店がキャストに代わって示談交渉をしてよいのか|非弁行為という視点
サイトの削除依頼フォームから申請したのに、何日たっても返事が来ない。あるいは「対応しません」という短い返信だけが届いた。インターネット上の書き込みで悩まれている方から、こうしたご相談を受けることがあります。
削除の申出は、出せば当然に通るというものではありません。ただし、応じてもらえない状況はいくつかの型に分かれ、型ごとに次に取り得る手が変わります。また、2025年4月には旧プロバイダ責任制限法が改正されて情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)となり、規模の大きい事業者については、削除の窓口・判断の基準・申出者への通知について定めが置かれました。この記事では、削除に応じてもらえないときに何を確かめ、どこへ進む選択肢があるのかを整理します。
「応じてもらえない」は一つの状態ではない
同じ「削除されない」でも、返事が来ないのか、理由を示して断られたのか、そもそも宛先が違っていたのかによって、次にすることは変わります。まずはご自身の状況がどこに当たるかを見てください。
| いまの状況 | 次に検討すること |
|---|---|
| 申出をしたが返事が来ない | 窓口や書式の行き違いを確認し、通知の定めがある事業者かを確かめる |
| 「基準に該当しない」と通知が来た | 示された理由に対応させて主張を組み立て直すか、裁判所の手続に移る |
| 発信者が削除に反対したと説明された | 任意の対応は見込みにくく、仮処分などの検討に移る |
| 申出の宛先が投稿先ではなかった | 投稿先・サーバー・検索結果のどこに何を求めるのかを分ける |
| 削除されたのに同じ内容が見える | 転載先、引用投稿、検索結果の表示を分けて確認する |
なお、削除の申出は、権利を侵害されたとされる本人やその代理人が行うものとして制度が組まれています。書き込んだ側からの取り下げ依頼とは扱いが異なる点に注意してください。
2025年4月からの情プラ法で整えられた手順
削除の窓口と基準が公表されている
総務大臣から「大規模特定電気通信役務提供者」として指定された事業者は、削除の申出を受け付ける方法を定めて公表し、どのような情報について削除などの措置を講じるのかという基準を作って公表することとされています。届け出られた窓口と基準は総務省のサイトで一覧の形で公表されているため、申出の前に、その事業者がどの範囲を対象としているのかを読むことができます。
2026年8月時点で指定されているのは、次の事業者です。
| 事業者 | 参考となるサービス名 |
|---|---|
| Google LLC | YouTube |
| LINEヤフー株式会社 | Yahoo!知恵袋、Yahoo!ファイナンス、LINEオープンチャット、LINE VOOM |
| Meta Platforms, Inc. | Facebook、Instagram、Threads |
| TikTok Pte. Ltd. | TikTok、TikTok Lite |
| X Corp. | X |
| 株式会社ドワンゴ | ニコニコ |
| 株式会社サイバーエージェント | Amebaブログ |
| 株式会社湘南西武ホーム | 爆サイ.com |
| Pinterest Europe Limited |
申出への回答は期間を区切って通知される
これらの事業者は、申出を受けた日から14日以内の範囲で総務省令が定める期間内に、措置を講じたときはその旨を、講じなかったときはその旨と理由を申出者へ通知することとされています(法25条1項)。発信者に意見を照会する場合、選任された侵害情報調査専門員に調査させる場合、その他やむを得ない事由がある場合には、まずその旨を知らせたうえで、判断が出た後に改めて通知する扱いです(同条2項)。
つまり、連絡がないまま時間だけが過ぎる状態は、制度が想定している姿ではありません。返事が来ないときは、申出が受け付けられていない可能性を先に疑ったほうが早いことがあります。
各社は、申出をどれだけ受け、どれだけ措置を講じたのかという実施状況も公表することとされており、総務省のサイトから確認できます。ただし、これらの定めは指定を受けた事業者に向けたものです。小規模な掲示板や個人が運営するサイトには同じ義務が及びませんので、対応の見通しは異なります。
返事が来ないときに整え直したい3点
同じ文面を繰り返し送るより、次の3点を補ってから出し直すほうが、判断の段階に進みやすくなります。
- どの投稿かが一意に分かる情報。該当ページのURL、投稿日時、投稿番号、ページ全体を保存した画像を添える。
- どの権利がどのように侵害されているのか。事実を述べた記述なのか意見なのか、どの一文が誰のどの評価に関わるのか、私生活上の事柄なのか、という言葉で説明する。
- 申出をしているのが本人または代理人であることと、連絡の取れる宛先。本人確認の資料を求められる場合もある。
返事が来ない背景に、書式や宛先の行き違いがあることもあります。事業者が公表している基準の言葉に合わせて書き直すと、どの項目に当たると考えているのかが伝わりやすくなります。
「削除しない」と返ってきたときの読み方
事業者の判断は最終的な結論ではない
事業者は、自ら公表した基準に沿って措置を講じるかどうかを判断する立場にあり、権利侵害があったかどうかを最終的に決める立場ではありません。基準に当たらないという回答は、裁判所が権利侵害を否定したという意味ではありません。理由が示されているときは、その理由に一つずつ対応させる形で資料を足していくことになります。
発信者への意見照会という仕組み
情プラ法は、事業者が送信防止措置を講じても発信者に対する賠償責任を負わない場合として、権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があるときと、発信者に削除へ同意するかを照会して7日以内に反対の申出がないときを定めています(法3条2項)。この照会は事業者に義務づけられたものではないと総務省の解説でも説明されていますが、実務では照会が行われることがあり、発信者が反対の意向を示すと、事業者は任意の削除に慎重になりがちです。なお、公職の候補者等に関する特例では、この期間が2日に短縮されています。
発信者が反対したと説明された場合、任意の対応を待ち続けても状況が動かないことがあります。この段階では、裁判所の手続に切り替えるかどうかが検討の中心になります。
公的・民間の相談窓口という選択肢
費用をかけずに使える窓口もあります。それぞれ役割が違うため、目的に合わせて選ぶことになります。
| 窓口 | できること |
|---|---|
| 法務局(人権相談) | 違法性を判断したうえで、プロバイダ等へ削除の要請を行う場合がある。自分で削除依頼をする方法の助言も受けられる |
| 違法・有害情報相談センター(総務省支援事業) | 削除依頼の方法などについて、専門の相談員から助言を受けられる |
| 誹謗中傷ホットライン、セーフライン(民間団体) | 一定の基準に該当すると判断したものについて、国内外の事業者へ利用規約等に沿った対応を促す連絡を行う |
| 警察のサイバー犯罪相談窓口 | 脅迫を受けている場合など、身の危険がある事案の相談を受け付ける |
法務省の公表資料によると、2025年にインターネット上の人権侵害情報について新たに救済手続が始まった人権侵犯事件は1,569件、処理した件数は1,572件で、このうちプロバイダ等へ削除を求める「要請」を行ったのは349件、全体の約2割でした。削除依頼の方法を教示するなどの「援助」が約4割を占めています。
法務局の要請は違法性を判断したうえで行われるため時間を要する場合があり、法務局が裁判所への申立てを代行することはできないとされています。急ぎの事案では、並行して別の手段も検討しておきたいところです。
裁判所を通じて削除を求める
削除の仮処分
任意の削除に応じてもらえない場合、人格権に基づく妨害排除として、投稿の削除を命じる仮処分を裁判所に申し立てる方法があります。仮の地位を定める仮処分は、争いのある権利関係について債権者に生ずる著しい損害または急迫の危険を避けるため必要があるときに発せられます(民事保全法23条2項)。通常の訴訟と違い、権利があることを「疎明」すれば足りるとされていますが、申立書と資料の準備は必要です。
審尋を経て権利侵害が認められる見込みだと判断されると、担保を立てることを条件に決定が出されます。担保は後の手続で取り戻せる性質のもので、金額や審理にかかる期間は事案によって幅があります。
決定が出ても表示が残る場合
仮処分の決定が出れば任意に削除されることが多いものの、それでも表示が残るときは、期間に応じて金銭の支払を命じる間接強制の手続を検討することになります(民事保全法52条1項、民事執行法172条)。判決による解決を目指す場合は、本案訴訟を提起することになります。
運営が海外法人の場合
国内に拠点のない法人が運営しているサービスでは、書類の送達や管轄の考え方が国内法人と同じ進み方になるとは限りません。手続の見通しが変わるため、早い段階で確認しておくことをおすすめします。
削除だけを目標にしない組み立て
削除が通らない場合でも、投稿した人を特定して損害賠償や再発防止を求める道筋が残っています。発信者情報の開示は、裁判所の開示命令という手続を使うことができ、以前より短い期間で進められる場合があります。
ただし、通信記録の保存期間には限りがあり、時間が経つほど特定は難しくなります。削除を求める段階でも、画面の保存とURLの記録は先に済ませておいてください。投稿が消えた後では、内容を裏づける資料が手元に残らないことがあります。
削除が認められにくい投稿もある
次のような投稿は、削除の判断が分かれやすい領域です。見通しを持って進めるために、あらかじめ知っておくとよい点です。
- 意見や論評として書かれており、事実の摘示と評価しにくいもの。
- 公共の利害に関わる事柄で、内容が真実であると評価される余地があるもの。
- 匿名の記述で、その人物のことだと読み取れるかどうかが争われるもの。
- 不快ではあるが、社会的評価の低下や私生活の平穏の侵害と結び付けにくいもの。
- すでに広く知られている事実を、そのまま繰り返しているもの。
控えたほうがよい対応
- 削除代行をうたう業者に依頼すること。弁護士でない者が報酬を得て法律事務を扱うことは弁護士法で禁じられており、サイト側が対応を拒む理由にもなる。
- 投稿者本人に直接反論したり、接触を試みたりすること。書き込みが増える一因になりやすい。
- 問題の投稿を自分のアカウントで引用して批判すること。かえって多くの人の目に触れる結果になりやすい。
- 保存をしないまま削除を待つこと。消えた後は内容を示す資料が残らない。
- 返事のない相手に同じ文面を送り続けること。窓口や書式の見直しを先に行いたい。
よくある質問
削除依頼をしたことは相手に伝わりますか
事業者が発信者に意見を照会する場合、削除を求められている事実と理由の要旨が発信者に伝わることがあります。氏名などをどこまで伝えるかは事業者の運用によって異なりますので、気になる場合は申出の前にご相談ください。
返事が来ないまま何か月も経っています
指定を受けた事業者であれば、期間を区切って通知することとされています。まず、申出が受け付けられているか、送信先や書式に行き違いがないかを確認してください。そのうえで動かない場合は、裁判所の手続を含めて検討する段階です。
一度断られたら、もう削除はできませんか
任意の削除に応じないという回答は、裁判所の判断ではありません。示された理由に対応させて資料を整えたうえで再度申し出る方法と、仮処分を申し立てる方法があります。時間の経過とともに選べる手が狭くなることもあるため、早めの検討をおすすめします。
まとめ
- 情プラ法により、指定を受けた事業者には窓口と基準の公表、申出者への通知が求められている。
- 連絡がないまま時間が過ぎている場合は、受付そのものが行われていない可能性を先に確認する。
- 断られた場合でも、それは裁判所の判断ではなく、理由に対応させた組み立て直しや仮処分の検討が残る。
- 法務局や相談センターなど、費用をかけずに使える窓口もあるが、判断に時間を要する場合がある。
- 削除が難しい場合でも、投稿者の特定と請求という道筋がある。記録の保存は早い段階で行う。
削除の申出は、どの投稿について、どの権利がどのように侵害されているのかを言葉にできるかどうかで進み方が変わります。すでに申し出たものの動きがないという状況でも、書面の整え直しや裁判所の手続によって前に進む余地は残されています。弁護士法人若井綜合法律事務所では、インターネット上の書き込みに関するご相談をお受けしています。お一人で抱え込まずにご相談ください。


