「罰金」を請求された|私人が罰金を科すことはできない
インターネット上に自分の氏名や写真、経歴などが書き込まれ、それが転載されて広がっていく状況では、「消したい」という気持ちと「誰が書いたのかを知りたい」という気持ちが同時に生まれます。ところが、この二つは別々の手続として動くため、どちらから手を付けるかによって、後からできることが変わる場面があります。
インターネット上の解説を見ると、「まず削除を急いだほうがよい」という説明と、「先に投稿者の特定を進めたほうがよい」という説明の両方が見つかります。どちらにも理由があり、書き込みの中身や残っている記録の状態によって答えが分かれるためです。
この記事では、削除と発信者情報の開示がそれぞれどのような手続なのかを整理したうえで、順序が結果に影響しうる場面を説明します。個別のサイトの削除フォームの記入方法や、書き込みが何罪に当たるかの振り分け、慰謝料の金額には立ち入りません。なお、住居への押しかけや身体への危害を予告する内容が含まれている場合は、手続の検討と並行して110番や警察相談専用電話(#9110)への相談もご検討ください。
削除と特定は、別の手続として動いている
同じ書き込みを対象にしていても、削除と特定では、相手方も、求めるものも、判断の物差しも異なります。まず両者の違いを整理します。
| 比較の観点 | 投稿の削除 | 発信者の特定 |
|---|---|---|
| 求めるもの | 投稿が表示された状態を止めること | 投稿に用いられた通信の記録の開示 |
| 相手方 | サイトやSNSの運営者、サーバーの管理者 | 運営者と、その先のアクセスプロバイダ(回線事業者) |
| 主な手段 | 運営者への削除の申出、裁判所への仮処分の申立て | 情報流通プラットフォーム対処法に基づく開示請求、開示命令の申立て |
| 時間の感覚 | 申出であれば数日から数週間のことがある | 複数の相手方に順にたどるため数か月に及ぶことがある |
東京地方裁判所は、発信者情報開示命令の手続の中で投稿記事の削除を求めることはできず、削除を求める場合には保全命令の申立てなどによることになる、という説明を公表しています。一つの申立てで両方が片付くわけではなく、二つの流れを並行させるか、順番に進めるかを選ぶことになります。
順序が問題になるのは、二つの時間が逆を向くからです
残していると、転載が進む
投稿がそのまま表示されていれば、引用や転載、まとめ記事の作成といった形で、元の投稿とは別の場所に同じ内容が置かれていきます。後から元の投稿を削除しても、転載先が自動的に消えるわけではありません。
消してしまうと、特定の材料が細くなる
発信者の特定は、画面に表示されている文章そのものではなく、その投稿やログインの際の通信の記録をたどる作業です。手続を進めるには、どのURLのどの投稿を問題にしているのかを示す必要があり、投稿が削除された後では、その裏づけとなる資料を用意しにくくなることがあります。
また、アクセスプロバイダが保有する接続の記録は、長く残るものではありません。裁判所が公表している申立書の記載例にも、保存期間が3か月程度と短いために早期に手続を進める必要がある、という趣旨の説明が置かれています。時間が経つほど、特定の側の選択肢は細くなっていきます。
もっとも、投稿が画面から消えたからといって、事業者の側の記録まで同時に消えるとは限りません。消えたから終わりでもなく、消えていないから間に合うとも限らないという前提で、いま何がどこに残っているかを確かめるところから始めることになります。
元の投稿と転載先では、動かし方が変わります
同じ内容であっても、置かれている場所が違えば、申し出る相手も変わります。元の投稿を消しても転載先には届かず、転載先を消しても元の投稿は残ります。どこに何があるのかを先に書き出しておくと、削除を申し出る先と、特定の対象にする投稿とを切り分けやすくなります。
特定については、目にした投稿をすべてそろえてから動くとは限らず、権利の侵害がはっきりしている投稿に絞って手続を起こすという進め方も考えられます。一方、削除は置かれている場所ごとに申し出ることになるため、件数が増えるほど手間と時間がかかります。同じ「全部どうにかしたい」でも、削除と特定では作業量の増え方が違うという点は、順序を考えるうえでの手がかりになります。
どちらを先にするかより先に決まること
削除と特定のどちらを先に動かす場合でも、共通して先に済ませておくことがあります。投稿の記録を、自分の手元に残しておくことです。
画面を撮影した画像だけでは、どの投稿を指しているのかを後から示しきれないことがあります。次の項目をあわせて控えておくと、その後の選択肢が狭まりにくくなります。
- 投稿が表示されているページのURL。
- 投稿そのもののURL(個別の投稿ページが用意されている場合)。
- 投稿された日付と時刻。
- 投稿したアカウントの表示名とID、プロフィール画面。
- 投稿の全体が分かる画面(前後のやり取りや返信を含みます)。
- 自分が記録を取得した日付と時刻。
- 転載されている場合は、転載先のURLと、元の投稿との対応関係。
この作業を、相手や運営者に削除を求める前に済ませておくと、削除が実現した場合でも、その後の検討材料が手元に残ります。
目的から逆算すると、順序は決まりやすくなります
「どちらが先か」を一般論だけで決めるのは難しく、何を重く見るかによって選び方が変わります。
| 重く見ていること | 先に動かす候補 | あわせて考えること |
|---|---|---|
| 人目に触れる状態を止めたい | 削除 | 記録を固めてから申し出る。転載先の把握も同時に行う |
| 書いた人に責任を問いたい | 特定 | 時間の経過で記録が失われることがあり、着手の時期が問題になる |
| 同じ人が繰り返している | 特定 | 個々の投稿を消しても、書き込み自体が止まるとは限らない |
| 生活や身体の安全に不安がある | 警察への相談 | 削除や開示の手続と並行して進めることができる |
なお、相手の見当がついている場合でも、匿名のアカウントからの投稿であれば、その人物が投稿者であることを手続の中で示す必要が出てきます。「誰か分かっているから特定はいらない」とは限らない点にはご注意ください。
認められる幅は、削除と開示で同じではありません
削除と開示は、判断の基準も同じではありません。開示については、情報流通プラットフォーム対処法5条1項が、権利が侵害されたことが「明らか」であることを求めています。削除の場面より要件が絞られているため、削除の申出が通った投稿について、開示まで認められるとは限りません。
一方で、運営者への削除の申出は、法律が削除そのものを義務づける仕組みではありません。同法は、規模の大きな事業者に対して、申出の窓口や削除の基準を公表することと、申出を受けてから原則として7日以内に調査の結果を通知することを求めています。通知の対象は調査の結果であり、削除するという結論が約束されているわけではない点は、あらかじめ押さえておきたいところです。
また、1対1のダイレクトメッセージのように、不特定の人が受信することを目的としない通信は、開示の制度の対象外と整理されています。
制度の側にも、順序への手当てがあります
削除と特定が別の手続であることから生じる不都合については、法律の側にも一定の手当てが置かれています。
- 開示命令の申立て(情報流通プラットフォーム対処法8条)。裁判所が発信者情報の開示を命じる手続で、通常の訴訟とは別の枠組みで進みます。
- 提供命令(同法15条)。開示命令の申立てを受けた事業者に、次にたどるべき事業者の名称などを申立人に提供させ、または保有する情報をその事業者へ渡させる手続です。
- 消去禁止命令(同法16条)。開示命令の事件が続いている間、事業者が保有する発信者情報を消さないよう命じる手続です。
消去禁止命令は、手続の途中で記録が失われることを防ぐためのものです。開示に向けた手続が起こされていることが前提になるため、「表示は早く止めたいが、特定の材料は残しておきたい」と考える場合には、開示の側の手続をどの段階で起こすかが検討の対象になります。
動き出す前に確かめておきたいこと
- 書き込みの中で、自分だと分かる形になっているか(実名がなくても、勤務先や写真の組合せで分かる場合があります)。
- 問題としたい投稿がいくつあり、どれが元で、どれが転載か。
- 同じアカウントによるものか、複数のアカウントにまたがっているか。
- 自分で削除を申し出た経過があるか、その結果はどうだったか。
- 投稿からどれくらいの期間が経っているか。
控えたほうがよい対応
- 記録を残す前に、投稿者へ直接削除を求めること。応じられた場合に、手元に何も残らないことがあります。
- 同じ場で言い返す、相手の情報を書き返すこと。立場が入れ替わることがあります。
- 自分のアカウントを消してしまうこと。自分の側の説明材料も一緒に失われます。
- 投稿が消えたことをもって終わりと考えること。転載先が残っていることがあります。
- 確かめないまま、特定の人物を投稿者だと名指しすること。
よくあるご質問
投稿が消えてしまったら、特定はできませんか
消えたというだけで手続ができなくなるわけではありません。裁判所が公表している申立書の記載例には、問題とする投稿の中に削除済みのものがある場合の記載欄が設けられており、その状態はあらかじめ想定されています。もっとも、投稿の内容や日時を裏づける資料は用意しにくくなるため、手元にどこまで記録が残っているかが検討の出発点になります。
削除と特定を同時に進めることはできますか
別々の手続として並行させることは考えられます。ただし、削除が先に実現すると、開示の手続で用いる資料の入手が難しくなる場合があるため、どちらをどの順で起こすかは、投稿の数や残されている記録の状態を見て判断することになります。
運営者が削除に応じてくれない場合はどうなりますか
申出に応じてもらえなかったときは、裁判所に対して削除の仮処分を申し立てるという手段があります。運営者が海外の法人である場合には、書面のやり取りや担保の扱いなど、進め方に別の検討が必要になることがあります。応じてもらえなかったという経過そのものも記録として残しておくと、その後の手続で説明しやすくなります。
どのくらいの期間と費用がかかりますか
相手方となる事業者の数、投稿の件数、任意の申出に応じてもらえるかどうかによって幅があり、一律の目安を示すことは難しいところです。特に開示は複数の相手方を順にたどるため、削除よりも時間がかかる傾向があります。
まとめ
- 削除と発信者の特定は、相手方も判断の基準も異なる別の手続で、一つの申立てで両方が片付くわけではありません。
- 残しておけば転載が進み、消してしまえば特定の材料が細くなるという、逆を向いた時間の制約があります。
- どちらを先にする場合でも、投稿の記録を自分の手元に固めることが先に来ます。
- URLと日時、アカウントの情報、画面の全体、取得した日時を控えておくと、その後の選択肢が狭まりにくくなります。
- 何を重く見るかによって、先に動かす手続は変わります。
- 開示は権利が侵害されたことが「明らか」であることが求められ、削除より要件が絞られています。
- 運営者への削除の申出は、削除という結論を約束する仕組みではありません。
- 提供命令や消去禁止命令など、記録が失われることへの手当ても、制度の中に置かれています。
書き込みの内容や、残っている記録の状態によって、先に動かしたほうがよい手続は変わります。当事務所では、インターネット上の書き込みに関するご相談をお受けしています。どの投稿を問題にしたいのか、どこまで記録が残っているのかをお持ちいただければ、順序を含めた進め方を一緒に整理いたします。


