【親子問題】薬物の問題を抱える子と家族の関わり方|距離の取り方という視点
この記事は、2026年10月時点の法令と、警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」(2026年6月公表)などの公的資料にもとづいて書いています。警察庁は令和8年から統計上の分類を改め、SNS型投資詐欺・SNS型ロマンス詐欺を特殊詐欺の一手口として位置づけています。
「息子が『警察の捜査に協力しているだけだ』と言って、預金を別の口座に移している。止めると『家族に話したら逮捕される』と怒り出す」。「娘は投資で利益が出ていると画面を見せてくる。詐欺ではないかと言っても、『お母さんには分からない』と取り合わない」。親子の問題のご相談の中で、このようなお話を伺うことが増えています。
特殊詐欺の手口や相談窓口については、警察や自治体が多くの情報を出しており、その内容はいずれも正確です。ただ、そうした情報の多くは「だまされた本人が気づいて相談する」場面を前提にしています。本人が被害を認めず、しかも成人しているために親が代わりに手続をすることもできない、という場面で親が何をすればよいかは、あまり説明されていません。
この記事では、警察官を名乗って口止めをするニセ警察詐欺のように、本人が周囲に話せない状態に置かれる型を中心に、子が認めないときに親が手を付けられることと、手を付けないほうがよいことを整理します。ロマンス詐欺・投資勧誘の仕組みそのものは【親子問題】SNSで知り合った相手に子が金を送り続けている|ロマンス詐欺・投資勧誘の構造と、止められない理由で、送金後の被害回復は国際ロマンス詐欺で送金してしまった|被害回復の可能性と限界で扱っています。
子が認めないのは「だまされている最中」だから
口止めが手口の一部になっている
特殊詐欺は高齢者の被害というイメージが強いかもしれません。しかし警察庁の令和7年の確定値では、ニセ警察詐欺の認知件数は30代が2,239件で最も多く、20代の1,718件が続いており、若い世代の被害が目立っています。親から見て「まさかうちの子が」という年代の子が、実際に被害の中心にいるということです。
ニセ警察詐欺では、犯人側が「守秘義務がある」などと告げて周囲に相談できない状況を作り、被害に気づきにくくすることが、警察庁の注意喚起でも指摘されています。子にとって、親に打ち明けることは「捜査情報を漏らす」「自分が疑われる」ことだと思い込まされています。子が認めないのは親を軽んじているからではなく、黙っていることが手口の一部として組み込まれているからです。この前提を持っておくと、親の側の焦りや怒りを少し抑えやすくなります。
認めることが「損を確定させる」ことになる
投資名目の詐欺では、画面上では利益が出ているように見せ、出金しようとすると「手数料」「税金」を求めるという流れがよく見られます。すでに大きな金額を入れている本人にとって、詐欺だと認めることは、それまでのお金を失ったと認めることと同じです。そのため、続ければ取り戻せるという考えにすがりやすくなります。
恥ずかしさが言葉を詰まらせる
成人した子ほど、自分の判断の誤りを親に知られることへの抵抗が強くなります。「だまされたのか」と問い詰められると、事実を確かめる前に、自分を守るために否定することがあります。
成人した子について、親が代わりにできないこと
口座の手続や被害の申告は本人のもの
18歳以上の子は法律上の成年であり(民法4条)、自分の預金や契約については自分で決める立場にあります。親であっても、子の口座を止めたり、子に代わって被害を申告したりすることはできません。親ができるのは「子の手続を代わりに行うこと」ではなく、「子が自分で動ける状態を整えること」と「親自身として相談・情報提供をすること」です。親が関われる範囲の全体像は【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で整理しています。
子のスマホやSNSに無断で入ることのリスク
心配のあまり、知っているパスワードで子のSNSやメールにログインして、やり取りを確認したくなることがあるかもしれません。しかし、本人の許可なく他人のIDとパスワードでサービスにログインする行為は、不正アクセス禁止法で禁じられています(不正アクセス禁止法3条)。親子であっても例外にはなりません。法的な問題に加えて、子との信頼関係を損ね、かえって犯人側の言い分を信じ込ませるきっかけにもなりかねません。
判断能力の制度は「だまされたこと」だけでは使えない
保佐や補助といった制度は、精神上の障害によって判断能力が不十分な場合に家庭裁判所が開始するものです(民法11条・15条)。だまされているという事情だけでは対象になりません。制度を検討できる場面については【親子問題】浪費が止まらない子|保佐・補助を検討する場面をご覧ください。
認めさせる前に、親が手を付けられること
結論ではなく「確かめる道筋」を渡す
「それは詐欺だ」と結論を突きつけると、子は相手側の説明を守ろうとします。それよりも、子が自分で確かめられる道筋を渡すほうが受け入れられやすい傾向があります。警察庁は、警察官がSNSで連絡したり、ビデオ通話を利用したりすることはないと明言しています。次のような整理を手元に置き、「お父さん(お母さん)が判断するのではなく、公的な窓口で確かめてほしい」と伝える形です。
| 子の言い分 | 確かめる道筋 |
|---|---|
| 警察の捜査に協力している | 警察相談専用電話#9110に本人が電話し、その「捜査」が実在するかを尋ねる |
| 資産を調べるために一時的に預けるだけ | 警察が捜査のために個人の預金を振り込ませたり預かったりすることがあるかを、#9110で確認する |
| 投資で利益が出ている | 少額でも実際に出金できるか、出金に追加の支払いを求められないかを確認する |
| 手数料を払えば全額戻ってくる | 消費者ホットライン188に、その業者や手口について相談する |
確かめるのは本人であることが大切です。親が先回りして答えを用意するのではなく、本人が自分の耳で窓口の説明を聞くことが、思い込みを解く手がかりになることがあります。
親自身が相談窓口に連絡する
子が電話をしない場合でも、親が自分の立場で#9110や最寄りの警察署に相談することはできます。犯人側から伝えられた振込先の口座や連絡先が分かっていれば、その情報を伝えておく意味があります。金融機関は、捜査機関などからの情報提供その他の事情から、口座が犯罪に利用されている疑いがあると認めるときは、取引の停止などの措置をとることとされています(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律3条1項)。
なお、親からの相談をきっかけに、警察から子に連絡や声掛けが行われることもあります。本物の警察官から話を聞くことで、本人が気づく場合もあれば、反発する場合もあります。どのような順序で伝えるかは、相談の段階で警察と話しておくとよいでしょう。
お金を求められても立て替えない
子から「今月中に払わないと逮捕される」「手数料さえ払えば戻ってくる」と、親にお金を求められることがあります。立て替えたお金は、そのまま犯人側に渡る可能性が高いと考えられます。断ることに法的な問題はありません。断るときの考え方は【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで説明しています。
見聞きしたことを記録しておく
後に子が被害を認めたとき、また警察や弁護士に相談するときに、親の記録が役立ちます。記録しておきたいのは次のような事柄です。
- 子が口にした相手の名乗り・所属・肩書き。
- 子が見せてきた画面や書類の内容と、見た日時。
- 親に求められた金額・名目・期限。
- 子の口座の動きについて本人から聞いたこと。
- 親が相談した窓口・日時・担当者と、受けた説明。
被害者のはずの子が、加害の側に回る場面
口座や携帯電話を渡すよう求められる
犯人側が「捜査のため」「損失を取り戻すため」と言って、子に新しい口座を開かせたり、通帳やキャッシュカード、携帯電話を渡させたりすることがあります。預貯金通帳などを他人に譲り渡す行為は、犯罪収益移転防止法で処罰の対象とされています(犯罪収益移転防止法28条)。被害を認めない状態が長引くと、子自身が刑事責任を問われる立場に移ってしまうおそれがある、という点は親として知っておきたいところです。口座の譲渡の重さについては「口座を売っただけ」「名義を貸しただけ」は軽いのかで解説しています。
「取り戻すため」と言われて動く
損失を埋めるためと称して、荷物の受け取りや現金の運搬を頼まれることもあります。これは特殊詐欺の受け子や運び役に当たる行為で、本人がだまされていたという事情があっても、責任を免れるとは限りません。子がそうした動きを見せている場合は、【親子問題】子が闇バイトに関わっていると分かった|親の立場でできること・してはいけないこともあわせてご確認ください。
被害回復を急ぐ前に知っておきたいこと
口座への振込なら、救済の手続がある
犯人側の口座に振り込んだお金については、その口座に残高が残っていれば、前述の法律にもとづく被害回復分配金の手続で一部が戻る可能性があります。ただし、申請するのは被害者である子本人です。また、現金を手渡した場合や暗号資産で送った場合は、この手続の対象になりません。早い段階で口座の取引停止につながるかどうかが、その後の見通しに影響します。
「必ず取り戻せる」とうたう相談先に注意する
被害に気づいた後、インターネット広告などで「被害金を取り戻します」とうたう業者や事務所に、高額な着手金を支払ってしまう二次被害も報告されています。依頼先を選ぶ際の注意点はロマンス詐欺の「二次被害」に注意|高額着手金を謳う相談先の見分け方にまとめています。
窓口を弁護士に移すという選択
親子の間に第三者を置く
親の言葉は、子にとって「心配」ではなく「否定」に聞こえてしまうことがあります。そのような場合、親子の外にいる弁護士が、子の話をいったん受け止めたうえで、公的な情報にもとづいて状況を一緒に確認するほうが、話が進むことがあります。子が依頼に同意すれば、弁護士が子の代理人として金融機関や警察とのやり取りを担うこともできます。窓口を移すことの意味は【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で説明しています。
被害の後の生活まで見通す
大きな金額を失った子は、仕事や住まい、日々のお金の管理まで立て直しが必要になることがあります。若井綜合法律事務所では、弁護士が親の代理人として親の側を守り、自立支援カウンセラーが子の生活の立て直しを支える形で、親子それぞれの自立に取り組んでいます。実際の関わり方は【親子問題】弁護士とカウンセラーはどう介入するのか|4つの事例で見るサービスの実際でご紹介しています。
よくあるご質問
成人した子の口座を、親の判断で止めてもらうことはできますか。
子名義の口座の手続は本人が行うもので、親の申出だけで止めることは基本的にできません。一方で、犯人側の振込先が分かっている場合は、その情報を警察や金融機関に伝えることで、犯人側の口座の取引停止につながることがあります。
子に黙って弁護士に相談してもよいですか。
親が自分の立場で相談することに問題はありません。相談した内容が弁護士から子に伝わることも、ご本人の了承なく行われることはありません。詳しくは【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方をご覧ください。
子が最後まで被害を認めない場合、親にできることはなくなりますか。
認めるかどうかと、被害を広げないことは分けて考えられます。親自身が窓口に相談する、お金の立て替えを断る、記録を残す、子が加害の側に回らないよう見守るといった対応は、子が認めていなくても進めることができます。
まとめ
- 子が被害を認めないのは、ニセ警察詐欺などで口止めが手口に組み込まれているためで、令和7年はニセ警察詐欺の認知件数で30代・20代が上位を占めた。
- 18歳以上の子の口座や被害申告は本人のもので、親が代わりに手続をすることはできない(民法4条)。
- 心配であっても、子のSNSやメールに無断でログインすることは不正アクセス禁止法で禁じられている(不正アクセス禁止法3条)。
- 結論を突きつけるより、#9110や188で本人が自分で確かめる道筋を渡すほうが受け入れられやすい。
- 犯人側の振込先が分かれば、警察や金融機関への情報提供が取引停止につながることがある(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律3条1項)。
- 口座や携帯電話を渡すよう求められると、子自身が処罰の対象になるおそれがある(犯罪収益移転防止法28条)。
- 親へのお金の要求は立て替えずに断り、見聞きしたことを記録しておく。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。遠方のご家庭からのご相談にも対応しています。
お子さまが詐欺の被害に遭っているのではないかと心配しながら、本人が認めないために動けずにいる親御さまは、まず状況をお聞かせください。親の立場でできることを整理し、必要に応じて弁護士が窓口となって対応します。


