【親子問題】子が発達障害と言われた、親子の関わり方は変わる?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

成人した子が医療機関で発達障害と診断された、あるいは職場や支援機関から特性を指摘されたと聞いて、これまでの接し方を振り返ったり、この先どう関わればよいのか迷ったりする親御さんは少なくありません。暴言やお金の要求、ひきこもりなどが続いてきた家庭では、「障害があるのなら、これまでのことは仕方がなかったのか」「親として、もっと支えなければならないのか」と考え込んでしまうこともあるでしょう。

 この記事では、診断や指摘をきっかけに変わること・変わらないことを法律の面から整理し、親が利用できる相談先や、子の行動に困っている場合の進め方をご説明します。

本記事は、発達障害の診断や治療について医学的な判断を示すものではありません。特性の見立てや具体的な接し方は、主治医や発達障害者支援センターなどの専門機関にご相談ください。記事の内容は2026年10月時点の法令・制度に基づいています。


診断が出ても、法律上の親子の関係は変わらない

まず押さえておきたいのは、発達障害の診断があっても、成人した子と親の法律上の関係はそのままだという点です。18歳以上の子に親権はなく、子は自分の名前で契約を結び、自分の財産を管理し、どこに住むかを自分で決める立場にあります。診断名がついたことで、親が子の生活を管理する権限が新たに生まれるわけではありません。

 反対に、親の側の義務が急に重くなるわけでもありません。成人した子に対する親の扶養義務は、民法877条1項に基づくもので、一般に「自分の生活を保ったうえで、余力の範囲で援助する」程度のものと理解されています。ただし、障害の程度などから子が働いて生活を立てることが難しい事情があるときには、その事情が援助の要否や程度を考える際に考慮されることがあります。診断名があるかどうかより、子が実際にどの程度自分で生活できるかが問われる、と考えておくとよいでしょう。

 扶養義務の考え方については【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで、親がどこまで子の問題に関われるかについては【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で詳しく解説しています。

まず「言われた」の中身を確かめる

「発達障害と言われた」という情報は、誰から、どのような形で伝えられたかによって意味が異なります。医師が診察や検査を経て診断したものなのか、職場や支援機関の担当者が特性の可能性を指摘した段階なのか、本人が自分で調べて「そうだと思う」と話しているのかによって、その後に利用できる制度も変わってきます。

伝えられ方位置づけ親が確かめたいこと
医師による診断医学的な判断として示されたもの主治医の有無、通院を続ける意向
職場・学校・支援機関からの指摘受診を勧める段階であることが多い本人が受診を考えているか
本人の自己判断診断ではない本人が困っていることの中身
親が周囲から言われた第三者の見立てにとどまる本人に伝えるかどうか、伝え方


 医師の診断がある場合でも、その内容は子本人の医療情報です。成人した子の診療の内容を親が主治医から直接聞くには、原則として本人の同意が必要になります。親が先回りして医療機関に問い合わせるよりも、本人がどこまで家族と共有してよいと考えているかを確かめ、同意を得たうえで説明を受ける機会をつくるほうが、その後の関係を保ちやすいでしょう。

 本人がまだ受診していない段階で、親が先に相談したいという場合には、家族からの相談を受け付けている窓口を利用する方法もあります。医療につなぐかどうかの考え方は、【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断も参考になります。

関わり方で変わるのは「伝え方」と「頼り先」

法律上の関係は変わらなくても、診断や指摘は親子の関わり方を見直すきっかけになります。変わるのは主に、親から子への伝え方と、親が頼れる相談先の幅です。

特性を踏まえると、伝え方を選びやすくなる

発達障害の特性は人によって大きく異なりますが、あいまいな言い方が伝わりにくい、予定の急な変更に強い不安を感じる、口頭で一度に多くのことを言われると整理しにくい、といった傾向が見られることがあります。思い当たる点があれば、伝えたいことを一つずつに分ける、大事な約束はメモや書面に残す、話し合いの日時を前もって知らせる、といった工夫が役に立つ場合があります。

 こうした工夫は、生活費の負担や家を出る時期など、法的な意味を持つ取り決めを話し合う場面でも生きてきます。内容を書面に残しておけば、後から「言った・言わない」の行き違いが生じにくくなり、本人にとっても何を約束したのかを確認しやすくなります。

「育て方のせい」と抱え込みすぎない

診断を聞いて、自分の育て方に原因があったのではないかと考え込む親御さんもいます。現在、発達障害は生まれつきの脳の機能の特性によるものと考えられており、親の接し方だけで生じるものではないとされています。

 一方で、特性が周囲に理解されないまま叱責や失敗が重なると、気分の落ち込みや不安などの二次的な不調につながることがあるとも指摘されています。過去を振り返って自分を責めるよりも、これからの環境をどう整えるかに目を向けるほうが、親子双方の負担を軽くしやすいでしょう。

診断は、暴力やお金の要求を受け入れる理由にはならない

特性への理解を深めることと、子の求めにすべて応じることは別の問題です。障害があるからといって、親が暴力や暴言、繰り返されるお金の要求を受け入れなければならない義務は生じません。家族の間であっても、暴力があれば診断の有無にかかわらず暴行罪や傷害罪の問題になり得ますし、親が身を守るために警察へ相談することも妨げられません。

 「障害があるのだから我慢しなければ」と親だけが負担を抱え続けると、親の心身が疲弊するだけでなく、子が適切な支援につながる時期を遅らせてしまうこともあります。理解することと、線を引くことは両立させられる、という前提に立って考えることが大切です。

診断をきっかけに検討できる制度と相談先

診断があることで、利用を検討できる制度や相談先が広がる場合があります。主なものは次のとおりです。

  • 発達障害者支援センターは、発達障害者支援法に基づいて都道府県・政令指定都市に設けられており、本人だけでなく家族からの相談も受け付けています。
  • 精神保健福祉センターや保健所では、本人が受診していない段階での家族相談や、医療機関についての情報提供を受けられることがあります。
  • 精神障害者保健福祉手帳は発達障害も対象とされており、取得すると税の控除や各種の割引、障害者雇用の枠での就職などを検討できるようになります。
  • 障害年金は、初診日や障害の程度などの要件を満たす場合に、受給できる可能性があります。
  • 就労移行支援などの障害福祉サービスでは、働くための訓練や職場探しの支援を受けられます。
  • 日常生活自立支援事業や成年後見制度は、お金の管理に不安がある場合に第三者の支援を受ける仕組みです。


 これらの手続は、原則として本人が申請するものです。親が代わりに決めてしまうのではなく、情報を集めて選択肢として示し、本人が選べるように支える関わり方が基本になります。

 なお、成年後見制度は、精神上の障害によって判断能力が十分でない場合に、家庭裁判所が支援する人を選ぶ制度です。発達障害の診断があることだけで対象になるわけではなく、本人の判断能力の程度に応じて補助・保佐・後見のいずれが適するかが判断されます。特に補助を始めるには本人の同意が必要とされており、本人の意思が尊重される仕組みになっています。

 働く場面の支援については【親子問題】就労支援の選択肢|サポステ・就労準備支援事業の実際、お金の管理を第三者に任せる仕組みについては【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違いと【親子問題】浪費が止まらない子|保佐・補助を検討する場面で取り上げています。親が亡くなった後の生活まで視野に入れたい場合は、【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかもご覧ください。

子が外でトラブルを起こしたとき、親が責任を負うのか

成人した子が他人にけがをさせたり物を壊したりした場合、自分の行為の責任を理解できる能力(責任能力)があれば、賠償の責任を負うのは子本人です。発達障害があっても、多くの場合はこの能力までが否定されるわけではありません。

 民法714条は、責任能力がない人が損害を与えた場合に、その人を監督する法律上の義務がある人が責任を負うと定めています。この点について、認知症の高齢者が起こした鉄道事故をめぐる最高裁判所の判決(最判平成28年3月1日)は、同居する家族であることだけで直ちに監督義務者に当たるわけではないとしたうえで、日常的な関わりの程度などによっては、監督義務者に準ずる者として責任が問われる余地があることを示しました。

 この判決は成人した子の事案にそのまま当てはまるものではありませんが、親が「家族だから当然に責任を負う」わけではない一方、事情によっては親の関わり方が問われる場面もある、ということは知っておくとよいでしょう。家族で加入している個人賠償責任保険の補償の範囲を確認しておくことも、備えの一つになります。

 子が刑事事件の当事者になった場合には、取調べの場面で特性への配慮が問題になることもあります。この点は発達障害・知的障害がある人の取調べ|迎合的な供述への備えで解説しています。

暴力やお金の要求が続いている場合の進め方

診断の前から暴力やお金の要求が続いている家庭では、特性を理解しようとするほど、親が強く出られなくなることがあります。そのような場合は、次の順序で整理していくと考えやすくなります。

  1. 身の安全を確保し、危険が迫っているときは110番通報をためらわないようにします。
  2. けがの状態や壊された物、言われた言葉などを、日付とともに記録に残します。
  3. 主治医や支援機関に、家庭の中で起きていることを具体的に伝えます。
  4. お金の要求への対応や話し合いの窓口を、親から第三者に移すことを検討します。


 暴力を受けているときの初動については、【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録で詳しく説明しています。

 親が子と直接向き合い続けることが難しくなっている場合には、弁護士が親の代理人として子との連絡や要求への対応を引き受け、生活面の支援は自立支援のカウンセラーが担う、という形で役割を分ける方法もあります。特性のある子にとっても、誰と何を話すのかがはっきり分かれていることで、自分に何が求められているのかを理解しやすくなる場合があります。役割分担の考え方は、【親子問題】弁護士とカウンセラーが組むという形|役割を分ける理由をご覧ください。

まとめ


  • 発達障害の診断があっても、成人した子と親の法律上の関係や扶養義務の基本は変わりません。
  • 診断と指摘では意味が異なるため、誰から何を言われたのかをまず確かめることが大切です。
  • 特性を踏まえた伝え方の工夫は、取り決めをめぐる行き違いを減らすことにもつながります。
  • 診断は、暴力やお金の要求を受け入れなければならない理由にはなりません。
  • 支援センターや手帳、障害年金など、診断をきっかけに検討できる制度があります。


子の特性と家庭の問題を分けて考えるために

子の特性を理解することと、家庭の中で起きている問題に対処することは、どちらか一方を選ぶものではありません。弁護士法人若井綜合法律事務所では、成人した子の暴力やお金の要求、ひきこもりなどに悩む親御さんからのご相談をお受けしています。子の特性に配慮しながら、親の安全と生活を守るための方針を、自立支援カウンセラーと連携して一緒に考えます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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