【親子問題】「殺す」と言われた|脅迫罪として扱われる線引き
本記事は、2026年10月時点の刑法・民法・情報流通プラットフォーム対処法などに基づいて作成しています。2025年6月1日施行の改正刑法により、懲役と禁錮は「拘禁刑」に一本化されているため、本文の法定刑は改正後の表記で記載しています。
「同居している息子が、SNSに私たち夫婦の悪口を毎日のように書いている。近所の人に知られないか心配でたまらない」「家を出た娘が、実家の住所や父の勤務先まで投稿していた。削除させたいが、連絡をすると余計にこじれそうで動けない」。親子の問題のご相談の中で、こうしたSNSをめぐるお悩みは珍しいものではなくなりました。
SNSの誹謗中傷については、名誉毀損や侮辱にあたる場合があること、削除請求や発信者情報開示請求ができることなどが、多くのサイトで説明されています。その説明自体は誤りではありません。ただ、多くは「誰が書いたか分からない匿名の相手」を前提にしており、書いているのが自分の子である場合に親が直面する迷い、つまり「わが子を相手に法的な手段をとってよいのか」「家族関係はどうなるのか」という点には、あまり触れられていません。
この記事では、成人した子がSNSに家族の悪口や個人情報を書いている場合を中心に、法律上どのように整理されるのか、削除を求める順序、親がしてはいけない対応を解説します。子の暴力や警察への相談そのものについては、別の記事に詳しくまとめていますので、あわせてご覧ください。
書いているのが子でも、法律上の扱いは変わらない
名誉毀損・侮辱・プライバシー侵害の違い
SNSへの投稿で問題になるのは、主に次の三つです。
- 名誉毀損は、具体的な事実を示して社会的な評価を下げる投稿です。「父は会社の金を使い込んでいる」といった書き込みが典型です。
- 侮辱は、事実を示さずに人をおとしめる投稿です。「親はクズ」といった抽象的な悪口がこれにあたります。
- プライバシー侵害は、住所・勤務先・病歴・家庭内の出来事など、他人に知られたくない私生活の情報を公開することです。
名誉毀損は、示した事実が本当かどうかにかかわらず成立し得る点に注意が必要です(刑法230条1項)。公共の利害に関する事実で、公益を図る目的があり、真実であると証明された場合には罰せられない例外がありますが(同法230条の2)、家庭内の出来事がこの例外にあたる場面は限られます。法定刑は、名誉毀損罪が3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、侮辱罪が1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です(同法231条)。
親子だから罪にならない、という特例はない
親子の間で起きた出来事について、「家族のことだから警察は動けない」と説明された経験をお持ちの方もいるかもしれません。これは、窃盗や詐欺などの財産に対する犯罪について、同居の親族の間では刑が免除される特例(刑法244条、251条)があることが背景にあります。
しかし、名誉毀損や侮辱にはこのような親族間の特例はありません。書いているのが子であっても、法律上は他人が書いた場合と同じように扱われます。この点は、暴行や傷害に特例が及ばないのと同じ構造です。
【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲
「個人情報保護法違反」にはならないことが多い
住所や勤務先を書かれた場合、「個人情報保護法に違反するのではないか」と考える方が多くいらっしゃいます。ただ、個人情報保護法は主に事業者を規律する法律で、個人が私的に投稿した場合には直接適用されないのが通常です。個人による住所や勤務先の公開は、民法上のプライバシー侵害(民法709条、710条)として、削除や損害賠償を求める形で扱うことになります。
匿名の投稿とは何が違うのか
投稿者を特定する手続はいらない
SNSの誹謗中傷の対応では、まず投稿者を特定するために発信者情報開示請求を行うのが一般的です。しかし、書いているのが自分の子だと分かっている場合、この手続は通常必要ありません。アカウントが匿名であっても、投稿の内容や時期から子のものと判断できることが多いためです。
そのため、親子の場合に問題となるのは「誰が書いたか」ではなく、「誰に、どの順番で、何を求めるか」という点です。
相手と生活がつながっていることの難しさ
匿名の相手であれば、削除と賠償を求めて関係を終えることができます。一方、子が相手の場合には、同居していたり、生活費を援助していたり、今後も親子であり続けたりと、生活そのものがつながっています。強い対応をとれば家庭内の緊張が高まるおそれがあり、何もしなければ投稿が続くおそれがあります。この板挟みが、親が動けなくなる最大の理由です。
まず確保しておくべきこと
投稿の記録を残す
削除を求める前に、投稿の記録を残しておくことが大切です。削除された後では、どのような投稿があったのかを示せなくなるためです。
- 投稿の全体と、投稿日時・アカウント名・URLが分かる形でスクリーンショットを撮ります。
- スマートフォンだけでなく、可能であればパソコンの画面でも保存し、URLを控えます。
- いつ投稿に気づいたか、どのような影響があったか(近所の人や勤務先から連絡があった等)をメモに残します。
住所や勤務先が書かれている場合は安全の確認を優先する
住所や勤務先、家族の顔写真などが投稿されている場合は、悪口の投稿よりも優先して対応を考える必要があります。投稿を見た第三者が自宅や職場を訪れる可能性があるためです。不審な訪問や連絡がある場合には、早めに警察へ相談し、相談した記録を残しておくことをおすすめします。
【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続
削除を求める順序
子本人に削除を求める
投稿者が分かっている以上、最も早く確実なのは、子本人に投稿を削除してもらうことです。ただし、親が直接求めると口論になったり、かえって投稿が増えたりすることがあります。
このような場合、弁護士が親の代理人となり、書面で削除と今後の投稿の中止を求める方法があります。親が直接やり取りをしないことで感情的な衝突を避けられ、子にとっても「法的な問題として受け止められている」ことが伝わりやすくなります。
【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択
SNSの運営会社に削除を申し出る
子が削除に応じない場合や、子と連絡を取ること自体が難しい場合は、SNSの運営会社に削除を申し出ます。2025年4月に施行された情報流通プラットフォーム対処法により、利用者の多い大規模なプラットフォーム事業者には、削除の申出に対して一定の期間内に判断し、結果を通知することが義務づけられました。
【男女トラブル】情報流通プラットフォーム対処法で削除依頼はどう変わったのか
運営会社が削除に応じない場合には、裁判所に削除を求める仮処分を申し立てる方法もあります。
【不当要求対応】削除を求めたのに応じてもらえない|プラットフォームが動かない場合
損害賠償や刑事告訴は、家族関係への影響を考えてから
名誉毀損やプライバシー侵害が認められれば、慰謝料などの損害賠償を求めることができます(民法709条、710条)。また、名誉毀損罪と侮辱罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪です(刑法232条1項)。告訴は、原則として犯人を知った日から6か月以内に行う必要があります(刑事訴訟法235条)。
ただ、子を相手に賠償を求めたり告訴をしたりすることは、親子関係に大きな影響を与えます。法的な手段は「とるかどうか」だけでなく「とった後に家族がどうなるか」まで考えて選ぶことが大切です。削除と投稿の中止で目的が達せられるのであれば、そこで区切りをつけるという判断も十分に考えられます。
【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えること
親がしてはいけない対応
子のアカウントに無断でログインして削除する
子のパスワードを知っていても、本人の許可なくログインして投稿を削除することは、不正アクセス禁止法に違反するおそれがあります。親子であっても例外ではありません。
他人のIDでログインした|不正アクセス禁止法の成立範囲
SNS上で反論する・子の私生活を書き返す
事実と異なる内容を書かれると、反論したくなるのは自然なことです。しかし、SNS上で反論すると、やり取りが人目にさらされて投稿が広がったり、反論の中で子の病歴や過去の出来事に触れて、親の側がプライバシー侵害を問われたりするおそれがあります。
【不当要求対応】対応しているうちに自分が加害者にならないために
スマートフォンを取り上げる・通信を止める
成人した子のスマートフォンを取り上げたり、子名義の契約を勝手に解約したりすると、子の財産や権利を侵害するおそれがあります。親名義で契約している回線であっても、急に止めると家庭内の衝突につながることがあるため、手順を考えてから対応することをおすすめします。
投稿の背景にあるものを見る
投稿は子からのサインであることもある
家族の悪口を書き続ける背景には、親への強い不満や、孤立感、精神的な不調が隠れていることがあります。夜中に投稿が集中している、内容が急に攻撃的になったといった変化がある場合は、医療につなぐことを検討する必要があるかもしれません。
【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断
また、投稿の中に、親として振り返るべき指摘が含まれていることもあります。投稿を削除させることと、子が抱えている不満に向き合うことは、別々に考える必要があります。
削除だけでは終わらない場合
投稿を削除させても、親子の関係そのものが変わらなければ、別の形で同じことが繰り返されることがあります。同居している場合には、親子が物理的に距離をとることで、互いに落ち着きを取り戻せるケースもあります。
【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点
よくあるご質問
未成年の子が家族の悪口を書いている場合も、同じように考えるのですか?
法律上は名誉毀損やプライバシー侵害にあたり得る点は同じですが、未成年の子の場合、親は親権者として子を監護・教育する立場にあります。そのため、法的な手段よりも、家庭での話し合いや学校・相談機関との連携を中心に考えることになるのが一般的です。
弁護士に相談したことは、子に知られてしまいますか?
弁護士には守秘義務があり、ご相談いただいた内容を、ご依頼者の了解なく子に伝えることはありません。子への連絡を始める時期や方法も、ご相談のうえで決めていきます。
【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方
投稿が削除されても、検索結果に残っている場合はどうすればよいですか?
元の投稿が削除されれば、時間の経過とともに検索結果からも消えていくのが通常です。ただ、まとめサイトなどに転載されている場合には、転載先や検索事業者に対して別に削除を求める必要があります。
検索結果からの削除はどこまで認められるか
まとめ
- 子が書いた投稿であっても、名誉毀損(刑法230条)、侮辱(同法231条)、プライバシー侵害(民法709条、710条)にあたり得ます。
- 窃盗などに認められる親族間の特例(刑法244条)は、名誉毀損や侮辱には及びません。
- 投稿者が分かっているため、発信者情報開示請求は通常必要ありません。問題は誰に、どの順で、何を求めるかです。
- 削除を求める前に、投稿日時・アカウント名・URLが分かる形で記録を残し、住所などが書かれている場合は安全の確保を優先します。
- 削除は、子本人への請求(弁護士を窓口にする方法を含む)、運営会社への申出(情報流通プラットフォーム対処法)、裁判所の仮処分の順に検討します。
- 名誉毀損罪と侮辱罪は親告罪で(刑法232条1項)、告訴は原則として犯人を知った日から6か月以内です(刑事訴訟法235条)。
- 無断ログインによる削除やSNS上での反論は、親の側が責任を問われるおそれがあるため避けます。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親の代理人として子との窓口を担い、自立支援カウンセラーとチームを組んで、投稿の削除にとどまらない親子それぞれの生活の立て直しを支援しています。5年以上にわたり、北海道から沖縄まで全国の親子の問題に取り組んできました。
子のSNSへの投稿に悩み、どこに相談すればよいか分からずにいる方は、一人で抱え込まず、まずはご相談ください。ご相談から支援までの流れや費用については、【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問でご紹介しています。


