【親子問題】離婚した元配偶者に子の問題を伝えるべきか|伝える場面・伝えない場面

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の法令と公表資料にもとづいて作成しています。父母の離婚後の子の養育に関する改正民法(2026年4月1日施行)、法務省「Q&A形式の解説資料(民法編)」(2026年9月11日改訂版)、厚生労働省の扶養照会に関する事務連絡(2021年2月26日付)を参照しています。


「息子の暴力のことを、別れた夫に話すべきなのか迷っています」「元夫は何も知らずに再婚して暮らしているのに、私だけが抱え込んでいる気がします」。親子の問題のご相談では、離婚して子を引き取った親御さんから、このような声をうかがうことがあります。反対に、離れて暮らす側の親から「子が荒れていると人づてに聞いたが、元妻は何も教えてくれない」という戸惑いが寄せられることもあります。

 離婚した相手とは関わりたくないという気持ちは自然なものですし、「離婚後の連絡は必要最小限に」という一般的な助言も、それ自体は誤りではありません。ただ、子が成人していても親子関係と扶養の義務は父母の双方に残ります。さらに2026年4月からは、父母が婚姻関係の有無にかかわらず子のために協力すべきことが民法に明記されました。伝えるかどうかは、気持ちだけでなく、法律上の位置づけと今後の手続の見通しから考える必要があります。

 この記事では、子の暴力・ひきこもり・金銭の無心・刑事事件などの問題を抱えたとき、離婚した元配偶者に伝えるべきかを判断するための材料を整理します。子を引き取った母親と元夫という場面を例にしますが、父母が逆の場合も考え方は同じです。面会交流や養育費の取決めそのものの進め方は扱わず、親が子の問題に関われる範囲については【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で解説しています。

元配偶者に伝える義務はあるのか|離婚しても親子関係は続く

親子の扶養義務は離婚で消えない

 離婚によって終わるのは夫婦の関係であり、親子の関係は続きます。直系血族は互いに扶養する義務を負うため(民法877条1項)、子を引き取らなかった親も、子に対する扶養義務を負い続けます。2026年4月施行の改正民法では、父母は子が自己と同程度の生活を維持できるよう扶養しなければならないという規定が新設されました(同法817条の12第1項)。法務省の解説資料は、この義務を負う「子」の範囲を条文が未成年に限定していないことを示したうえで、具体的な範囲は解釈に委ねられているとしています。

父母相互の協力義務が新たに定められた

 同じ条文の第2項は、父母は婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使や義務の履行について、子の利益のために互いに人格を尊重し協力しなければならないと定めています(同法817条の12第2項)。法務省の解説資料でも、子が病気になった際の体調などについて、離れて暮らす親から問い合わせがあった場合には、適切な情報提供が重要になるという考え方が示されています。離婚した後も、子に関する事柄では父母が協力することが前提とされているという点は、伝えるかどうかを考える出発点になります。

ただし「何でも報告する」義務ではない

 一方で、子の状況を元配偶者に逐一報告するよう求める条文はありません。協力義務は、子の利益のために必要な場面で協力し合うことを求めるものです。法務省の解説資料も、DVや虐待があった事案では協力におのずと限界があり、できない協力を無理に強いるものではないとしています。伝えるかどうか、どこまで伝えるかは、子の年齢や親権の形、元配偶者との関係によって判断が分かれます。

子の年齢と親権の形で判断の枠組みが変わる

 まず、ご自身のご家庭がどの場面に当てはまるかを確認します。

子の状況元配偶者との法的な関係伝えることの位置づけ
未成年で父母双方が親権者重要な事項は父母が共同で決める入院・転居・転校などは原則として協議が必要
未成年で一方のみが親権者親権者が単独で決められる協議は不要だが、養育費の見直しなどでは情報の共有が前提になる
成人している親権はなく、扶養義務が残る子本人の意思を踏まえて判断する


未成年で父母双方が親権者の場合

 改正民法の施行後に離婚し、父母双方を親権者とした場合、親権は父母が共同して行います(民法824条の2第1項)。子の食事や習い事などの日常の行為は一方が単独で決められますが(同条2項)、生命に関わる医療や転居など、子に重大な影響を与える事柄は共同での判断が必要です。子の問題が入院や施設の利用、転校につながる場合は、元配偶者への連絡を避けて通れないことになります。なお、緊急の医療行為やDV・虐待からの避難など「子の利益のため急迫の事情があるとき」は単独で決めることができます(同条1項3号)。法務省の解説資料は、協議を求めたのに相当な期間反応がない場合には、黙示の同意があったと評価できる場面も多いとしています。

未成年で一方のみが親権者の場合

 改正前に離婚したご家庭の多くは、子を引き取った親が単独の親権者です。この場合、子の監護や教育に関する決定は親権者が行えるため、元配偶者に伝えることは法律上の要件ではありません。もっとも、治療や支援の費用が増えて養育費の見直しを求めるのであれば、子の状況を説明しないまま話合いを進めることは難しくなります(同法766条3項)。また、改正前に離婚した父母も、父母双方を親権者とする親権者変更を家庭裁判所に申し立てることができるとされています。元配偶者が後から子の状況を知り、関与を求めて手続を起こすことも制度上はありえます。

子が成人している場合

 子が18歳以上であれば親権はなく、父母に残るのは扶養義務です。経済的に自立した成人の子に対する扶養は、子が困窮していて親に余力がある範囲で求められる生活扶助義務と理解されることが多く、この義務は父母が同じ立場で負います。成人した子の問題では、子本人の意思と生活が中心になるため、親が知った事情を元配偶者に伝えることが子との関係にどう影響するかも考える必要があります。扶養の程度については【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく解説しています。

元配偶者に伝えることを検討したい場面

費用の負担を分け合いたいとき

 子の治療や生活の立て直しに費用がかかり、一方の親だけでは負担が重い場合です。成人した子の扶養について協議がまとまらなければ、家庭裁判所が扶養の程度や方法を定めますが(民法879条)、扶養料を求める調停は、扶養を受ける子本人が申し立てる形が基本です。また、一方の親がこれまで立て替えてきた費用を他方の親に求める場合、その分担は協議が調わなければ家庭裁判所の審判で定めるものとされています(最高裁昭和42年2月17日判決)。いずれの手続でも、元配偶者は子の状況を知ることになります。費用の分担を視野に入れるのであれば、手続に入る前の段階で事実を伝えておく方が、話は進めやすくなります。

子が元配偶者にも接触しているおそれがあるとき

 金銭の無心が続く子は、同居している親に断られると、離れて暮らす親に連絡することがあります。父母がお互いの事情を知らないまま、それぞれの判断でお金を渡していると、一方が断っても他方から資金が届き、無心が止まりにくくなります。断る方針をそろえるために、最低限の事実を共有しておく意味があります。金銭の要求への向き合い方は【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけをご覧ください。

元配偶者に連絡が及ぶ手続が見込まれるとき

 子が生活保護を申請すると、福祉事務所は扶養義務者に扶養の可否を照会することがあり、離れて暮らす親もその対象になりえます。厚生労働省は2021年に運用を見直し、10年程度音信不通である場合や、過去に暴力・虐待の経緯がある場合などは照会を行わない扱いを示していますが、すべての照会が省かれるわけではありません。照会の運用は【親子問題】生活保護の申請に同行するということ|扶養照会の実際で解説しています。

 また、子が逮捕された場合には、身元引受人を誰が担うかが問題になることがあります(【親子問題】身元引受人になることの意味と責任)。何も知らない元配偶者に、役所や警察から突然連絡が届くよりは、事前に伝えておいた方が双方の混乱は少なくなります。

伝えない、または伝え方を慎重にすべき場面

元配偶者からDVや虐待を受けていた場合

 婚姻中に暴力や虐待があった場合、協力義務を理由に連絡を取る必要はありません。法務省の解説資料も、DVや虐待の事案では、加害行為をした親との協力には限界があるとしています。住民票の閲覧制限などの支援措置を受けている場合は、連絡の内容から現住所や子の居場所が伝わらないよう、特に注意が必要です。どうしても伝える必要がある事情があれば、ご自身で連絡せず、弁護士など第三者を窓口にする方法を検討してください。

元配偶者の関与が問題を悪化させるおそれがあるとき

 元配偶者が子の言い分だけを聞いてお金を渡してしまう、子を強く責めて衝突を招く、父母の対立に子を巻き込む、といった懸念がある場合です。子の問題が親同士の争いの材料になると、子にとって父母のどちらにも本音を話しにくい状況が生まれやすくなります。伝えるとしても、何をしてほしいか、何はしないでほしいかを具体的に添えることが大切です。

成人した子本人が強く拒んでいるとき

 成人した子が「父親には知らせないでほしい」と求めている場合、その意思に反して伝えると、子との信頼関係が損なわれ、支援につながる入口が閉じてしまうことがあります。費用の分担や手続上の必要が生じるまでは伝える範囲を絞る、伝える時期を子と相談する、といった調整も考えられます。

伝えると決めたときの進め方

伝える内容を三つに分けて整理する

 これまでの思いを含めて長い説明をすると、相手からの反発や詮索を招くことがあります。事前に次の三つを分けて整理しておくと、やり取りが必要な範囲にとどまりやすくなります。

  • 現在起きている事実(暴力の有無、生活の状況、関係機関への相談状況など)。
  • 元配偶者にお願いしたいこと(費用の分担、子から連絡があった場合の対応、手続への協力など)。
  • 元配偶者にしないでほしいこと(子への直接の金銭援助、子の居場所を第三者に伝えることなど)。


記録が残る方法で伝える

 電話や対面では「言った・言わない」の食い違いが生じやすいため、メールや書面など内容が残る方法が向いています。元配偶者と直接やり取りすることに負担がある場合や、これまでの経緯から冷静な話合いが難しい場合は、弁護士を窓口にすることで、ご自身が元配偶者と直接話さずに必要な事項を伝えることができます。

再婚家庭や将来の相続も視野に入れる

 元配偶者が再婚している場合、子の問題を伝えることがその家庭に影響することもあります。それでも、再婚の有無にかかわらず実の親としての扶養義務は残ります。相手の家庭の事情には踏み込まず、子に関する事柄に絞って伝える姿勢が、協力を得やすくします。また、子は元配偶者の相続人でもあります(民法887条1項)。親が亡くなった後の子の生活を考える際にも、父母それぞれの状況を把握しておく意味があります。この点は【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかで取り上げています。

よくあるご質問

離婚の際に「今後一切連絡しない」と約束しました。それでも伝えるべきでしょうか。

 当事者間の約束は尊重されるべきものですが、子が扶養を受ける権利は処分できないとされており(民法881条)、父母の約束によって子の権利が失われるわけではありません。約束の趣旨を踏まえつつ、費用の分担や手続上の必要がある事項に限り、第三者を通じて伝える方法が考えられます。

子の問題を伝えたところ、元配偶者が子を引き取ると言い出しました。

 子が未成年の場合、親権者を変更するには家庭裁判所の手続が必要で、子の利益のために必要かどうかが判断されます(民法819条6項)。元配偶者の申出だけで親権が移ることはありません。子が成人している場合は親権がないため、どこで誰と暮らすかは子本人が決めることになります。

弁護士に相談したことが元配偶者に知られることはありますか。

 弁護士には守秘義務があり、ご相談の内容をご本人の了解なく元配偶者やお子さんに伝えることはありません。連絡の取り方についても、ご事情に合わせて調整します。詳しくは【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方をご覧ください。

まとめ


  1. 離婚しても親子関係は続き、子を引き取らなかった親も子に対する扶養義務を負う(民法877条1項、同法817条の12第1項)。
  2. 2026年4月施行の改正民法で、父母は婚姻関係の有無にかかわらず子のために協力すべきことが定められた(同法817条の12第2項)。
  3. もっとも、子の状況を逐一報告する義務はなく、DVや虐待があった場合に協力を強いるものではない。
  4. 未成年で父母双方が親権者なら、重要な事項は共同で決める必要がある。ただし急迫の事情があれば単独で決められる(同法824条の2)。
  5. 費用の分担、子による元配偶者への接触、生活保護の扶養照会や身元引受など、元配偶者に連絡が及ぶ場面では事前に伝える意味がある。
  6. 伝える場合は、事実・お願いしたいこと・しないでほしいことを分け、記録が残る方法で伝える。
  7. 直接のやり取りが難しい場合は、弁護士を窓口にする方法がある。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、子の暴力やひきこもり、金銭の無心、犯罪行為など、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親御さんの代理人となり、自立支援カウンセラーとチームを組んで対応します。遠方にお住まいの方からのご依頼にも対応しています。

離婚した元配偶者にどこまで伝えるべきか迷っている方も、元配偶者との連絡そのものに負担を感じている方も、おひとりで抱え込まずにご相談ください。ご事情をうかがったうえで、伝える範囲や方法も含めて方針を一緒に考えます。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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