押しかけるなど、親子の衝突が深まる場面も見られます。
警察に相談しても、親子間で貸し借りしていた車の問題は民事の問題として扱われ、盗難届の受理に至らないことがあります。自力救済の考え方については【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界もご参照ください。
取り戻しを求めるときの進め方
車を返してもらいたいときは、次の順序で進めると、後の交渉や手続につなげやすくなります。
- 車検証、売買契約書、ローン契約書、保険証券、自動車税や車検費用の支払記録を集め、購入と維持の費用を誰が負担してきたかを確認します。
- 渡したときの経緯や、「貸す」「あげる」といったやり取りがわかるメッセージ・メモを保存します。
- 返還を求める意思を、返す期限・返す場所・鍵や書類の扱いとあわせて、書面で伝えます。
- 子が応じない場合や、直接話すことが難しい場合は、弁護士を窓口にして交渉します。
- それでも解決しない場合は、調停や訴訟で車の引渡しを求めることを検討します。売却されるおそれがあるときは、仮処分の申立てを検討することもあります。
返還だけが解決の形ではありません。子がそのまま乗り続けることを前提に、名義を子に移して税金・保険・ローンを子の負担に切り替える方法や、車を売却して代金を清算する方法が現実的な場合もあります。名義変更には子の協力が必要になるため、こうした整理も話し合いの中で決めていくことになります。合意ができたら、内容を書面に残しておくことが大切です。書面の作り方は【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界で解説しています。
子との関係に緊張がある場合
車の問題が、暴言や暴力、金銭の要求といった親子間の問題の一部として起きていることもあります。その場合、親が一人で返還を求めると、話し合いがこじれたり、身の安全に不安が生じたりするおそれがあります。
当事務所では、親の代理人として子との連絡窓口を引き受け、必要に応じて自立支援カウンセラーと連携しながら、お子さんの生活の立て直しも含めて対応しています。車の返還や名義の整理も、そうした全体の方針の中で進め方を考えることができます。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
よくあるご質問
子が車をすでに売ってしまっていたら、取り戻せますか?
売却先や名義の移り方によって、車そのものを取り戻せるかどうかの見通しは変わります。取り戻しが難しい場合は、子に対して、売却で得た代金に相当する金額の支払いを求めることを検討します。売却の事実に気づいた段階で、売買の経緯がわかる資料を早めに確保しておくことが大切です。
子に車をあげたことは、相続のときに考慮されますか?
子への車の贈与が生計の資本としての贈与にあたる場合は、相続の際に特別受益として考慮される可能性があります。車の価額や、ほかのお子さんへの援助との釣り合いなどによって扱いが変わるため、渡した時期や金額を記録に残しておくと、後の整理に役立ちます。
子に渡した車を取り戻せるかどうかは、「貸した」のか「あげた」のか、名義と費用負担がどうなっているのかによって大きく変わります。返還を求めるにしても、名義を子に移して整理するにしても、まずは手元の書類とやり取りを確かめ、無断で持ち帰るなどの行動は控えたうえで、進め方を選ぶことが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


